The Blueswalk の Blues&Jazz的日々

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内田光子の弾き振りはどうよ

2010-03-31 21:50:28 | Classic

内田光子の弾き振りはどうよ
                                            By The Blueswalk

 内田光子のモーツアルトには定評がある。1987年のジェフリー・テイト指揮、イギリス室内管弦楽団とのピアノ・コンチェルト全集と同時期のピアノ・ソナタ全集は、僕も好きで今まで何度となく聴いてきた。モーツアルトはこれで十分と思える出来で、どちらも世界的な評価が高い。リリー・クラウスやイングリッド・ヘブラーといった、いわゆるモーツアルト弾きたちと較べても、断然こっちのほうが上だ。今のところ日本では敵なしで、マルタ・アルゲリッチと並んで、世界屈指の女流ピアニストであることは疑う余地もない。内田は1972年からロンドンを拠点に活動している。その貢献もあり、「DBE(大英帝国勲章)」などという、英国からの名誉の勲章も頂いている、日本が誇る最大のクラシック音楽家である。
 クラシックの器楽演奏家のうちの多くは、最終的には指揮者を目指したがるようである。チェロのカザルスやロストロポーヴィッチ、ピアノのバレンボイム、アシュケナージの例を挙げるまでもなく、間違いなく言える。その気持ちが分からないでもない。なぜかというと、オーケストラを率いるクラシックの世界は指揮者が絶対だからだ。基本的に演奏者は自分の好きなようには弾けない。指揮者のいう通りしなければならないのだ。だから、今までの恨み辛みを晴らすために指揮者になって、絶対君主になり自分のやり放題のことをやるのだ。こんな快感はないだろう。
 で、あろうことか、内田光子までが指揮者となって、モーツルトの弾き振りをやってしまったのだ。(実は、1982にも上記のイギリス室内管弦楽団とでモーツルトの引き振りをやってはいるのだが)そのCDがこれ。僕は、モーツアルトのピアノ・コンチェルトの中では、第23番が最も好きなので、早速買って聴いてみた。2008年12月、クリーヴランド管弦楽団との弾き振りである。
前者よりゆったりとした演奏だ。余裕というか、つやのある演奏であることは確かである。これは、オーケストラの質の違いが出ていると見ていいだろう。内田光子の演奏だから悪いわけはないし、これもありかなとは思う。しかし、前回より良くなったのかと考えると、そうとは言い切れない。前者のほうがよっぽど、スマートでしまりのある音であると思うのだ。特に第3楽章のAllegro assaiは、スピード感が命なのに、このテンポはなんなんだ。どうしても、指揮とピアノ演奏を同時にやるのは問題があるといわざるを得ない。ジャズのオーケストラの指揮などは、最初のスタートの合図をしたら、後は演奏者にお任せでいけるけれど、クラシックの場合はそうは行かない。ましてや、コンチェルトは基本的に最初から最後までピアノの引きっぱなしに近いのだから、指揮することに意識が奪われて、肝心なピアノに集中できないのではないかと思うのだ。
 内田さん、今からでも遅くはない。弾き振りなどという邪道はやめて、即刻、いちピアニストにもどりなさい。あなたの弾きたいように弾かせてくれる指揮者を探して、前回の全集を上回る作品を目指しなさい。ピアノを弾きながら指揮なんか出来ないのです。出来るのは唯一、天才グレン・グールドだけなんです。それか、上記4者と同様に、完全に指揮者になりきりなさい。ピアノを捨てる覚悟で指揮者に挑戦しなさい。
このCDが発売されて半年以上経つが、次が発売さていないところをみると、この苦言が聞こえているのかな。



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