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永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

きせつれっしゃ【季節列車】

2012年11月06日 | か行
花見・海水浴・スキーなど季節によって利用客の増加する一定の季節に運転する列車。


 懐かしい響きを感じるのは、ぼくが海水浴やスキーとは無縁になってしまったからだろうか。子どものころ、夏には海水浴場に向かう季節列車が走っていた。北海道の夏は短く、夏休みも短く(25日間だ)、8月の上旬に家族全員でいく海水浴は、夏休み最大のイベントだった。

 高校生になると家族と旅行するより友だちと遊ぶほうを選ぶようになった。成人してからは、ふたたび両親と旅行することがふえたが、こんどは列車よりクルマが交通手段になる。だからぼくにとっての季節列車は、子どものころの思い出とともにある。

 臨時列車、増発列車ともいう。もう少し正確にいうと、臨時列車、増発列車が大きな概念で、そのなかに季節列車や修学旅行などの団体専用列車がある。甲子園でタイガース戦があるとき、阪神電鉄は臨時列車を走らせる。

 季節列車とはちょっと違うけど、毎年、4月の初めは、新入生や新入社員が、緊張した表情で通勤電車に乗っているのを見かける。その姿をいじらしいと感じるのは、ぼくも年を取ったということ。

がんがとべばいしがめもじだんだ【雁が飛べば石亀も地団駄】

2012年11月06日 | か行
雁が飛ぶのを見て、石亀も飛ぼうとして地団駄を踏むこと。転じて、自分の分際を忘れ、みだりに他をまねようとすること。


 ガメラは空を飛ぶぞ、とこの項目を読んだとき、ぼくはつぶやいた。もしかして、ガメラの作者は、この諺から思いついたのかもしれない。

 ガメラは東宝のゴジラに対抗して大映がつくった怪獣だ。ぼくが生まれてはじめて映画館で見た映画が1967年公開の『ガメラ対ギャオス』だった。ガメラ・シリーズの第1作は1965年公開の『大怪獣ガメラ』で、2006年には第12作がつくられているから、40年以上も続いていることになる。人気のある怪獣なのだ。

 ガメラは手足を甲羅の中に引っ込めて、そこから火を吹いてクルクル回転しながら空を飛ぶ。この奇想天外な飛行方法が、長い人気の理由だと思う。子どもが喜びそうだ。

 ガメラの話はともかく、「分際を忘れるな」とか「分をわきまえろ」というのは、いま死語に近いかもしれない。最近は、誰かが持っていて、自分が持っていないのは、ひどく不当なことだと感じる人が多い。雁が飛んでいるのだから、石亀の自分だって飛べて当然だと思っている。飛べないとなると、地団駄どころか、暴れまくる勢いだ。

  

かわうそのまつり【川獺の祭】

2012年11月05日 | か行
川獺が捕らえた魚を並べることを、祖先の祭をしていると見立てていう語。正月をその季節とする。かわおそのまつり。→獺祭。


「獺祭」の項を見ると、「川獺の祭」と同じ意味のほか、「転じて、詩文を作るときに、多くの参考書をひろげちらかすこと。正岡子規はその居を獺祭書屋と号した」とある。「獺祭忌」は正岡子規の忌日(9月19日)だ。

 ぼくは日本酒も好きで、ナショナルブランドよりも全国の地酒をあれこれ選んで飲んでいる。少し前から話題のブランドに獺祭がある。山口県岩国市にある酒蔵のもの。渋谷のデパート地下でキャンペーンをやっていたときに初めて知った。
「獺祭」の読み方もそのとき知った。でも、意味までは調べなかった。カワウソのお祭りとは、なんてファンキーな名前だろうと思っただけだ。ちゃんと『広辞苑』にも載っていたとは。

 正岡子規との関係も初めて知った。昔、四国をドライブしたとき、松山で台風に遭った。どこにもいけず、宿のすぐ隣にあった子規記念博物館で半日過ごした。隅から隅まで見たつもりだったが、子規が獺祭書屋と号し『獺祭書屋俳話』を書いていたことは、見たはずなのにすっかり忘れていた。

 大変残念なことにニホンカワウソは2012年、絶滅種に指定されてしまった。獺祭を飲んで子規と獺を偲びたい。

かろとうせん【夏炉冬扇】

2012年11月04日 | か行
時機に合わない無用の事物のたとえ。


 夏の火鉢、冬の扇。無用の長物。昼行灯、というのはちょっと違うか。

 そういえば、昔は我慢大会というのがあった。文字通り夏炉冬扇。真夏に厚着をして火鉢を抱える。だらだら汗をかきながら我慢する。真冬に裸同然で氷柱を抱く。こちらはガタガタ震えて唇が紫色になる。すたれたのはあまりにもばからしいからか。もしかすると、テレビのお笑い番組なんかではまだやっているのかもしれないが。

 冷暖房が過剰で、夏炉冬扇が必ずしも無用の長物ではない時代である。とくに夏の冷房はひどい。ぼくは必ず弱冷房車を選んで電車に乗るけど、それでも半袖では耐えられない。真夏日なのにカーディガンを手放せないなんてひどい話だ。原発事故以来、節電のために設定温度を上げるようになったが、それでも電車や商業施設、飲食店などの冷房はきつい。寒いことが「おもてなし」だと思っているのだろうか。

 そのうち、夏には懐炉を、冬には扇子を忘れずに、という時代になるだろう。夏炉冬扇の正しい意味は、「健康のために持ち運びたいもの」である。

かりのつかい【雁の使】

2012年11月03日 | か行
消息をもたらす使いの雁。転じて、おとずれ。たより。手紙。消息。雁書。


『広辞苑』のこの項目には、ちょっと長い説明がある。出典は漢書の蘇武伝。「前漢の蘇武が匈奴に使者として行き久しくとらわれた時、蘇武を帰国させるために、「蘇武からの手紙が天子の射止めた雁の脚に結ばれていた」と使者に言わせて交渉したという故事から」とある。

 雁でなくて、鳩ならわかりやすいのだが。伝書鳩。

 伝書鳩なんて電報・電話が発明される前の昔のものと思いがちだ。ところが新聞社では、1960年代まで使われていたそうだ。有楽町のマリオンの上に朝日新聞社の談話室があり、座談会などで訪れたことがある。エレベーターホールに伝書鳩の銅像(というのだろうか)があった。

 鳩には電報・電話よりすぐれたところがあって、それはフィルムなど物を運べること。鳩の脚にフィルムをくくりつけて飛ばせば、ちゃんと運んでくれる。ご苦労様である。

 ネットであれこれ検索していたら、気になる話があった。伝書鳩が自分の家に帰ってくる率が低下しているというのだ。帰れない鳩が増えている。迷子になるのか、ほかの鳥に襲われるのか。携帯電話の電波のせいという説もあるそうだ。