「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

天領 日田散策

2008年03月18日 | 旅の足あと
 何度も訪れている日田ですが、かつて天領の地だった落ち着いた雰囲気が、夫のお気に入りです。手術から一年半の検診でも、異常がなく、回復も順調だったので、お祝いにどこか近くで温泉にでも、と誘いました。選んだのが日田でした。
 一瞬、3月末までは雛祭りで、豆田町を中心に人出が多いのではと思いましたが、別の方向を歩けばいいと思い直して宿を三隅川べりの亀山亭に取りました。

 今回は民陶の里として知られる小石原の山越えで、夜明けダムに出るコースをとりました。
 途中、この地で唯一穴窯で焼成している今鼓窯の梶原梁山を訪ね、穴窯を見せてもらい、話がはずんでいました。記念にと茶碗を一碗選んで箱に入れていただきました。 
 快晴に恵まれて心地よいドライブでした。
 豆田は、予想通りの賑わいでした。広瀬淡窓(宗家6世)を生んだ広瀬家がそのまま資料館になっている一所だけに絞って、ゆっくり見學しました。
 広瀬家は御用達商人で、掛屋(天領からあがる年貢米や物産を取り扱うところ)を営み、近隣各地の物産を日田に集め、中津から船荷で上方へ運び、戻り荷を各地に販売して、経済的繁栄を築きました。九州諸藩にも、求めに応じては貸付(日田金)をしていました。

 1号館には、江戸期の雛人形が展示されていました。享保雛、天保雛と奥ゆかしげな面輪を見せる人形たちが並んでいました。2号館は、土蔵の1階と2階を使って、歴代使用されてきた商用の道具類や、資料、茶道具類、特に樂家との親交から、富士山の茶碗や、黒樂、赤樂と並んでいました。香道の諸道具、化粧道具と多彩です。3号館は門脇の小さな建物で、受付と書物など、少量のものを置いた売店になっていました。ここの奥に一対だけ飾られている享保の内裏雛が今回もポスターに使われています。
 何度訪れても日田では何か新しい出会いがあります。

 三隅川が三つに分かれる亀山公園のすぐ傍の川畔が日田温泉街です。この地区も豆田と並んで古い町ですが、町並みの保存はありません。旧家の雛飾りもあるのですが、雛飾りを目指して訪れる人は少ないようです。宿の亀山亭でも特別に雛の部屋が設けられており、ここでは、段飾りのほかに、小さな「おきあげ雛」の手の込んだものがありました。
 おきあげは、人形を買えない庶民のための雛飾りに使われたものと聞いています。今も羽子板の装飾に使われています。

 川に舫う鵜飼舟を眺めながら、川風が心地よいのを感じる露天風呂にゆっくり浸かり、食べきれないほどの料理の贅沢でした。

  
享保雛
時計は江戸時代末期 香港製


縦2cmほどの小さな雛道具の百人一首。