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永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

しゅっさ【出差】

2013年06月25日 | さ行
月が太陽の影響を受けてその軌道運行の速度が周期的に変わる現象の一つ。月の軌道上における位置に関係する。


 いちど読んだだけではよくわからない。でも、二度、三度と読んでも、ぼんやり。月の動き方がズレるということなのだろうか。それは実際にズレるのか、ズレて見えるだけなのか。

『大辞泉』を読んでみる。「月の黄経に現れる周期的な摂動の一つ」と書いてある。

「摂動」を引くと、「太陽の引力を受けて楕円軌道上を動く太陽系の天体が、他の惑星の引力を受け手楕円軌道からずれること」と書かれている。

 そうか、やっぱりずれるのか。
『大辞泉』によると、振幅は1.27度、周期は31.812日だそうだ。

 こういう文章を読むと、天体ってほんとうに動いているのだなと感じる。多数の天体が互いに引っ張り合い、絶妙なバランスを保ちながら運動している。

 このバランスが崩れたらどうなるのだろう、と考え出すと恐ろしくて眠れない。『アルマゲドン』などパニック映画でよくやるように、惑星や巨大隕石が地球にぶつかってきたらどうなる。なにしろ月だってズレたりブレたりしながら回っているのだ、何があってもおかしくないじゃないか。

しゅうふうさくばく【秋風索寞】

2013年06月24日 | さ行
秋風が吹いて、あたりがものさびしくなるさま。

「また、そのように、勢いがおとろえ、おちぶれていくさま」でもあるそうだ。

 実りの秋、豊饒の季節というイメージもあるけれども、収穫が終わると田んぼも畑も寂しくなる。

 昔、吉田拓郎のフォークソングに、祭りのあとのさびしさを歌ったものがあった。

 祭りがにぎやかであればあるほど、終わったあとのさびしさが強く感じられる。
「秋風冽冽」は「秋の風が冷たく身にしみるさま」。これも、夏が暑かったからそう感じるのではないか。絶対的な温度では春の風も秋の風もほとんど変わらないのではないか。前の季節が寒かったから暖かく感じ、暑かったから冷たく感じるのではないか。

 おちぶれた、おとろえた、といっても、昔に戻っただけ。さらに時間をさかのぼれば、もっともっと悪い時代だってあったはずだ。上りもあれば下りもある。秋風が吹いて冬が来ても、そのうち春がやってくる(でも、夏が来てまた秋になるんだよね)。

しゅうせん【秋扇】

2013年06月18日 | さ行
秋になって用いられなくなった扇の意で、時に適せず役に立たないもののたとえ。また、寵愛を失った女性。


「冬扇ともいう」とある。

 たんなるシャレのたぐいかと思ったら、ちゃんと由来があった。「秋の扇」の項を読むと、「班*(はんしょうよ)が、寵を失った自分を秋冷になって捨てられた扇に比した故事から」と書かれている。班*は漢の時代の宮女。成帝(BC52からAD7)につかえたが、寵愛を趙飛燕姉妹に奪われ、しりぞいて太后につかえたのだという。そのときのことを悲しんで「怨歌行」という詩をつくった。

 つまり秋扇は、役に立たないもの、季節外れのものというだけでなく、捨てられたものというニュアンスがあるわけだ。こっけいどころか、ちょっと哀れ。

 茶の湯では、扇子が一年中活躍する。もちろん秋でも冬でも。茶室に入るときに膝前に置いて礼をするし、着席すると自分の後ろに置く。広げて風を送ることはないけれども、たとえば祝儀を載せるなど盆の代わりになることもある。

 冬に扇風機を使うと暖房効率がよくなる。秋扇だの冬扇だのということはないのだよ、となぐさめても班*の心は晴れないだろうか。

*は「女」篇に「捷」の旁

しゅうすい【秋水】

2013年06月17日 | さ行
秋の頃の澄み渡った水の流れ。


 ほかに、「秋季の洪水」という意味と、「転じて、曇りなくとぎすました鋭利な刀」という意味がある。

 たんに秋の水じゃない。澄み渡った水なのである。

 大逆事件で死刑になった幸徳秋水の本名は伝次郎。秋水という名前は、師匠の中江兆民が与えた。

 秋水は「万朝報」の記者として日露戦争に反対し、社の方針と合わなくなると自分で「平民新聞」を創刊した。その後、アメリカに渡り、帰ってくると無政府主義者になった。大逆事件は明治天皇暗殺計画が発覚し、多くの社会主義者や無政府主義者が捕らえられ、12人が処刑された事件(1910年)。しかし、大逆事件は政府によるでっち上げだったし、暗殺計画といわれるものそのものに幸徳秋水は無関係だった。

 兆民はなぜ秋水という名前を与えたのだろう。伝次郎が澄み渡った水の流れのような男だったからか。それとも、その鋭い弁舌が鋭利な刀を思わせたからか。もしも彼が凡庸な男だったら、政府に怖れられることも、大逆事件に巻き込まれることもなかっただろう。頭脳と弁舌の鋭さが、その人の生命を縮めることもある。
 

じゅうさんななつ【十三七つ】

2013年06月16日 | さ行
十三夜の七つ時(4時頃)の出たばかりの月のことで、まだ若いの意。


「お月さまいくつ、十三七つ」の童謡から出た言葉だそうだ。
  お月さまいくつ
  十三七つ
  まだ年や若いな
  あの子を産んで
  この子を産んで
  だあれに抱かしょ
と続く童謡だそうだ。

 月を女性に見立て、まだ若いのに子どもを何人も産んだ、と歌っているのか。

 十三夜は旧暦の毎月13日の夜。なかでも旧暦9月13日の夜を指すことがある。宮中ではお月見があった。

 2013年の旧暦9月13日は、新暦の10月17日に該当する。この日の日没は17時04分(神奈川県湘南)。月の出は15時53分(東京)。なるほど、たしかに十三夜の七つ時は月が出たばかりだ。わらべうたで歌われていることをデータで確認すると、なんだか嬉しくなる。