The Blueswalk の Blues&Jazz的日々

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Live from Billboard Osaka

2010-06-17 20:49:33 | 変態ベース

Live from Billboard Osaka
渡辺貞夫  
                          By 変態ベース

西梅田界隈も、ひと昔まえとは大きく変わったものだ。地下道が触手のように伸び、高層ビル群を接続している。地下鉄を降りるとコンコースで繋がっていて、わざわざ地上にあがる必要もない。雨風も関係なく大変便利である。しかし油断をしていると、どの方角を向いて歩いているのか分らなくなってしまう恐れがある。渡辺 貞夫のコンサートが行われた「ビルボード大阪」も、自分ではこの辺りだとカンを頼りに進んでいたら、結局あらぬ方向に行ってしまった。西梅田で道に迷うなんて、若い時分には考えられなかった。悲しいかな、歳と共に方向感覚も衰えてしまうってことなのだ。
このところろくに休みも取れないくらい忙しい。疲れもたまっていたので、この日のコンサートも無理を押していくべきか、早々にキャンセルすべきか思案していた。開演前にタカさんと話をしていると、彼も近頃体力の低下とストレスを感じているみたいで、同病相哀れむという感想を持った。仕事に入れ込みすぎると、疲労やストレスがたまる。だからと言って、思い切って休みを取ると、仕事のことが気にかかってよけいストレスを抱え込む。要領のいい人は、トラブルも深刻に受け止めず、適当にやり過ごすのが上手い。几帳面な人のほうが悪循環に陥りやすく、安全弁がうまく作用しない。それでも、少し物事(仕事)が進展したり、仕事以外のちょっとした息抜きで、気持ちがスーッと楽になるものだ。
コンサートに行くのは久しぶりだ。「ビルボード大阪」に入るのも初めてである。店の作りは、「サンケイホール」の向かいにあった「ブルーノート大阪」とよく似ている。タカさんには早くから予約を入れてもらったお陰で、ステージの間近、それもマイクスタンド真正面の席に案内してもらった。
席に落ち着いてから、開演時刻まで一時間ほどある。店としては、その間に出来るだけ飲み食いさせて、目一杯絞り取ってやろうという魂胆らしい。ご存知のように、メニューはそんなにお安いわけではない。それでもディナーをお摂りのカップルの姿も、ちらほら見受けられるし、皆様リッチな週末をお過ごしのことと感心する。勿論のこと、渋ちんな私は贅沢なオーダーは控えるとして(それでもお勧めのベルギービールを、2杯も頂いてしっまたのだが)、景気回復の為にも、他のお客様にはどんどん財布の紐を緩めて散財して貰いたいところだ。土曜日の夜ということで、客席にはけっこうカジュアルな服装が目立つ。気が引けたわけではないが、さすがに作業服は私だけだ。

場内の照明が落ち、やっとミュージシャンの登場だ。ステージ右手より貞夫氏がアルトを吹きながら現れる。ライヴのスタートは『Basie’s at Night』でも演奏されていたAlalake~Lpin’ だ。最初から全開といった感じがする。メンバーは渡辺 貞夫(as),小野塚 晃(p) , 養父 貴 / Takashi Yofu(G)、コモブチ キイチロウ(B), 石川 雅春(ds) , ンジャセ・ニャンN’diasse Niang(per)。ベースとギター以外はCDのメンバーと同じである。
3曲目はチャールス ミンガスのアップテンポのブルースBoogie Stop Shuffleだった。渡辺にしては意外な感じの選曲だ。
2曲ほどスローバラードが続き、コンサートの中盤から終盤はボッサ~サンバ系のナンバーが演奏された。Manha de Carnaval、 Chega  de Saudadeなど白熱した演奏に、会場内にはやんやの喝采が湧き起った。特にパーカッションのンジャセ・ニャンはすごい迫力だった。CDも素晴らしい出来栄えだったが、あのパワフルな音圧は、ナマでなければ到底実感できないだろう。ライヴではどうしても、楽器のバランスが崩れて打楽器系がやかましく聴こえるものだが、私にはあの激しい空気の振動が痛快だった。日ごろの憂さやストレスも、一瞬にして吹っ飛んでしまった。たまにはこんな演奏に触れて鋭気を吹き込んでもらわなくては。
貞夫氏のバイタリティにも敬服する。とても70代後半とは思えない。孫ほど歳の離れたメンバーを引連れて、コンサートツアーを敢行する元気さには、只々感服するのみだ。ステージではいつもニコニコと朗らかである。無愛想なジャズマンは多いけれど、氏のような明るいキャラは貴重だ。
気にかかったのは、貞夫氏がマイクスタンドから少し離れた位置で吹いていたことだ。ややマイクがオフ気味な感じがしたけれど、意識してそうしていたのだろうか。我々の位置からはけっこうアルトの生音が聴こえた。果たして後ろの席にも届いたのだろうか。肺活量も健在。気力、体力ともに、まだまだ衰えを感じさせない。多分、西梅田で迷子になることもないだろう。
本ステージのラストは、やはり『Basie’s at Night』で演奏されていたOne for Youだ。メロディーが素敵で、ライヴでは恐らくよく取り上げられるのだろう。最後に知っている曲、それもお気に入りのナンバーを演ってもらえるなんてすごく得した気分になった。
メンバーは一旦楽屋に引き揚げたが、拍手は鳴りやまない。アンコールは、My Foolish HeartYou’d Be so Nice to Come Home toの2曲。作法通り、お馴染みのスタンダードで締めくくりと云ったところだ。終演時刻は、すでに10時半をまわっていた。お支払いはかるく一万円を超えたが、納得できる内容だった。
タカさんはサインをもらおうとねばっていたらしいが、流石に追い返されたらしい。いくら元気が売りの貞夫氏でも、まあ仕方ないか。