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永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

ももゆ【桃湯】

2013年10月13日 | ま行
夏の土用中に桃の葉を入れて沸かした浴湯。汗疹(あせも)を治す効があるという。


「ももゆ」と聞いて「腿湯」と思い、デヘヘと笑うぼくはオッサン。「腿湯」ではなく「桃湯」である。

 桃の葉に含まれるタンニンが、日焼けや汗疹、湿疹、虫刺されなどに効くらしい。つくりかたは、桃の花やつぼみ、葉などを刻んで布袋に入れ、お風呂のお湯に浮かべる……というのだけど、夏の土用(立秋前の18日間)に、桃の花やつぼみがあるのだろうか。桃の花が咲くのは4月ごろだ。

 春夏秋冬、さまざまな季節湯がある。たとえば1月は松の湯。銭湯の名前みたいだけど、松の葉を煮出してお湯に入れる。

 春にはヨモギ湯。乾燥させたヨモギの葉を布袋に入れて浴槽に浮かべる。血行がよくなるので、肩こりや神経痛にいいそうだ。ただし、陣痛促進作用があるから妊婦はダメ、なんていう話を聞いたことがある。ほんとだろうか。

 5月の菖蒲湯、年末の柚子湯は、近所の銭湯でもやっている。

 桃の葉やヨモギ、菖蒲などを個人の家で用意するのはたいへんそうだが、柚や蜜柑なら簡単にできる。もっとも、柑橘系の精油は紫外線に反応して肌を傷めることもあるので要注意なのだとか。香りはいいんだけど。


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めいちょう【迷鳥】

2013年10月12日 | ま行
普通は生息も渡来もしない地に、台風などの偶然の機会に迷いこむ鳥。


 鳥ではなくて蝶々の場合は「迷蝶」という。

 風の強い日、窓から空を見ていると、小さな鳥がものすごい勢いで飛んでいった。飛んでいったというよりも、飛ばされていった。いったいどこまで飛ばされていくのか。

 台風が来るたびに、鳥や昆虫はどうなってしまうのだろうかと気になっていた。竜巻なんかも。やっぱりあるんだ、迷子の鳥。鳥のジョン万次郎と呼んでやりたい。

 万次郎は言葉で苦労したが、鳥の場合はどうなのか。棲むところや種類が違っていても、鳥同士の意志は通じるのだろうか。そもそも鳥はコミュニケーションしているのだろうか。

 つい擬人化して「迷鳥は心細いことだろう」とか、「見知らぬ土地に来て、いろいろと物珍しいことだろう」などと想像してしまうが、案外、鳥はぼんやりとしていて、迷子になったことすら気がつかないのかもしれない。

 迷鳥や迷蝶が、その土地で繁殖し、根づくことはほとんどないそうだ。パートナーが見つからないのだろうか。鳥や昆虫の世界は意外と保守的だ。


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むらさめ【叢雨・村雨】

2013年10月11日 | ま行
一しきり強く降って来る雨。にわか雨。驟雨(しゅうう)。白雨。繁雨(しばあめ)。


「むらしぐれ(叢時雨・村時雨)」という言葉もある。こちらは「一しきり強く降って通り過ぎる雨」。「降って来る」か「降って通り過ぎるか」の違い?

「叢雨・村雨」は「群れになって降る雨の意」だそうだ。「村」の項を見ると「ムラ(群)と同源」と書かれている。人が群れになっているので村というわけだ。

『大辞泉』では「ひとしきり激しく降り、やんではまた降る雨」と書かれている。『大辞林』には「強くなったり弱くなったりを繰り返して降る雨」とも。

 雨が降ってきたとき、すぐやむのか、しばらく降り続くのか、判断が難しい。雨宿りしようか、それとも傘を買うか。駅前のコンビニやドラッグストアでは、ビニール傘が入り口近くの目立つところに置かれる。人びとが次々と買っていく。

 ウィキペディアによると、傘製造会社のホワイトローズがビニール傘第1号を完成させたのは1958年。ぼくが生まれた年だ。64年に透明なビニール傘を完成。その後、中国製の安いものが大量に入ってくるようになった。いまでは年間6千から7千万本も販売されているという。

むしおくり【虫送り】

2013年10月10日 | ま行
作物などの害虫を除くため、村人が大勢で松明をともし鐘鼓を鳴らして、村はずれまで稲虫の作り物を送り出す行事。


「実盛送り」という言葉も載っている。虫送りと同じで、藁で実盛人形を作り、川や村境まで送る行事だ。斎藤実盛が稲につまずいて倒れ、討たれて稲虫になったという言い伝えからだという。実盛は平安時代の武将で、木曽義仲の軍勢と戦った。

 お百姓にとって害虫は悩みの種だった。フランスでは17世紀末からタバコの粉を、日本では鯨油を撒いて害虫を駆除しようとした。呪術にばかり頼ろうとしたわけではない。

 本格的な化学殺虫剤は1939年に発明されたDDTから。その後、さまざまな農薬が発明され、さかんに散布されるようになった。

 ところが農薬の多くは残留毒性が強く、作物を食べた人間にも害を及ぼす。日本では1971年にDDTが禁止された。

 現代は人体に害の少ない農薬を開発しては、その農薬の新たな有害性が発見されて使えなくなるという、まるでイタチごっこのようなことになっている。最近ではネオニコチノイド系の農薬が使われているが(タバコの粉の再来?)、ミツバチの大量死の原因ではないかといわれている。虫と戦うのは難しい。


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みみめどり【耳目鳥】

2013年10月09日 | ま行
ウグイスの異称。


『広辞苑』、『大辞林』には載っていて、『大辞泉』には載っていない言葉。

 名前の由来は耳目を集める鳥だからだろうか。それとも、目が大きく見えるからだろうか。もっとも、目が大きいのはメジロだ。ついでにいうと、からだが鶯色なのもメジロ。ウグイスは茶色っぽい緑のくすんだ色。

 ウグイスの異称はたくさんある。春鳥、春告げ鳥、花見鳥、歌詠み鳥、経読み鳥、匂い鳥、人来(ひとく)鳥、百千鳥(ももちどり)、黄鳥(こうちょう)、金衣公子(きんいこうし)、愛宕鳥など。

 評論家・ライターの松沢呉一はペンネームをたくさんもっている。ビデオ評論家としては村田ビデ雄、ドラッグ評論家としては麻薬師丸ヒロポン、デザイナーとして幸田図版、町の考古学者としてメソポタミア二郎、モンド評論家として中村モンドなど。そもそも「松沢呉一」もペンネームのひとつだ。

 名前がたくさんあるって、どんな気持ちだろう。名前によってキャラクターも変わるのだろうか。多重人格になったような感じか。


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