「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

故宮の至宝

2008年05月14日 | 旅の足あと


 この旅での最大の目的にして、私が楽しみに期待した故宮博物院を訪ねる日は、空模様も快晴のご機嫌となりました。

 到着した晩、夫は10年ぶりに逢うのを楽しみにしていた周さんに電話を入れていましたが、1昨年膵臓癌で亡くなったという奥様の話に驚いて、どうやら眠りも浅かったようです。
 そういえば、ここ2,3年はカラフルな賀状も届いてなかったようです。

 10年一昔とはよく言ったものと、故宮への道筋で、台湾の近代化の変貌に目を瞠っていました。故宮も10年前とは見違えるほど展示方法も変わっているし、建物も改装されて便利になっているということでした。
 9時に到着。12時半までの3時間半が見学の時間に当てられました。
 台湾人の現地ガイドの案内をイヤホーンで聞きながら、1時間半を遅れながらついて歩き、後の2時間は自由に集合時間までを解放されました。
 当初から、陶磁器と、書画の部屋に焦点を絞って見学しようと心づもりしていましたが、青銅器を主体にした古代の祭祀器を目の当たりにすると、こちらも興味があり、時間が足りないことになりました。
 青磁の前から動こうとしない夫と待ち合わせ場所と時間を決めて別れ、好きに動きました。
 もっとも、3時間を超えると、足のほうも、目のほうも思い通りには言うことを聞いてくれず、手の甲にスタンプを押してもらって、一旦外に出て、ミュージアムショップで気分転換をし、5分だけ休憩、絵画は大急ぎで見学ということになりました。書画は10,11月に、いいものが展示されるようです。
 2階の部屋は、3階の玉や翡翠の工芸品の前のような人だかりもなく、ゆっくり好きに動けました。図録でみるのと違い、筆の勢い、墨の継ぎ、色の微妙な変化も活き活きとしています。
 出発前に故宮は20年かけても見果せないほどの宝物だから、一度ではとても無理だよと夫に釘を刺されていましたが、その意味が納得できました。

 時代の篩を通って遺されたものだけに、どれも存在感を持って迫ります。歴代の権力者たちの飽くなき美への欲求と、工人たちの誇りと研鑽が痛いほどの迫力で見るものに訴えかけます。と同時に、近代中国の混乱期によくぞこの世界的な遺産が破壊、略奪を免れてきたものと感動しました。

 4階建ての本館は、1階から3階までが展示室で、70万点余の収蔵品のうち、約2万点が展示され、数百点の常設展示のほかは、半年ごとに入れ替えられます。
 1階のパネルで世界史と対比しながら概略を把握、教科書で目にしたことのある甲骨文や、ユニークなデザインの青銅器は、気の遠くなる8000年もの歴史を経たものたちです。
 2階は書画と陶磁器で、当初から目指した階です。さすがCHINAの国です。陶磁器をいうと同時に中国を意味するのも肯けます。最高のものが集められ、唐三彩、白磁の定窯、青磁の汝窯、貫入の哥窯、淡青の官窯、時代と共に芸術的に洗練されてゆく青花や粉彩の技術が歴然と展開されていました。宋の時代のものは今も目に焼きついています。
 3階は、一番人気の絢爛豪華の、宮廷世界が生み出したきらびやかな宝物の会場で、人だかりが絶えることがありません。
 故宮といえば「翠玉白菜」を思う人も多い翡翠の最高傑作(清)はここにあります。翡翠の色と質の自然を巧みに利用して作られています。思ったよりも小ぶりのものでした。
 この階での私の1点は、玉器の「荷葉筆洗」(宋)でした。枯れかけた蓮の葉を、玉の色を活かし、向うが透けるほど薄く削り、葉脈を浮き出させた技に感じいりました。紫檀の台座もモダンです。
 人気を集めていたのは、今日でもどのようにして彫られたかわからないといわれる清朝晩期の、1本の象牙から掘り出された、気が遠くなるほどの精緻を極めた細工物などでした。

 故宮は一日や二日では到底回ることは叶いません。折りをみてまた訪れるに値する逸品の山でした。

故宮の至寶 1階
商 亀甲卜辞

 この亀甲には右に「征戎に行くべきか」左に「征戎はやめるべきか」と記されているのだそうです。どちらが選択されたのでしょう。
西周中期 師湯父鼎
 
鼎は礼器の一種で権威の象徴。殆どが三本足のついた円形の青銅器です。
「鼎の軽重を問う」という故事もありました。
戦国早期 鳥首獣身尊
 
祭祀に用いられた酒器で、首から上が鳥、体は獣。頭を外して酒を入れ、嘴から酒を注ぐ構造です。
商晩期 大理石虎首人身虎爪形立調雕
 
帝王の陵の、昼の守護神。頭が虎、体は人という不思議な生物。明日香の猿石をおもいました。
唐 灰陶加彩仕女俑

かすかに残る彩りと、ふくよかな顔立ちが見るものに安らぎを与えます。
宮中に仕える女性を模った副葬品のひとつ。天平美人そっくりです。


故宮の至宝 2階・3階
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順に、故宮を代表する翠玉白菜  
   象牙透花人物套球         
   荷葉筆洗                
   秋鷺芙蓉 呂紀           
   蘇軾 前赤壁賦 
   顔真卿の書