徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Ogre 5

2015年06月21日 08時07分32秒 | Ogre
 右目を閉じたまま、クランクに手をかける――本来弩の射撃において、片目を閉じるのは巧い手ではない。
 片目を閉じると神経に負担がかかる。一度二度ならともかく、それを繰り返していることは目の疲弊を招く。
 だが――
 ナイフを握ったままの右手で、クランクを回す――歯車とワイヤーによって巻き上げられた弦が、機械的に装填される矢を次々と撃ち出す。たちまちのうちに男たちの数人が、針鼠の様になって斃れた。
「くそ、どこだ? どこから――」 言い終わる間も無く、仲間への警告の声をあげようとした海賊も矢の斉射を浴びて斃れた。
 ぴいん、と音を立てて、金属製のボックスマガジンのインジケータが起き上がる。マガジン内部に装填された太矢コーラルが無くなったのだ。
 新しいマガジンを装填し、再びクランクを回すと、吐き出された矢が男たちを討ち斃した。
 三マガジンを使用し尽くし、彼は立ち上がった。すでに二十人以上を射殺している。だが、まだ大勢狩り残している――まだ十人は下るまい。
 さらに射撃を続けてもよかったが、残念ながらここらが潮時だ――敵がまばらになってくれば、正確な射撃を望むべくも無い彼のクロスボウはただ矢を無駄にするだけの代物になり下がる。それに、そろそろ敵も少しは無い知恵を働かせて、矢がどちらから飛んできているかに気づくだろう。
 だが問題無い――なんの問題も無い。
 彼は懐から小さな塊を取り出した。拳ふたつぶん程度の大きさの金属のケースだ。ケースに取りつけられた丸いリングを勢い良く引き抜くと、リングに繋がった金属製の棒が火花を散らす。
 手にしたケースを振りかぶり、腕を一本の棒の様にしたまま振り回して、男たちが密集しているあたりを目懸け投げつける――彼らが反応するよりも早く投げつけた小型のケース、震天雷と俗称される小型の投擲爆弾が破裂して、強力な爆薬に練り込まれた無数の破片を撒き散らした。
 こちらに飛んできた破片が、彼が掩蔽物に使っている岩に当たってビシビシと音を立てる。それを聞きながら、彼は笑みを浮かべた。
 震天雷の爆発に間近で巻き込まれた海賊たちの口から、悲痛な悲鳴があがる――無数の金属片に全身を蹂躙され、海賊たちが地面に倒れ込んだ。
 腕の無くなった者、体の正面から無数の金属片を浴びた者。運よく仲間の陰になって胴体への直撃を免れた海賊も、爆発とともに撒き散らされた指先ほどの金属片が足に突き刺さり、その場に蹲って悲痛な苦鳴をあげている。
 そのときには、爆発で炎上した二隻の海賊船を包む劫火は鎮火し始めていた――もともと空気が湿っているうえに、船体もずぶ濡れだったのだ。船内のなにが燃えたとしても、甲板に空いた穴から流れ込んできた雨水と冷たく湿った空気、船底に穿たれた穴から流れ込んだ海水で消火され、船体も沈没し始めている。
 船内に燃料油や火薬を大量に備蓄してでもいない限り、そうそう長いこと燃え続けることは無い。
 唇をゆがめて笑い、彼はそれまで閉じていた右目を開けた。海賊どもに斉射を浴びせたときに炎上する船が視界に入ってしまったために明るさに目の慣れてしまった左目と違い、それまで閉じることで光を容れていなかった右目はよく見える――左目の視界は暗いが、右目の視界は十分に白兵戦に耐える。
 彼はあらかじめ隠しておいたふた振りの小太刀を拾い上げ、鞘から刃を抜き放った。
 鞘を腰に帯びる時間が惜しかったのでそのまま放置し、岩の陰から飛び出して固い地面を蹴る――肉食獣を思わせる俊敏な動きで百フィートの距離を滑る様に横断し、彼は海賊たちの中へと斬り込んだ。
 反応する間も与えなかった。混乱から立ち直る暇を与えてはならない。強襲作戦ハード・アンド・ファストを成功させるための鉄則は常にひとつだ――敵を混乱に陥れながら、自分は冷静であること。
 仲間の体が楯になって破片を免れた海賊のひとりに音も無く接近し、彼が振り返るよりも早くその喉笛を斬り裂く。派手に鮮血が噴出し、海賊の体が崩れ落ちた。
 続いて、脚に破片を浴びてその場に蹲っていた海賊の後頭部に小太刀の物撃ちを叩きつけ、延髄を叩き割る――その一撃で死んだかどうかはわからない、だがどうでもいい。死んでいようが生きていようが、どうだというほどのことも無い。脊椎を損傷した状態でまともに動ける生物はいない。死んでいなくても、背後から攻撃される危険は無い――即死しなくても、放置しておけば低体温症を起こしていずれ死ぬ。
 そのまま次の海賊に襲いかかり、無造作に小太刀を振るう。一撃で海賊の肩が叩き割られ、その一撃が鎖骨下動脈と肺を斬り裂いて心臓に達した。海賊が悲鳴をあげようとしたが、ゴボゴボという音を立てて口から血の泡が溢れ出しただけだった。
「こっちだ!」
 こちらに気づいた海賊が、戦場での白兵戦用の曲刀シミタを手に襲い掛かってくる――彼は斬りつけられた剣を左手の小太刀で受け止め、次いで繰り出した右手の一撃で海賊の彼の胴を薙いだ。腹筋を引き裂かれ、内臓がどろりと裂け目から零れ出す。一端が切断された腸が、紐の様に地面に垂れ下がってとぐろを巻いた。
 自分の腸の上に跪く様にして崩れ落ちた海賊の後頭部を金属で補強したブーツの踵で踏み砕いてとどめを刺し、彼は視線をめぐらせた。
 視界の端で、数人――爆発の被害を免れたらしい海賊たちが固まっている。最初に飛び出してきたときに炎を目に入れてしまったために、船を包んでいた炎が鎮火してもまだ暗さに目が慣れていないのだろう。それもまた、船を爆破した目的のひとつではある――彼らはこちらの姿をいまだ発見していない。
 彼は小太刀の一刀を地面に突き立て、震天雷を懐からひとつ取り出して、懐から取り出した金属の塊を彼らのほうに向かって思いきり投げつけた――手近にいた海賊に接近し、そこでようやくこちらに気づいたらしい海賊が声をあげるよりも早くその両眼を斬り裂く。
 噴き出した大量の血が汚した――それを無視して両眼を押さえて絶叫している海賊の背後に廻り込み、膝裏に蹴りを入れてバランスを崩して後傾させる。
「目が、目がぁぁ!」 状況を理解出来ないまま身も世も無く叫んでいる海賊を楯にする様にその体の陰に隠れたとき、地上から二ヤードほどの高さで震天雷が破裂した。海賊の体を通して、びしびしと破片が突き刺さる感触が伝わってきた。
 空中で破裂した震天雷の破片が致命傷になったのだろう、楯にしていた海賊の体がぐったりと弛緩する――もう用は無い。芋袋の様にその体を放り棄て、彼は周囲に視線を走らせた。
「てめぇっ!」 罵声とともに、ふたりの海賊たちが襲い掛かってきた。遅まきながらこちらに気づいたらしい――こちらの左右を取って、獲物を振り翳して突進してくる。ふたりとも、持っているのは海上白兵戦用の短剣カトラスだ。
 それを見定めて、彼はゆっくりと笑った。
「死ねぇッ!」 右側の海賊が、カトラスで斬りつけてくる――彼は海賊の右手を左手で捕って左に転身し、敵の体を右肩に背負う様にして海賊の体勢を崩した。海賊の短剣の鋒が、左にいた海賊の喉元に喰い込む。首筋の半ばまで短剣が喰い込み、左にいた海賊の体が弛緩した。
 ぞぶり。背負ったままの海賊の背中に、短剣の鋒が突き刺さる。背後から接近していた、別の海賊の短剣だ。
 彼を刺したはずが味方を刺し、背後の海賊が驚愕の声をあげ――ようとしながら、彼が背負った海賊の体を貫いて突き出した小太刀の鋒に肺をかすめて心臓を貫かれ、そのまま絶息した。
「この……!」 最後のひとり――垂直二連のクロスボウのストックを肩づけした海賊が鏃をこちらに向ける。こいつだけは賢明なことに、襲撃の可能性を警戒してまともな得物を持ってきたらしい――頭がまともかどうかは知らないが。
 だが――この海賊の失策は、クロスボウの矢を一度に二本とも発射してしまったことだった。彼が背負ったまま引き回して楯にした海賊の死体に、クロスボウの矢が二本とも突き刺さる。
 クロスボウは再装填に時間がかかる――少なくとも、今から彼が海賊を殺すまでの間には間に合わない。
 楯にした海賊の死体を放り棄て、地面を蹴る――次の瞬間、クロスボウのストックを保持していた海賊の右腕が、肘のあたりから切断されて硬い地面の上に落ちた。
「……え?」
 間抜けな声をあげる海賊の腕の切断面から、噴水の様に景気よく血が噴出し――次の瞬間、海賊の喉笛から悲鳴が迸る。
 それを適当に聞き流しながらわずかに手の中で小太刀の柄の位置を変え、使い慣れた持ち位置を確保して、彼は地面に蹲ってすすり泣いている海賊のかたわらに歩み寄った。
 足元のクロスボウの上に突っ伏す様にして豚の様な泣き声をあげている海賊に歩み寄り、軽く小太刀を振るう。ポトリという音ともに――ごくあっさりした音とともに――小太刀に斬り落とされた耳が地面の上に落ちた。
「ッぎゃああああ!」
「――黙れ」 海賊の悲鳴を遮る彼の言葉は短かった。
「答えろ――ジェンノー・カークリラーノスはどこにいる?」
 海賊が彼を見上げる――ぶたれた子供の様な無様な表情を浮かべたまま。
「答えろ――言えば見逃してやる」
 その言葉に、海賊が小屋のひとつに視線を向けた。
 彼はその視線を追い――
「あれか?」 その問いに海賊がうなずくのを確認してから、
「わかった。これでおまえは見逃してやろう」
 安堵の表情を浮かべた海賊が、立ち上がって這う這うの体で背を向けて逃げ出す。その背中に、彼は声をかけた。
「ああ、それと――」 その言葉が終わるよりも早く海賊の体が正中線から縦に割れ、斧を入れられた薪の様に左右に崩れ落ちた。
「――あれは嘘だ」
 馬鹿な海賊ヤツだ。よりによってこの俺を相手にして、生きて逃れられるとでも思ったのか?
 胸中でつぶやいて、彼は小屋のほうに向き直った。おそらくは増援なのだろう、先ほどよりも装備の整った連中が何十人か、姿を見せている。
 すでにこちらを見定めている海賊たちを見遣って、彼はすっと目を細めた――左手の小太刀を鞘に収め、代わりに内懐から残りみっつとなった震天雷のひとつを掴み出す。
 それを一度真上に投げ上げてから、彼はゆっくりと笑った。

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