
東京ニューシティ管弦楽団/第97回定期演奏会
~自国への愛と世界へのあこがれ~
2015年1月24日(土)14:30~ 東京芸術劇場コンサートホール A席 1階 A列 16番 4,500円
指 揮: 大井剛史
チェロ: 遠藤真理*
管弦楽: 東京ニューシティ管弦楽団
【曲目】
深井史郎: パロディ的な4楽章
尾高尚忠: チェロ協奏曲 作品20*
ドヴォルザーク: 交響曲 第8番 ト長調 作品88
公益社団法人日本オーケストラ連盟に正会員として加盟している、いわゆるプロの常設オーケストラが東京には9団体ある。その中で発足が一番新しく(1990年)、規模も小さい(団員数50名ほど)のが、東京ニューシティ管弦楽団である。年間6回の定期演奏会を東京芸術劇場コンサートホールで開催しているほか、いくつかの主催コンサートも開催しているといった状況だ。私は現在、5つのオーケストラの10種の定期シリーズの会員になっているし(もちろん全部聴いているわけではない)、アマチュア団体のコンサートを聴くこともあるくらいだから、これまでにニューシティ管の演奏はどこかで聴いているかもしれない。しかしちょっと思い出せないのである。オーケストラ自体で選り好みをしているわけではないので、魅力的なプログラムがあって日程的に問題がなければ、聴く機会はいくらでもあるはずなのだが・・・・・。話題として知っていたのは、かつては毎年のように来日していたレニングラード国立歌劇場の音楽監督をしていたアンドレイ・アニハーノフさんが、客演指揮者に就任したということ。レニングラードのオペラは何度か観ていたので、「へぇ、あの人がねぇ」と感じたものだが、それももう5年も前のことになる。
今回、そんなニューシティ管の定期演奏会を聴くことになったのは、何と言っても遠藤真理さんによる尾高尚忠のチェロ協奏曲というプログラムを目にしたからだ。
この曲は「秘曲」といえる存在だ。何しろ曲が完成したのが1944年という戦時中のこと。初演を迎えられないまま、演奏するはずだった尾高の義弟にあたるチェリストの倉田高が急逝してしまった。ソリストを亡くしたまま初演されることはなく、尾高も1951年には亡くなってしまう。結局そのままお蔵入りしてしまった。尾高の没後20年にあたる1971年、レコード用に録音されたのが実際の初演となった。岩崎 洸さんのチェロ、若杉 弘さんの指揮、日本フィルハーモニー交響楽団の演奏である。現在、「現代日本チェロ名曲大系 Vol.1」というCDアルバムに収録されているので聴くことができる。またその音源がYouTubeにアップされているので、インターネット環境があれば無料で聴くことも可能だ。
このような曲なので音源も少なく、実演など聴いたことがない。また演奏される機会も滅多にない。それを遠藤さんが演奏するということならば、聴かないという選択肢は考えられなかった。そしてチケットを手配したら、見事最前列のソリスト正面が取れてしまったのである。

定期演奏会のプログラムは、毎回テーマを定めて組まれているらしく、今回は「自国への愛と世界へのあこがれ」とのこと。なかなか良いテーマで、今日の3曲は確かにそのようなイメージを持っている曲だと思う。
1曲目は深井史郎の「パロディ的な4楽章」。深井のもっとも著名な作品である。深井(1907~1959)は20世紀前半に活躍した作曲家なので、私たちとは世代的に重ならないが、晩年の東映時代劇の映画音楽などの作品には、後に聴くこととになる。私も何本か映画を観ているが、昭和30年代くらいまでの東映時代劇は、オーケストラによる映画音楽が作曲されて多用されていた。現代よりもむしろ贅沢だったのである。
そんな感慨はともかくとして、「パロディ的な4楽章」は4つの楽章がそれぞれファリャ、ストラヴィンスキー、ラヴェル、そしてルーセルの音楽を模倣した曲想で書かれている。パロディと言ってもそれらを揶揄しているわけではなく、むしろ尊敬して研究することから作風を学んだ結果をこういう曲にまとめたということである。従って曲想は、それぞれの作曲家に応じた近代音楽といった感じである。
演奏の方はというと、大井剛史さんの指揮はちょっと硬さが感じられるもののしっかりとした造形を持っている。各パートから丁寧に音を引き出し、適度なバランスでまとめ上げているといった印象だ。一方、ニューシティ管の演奏水準は思った以上に高く、金管も木管も豊かな色彩感を発揮していた。ダイナミックレンジも広く、音量も豊かだ。けっこう聴き応えのあるオーケストラだと思った。もっともこの曲の編成は大きく、14型の弦楽5部に3管編成と多彩な打楽器群、ハープ、ピアノ、チェレスタが加わる。従って、応援要員もかなり含まれているはずなので、このオーケストラ固有の音というのはどうなのかは判らないが・・・・。
2曲目が尾高尚忠のチェロ協奏曲。年間2~3回は聴く機会のある遠藤さんだが、昨年の5月以来となるのでちょっと久しぶり。お顔がすこしスッキリと引き締まって、ショートカットの髪が似合う美しい大人の女性へと変貌していた(といったイメージ)。今日はさすがに譜面を見ながらの演奏であった。最前列の真正面の席だと、譜面台が少々邪魔である・・・・。
第1楽章はいきなりチェロによる第1主題の提示から始まる。主題がオーケストラに展開していくと、そこはロマン派後期の豊麗なサウンドが満ちてくる。第2主題は甘く感傷的。ドイツ・ロマン派の音楽に日本的な調べが混ざり込んでくるのが特徴的だ。縦横に活躍する遠藤さんのチェロは、いつものように基本的に明るい音色。切れ味の良いリズム感で、協奏曲をリードしていく。フレーズの歌わせ方は大らかで、歌謡的な雰囲気が漂い、装飾的な速いパッセージでは滑らかな超絶技巧を聴かせる。豊かに響く低音部にも暗さや重厚さというよりは、深い抒情性が感じられる。強烈な押し出しの演奏ではないが、ロマン派らしい情感のこめられた演奏だ。
第2楽章は緩徐楽章で、主題と4つの変奏、カデンツァとコーダからなる。主題は日本情緒を感じさせる曲想だが、変奏に入ると独奏チェロが抒情的なカンタービレを聴かせる。日本的な旋律の主題をドイツ・ロマン派風の表現形式で表しているといったところか。第2変奏はテンポが速くなり、ホルンが誘導する第3変奏で再び抒情的なゆったりとした曲想に戻る。チェロの歌い方が、近代的な雰囲気を漂わせたりもする。第4変奏は再び速くなるが、チェロが弾く変奏された主題はあくまでロマンティックな趣きで、遠藤さんの音色に良く似合っている。カデンツァはゆったりとした日本情緒を漂わせるもので、続くコーダが浪漫的な主題の回帰を伴うので、鮮やかな対比を生み出している。遠藤さんのチェロは生命力を感じさせる明るさがあり、オーケストラは繊細さとダイナミズムが適度に配分された好演だ。
第3楽章は、序奏に続いてロンド形式(ABACA)の主部に入る。AとBの主題は第1楽章の第1主題から採られていて、Cの主題は第1楽章の第2主題から採られているなど、楽章間も有機的なつながりを持ち、ロマン派時代の作曲法を踏襲している。ロマンティックな主題に挟まれて時折姿を見せる日本旋法的なパッセージがある意味でエキゾティックな雰囲気を醸し出している。遠藤さんのチェロは、速いパッセージではリズム感良くオーケストラをリードし、穏やかなパッセージではカンタービレを効かせて大らかに歌う。クッキリと明瞭で鮮やかな音色は、オーケストラからも独立して、ソロ楽器として堂々たる主張をしているようでもあり、存在感が十分にあった。細やかなニュアンスの表現や速いパッセージの滑らかなレガート、大らかな歌わせ方など、豊かで多彩な表現力は見事なもので、そこに遠藤さんの個性が色濃く出ている。若手の演奏家といったイメージが強かった遠藤さんではあるが、もはや中堅あるいは一流の領域といっても良さそう。久しぶりに聴いた協奏曲ではあったが、演奏の方も大人の美しい女性演奏家に変貌していたといえそうだ。Brava!!
後半はドヴォルザークの交響曲第8番。これは数ある交響曲の中でも大好きな曲のひとつ。そういう意味では昔から、レコード・CDでも実演でも、様々な指揮者、様々なオーケストラで聴いているものだから、改めて今日の演奏がどんなものだったか、好き嫌いは別として考えてみようと思うのだが・・・・。
まあ、そんな風に考えていたのだが、これが思ったよりかなり良い演奏だった。前半の「パロディ的な4楽章」に比べると2管編成になった分だけ、弦楽と管の音量的なバランスが良くなったように感じられた。
第1楽章では何と言っても木管も金管もすべてのパートが質感の高い音を出していて、しかも自信たっぷりに感じられる堂々とした演奏をしていたのに驚かされた。弦楽の方が、気持ち弱かった・・・かも。ダイナミックレンジの広く、メリハリの効いた素晴らしい演奏である。
第2楽章は緩徐楽章。フルートやクラリネットがなかなか良い雰囲気で主題を吹く。弦楽の繊細なアンサンブルも素敵だ。ヴァイオリンのソロはコンサートマスターの執行恒宏さんが美しく聴かせた。大井さんの指揮も間合いを十分に採り、しなやかにオーケストラを歌わせていた。
第3楽章は限りなく美しいワルツ風の舞曲。主部では弦楽を中心に美しいアンサンブルを聴かせ、トリオ部では管楽器も抑制的で質感高いサウンドを聴かせていた。ちょっとサッパリした感じだったので、個人的にはもっとねっとりと民俗舞曲風の色合いが強い方が好きではあるが。
第4楽章は冒頭のトランペットのファンファーレが見事に決まり、チェロが主題を柔らかい音色で提示する。徐々にオーケストラに広がっていき最初のクライマックスでホルンが吠える。あとは次々と現れる変奏。オーケストラが柔軟性を見せ、最後まで高い質感を維持した演奏であったと思う。
大井さんの指揮するドヴォルザークの交響曲第8番は、演奏そのものはしっかりとした構成力があり、個々のパートも高い水準の演奏であり、基本的にはとても素晴らしい演奏だったと思う。それは純音楽的にという意味で、これだけの演奏であれば文句のつけようもない。ただし別の各自から見れば、ボヘミアの空気感や土の香りのような、いわばドヴォルザークの民俗的な部分があまり感じられなかった。すっきりと美しすぎる(?)演奏だったので、「純音楽的」には良かったという意味だ。もちろん、これは単なる個人的な好みの問題なので、客観性のない感想でしかない。メジャーのプロ・オーケストラでも定期演奏会でもっと杜撰な演奏をしばしば聴かされたりもするので、今日のニューシティ管の演奏は、素晴らしかったことは間違いない。
今日のコンサートは何と言っても尾高尚忠の「チェロ協奏曲」に尽きる。このような埋もれた名曲を見事な演奏で聴かせてくれた大井さん、ニューシティ管の皆さん、そして遠藤さんにBravo!を送りたい。今後もニューシティ管を聴く機会が増えるかもしれない。
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【お勧めCDのご紹介】
尾高尚忠のチェロ協奏曲が録音された、現在入手できる唯一の音源です。チェリスト岩崎洸さんによる「「現代日本チェロ名曲大系」の復刻版CDです。Vol.1とVol.2があり、どちらも2枚組。尾高のチェロ協奏曲はVol.1に収録されています。
~自国への愛と世界へのあこがれ~
2015年1月24日(土)14:30~ 東京芸術劇場コンサートホール A席 1階 A列 16番 4,500円
指 揮: 大井剛史
チェロ: 遠藤真理*
管弦楽: 東京ニューシティ管弦楽団
【曲目】
深井史郎: パロディ的な4楽章
尾高尚忠: チェロ協奏曲 作品20*
ドヴォルザーク: 交響曲 第8番 ト長調 作品88
公益社団法人日本オーケストラ連盟に正会員として加盟している、いわゆるプロの常設オーケストラが東京には9団体ある。その中で発足が一番新しく(1990年)、規模も小さい(団員数50名ほど)のが、東京ニューシティ管弦楽団である。年間6回の定期演奏会を東京芸術劇場コンサートホールで開催しているほか、いくつかの主催コンサートも開催しているといった状況だ。私は現在、5つのオーケストラの10種の定期シリーズの会員になっているし(もちろん全部聴いているわけではない)、アマチュア団体のコンサートを聴くこともあるくらいだから、これまでにニューシティ管の演奏はどこかで聴いているかもしれない。しかしちょっと思い出せないのである。オーケストラ自体で選り好みをしているわけではないので、魅力的なプログラムがあって日程的に問題がなければ、聴く機会はいくらでもあるはずなのだが・・・・・。話題として知っていたのは、かつては毎年のように来日していたレニングラード国立歌劇場の音楽監督をしていたアンドレイ・アニハーノフさんが、客演指揮者に就任したということ。レニングラードのオペラは何度か観ていたので、「へぇ、あの人がねぇ」と感じたものだが、それももう5年も前のことになる。
今回、そんなニューシティ管の定期演奏会を聴くことになったのは、何と言っても遠藤真理さんによる尾高尚忠のチェロ協奏曲というプログラムを目にしたからだ。
この曲は「秘曲」といえる存在だ。何しろ曲が完成したのが1944年という戦時中のこと。初演を迎えられないまま、演奏するはずだった尾高の義弟にあたるチェリストの倉田高が急逝してしまった。ソリストを亡くしたまま初演されることはなく、尾高も1951年には亡くなってしまう。結局そのままお蔵入りしてしまった。尾高の没後20年にあたる1971年、レコード用に録音されたのが実際の初演となった。岩崎 洸さんのチェロ、若杉 弘さんの指揮、日本フィルハーモニー交響楽団の演奏である。現在、「現代日本チェロ名曲大系 Vol.1」というCDアルバムに収録されているので聴くことができる。またその音源がYouTubeにアップされているので、インターネット環境があれば無料で聴くことも可能だ。
このような曲なので音源も少なく、実演など聴いたことがない。また演奏される機会も滅多にない。それを遠藤さんが演奏するということならば、聴かないという選択肢は考えられなかった。そしてチケットを手配したら、見事最前列のソリスト正面が取れてしまったのである。

定期演奏会のプログラムは、毎回テーマを定めて組まれているらしく、今回は「自国への愛と世界へのあこがれ」とのこと。なかなか良いテーマで、今日の3曲は確かにそのようなイメージを持っている曲だと思う。
1曲目は深井史郎の「パロディ的な4楽章」。深井のもっとも著名な作品である。深井(1907~1959)は20世紀前半に活躍した作曲家なので、私たちとは世代的に重ならないが、晩年の東映時代劇の映画音楽などの作品には、後に聴くこととになる。私も何本か映画を観ているが、昭和30年代くらいまでの東映時代劇は、オーケストラによる映画音楽が作曲されて多用されていた。現代よりもむしろ贅沢だったのである。
そんな感慨はともかくとして、「パロディ的な4楽章」は4つの楽章がそれぞれファリャ、ストラヴィンスキー、ラヴェル、そしてルーセルの音楽を模倣した曲想で書かれている。パロディと言ってもそれらを揶揄しているわけではなく、むしろ尊敬して研究することから作風を学んだ結果をこういう曲にまとめたということである。従って曲想は、それぞれの作曲家に応じた近代音楽といった感じである。
演奏の方はというと、大井剛史さんの指揮はちょっと硬さが感じられるもののしっかりとした造形を持っている。各パートから丁寧に音を引き出し、適度なバランスでまとめ上げているといった印象だ。一方、ニューシティ管の演奏水準は思った以上に高く、金管も木管も豊かな色彩感を発揮していた。ダイナミックレンジも広く、音量も豊かだ。けっこう聴き応えのあるオーケストラだと思った。もっともこの曲の編成は大きく、14型の弦楽5部に3管編成と多彩な打楽器群、ハープ、ピアノ、チェレスタが加わる。従って、応援要員もかなり含まれているはずなので、このオーケストラ固有の音というのはどうなのかは判らないが・・・・。
2曲目が尾高尚忠のチェロ協奏曲。年間2~3回は聴く機会のある遠藤さんだが、昨年の5月以来となるのでちょっと久しぶり。お顔がすこしスッキリと引き締まって、ショートカットの髪が似合う美しい大人の女性へと変貌していた(といったイメージ)。今日はさすがに譜面を見ながらの演奏であった。最前列の真正面の席だと、譜面台が少々邪魔である・・・・。

第1楽章はいきなりチェロによる第1主題の提示から始まる。主題がオーケストラに展開していくと、そこはロマン派後期の豊麗なサウンドが満ちてくる。第2主題は甘く感傷的。ドイツ・ロマン派の音楽に日本的な調べが混ざり込んでくるのが特徴的だ。縦横に活躍する遠藤さんのチェロは、いつものように基本的に明るい音色。切れ味の良いリズム感で、協奏曲をリードしていく。フレーズの歌わせ方は大らかで、歌謡的な雰囲気が漂い、装飾的な速いパッセージでは滑らかな超絶技巧を聴かせる。豊かに響く低音部にも暗さや重厚さというよりは、深い抒情性が感じられる。強烈な押し出しの演奏ではないが、ロマン派らしい情感のこめられた演奏だ。
第2楽章は緩徐楽章で、主題と4つの変奏、カデンツァとコーダからなる。主題は日本情緒を感じさせる曲想だが、変奏に入ると独奏チェロが抒情的なカンタービレを聴かせる。日本的な旋律の主題をドイツ・ロマン派風の表現形式で表しているといったところか。第2変奏はテンポが速くなり、ホルンが誘導する第3変奏で再び抒情的なゆったりとした曲想に戻る。チェロの歌い方が、近代的な雰囲気を漂わせたりもする。第4変奏は再び速くなるが、チェロが弾く変奏された主題はあくまでロマンティックな趣きで、遠藤さんの音色に良く似合っている。カデンツァはゆったりとした日本情緒を漂わせるもので、続くコーダが浪漫的な主題の回帰を伴うので、鮮やかな対比を生み出している。遠藤さんのチェロは生命力を感じさせる明るさがあり、オーケストラは繊細さとダイナミズムが適度に配分された好演だ。
第3楽章は、序奏に続いてロンド形式(ABACA)の主部に入る。AとBの主題は第1楽章の第1主題から採られていて、Cの主題は第1楽章の第2主題から採られているなど、楽章間も有機的なつながりを持ち、ロマン派時代の作曲法を踏襲している。ロマンティックな主題に挟まれて時折姿を見せる日本旋法的なパッセージがある意味でエキゾティックな雰囲気を醸し出している。遠藤さんのチェロは、速いパッセージではリズム感良くオーケストラをリードし、穏やかなパッセージではカンタービレを効かせて大らかに歌う。クッキリと明瞭で鮮やかな音色は、オーケストラからも独立して、ソロ楽器として堂々たる主張をしているようでもあり、存在感が十分にあった。細やかなニュアンスの表現や速いパッセージの滑らかなレガート、大らかな歌わせ方など、豊かで多彩な表現力は見事なもので、そこに遠藤さんの個性が色濃く出ている。若手の演奏家といったイメージが強かった遠藤さんではあるが、もはや中堅あるいは一流の領域といっても良さそう。久しぶりに聴いた協奏曲ではあったが、演奏の方も大人の美しい女性演奏家に変貌していたといえそうだ。Brava!!
後半はドヴォルザークの交響曲第8番。これは数ある交響曲の中でも大好きな曲のひとつ。そういう意味では昔から、レコード・CDでも実演でも、様々な指揮者、様々なオーケストラで聴いているものだから、改めて今日の演奏がどんなものだったか、好き嫌いは別として考えてみようと思うのだが・・・・。
まあ、そんな風に考えていたのだが、これが思ったよりかなり良い演奏だった。前半の「パロディ的な4楽章」に比べると2管編成になった分だけ、弦楽と管の音量的なバランスが良くなったように感じられた。
第1楽章では何と言っても木管も金管もすべてのパートが質感の高い音を出していて、しかも自信たっぷりに感じられる堂々とした演奏をしていたのに驚かされた。弦楽の方が、気持ち弱かった・・・かも。ダイナミックレンジの広く、メリハリの効いた素晴らしい演奏である。
第2楽章は緩徐楽章。フルートやクラリネットがなかなか良い雰囲気で主題を吹く。弦楽の繊細なアンサンブルも素敵だ。ヴァイオリンのソロはコンサートマスターの執行恒宏さんが美しく聴かせた。大井さんの指揮も間合いを十分に採り、しなやかにオーケストラを歌わせていた。
第3楽章は限りなく美しいワルツ風の舞曲。主部では弦楽を中心に美しいアンサンブルを聴かせ、トリオ部では管楽器も抑制的で質感高いサウンドを聴かせていた。ちょっとサッパリした感じだったので、個人的にはもっとねっとりと民俗舞曲風の色合いが強い方が好きではあるが。
第4楽章は冒頭のトランペットのファンファーレが見事に決まり、チェロが主題を柔らかい音色で提示する。徐々にオーケストラに広がっていき最初のクライマックスでホルンが吠える。あとは次々と現れる変奏。オーケストラが柔軟性を見せ、最後まで高い質感を維持した演奏であったと思う。
大井さんの指揮するドヴォルザークの交響曲第8番は、演奏そのものはしっかりとした構成力があり、個々のパートも高い水準の演奏であり、基本的にはとても素晴らしい演奏だったと思う。それは純音楽的にという意味で、これだけの演奏であれば文句のつけようもない。ただし別の各自から見れば、ボヘミアの空気感や土の香りのような、いわばドヴォルザークの民俗的な部分があまり感じられなかった。すっきりと美しすぎる(?)演奏だったので、「純音楽的」には良かったという意味だ。もちろん、これは単なる個人的な好みの問題なので、客観性のない感想でしかない。メジャーのプロ・オーケストラでも定期演奏会でもっと杜撰な演奏をしばしば聴かされたりもするので、今日のニューシティ管の演奏は、素晴らしかったことは間違いない。
今日のコンサートは何と言っても尾高尚忠の「チェロ協奏曲」に尽きる。このような埋もれた名曲を見事な演奏で聴かせてくれた大井さん、ニューシティ管の皆さん、そして遠藤さんにBravo!を送りたい。今後もニューシティ管を聴く機会が増えるかもしれない。

【お勧めCDのご紹介】
尾高尚忠のチェロ協奏曲が録音された、現在入手できる唯一の音源です。チェリスト岩崎洸さんによる「「現代日本チェロ名曲大系」の復刻版CDです。Vol.1とVol.2があり、どちらも2枚組。尾高のチェロ協奏曲はVol.1に収録されています。
![]() | 現代日本チェロ名曲大系 Vol.1 |
岩崎洸,矢代秋雄,芥川也寸志,広瀬量平,尾高尚忠,堀悦子,若杉弘,読売日本交響楽団,日本フィルハーモニー交響楽団,ニュー・ミュージック・アンサンブル,有賀誠門 | |
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