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9/9(日)コバケン・ワールド/明るい音色の遠藤真理の「ロココ」とショスタコーヴィチの5番を熱演

2012年09月11日 01時20分50秒 | クラシックコンサート
コバケン・ワールド Vol.2 /日本フィルハーモニー交響楽団

2012年9月9日(日)14:00~ 東京芸術劇場 S席 1階 C列 16番 5,600円
指 揮: 小林研一郎
チェロ: 遠藤真理*
管弦楽: 日本フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
チャイコスフキー: ロココの主題による変奏曲*
《アンコール》
 千の風に乗って(チェロ: 遠藤真理/ピアノ: 小林研一郎)
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第5番 ニ短調 作品47「革命」

 「コバケン・ガラ」シリーズが今年から「コバケン・ワールド」と名称が変わって、今日は2回目に当たる。会場もリニューアル・オープンしたばかりの東京芸術劇場へと移った。今回はチェロの遠藤真理さんをゲストに迎えて、チャイコフスキーの「ロココの主題による変奏曲」とショスタコーヴィチの交響曲第5番というプログラムである。

 1曲目は、遠藤さんをソリストに迎えてチャイコフスキーの「ロココの主題による変奏曲」。チェロ協奏曲としての形式にはなっていないために協奏曲とは呼ばれないが、独奏チェロとオーケストラのための協奏風の曲であり、構成は変奏曲の形式となっている。今日の演奏は、一般的に演奏されているフィッツェンハーゲン版(主題と7つの変奏+コーダ)。チェロ協奏曲としてはドヴォルザークのものと並んで演奏機会が多い名曲だ。全編がチャイコフスキーならではの甘美でロマンティックな旋律で満たされている。
 遠藤さんの演奏は何度聴いても明るく伸びやかで屈託がない。低音部の深みのある音色にもどことなく暖かみがあり、穏やかな印象。伸びと艶やかさのある中音域、高音域もキリキリとした神経質なところがなく、明快な印象を受ける。もちろん全域にわたって、正確な音程と、豊かな音色、高度な技巧も安定感抜群であった。
 一方、コバケンさんのドライブするオーケストラは、万事チェロの独奏に対して控え目にコントロールされていた。ロマンティックな曲想だけに、小さめの音量で、やや軽快なリズム感で重々しくなることもなく、明るい音色のチェロとのアンサンブルもピタリと合っていた。
 ただ、まったく個人的な印象かもしれないが、遠藤さんも巨匠コバケンさんに対してちょっと遠慮気味だったような気がした。優等生的であったとまではいわないが、キレイにまとめすぎたような…。もう少し自由度の高い、伸び伸びとはみ出した演奏をしたとしても、コバケンさんならうまく受け止めてくれただろう。

 「ロココ」は20分くらいの曲なので、前半のプログラムがこれ1曲では短すぎるから、アンコールは当然あるとは思っていたが、さすがにコバケン・ワールドだけあって、面白いものが用意されていた。カーテンコールの後、マイクを持ちだしてきてトークを始めたかと思いきや、オーケストラのメンバーを下げてしまい、奥からピアノを出してきた(ショスタコーヴィチのために用意されているのだと思っていた)。そして、アンコールは「今日はポピュラーのコンサートではないのですが…」と断ってから、「千の風に乗って」のチェロ版である。ピアノ伴奏はコバケンさんという豪華版(?)。息の長い旋律を歌わせるのに適しているチェロは、このような曲を演奏すると何とも言えない落ち着いた味わいがある。遠藤さんの明るく暖かみのある音色と、コバケンさんのムードミュージックのような素敵な伴奏(失礼)で、ほのぼのとした一時であった。

 後半はショスタコーヴィチの交響曲第5番。この曲に付けられている「革命」という標題は、ソ連の革命記念日に初演されたことにちなんでレコード会社などが命名したものらしいが、曲の内容とは一致しないとみるべきだろう。楽曲は、当時のショスタコーヴィチとしては革命的(=革新的)というよりはむしろ4楽章構成の古典的な形式に回帰している。それだけに分かりやすい曲でもあるし、純音楽として世界中で親しまれている所以だ。
 コバケンさんは若い頃はこの曲をしばしば演奏したし、節目節目に演奏する機会が多かったという。その後、この曲からは遠ざかり、今回は20年ぶりくらいの演奏になるらしい。そして「炎のコバケン」の面目躍如で、熱演を繰り広げることになった。
 第1楽章は冒頭の主題提示で低弦がブルンと重厚に響き、続く第2主題もヴァイオリンが引き締まったアンサンブルを聴かせ、緊張感の高い演奏になった。調性が安定しないのも不安感を醸し出す。ピアノが出てきてからは目まぐるしく展開して混沌としてくるが、この辺りの推進力と押し出しの強さはなかなか良い感じだ。第1楽章では金管がやや不安定になりかけたが、すぐに持ち直し、以後は素晴らしい演奏を聴かせた。
 第2楽章はスルツォに相当する。木管と弦のアンサンブルも緻密、金管群の押し出すリズム感も良い。トリオ部ではヴァイオリンのソロやフルートのソロなども丁寧に演奏されている。
 第3楽章の緩徐楽章は、鬱々として悲哀に満ちた楽想が、悲しくも美しく、日本フィルの弦楽アンサンブルも緻密で見事だ。
 第4楽章は行進曲風の主題に、重厚な金管群、細かなリズムを刻む弦楽の目まぐるしい展開が続く。コバケンさんのエネルギーがオーケストラに伝わっていき、パワフルでダイナミックなサウンドを絞り出していた。中間部に雲間から垣間見える太陽のように、一瞬現れるホルンが、質感のある音色で泣かせる。終盤に向けて徐々に盛り上がっていく様は、各パートの音量が段々と上がって行き、緊張感がギリギリと高まって行く。その後に来る晴れやかなファンファーレとティンパニの連打!! フィナーレは劇的に盛り上がった。
 今日のコバケンさんの演奏は、いつもそうではあるが、熱演であった。魂の燃焼と気合いで指揮しているように見えるが、実はかなり綿密に計算されていて、各パートのバランスのコントロールや全体の構造感なども見事である。多分に20世紀的ではあるが、重厚だが率直で、分かりやすい。「巨匠」ぶったところのないお人柄も魅力だが、骨太な音楽は、ある意味古典的な、本質的な魅力がいっぱいでもある。まあ、後は好みの問題であろう。「今日は完全燃焼なのでアンコールはありません」とご本人からの説明付きでコンサートが終わった。

 さて最後に、東京芸術劇場について触れておこう。2011年の4月から休館して改装工事に入り、1年半の期間を経て、今年2012年9月1日にリニューアル・オープンしたばかりである。もちろん、今日初めて行ったので、感想を少々…。
 もとより、芸劇にはあまり行くことがなかったので、ホールについても細かいところまでは覚えてもいないが、今回の大改装で大きく変わった点は、建物の1階からホールのある階まで空中に浮かんだ長いエスカレーターがなくなったことだ。あれはいかにも地震に弱そうなイメージ。実際には東日本大震災の時の震度5強には耐えたのだが、あの地震を経験した後では、空中に浮かぶエスカレーターはいかにも怖い。結局、取り外され、右側の壁に沿って新たなエスカレーターが設置された。何となくは安心感が増したようではあるが…。
 また、天井からたくさん鈴なりにぶら下がっていた金属製のオブジェもなくなっていた。改装前を正確には覚えていないが、天井部分にも耐震補強の鉄骨が追加されているようだ。なんだか無骨で普通のイメージになってしまって、ちょっと残念。しかしイメージ的にはかなり安全度が高まったというところだろう。
 ホールの中は何処が変わったのか分からなかったが、今日はパイプオルガンがモダンな方が出ていたので、いつもと印象がかなり変わって見えた。音響にも手が加えられたのだろうか。芸劇にはあまり行かなかったし、1階のステージ近く(今日は3列目のセンター)で聴いた記憶がない(?)ので、何とも言えないが、残響音は小さめだか自然に響く感じで、素直で良い音になったような気がする。ただ、もともとステージの上部の天井がかなり高いので、オーケストラの音が上に抜けてしまう感じで、前に出てこないようである。目の前で演奏しているのに、音圧が届かないもどかしさを感じた。

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