永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

とらがあめ【虎が雨】

2013年09月05日 | た行
陰暦5月28日に降る雨。


 曾我十郎が死んだ日なのだそうだ。「それを悲しんだ遊女虎御前の涙が雨となって降ると伝える」のだとか。

 鎌倉時代に書かれた『曾我物語』は、能や人形浄瑠璃、歌舞伎などの題材になった。まったくのフィクションではなく、実話をもとにしている。

 兄の曾我十郎祐成(すけなり)は1172生まれ。弟の曾我五郎時致(ときむね)は1174年生まれ。二人の父、河津祐泰が工藤祐経に殺され、成長した二人が父の仇を討ったのが1193年。十郎は仁田忠常に斬られ、五郎は捕らえられて翌日斬首される。この敵討ちが行なわれたのが、陰暦5月28日、いまの6月末だった。ちょうど梅雨時だ。

 赤穂浪士もそうだが、なぜ昔の人が仇討ち物に熱狂したのか、いまの感覚ではよくわからない。

 同じ意味で「虎が涙」という言葉もある。

 石川県の「虎の涙」という焼酎は大変おいしく、ぼくはときどき通販で購入している。曽我兄弟とも虎御前も関係なく、タイガースファンがチームの低迷に耐える心情を託して名づけた。アルコール度数31度は掛布雅之の背番号。