『蟻の構図』『恋の涯』『土地相続人』「土地狂騒曲」『真紅のセラティア』『巨人伝』『恋人はいらない』以上、津本陽の作品。よくよく、振り返れば、時代小説作家の時代小説以外の作品ばかり、どちらかといえば現代小説のほうを好んで読んできたな。そして、過去に読んだ時代小説といえば、司馬遼太郎ものの坂本龍馬と同じく津本陽の描いた龍馬も。それから、歴史上、龍馬と親しかった陸奥宗光を描いた作品を読んだぐらいか。
遡って戦国時代となると、益々、時代認識に暗いところもあり、江戸時代の町人衆の心情に光を当てた作品の方が身近にも感じたりして、そちらに、舞い戻ってくるような按配。
そういう傾向性からいって、好みの読んできたという、小説類にしてもその作者にしても似通ったカラーを含んでいることをなんとはなく感じたりしている。この作品が、好みの人、こういう、作品もありますよ。みたいな流れで、読み継いできたわけでもないが、同じ人物を描くにしても、ああ、こういう視点でも捉えることもあったのかとか。特段の、ものの見方への、新鮮な刺激もあってか、同じテーマでも掘り下げかた、それぞれの作家の、それぞれの、切り口にも感銘したりしてきて、そういう振り返りのあったことには、少々留めおいておきたいな。と。
人生色々。人それぞれの夢、理想。
時代小説にしろ、津本陽の現代小説にしろ
目指すところへの敬意に溢れている。
史実の確定なんて、主観もあってその長短などは、安易にいうのは避けるべきだろうし、文句の飛び交いがちな世間にあって、複眼視する習いは然るべく、益々、重要。それを可能ならしめるのも他者との交わり。
文芸作品に関わらず、その交わりは、少なからず、古今東西の古典からが一番なのだろうが、自分にとっては身近な、好みの小説家の作品が、その役割りを担ってくれている。
ふふふふふ(そんな、大層なもんか)
好きな作風、既読書列挙、
船山馨、「茜いろの坂」「北国物語」「放浪家族」
藤原審爾、『赤い標的』『国際大謀略作戦』
笹沢佐保、「白昼の囚人」
結城昌治、『虫たちの墓』
西村望、「流亡」
西村寿行、「妄執果つるとき」
最後に記した作品は、寿行のいつものハードロマン的なものとも違って裁判法廷小説。
昨今でいえば、公安と経産省の見立て違いが生んだ例の冤罪、大川原化工機事件の展開を思い浮かべてしまいます。
公安、思想犯捜査の系譜。
作品のほうは、舞台は違って、学生会館。
学生会館が出火し、居住者の学生一人が焼死した。被害者が所持していた現金も消えていた。所轄の中原刑事は学費滞納で除籍になっていた学生安田を自白へ追い込む。しかし男は法廷で自供を覆したのだ……裁判制度の矛盾を抉る長篇サスペンス!