徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Ogre 3

2015年06月21日 00時07分03秒 | Ogre
 標的確認――胸中でつぶやいて、目を細める。
 間違いあるまい。こいつらが、ターゲットの海賊団だ。
 どうやらこの海賊団の頭は随分と嫌われているらしい――まあ、部下に慕われる様な人間は海賊になど落ちぶれまいが。
 ひとりが動き出したのか、足音がこちらに近づいてくる。
「どうした?」
「小便だよ」
 会話が聞こえ、彼は覆面の下の口元にゆっくりと笑みを浮かべた。足音のひとつが近づいてくる。
 足音の移動に合わせてキャプスタンを廻り込みながら、死角を保って移動する――もうひとりは相棒の愚痴を聞かされるのに飽きたのか、二隻の船の間に渡されたタラップを渡ってもう一隻の船に乗り移ろうとしている。
 股間のものを取り出しながら、男が舷側に近づいてきた――甲板上は大量の雨水で川のごとき有様なので、男はそのまま甲板に放尿する気でいるらしい。
 男の顔が醜く歪む。あの少女を自分が犯しているところを想像でもしていたのか、男が取り出した股間のものは硬く勃起していた。
 くそ。あの早漏船長め。
 男が低く毒づく声が、雨音に混じって聞こえてくる。
「くそっ」
 彼は一ヤードと離れていないところから、男の姿を捕捉していた。唇をゆがめ、脛の装甲の隙間から音も無く短剣を一本引き抜く。
 刃渡りは四インチ程度、甲冑や肋骨の隙間から刺し込んで内臓を傷つけて殺傷するためのまっすぐな錐状で、突き刺したり引き抜くときに支障が出ない様にセレーションはついていない。
 刃と柄は一体になっていて全体が光の反射を抑えるために黒く塗装され、柄には黒く染色された革製の細い紐が滑り止め代わりに巻きつけられている。深く刺さりすぎない様に、手元には小ぶりの鍔状の突起がついていた。
 折り敷いていた体を起こし、一度もうひとりの男を確認してから、彼はもたついている男に背後から接近していった――取り出したものがなかなか排泄を始めてくれないために、自分の息子が直接濡れていくことに毒づいている。
 まあ無理も無い――あれだけ硬くなっていれば、放尿には苦労するだろう。なんとか勃起を鎮めようとしているのか、こちらには注意を向けていない――もっとも、今更気づいたところでもう手遅れだ。彼は最後の一歩を踏み出して、男の体に背後から組みついた。
 驚いた男が抵抗どころか、声ひとつあげる暇も与えない。片手で口をふさぎ、鼻を引っ掛ける様にして頭を仰け反らせ――黒く塗装されたナイフの刃が剥き出しになった男の喉笛を頸動脈もろとも横一文字に切り裂く。
 悲鳴こえも無い――ただ一度、激しい勢いで噴出した鮮血が甲板を濡らす音が雨音に掻き消された。喉に開いた深い傷口から、息とも声ともつかぬヒョウという音が漏れる。一度だけ男の体が痙攣し、全身が弛緩した。
 男の膝からがくりと力が抜けて、彼が手を放すと男の体がその場に力無く崩れ落ちた。
 ズボンの股ぐらから性器を露出した情けない恰好で死んだ男の体を、ジェフリーと呼ばれたもうひとりから見えない位置に引きずり込む。
 角燈を手にしたもうひとりの海賊が、相棒がまだ渡ってこないことに不審をいだいたのか、もう一隻の船の甲板から声を掛けてきた。縄梯子にボートを縛着しているのはもうひとりの海賊がいるほうの船で、つまり彼はそのままボートに乗って岸に戻るつもりでいたのだろう。
「おい、いつまでかかってんだ? まさか甲板でクソまで出してるんじゃねえだろうな」
 相棒の死にはまだ気づいていないらしい――まあ無理も無い、これだけ雨音が激しくては多少の音にはまず気づかない。
「……まさか落ちたんじゃねえだろうな、あの馬鹿」 返事が無いからだろう、男は角燈を翳してこちらの様子を確認してから、大儀そうに再びタラップを渡ってこちらの船の甲板上に降りた。
「おい、バルザック?」 男は相棒の名を呼びながら視線をめぐらせ、そこでメイン・マストの陰に仰向けに倒れている相棒の姿に気づいた様だった。
「おい、てめえふざけてんじゃ――」
 男が声をかけながらバルザックに近づき始めたところで、彼はそれまで潜んでいたメイン・デッキとプープ・デッキを結ぶタラップの下の物陰から弾かれた様に飛び出した――物音に気づいて男が振り返るよりも早く、手にしたナイフを宙に滑らせる。
 一撃目は浅かった――首を狙って繰り出した刺突を、男が寸手のところで上体をのけぞらせて躱す。だが男がこちらの姿を見定めるよりも早く続いた横薙ぎの一撃が男の喉笛を浅く切り裂き、そのまま右側の頸動脈を斬り裂いた。
 ぶばっと音を立てて飛び散った血が、取り落とした角燈の光に照らし出されて甲板を一瞬だけ紅く染める――だが次の瞬間には雨水に薄められ、どこにともなく流れ去っていってしまった。
 くず折れた男の足元に転がった角燈を取り上げて、そのまま舷側越しに海に放り棄てる――消すのには手間がかかるから、投棄したほうが早い。角燈の光の動きが岸辺から見える可能性はあるが、陸地の連中がそれで異常に気づく可能性はほとんど無いはずだ。
 彼はそれ以上男たちの屍には一瞥も呉れること無く、その場で立ち上がった。もはや姿の隠匿を気にかける必要も無い。彼が投げ棄てた角燈を除いて、甲板上には光源は無い――たとえ姿を暴露したとしても、陸地から甲板の様子を窺うことは出来ないだろう。
 ここからは姿の隠蔽よりも時間との勝負になる――別に急いでいるわけではなく、ただ単に寒いので早く片をつけたいというだけの話だが。
 船尾楼甲板に戻り、最後に置いたハンドレールの内側にそのまま残っていたバックパックを回収して、ふたたびメイン・デッキに取って返す。
 メイン・デッキのチャート・ルームの扉を開けて中に入り、バックパックを床に下ろして――バックパックの中から取り出したのは、防水用の油紙と粘着テープで密封されたふたつの包みだった。
 握り拳大の大きさの完全に密封された塊に、防水テープがびっしり巻きつけられた長さ二十メートル程度のコードがつながっている――彼はふたつの包みの封を破り、八の字巻きにされたコードの末端を手にとって、壁に木ネジで固定された鎹状のハンガーかけに二本まとめて結わえつけた。
 塊を手にとってチャート・ルームから甲板に出、もう一隻の船と隣接している左舷に近づいていく。彼は手にした塊をそのまま舷側から外に出し、そろそろとコードを送り出して海面に下ろした。
 別に船内に爆薬を仕掛けてもいいのだが――爆薬の破壊力というのは、基本的に水中に仕掛けたほうが効率よく作用する。
 水が高いところから低いところに流れる様に、爆風もより噴き出しやすいほうに向かって動く――水を押しのけるよりも船底をぶち抜くほうが容易いので、破壊力の大半が船底をぶち抜くことに使われるからだ。
 海面から十分な深さに塊が沈んだと判断して、彼はたるんだコードを手近なビレイピンに巻きつけて固定した。
 そのまま少し離れた所から舷側を乗り越え、いったん舷側のハンドレールからぶら下がってから、両手を放して海面に落下する。一瞬の平衡感覚の喪失のあと、彼は水面に顔を出した。
 自分のいる位置を見定め、コードを下ろしたあたりに移動する。
 コードを引っ張り上げて先の塊がはずれていないことを確認すると、彼はそのうちの一方を手に水中に潜った――竜骨のあたりにまで潜行し、手にした塊を船底の銅板に押しつける。
 彼自身はその細かな理屈は知らないが、塊には特殊な接着剤が塗られている。科学的な原理の解明は後世に譲ることになるが、金属に反応して固形化する樹脂の一種だ。
 木造帆船の喫水線下には船体を喰い荒らすフナクイムシの侵入を防ぐために、びっしりと銅板が張られている――銅板の金属に反応して接着剤が固形化し、手で引っ張ってもはずれなくなったことを確認して、彼は船底の丸みを伝って海面に戻った。
 もうひとつの塊を手に、再び潜行する――今度はもう一隻の船だ。
 先ほどと同じ様に銅板の表面を手でなぞり、フジツボなどがくっついていないことを確認して、塊を押しつける――固着したことを確認して、彼は再度海面に戻った。
 最初に侵入した船の艫に廻り込み、短剣を伝って甲板に攀じ登る。
 再度ハンドレールを乗り越え、チャート・ルームに戻って、彼はバックパックを回収した――それなりに高価なものだし、戦闘員オペレーターとしての備品だ。無くなってもまた支給されるものだが、需品課の職員に嫌味を言われてもつまらない。
 十分に余長を取ってハンガーかけに縛りつけていたコードの端が、床の上に垂れ下がっている――彼は床にかがみこんで、バックパックの中からライターを取り出した。防水処理の施されたパッケージを破いて取り出したライターがちゃんと火がつくことを確認し、ついでコードの末端を新たに抜き放ったナイフで切断する――剥き出しになったライターの芯に、彼はライターで火をつけた。
 ヂヂヂと音を立ててゆっくりと燃えていくコードを床の上に放り出し、立ち上がる――これで準備は整った。
 この導火線は防水用のホースの内側に芯を通したもので、水の中に通しても先端が濡れていなければ使うことが出来る。
 いったん火がつけば、水中にある爆薬に点火することも出来る――今回選んだ導火線の長さと燃焼速度から考えて、爆発が起こるまでの時間の余裕は約十五分。次の準備を整えるには十分な時間だ。
 油紙は放置して――どうせ船と一緒に海の藻屑だ――、彼はチャート・ルームから出た。
 船尾楼甲板プープ・デッキにとって返し、バックパックを再び背負って、ハンドレールを乗り越える。
 船体に突き刺したナイフを一本一本引き抜いて回収しながら、彼は再び海中に身を沈めた。
 たとえこの船を訪れたのが幽霊だったとしても、これほど密やかではなかっただろう。

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