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永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

つきをさせばゆびをみとむ【月を指せば指を認む】

2013年08月19日 | た行
月をゆびさして教えると、月を見ないで指を見る意。道理を説いて聞かせてもその本旨を理解できず、その文字や言語に拘泥して詮索することをいう。

 はじめて山田邦子を見たのは、バスガイドのネタだった。バスガイドの制服を着た山田が、「右手をごらんください。いちばん高いのは、中指でございます」と言うのである。

「月を指せば指を認む」は『大仏頂経』というお経に出てくる言葉だそうだ。

 月は悟りの境地、指は経典のメタファー。お経の言葉ひとつひとつにこだわって、その向こうにある真理について考えが及ばないことへの批判だ。真理は言葉や文字を超えたところにある。でも、これはむずかしい。また、一字一句を深く追究しないと真理に到達できないという気もする。

 ぼくは取材をすると、その録音データをいちど文章にする。録音を聞くと、自分がいかに相手の言葉を誤解したり、本旨から逸れた質問をしているのかがよくわかる。

 頭のいい人は、相手の話の本旨をつかむのがうまい。ところがぼくは、本旨をうまくつかめず、全体がよくわからないものだから、知っている単語があるとそこにとびついてしまう。そしてますます本旨から外れていってしまうのだ。おかしなことに、それでも会話は成立する。


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