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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/8(水)東京文化会館モーニング/白井菜々子のコントラバスは柔らかくしなやかで躍動的

2017年03月08日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
3/8(水)東京文化会館モーニング/白井菜々子のコントラバスは柔らかくしなやかで躍動的

東京文化会館 モーニングコンサート Vol.103 白井菜々子(コントラバス)

2017年3月8日(水)11:00〜 東京文化会館・小ホール 自由席 A列 33番 500円
コントラバス:白井菜々子 *第13回東京音楽コンクール弦楽部門第3位
ピアノ:山崎早登美
【曲目】
エルガー:愛の挨拶 作品12
シューベルト:アルペッジョーネ・ソナタ イ短調 D.821より 第1楽章
モンティ:チャルダッシュ
ボッテジーニ:コントラバス協奏曲 第2番 ロ短調
ボッテジーニ:グランド・アレグロ 「メンデルスゾーン風協奏曲」
《アンコール》
 ボッテジーニ:エレジー 第1番 ニ長調

 東京文化会館の「モーニングコンサート」シリーズは、小ホール/自由席/500円で平日の午前11時からの60分のコンサート。東京音楽コンクールの入賞者たちによるリサイタルなので、若手の音楽家たちに演奏の機会を提供してきた企画である。
 今回はコントラバスの白井菜々子さんのリサイタルである。白井さんは2015年の「第13回東京音楽コンクール」の弦楽部門で第3位を獲得した。コントラバス奏者が参加できるコンクールも少ないので、弦楽部門がある東京音コンで並み居るヴァイオリンやチェロの精鋭たちを抑えて第3位に入賞したのは快挙といえる素晴らしいことだ。私はその時、第2次予選と本選で彼女の演奏を聴いていて、すっかり魅了されてしまった。その後、彼女のコントラバスを聴ける機会がやっと訪れたのである。今日は午前中にもかかわらず仕事をコントロールして、随分前から楽しみにしていたのであった。そもそもコントラバスのリサイタルというのも珍しくてなかなか聴く機会も少ないはず。クラシック音楽通の人でも聴いたことがないという人がほとんどではないだろうか。私がコントラバスに拘るのは、昔少しだけ弾いていたことがあるからで、他の楽器よりはコントラバスのことを多少知っている(?)からなのである。ま、それはどうでも良いことだが・・・・。
 ちなみに今日は電車が遅れて会場に到着するのが大幅に遅れてしまったため、良い席が取れなかった。そのため、1列目ではあるが右ブロック。ピアノとフロン台の間にちょうど奏者と楽器が見える位置なので、まあまあといったところ。白井さんは4弦のコントラバスを使用しているが、エンドピンを短くして、低い位置に楽器を置き、立って演奏する。その際、左足のつま先をヒョイと上げて、楽器を支える独特のスタイル(ウィーンで教わったのだとか)を採るのだが、右側の席位置からはそれがよく見えた。

 さて60分のリサイタルを開くにあたっても、上記の曲目を見れば分かるように、コントラバスはソロで弾けるような曲が極端に少ないのである。エルガーの「愛の挨拶」は誰でも知っている名曲だが、ピアノ曲またはヴァイオリンとピアノのための曲として知られている。シューベルトの「アルペッジョーネ・ソナタ」はアルペッジョーネという現在はほとんど存在しない楽器のために書かれた曲で、今ではヴィオラやチェロで演奏されることがある(ヴィオラもソロの曲が少ないので・・・・)。モンティの「チャルダッシュ」は元々はマンドリンのために書かれた曲だが現在ではヴァイオリンの超絶技巧曲の定番になっていて、時々チェロでの演奏を聴くことがある。
 ということで、コントラバスのために書かれた曲は、ボッテジーニだけ。この作曲家の名前もコントラバスに関心のない人にはほとんど知られていないと思われる。ジョヴァンニ・ボッテジーニ(1821〜1889)はイタリアの作曲家であり、「コントラバスのパガニーニ」と呼ばれるほどのコントラバスの名手であった。そのため、コントラバスのための単独の曲を数多く残したが、現在のコントラバス奏者にとっては唯一無二の作曲家といえるほどの存在である。ロマン派時代の人だがイタリア出身ということもあって、その曲相は伸びやかで歌謡的な旋律が美しい。コントラバスのことを知り尽くしているので、音程を聴き取りにくい低音域を巧みに使いつつ、チェロの音域と重なる中〜高音域ではチェロよりも太い音色を巧く使った曲作りをしている。

 白井さんは、15歳からコントラバスを始めたという。この楽器を子供の時からやる人はいない。楽器が大きすぎるからだ(小さな分数楽器もあることはあるらしいが・・・)。一般的には、吹奏楽の弦バスとして始める人が多いようである。才能というのは恐ろしいもので、15歳から始めた白井さんは、2008年に桐朋学園大学に進学し、2010年から4年間はウィーン国立音楽大学に留学、2014年に帰国して現在は東京音楽大学大学院修士課程に特別特待奨学生として在籍中とのことだ。私も同じ15歳の時にコントラバスを始めたクチだが、才能のカケラもなく、間もなく引退・・・・。


 さて前置きが大変長くなってしまった。本日の演奏についてレビューしよう。
 1曲目はエルガーの「愛の挨拶」。チェロでの演奏は時々聴くことがあるが、その聴き慣れた曲もコントラバスになると雰囲気が違う。1オクターブ低くお腹にビリリと伝わって来る独特の音は、伴奏ピアノの高音域よりもかなり低く離れていて、ちょっと不思議な音楽空間を創り出す。白井さんの演奏は暖色系の明るい音色で、とても柔らかく滑らか。ゴツゴツしたコントラバスのイメージからはかけ離れた優しい雰囲気が意外であり同時に嬉しかった。

 2曲目はシューベルトの「アルペッジョーネ・ソナタ」の第1楽章。前述のように現在はアルペッジョーネという楽器はほとんど見ることができない。シューベルトの時代の19世紀に誕生したこの楽器は、チェロとギターを掛け合わせたような構造で、弓で弾く擦弦楽器だが6弦で、ギターのように指板にフレットがある。ごく短期間で廃れてしまったため、アルペッジョーネ用の楽曲はごく少ないが、シューベルトのこの曲は親しまれ続けて、現在でもヴィオラやチェロで演奏されることがあり、昨年にはヴィオラの安達真理さんがリサイタルで演奏するのを聴いた
 哀愁を帯びた主題は1度聴いただけで耳に残るほどの親しみやすい旋律。コントラバスで弾く場合はおそらくチェロ用の楽譜を使うのだろうが、コントラバスとしては高音域が多くなり、難しそうだ。白井さんの演奏はどの音域でも極めて正確な音程で、あくまで滑らかに旋律を歌わせる。やはりあまり聴き慣れない低音域での主旋律の動きは、かなり独特の世界を創り出す。低音域で主旋律が大きく歌うというのはなかなか聴く機会がないので新鮮な響きに聞こえる。また速いパッセージでも明瞭な音でとても鮮やかな印象を描き出していた。抒情的な表現も柔らかくふくよかである。男性的な楽器と思われがちなコントラバスだが、こうした女性的で柔らかな演奏はとても新鮮に思えた。

 3曲目はモンティの「チャルダッシュ」。ヴァイオリンではよく聴くことがあるが、たまにチェロでの演奏に出会うこともある。しかしこの曲をヴァイオリンのようなテンポでチェロで弾くとかなり技巧的に難しくなってくる。弦が長くなるために運指の動きが大きくなってしまうためだ。それをさらに弦の長いコントラバスで弾くとなると・・・・。
 ところが白井さんは難なく弾いてしまう。さすがにテンポはヴァイオリンよりは遅めになるし、音域が低いために派手さがなくなってしまうものの、演奏そのものは高速パッセージでも正確で、リズム感も流れも良い。超絶技巧といってしまうのは簡単だが、集中力と体力も含んでのことだ。そう、コントラバスは疲れるのだ。

 つづいていよいよボッテジーニの曲が登場。「コントラバス協奏曲 第2番」である。この曲は、彼女が東京音コンの本選会で、オーケストラと演奏しているのを聴いている。要するにコントラバス界では名曲中の名曲なのである。15分くらいの曲だが3楽章構成でカデンツァもあり、形式的にも本格的な協奏曲になっている。
 第1楽章は第1主題がパガニーニらと通じるイタリアならではの歌謡的な旋律だ。さすがにボッテジーニの曲は、コントラバスの機能性を完全に網羅し、全音域を見事に使って華やかで技巧的、そして旋律が美しい。とても魅力的な曲を作っている。白井さんの演奏は、陽気なリズムに乗り、柔らかくしなやかな表現力、温かみのある音色で、この曲の魅力を引き出していると思う。カデンツァもお見事。
 第2楽章はさらに歌謡的で、大らかに、抒情的な歌う。とても美しい旋律であり、逆のヴァイオリン用に編曲すれば人気が出そうだ。主旋律はチェロと同じような音域のため聴き取りやすく、装飾的なパッセージが低音部から駆け上がる時のズシンとくる重みはコントラバスならでは。幅というか、奥行きを感じさせる音だ。
 第3楽章も主題は歌謡的でリズム感が躍動する。この曲の良いところは、独奏コントラバスとオーケストラ(本日はピアノ)が交互に対話するように展開していくので、聴き取りにくい低音域のコントラバスであっても、くっきりと明瞭に聞こえるように作られているところだ。もちろん白井さんの演奏は素晴らしく、しなやかで躍動的で、コントラバスでこれほど豊かな音楽性を発揮できること自体が文句なしのBrava!!である。

 最後は、ボッテジーニの「グランド・アレグロ」と呼ばれる曲で別名「メンデルスゾーン風協奏曲」。これは有名なメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をモチーフにして、主題を違う旋律に置き換え、同じような構成の曲に仕上げたというもの。聴いているとナルホドというところが随所に感じられて面白い。曲相が歌謡的なイタリア音楽からドイツ風の器楽的な造形になっているところも楽しい。オーケストラ版で聴くとより分かりやすいはずだ。
 いかにもヴァイオリン協奏曲のような華麗で華やかな技巧を披露するように作られているが、白井さんの演奏技術の高さがよくわかる。ややドイツ風のイメージになっても、伸びやかで暖色系の音色に変わりはなく、リズムにのってよく歌わせる。ゴツゴツしたイメージがなく、明るく軽快で屈託がないところが、とても魅力的な演奏である。

 アンコールは、やはりボッテジーニで「エレジー 第1番」。これがまたとても素敵な曲。エレジー(悲歌)とは思えないほど、ロマンティックな憧れがいっぱいの曲なのである。ボッテジーニはコントラバスのことを知り尽くしているだけでなく、コントラバスが大好きだったということが、そんな思いがいっぱい詰まった曲に聞こえる。そういう意味では、本日の白井さんの演奏の中で、一番ロマンティックで、旋律が豊かに歌っていたような気がする。素敵な演奏であった。

 終演後、若手の演奏家のコンサートでは、たいていロビーに出て来てくださるので、タイミングをみてご挨拶を交わす。コントラバス奏者はリサイタルや協奏曲の機会が本当に少ないので、こうして交流の場を持てるのも次はいつのことになるか分からないだけに、貴重な時間であった。機会があれば、今後ももちろん聴き続けたいアーティストのリストの上位の方にランク・インしたことは間違いない。まだ聴いたことがない人は「えー、コントラバスなんて」などと言わずに、是非聴いて欲しい。必ず新しい発見があるはずである。

 さて「モーニングコンサート」シリーズは、実は今回が最終回。4月からは「上野deクラシック」というシリーズにリニューアルされる予定になっている。変わる点は、モーニングだけでなく、マチネーやソワレで開催されることもあり、チケット価格も500円均一だったものが内容や出演者によって500円〜1500円に設定されること。発表されているプログラムの中にも、いくつか聴きたいものがある。ただ、開催時間帯が変わったとしても、自由席には違いないので、早く行って並ばなければならないところが・・・・ツライ。

 ついでだからコントラバスに関するミニ知識を。
 コントラバスは、単独で演奏される楽器とはほとんど認識されておらず、オーケストラや弦楽合奏の中で弦楽5部の最低音部を受け持っていることは知られている。その形状から、ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロ→コントラバスという風に段々大きくなり音域が下がっていくので、ヴァイオリンの仲間(ヴァイオリン属という)と思われがちだが、実はコントラバスだけは現在はほとんど使われなくなったヴィオール属と呼ばれるヴィオラ・ダ・ガンバの仲間に起原があり、現代に残る特徴としては、胴がなで肩でヴァイオリン属とはよく見ると形が違うことや、調弦が4度(ヴァイオリン属は5度調弦)であること、弓の持ち方がジャーマン・ボウ(ヴァイオリン属はフレンチ・ボウ)であること、などがある。ヴィオラ・ダ・ガンバは竿の指板にフレットがあったが、コントラバスにはない。これはヴァイオリン属との合奏に応じてチェロに近づいていったからだろうか。現代のコントラバスには4弦の楽器と5弦の楽器があるが、その調弦は、高い方からG-D-A-Eの4度調弦で、5弦の楽器では低い方にC弦が加わるのが一般的である。これにより、チェロの最低音Cよりも1オクターヴ低い音が出せるようになる。記譜はチェロと同じへ音譜表だが、実際には楽譜よりも1オクターブ低い音が出る。コントラバスはその名の通り、本来のバスの音域であるチェロよりも倍低いのである(英語ではダブルベースとも呼ばれている)。

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