10月20日
上野へ向かう。目指すは、一角座。
東京国立博物館内に出現した映画館だ。荒戸源次郎氏の仕業である。
荒戸氏が提唱する「映画の産地直送方式」を実現させるための、ドーム型移動式仮設映画館「シネマ・プラセット」が東京タワーの足元に出現したのは1980年、鈴木清順監督作品「ツィゴイネルワイゼン」がかけられた。
僕が初めてシネマプラセットに詣でたのは、それから10年後の1991年、上京したて皐月の頃である。
場所は原宿の駅前広場。鈴木清順の新作「夢二」を上映するために設置されたものだった。
ドームの呼び名は「ムービーギャング」に変わっている。
そこで「夢二」公開前にリバイバル上映された「ツィゴイネルワイゼン」と「陽炎座」、そして「夢二」を見た。
確か料金 2,500円!その日、メシを抜く羽目になったからよく覚えている。
ブラリ立ち寄るようなところではなく、気を高め意気込んで行かなければならない場所だった。何が待ってるか分からない異空間だ。
その後、靖国神社前の空き地に移動したムービーギャングで阪本順治監督作品「王手」を見た。入り口前には通天閣を模した櫓が組まれていた。
料金は2,000円だったが、この頃になると僕も東京の生活に慣れ始めており、予め前売り券を買うという賢さが身についていた。1,500円也。
それ以来の移動式映画館、名称は三たび変わって「一角座」。
でも今回は造りがしっかりしている。仮設トイレはそのままだが、中は箱型で天井も高い。椅子もいいし音もいい。
しかし、いつの間にか消え去ってしまいそうな、ケレンミある雰囲気は変わっていない。
明日行ったらもう無くなっているのかもしれない、そんな感じだ。
いい映画は、それがかかった映画館と共に記憶される。
隣の客が持ち込んだポテトの匂いだったり、前列に座った人の邪魔っけな頭だったり、そういう「ふざけんな」も含めて思い出になる。
だから、映画館の外観やロビー、貼られたポスター、行き帰りの出来事まで、全てを楽しみたいと思う。
でも気づくとそういう映画館は、ほとんど姿を消してしまった。
最近はどこでいつ頃観たかすぐに忘れてしまいそうな映画館ばかりで、味気ない。
ビルに入ってしまった映画館では楽しめない、映画の楽しみ方っていうのがあるんだ。
さて、そんな思いを抱かせる貴重な映画小屋が上野に出現して、そろそろ2年になろうとしている。
今度は腰を据えるつもりなのだろうか?
上野公園の噴水前広場を抜け、国立博物館を横目にぐるりと裏門へ向かうと柵の中、博物館の敷地内に突如現れる映画館。
なんとも奇怪な状景だ。
←(公式ブログから拝借)イイ感じでしょ?
警備員に止められる。「…え、映画を観に来ました」「どうぞ」こんなやり取りが通過儀礼だ。ドキドキ…
映画を見に行く楽しみを思い出させてくれる映画館「一角座」、皆さんも是非!
〈おわり〉
…否、そうじゃなく!本題はこれからだ。
この日上映していたのは、シネマプラセット1982年制作の「ヘリウッド」、僕の目的は毎週土曜日に開催されているトークライブにある。
ゲストは、監督の長嶺高文氏と出演者であったクマさんこと篠原勝之氏。そこへ荒戸氏が加わる構成。
出演者はノーギャラだったという話から、主要キャラの悪漢ダンス役を松田優作が熱望していたというようなちょっと眉唾物の話まで、なかなか面白かった。
が、狙いはまだその先にある。
アノお願いを、篠原KUMAさんに持ちかけるんだ!
えい、えい、おう、おう!
トークライブも終わり、一角座を出て行かれる3人。黒いサングラスをした親玉荒戸氏に向かって劇場の若い衆が皆、挨拶する。
危険な香り。しかし、躊躇してはいけない。ダッシュして追いかけた。
いつものことだが、気持ちには余裕のかけらも無い。ヒットマンというより、鉄砲玉である。
裏門付近にて、ガードマンが見守る中…
「写真を撮らせて下さい」「アナタを描かせて下さい」「あなたの事が好きだから!(鉄矢みたいに)」…
いつものことだが、うまく想いが伝えられなくて困る。
それでも目が必死であることだけは間違いなく相手に伝わるだろう。
KUMA「学生か?」
僕「いえ、違います。卒業しました。僕も(!)ムサ美です。お時間があれば、作品をお見せしたいのですが…」
KUMA「これから飲みに行くからよ。酒飲むのにマズい絵、見たくないだろ?」
僕「・・・・」
KUMA「うん。じゃここに連絡してこい」
名刺を渡され、そして右手を出された。あっ握手か!
僕は脂汗でベトベトの手をズボンの縁でゴシゴシ拭いて、小さく握手した。情けなし…
話はそこまで。
頭の中はひとつの言葉「マズい絵」がこだましていた…
11月10日
約束の日、山梨のKUMAS FACTORYへ向かった。
少々迷うも地元の方々に道を尋ね、さすがは有名人、皆さんよくご存知で教えていただくことができ、約束の時間きっかりに到着する。
優しく迎え入れていただき、感謝感激です。
まだまだ思いの丈を伝えきることは出来ないが、それはこれから描き始める「作品」に託せばいい。
ポージングもばっちりに撮影は終了し、興味深い話を聞くこともできた。
話題が尽きない…というより「作品」の話のみで盛り上がることが出来る。それって案外希有な事象だ。
本来、芸術家(クマさん曰く、ゲージツ家)はこうあってしかるべきだと思う。とても楽しい時間。
御年65歳にして未来へ向かうその視線の輝きに触れ、身が引き締まる思いがした。
この印象、「眼」のもつ存在感。これを意識して描かなきゃいけないな…
次回は酒を酌み交わしつつ!
そう約束し、今度はしっかりと力強い握手を交わし、帰路についた。
これから、ちょっぴり寝かして描き始めます。
オブジェの前にて
ところで、篠原さんのどこが好きなのかって?
そうだね、それは日をあらためて…
上野へ向かう。目指すは、一角座。
東京国立博物館内に出現した映画館だ。荒戸源次郎氏の仕業である。
荒戸氏が提唱する「映画の産地直送方式」を実現させるための、ドーム型移動式仮設映画館「シネマ・プラセット」が東京タワーの足元に出現したのは1980年、鈴木清順監督作品「ツィゴイネルワイゼン」がかけられた。
僕が初めてシネマプラセットに詣でたのは、それから10年後の1991年、上京したて皐月の頃である。
場所は原宿の駅前広場。鈴木清順の新作「夢二」を上映するために設置されたものだった。
ドームの呼び名は「ムービーギャング」に変わっている。
そこで「夢二」公開前にリバイバル上映された「ツィゴイネルワイゼン」と「陽炎座」、そして「夢二」を見た。
確か料金 2,500円!その日、メシを抜く羽目になったからよく覚えている。
ブラリ立ち寄るようなところではなく、気を高め意気込んで行かなければならない場所だった。何が待ってるか分からない異空間だ。
その後、靖国神社前の空き地に移動したムービーギャングで阪本順治監督作品「王手」を見た。入り口前には通天閣を模した櫓が組まれていた。
料金は2,000円だったが、この頃になると僕も東京の生活に慣れ始めており、予め前売り券を買うという賢さが身についていた。1,500円也。
それ以来の移動式映画館、名称は三たび変わって「一角座」。
でも今回は造りがしっかりしている。仮設トイレはそのままだが、中は箱型で天井も高い。椅子もいいし音もいい。
しかし、いつの間にか消え去ってしまいそうな、ケレンミある雰囲気は変わっていない。
明日行ったらもう無くなっているのかもしれない、そんな感じだ。
いい映画は、それがかかった映画館と共に記憶される。
隣の客が持ち込んだポテトの匂いだったり、前列に座った人の邪魔っけな頭だったり、そういう「ふざけんな」も含めて思い出になる。
だから、映画館の外観やロビー、貼られたポスター、行き帰りの出来事まで、全てを楽しみたいと思う。
でも気づくとそういう映画館は、ほとんど姿を消してしまった。
最近はどこでいつ頃観たかすぐに忘れてしまいそうな映画館ばかりで、味気ない。
ビルに入ってしまった映画館では楽しめない、映画の楽しみ方っていうのがあるんだ。
さて、そんな思いを抱かせる貴重な映画小屋が上野に出現して、そろそろ2年になろうとしている。
今度は腰を据えるつもりなのだろうか?
上野公園の噴水前広場を抜け、国立博物館を横目にぐるりと裏門へ向かうと柵の中、博物館の敷地内に突如現れる映画館。
なんとも奇怪な状景だ。

警備員に止められる。「…え、映画を観に来ました」「どうぞ」こんなやり取りが通過儀礼だ。ドキドキ…
映画を見に行く楽しみを思い出させてくれる映画館「一角座」、皆さんも是非!
〈おわり〉
…否、そうじゃなく!本題はこれからだ。
この日上映していたのは、シネマプラセット1982年制作の「ヘリウッド」、僕の目的は毎週土曜日に開催されているトークライブにある。
ゲストは、監督の長嶺高文氏と出演者であったクマさんこと篠原勝之氏。そこへ荒戸氏が加わる構成。
出演者はノーギャラだったという話から、主要キャラの悪漢ダンス役を松田優作が熱望していたというようなちょっと眉唾物の話まで、なかなか面白かった。
が、狙いはまだその先にある。
アノお願いを、篠原KUMAさんに持ちかけるんだ!
えい、えい、おう、おう!
トークライブも終わり、一角座を出て行かれる3人。黒いサングラスをした親玉荒戸氏に向かって劇場の若い衆が皆、挨拶する。
危険な香り。しかし、躊躇してはいけない。ダッシュして追いかけた。
いつものことだが、気持ちには余裕のかけらも無い。ヒットマンというより、鉄砲玉である。
裏門付近にて、ガードマンが見守る中…
「写真を撮らせて下さい」「アナタを描かせて下さい」「あなたの事が好きだから!(鉄矢みたいに)」…
いつものことだが、うまく想いが伝えられなくて困る。
それでも目が必死であることだけは間違いなく相手に伝わるだろう。
KUMA「学生か?」
僕「いえ、違います。卒業しました。僕も(!)ムサ美です。お時間があれば、作品をお見せしたいのですが…」
KUMA「これから飲みに行くからよ。酒飲むのにマズい絵、見たくないだろ?」
僕「・・・・」
KUMA「うん。じゃここに連絡してこい」
名刺を渡され、そして右手を出された。あっ握手か!
僕は脂汗でベトベトの手をズボンの縁でゴシゴシ拭いて、小さく握手した。情けなし…
話はそこまで。
頭の中はひとつの言葉「マズい絵」がこだましていた…
11月10日
約束の日、山梨のKUMAS FACTORYへ向かった。
少々迷うも地元の方々に道を尋ね、さすがは有名人、皆さんよくご存知で教えていただくことができ、約束の時間きっかりに到着する。
優しく迎え入れていただき、感謝感激です。
まだまだ思いの丈を伝えきることは出来ないが、それはこれから描き始める「作品」に託せばいい。
ポージングもばっちりに撮影は終了し、興味深い話を聞くこともできた。
話題が尽きない…というより「作品」の話のみで盛り上がることが出来る。それって案外希有な事象だ。
本来、芸術家(クマさん曰く、ゲージツ家)はこうあってしかるべきだと思う。とても楽しい時間。
御年65歳にして未来へ向かうその視線の輝きに触れ、身が引き締まる思いがした。
この印象、「眼」のもつ存在感。これを意識して描かなきゃいけないな…
次回は酒を酌み交わしつつ!
そう約束し、今度はしっかりと力強い握手を交わし、帰路についた。
これから、ちょっぴり寝かして描き始めます。

ところで、篠原さんのどこが好きなのかって?
そうだね、それは日をあらためて…
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます