「生まれ変わりってしんじる?」
禁酒五日目の山崎涼子は、ウーロン茶のジョッキを口に流し込む直前に横目半身こっちに向けて急に話題を変えた。
そうだなぁと、カウンター左隅三角コーナーに設置されたTVに映る『がきの使い』の笑っちゃだめシリーズを見ながら、もずく酢を一口入れて答えた。
涼子は都内某女子大に通う一年生。色白で、小柄、少し強めのパーマが肩の下まで動いている。
一見、女優の誰かに似てる雰囲気を持っていないことも無くまあまあモテルほうであることは自分でも言っている以上多分そうなのだろう。
ほとばしるほど明るい性格は多少疲れるが決して悪い気はしない。
あっけらかんとしているが勘が良く頭はかなり切れるやつだ。
医者になるはずだったらしいが、高2の夏になんかの影響で「探偵」になる決心をしたらしい。
学校帰り、週4日は事務所(山崎蓮次探偵事務所)に顔を出す。勝手にね。ま、実際暇だし、月に2~3件依頼があればいいほうだ。「探偵たるもの・・」について涼子の質問に答えるやら、珍事件の話やらで結構楽しくすごしている。
私とは同じ名字だが、親戚でもなんでもないし、もちろん恋愛感情なんてのは微塵もありゃしない。
「卒業したらここに来てもいいわよ」と、
頼んでも無いのに勝手に決めてるみたいだ。
ナンカ腐れ縁的になってきている。
「たまにはゴハンぐらいおごってくれてもいいいんじゃない?」 貸しがあるんだから・・・の目線がしこたま出ている。
半ば強制的にここ、「居酒屋ももたろう」のカウンターに連行されている。
「なんかの本で見たんだけど・・・」と涼子は話し始めた。
アフリカのどこかの貧しい町にとても仲良しの二人の男の子が住んでいた。
ジョージはアランの1つ年上ということで積極的に遊びの方法を教えていた。
たまにいじめられるけどアランはジョージのことを本当の兄のように慕っていた。
ある日、「タイムカプセルごっこしよう!」ということで、二人は大切にしている綺麗な石や、変な形の木の実、なんかの角の破片、二人にはとっても価値のある宝を持ち寄って土の中に埋めた。
「二人だけの秘密にしようね。」
アランはウィンクをしてジョージに微笑んだ。
それから何年か経ち二人は立派な青年に成長していた。
働き者の二人は人気者だった。
仕事の帰りは酒場で歌い、踊り、笑い、貧しいながらも楽しく暮らしていた。
相変わらずジョージはアランのことを本当の弟のようにかわいがっていることは仲間のみんな、知っていた。
酒場の一人娘シェリーもそんな二人が大好きだった。
ジョージは考えていた。
アランはシェリーのことをどう思っているのだろう。
二人はお似合いだ。
ジョージは二人の恋のキューピットになることを決心し、日増しに二人はお互いの存在を意識するようになっていた。
「ジョージ・・俺、シェリーにすきだって言っちまった・・。どうしよう。」
「やっと言いやがったな,この野郎!」「大丈夫、シェリーはお前のことが大好きなんだから・・。」
ジョージはアランの首にヘッドロックしたまま心のそこからよかったなと何回も叫んでいた。
その夜は世界で一番楽しく酒を飲み、結婚の前祝いは明け方まで続いた。
「じゃなアラン。明日は休みだ、ゆっくり寝ろよ。」
「うん、ジョージもな・・」
これが、アランとの最後の会話だった。
つづく・・。 と思ったけどやっぱり書きます。
アランの体は先天性の病気に蝕まれていたのだった。
次の日、眼を覚ますことなくアランは逝った。
ジョージは病気に気付かなかった自分を責め立てていた。
来る日も来る日も酒を浴びるようになった。
仕事もほとんど休んでいた。
そんなジョージのそばにはいつも笑顔で慰めてるシェリーがいた。
シェリーの優しさはジョージを変える力を持っていた。 こんなことではだめだ。 アランに笑われる・・
シェリーとの間に男の子が生まれたのはそれから五年後のことだ。
「アラン」と名付けた。
ジョージは前にも増して働いた。働き者のジョージが帰ってきたと仲間は喜んだ。
みんな、シェリーのおかげだ。
一生大切にすると心に決め三年前にジョージから求婚したのだった。
2歳になったアランは最近よくしゃべるになった。
そんなある日昼休みで家に帰ったジョージは耳を疑った。
『タカラモーミタイ』・・・
ジョージはアランの小さい肩を両手で握り締め、鋭い視線でアランにゆっくりと聞き返した。
「今、ナンテ イッタ・・・」
アランは天使のように微笑みながら、その言葉をはっきりと言った。
次の瞬間ジョージは泣き崩れ「アラーーーーン」と叫び息子を強く抱きしめていた。
―『マリー ノ シタノ タカラモノ・・・』―
子供の頃、二人はいつも小高い丘の大きな木の下で遊んでいた。
そして、二人は「タイムカプセルごっこ」で自慢の宝物をこの大きな木の下に埋めたのだった。
その大きな木を「マリー」と呼んでいたのは自分のほかにアランしかいない。
二人で勝手に付けた名前なのだから・・・・
「どう、いい話でしょう。これが生まれ変わりじゃなけりゃ何だというの?」
近年、いつごろころからか分からないが、戸籍や病院のカルテなどきちんと管理されてるワケだから誰がいつどこでなんで死んだかなんてかなりの確立で分かる時代だ。
小さい子供が突然ワケわかんないことを言い出したとしても誰も耳を貸すことは日常の中では難しいが、もしかしたら前世の記憶が少しだけ蘇える時期があるのかもしれないし、子供の体を通して何か、メッセージを送っているのかもしれない。
運命は偶然ではないのかもしれない。
― 出会いの全てが・・・―
「私と山崎さん結構気が合うと思いません?」
心の中を見透かすように涼子は唐揚をグサッとさしながら言った。
「結婚する運命かも。偶然二人とも『山崎』だし、ちょうどいいじゃん。」と、2%ぐらいマジな顔で言った。
6%ぐらいドキリとしたが「冗談よぉー」と思い切り肩をたたかれ、涼子の豪快な笑い声が店内に広がった。
―おわり―