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永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

くたかけ

2013年05月15日 | か行
朝早く鳴く鶏をののしっていう語。後に、鶏の雅語と意識される。


「くだかけ」ともいうそうだ。

 雅語というのは、雅言と同じで、「正しくよいことば。洗練された言語」。

 ののしっていう語、悪口・罵倒語が、時を経るにつれて雅語に変わったというのが不思議だ。逆のパターンならいくらでもありそうだけれども。

 たとえば「おふくろ」なんていうのは、もともとは尊敬語だった。「袋」に「御」がついている。

 もっとも、『大辞泉』では「ニワトリの古名」とあるだけだし、『大辞林』でも「ニワトリの異名。くたかけ鳥」とあって、ののしっていう言葉とは書かれていない。
『岩波古語辞典』を見ると、「朽鶏」と書くそうで、「くた」は「朽(クチ)」「腐(クタ)」とルーツは同じ。つまり、現代のぼくたちが「この腐れ○○め!」とののしるのと同じだ。現代語訳するなら「朝早くからコケコッコ、コケコッコと鳴きやがって。この腐れニワトリめが!」という感じ。

 千年もすると、「くそっ!」とか「バカ野郎」も、正しくよいことばになっているかも。

くさあおむ【草青む】

2013年05月14日 | か行
春になって、草が青々と生え出る。


 わが家のリビングの窓から隣の庭が見える。冬の間は枯れた芝におおわれているが、春になると少しずつ緑に変わっていく。毎年のことなのに、いつも「植物の生命力はすごい!」と驚き、感動する。

「草青む」は春の言葉。夏になると「草茂る」となる。『広辞苑』では「夏に草が密に生え伸びる」と説明されている。「密に」というところがポイント。葉と葉が、競うように、勢力を争うように伸びている。

「草摘む」は「野に出て食用の野草や草花を摘む」。スーパーマーケットで袋入りのベビーリーフが売られるようになったのはいつごろからだろうか。「ベビーリーフ」という種類の野菜があるわけではなく、発芽してから日の浅い、まだ若い葉の総称だ。日本中どこでも一年中、ベビーリーフを食べられる。いつでもどこでも草摘み状態だ。

「草も揺るがず」という言葉もある。「まったく風のないさま。転じて、太平のさま、また極暑のさまにもいう」そうだ。猛烈に暑くて、しかもそよとも風が吹かない。語釈を読むだけで汗が流れてきそうだ。

くかん【苦寒】

2013年05月13日 | か行
(1)寒さに苦しむこと。
(2)貧苦になやむこと。
(3)最も寒い時。陰暦12月の異称。



 字を見ただけで、あまりの寒さに顔をしかめ、全身をこわばらせている様子が目に浮かぶ。さすが漢字はビジュアルイメージの文字だ。アルファベットでは、こうはいかない。

 ぼくにとって、苦寒は東京の冬だ。北海道のほうが寒いではないかといわれるかもしれないが、気温こそ低いものの慣れてしまえば絶えられる。空気に触れている皮膚がピリピリするので、しいていうなら「痛寒」か(もちろん、そんな言葉は『広辞苑』にない)。

 京都の冬も身体の芯まで冷えるような辛さで、こちらはいうなれば「骨寒」(これも『広辞苑』にはない。「酷寒」ならあるけれども)。

 だけど、苦しい寒さ、寒さのあまりもだえ苦しむというのなら東京の冬だ。木枯らしの吹く戸外はもちろんのこと、家の中にいて、どんなに着込んでも、エアコンの設定温度をいくら上げても、ちっとも暖かく感じない。そんな日が、ひと冬に何日か必ずある。

 そんな時は、熱燗か焼酎のお湯割りでも飲んで、風呂にゆっくり浸かって、早めに布団に入るしかない。

きんれんぽ【金蓮歩】

2013年05月12日 | か行
美人のうるわしい歩み。


 黄金の蓮のような歩き方だから……なのかと思ったら、ちょっと違っていた。

 中国の『南史』という本に出てくる故事で、「斉東昏候が潘妃に金製の蓮花の上を歩ませて、『歩歩蓮花を生ずるなり』と言い興じた」のだそうだ。

 いまひとつよくわからない話なので、調べてみた。

 東昏候は南朝斉の第6代皇帝で、ほんとうの名前は蕭宝巻という。483年に生まれ、501年に死んだ。とんでもない暴君で、父親(明帝)の葬式のときは大笑いしたり、明帝の重臣を殺したり、一般民衆も殺したりした。もちろん贅沢もやりほうだい。潘妃を溺愛して、彼女のために黄金の蓮の花を道に敷き詰め、その上を歩かせたという。

ということは、あまりいい意味ではないのかもしれない。「東昏候」という名前も、死んでからつけられたもので、しかも「東のほうのバカな候」という意味だ。「うるわしい」といっても、纏足のための不安定な歩き方だったという話もある。

「金蓮歩」というバラの品種がある。淡い黄色の大輪のバラで、東昏候が敷き詰めたという黄金の蓮を連想させる。

きよかわだし【清川出し】

2013年05月11日 | か行
山形県庄内平野の局地風。庄内町清川付近の峡谷部を東風が抜ける際に発生し、フェーン現象を伴うこともある。


 地図と衛星写真を見ると、清川のあたりは奥羽山脈に最上川が深く切り込んでいくような形になっている。まるでじょうごの口のようだ。東から吹いた風はここで集まって、強く激しいものになる。風速8メートルから12メートル、強い時には20メートルもの風が何日も続く。傘なんか差していたら、日本海まで飛ばされそうだ。

 庄内町のサイトを見ると、ホームページには「自然はみんなのエネルギー いきいき元気な 田園タウン」というキャッチフレーズとともに、奥羽山脈と風力発電用風車の写真がある。清川出しを使って電気をつくっているのか。

「悪者」である強風を利用して電気に変えるというアイデアがすばらしい。

 清川出し以外にもご当地名物的な局地風がある。「やまじ風」は四国中央市(愛媛県東部)に吹く風。四国山脈を越えて強い南風が吹きおろす。「広戸風(ひろとかぜ)」は岡山県北部、那岐山から吹きおろす北風。清川出し、やまじ風、広戸風の3つを、三大局地風と呼ぶそうだ。