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TPPの危険性を説く、「ジェーン・ケルシー教授 仙台講演会 議事録」 その②

2012-10-26 | 国際的なこと
【質疑・討論】
(質問者)
TPPが大きく問題になったのは、私が見る限り民主党政権が誕生して、特に鳩山政権のもとでASEAN+3、それを基礎にして東アジア共同体の構想が出てきた。それを潰すためにTPPが提起されてきたと、私はそう思っています。結果的にはどうも、日本と中国とを対立させて、そして、アメリカは最終的には日本を使うという方向に行かざるを得なくなっているんじゃないか。そういう点では、非常に危険な動きであることを感じているんですが、先生は最後の方でASEAN+3、東アジア首脳会議という点にふれられたんですが、もうちょっと詳しくお話いただけないでしょうか。
(ケルシー教授)
おっしゃるとおりでして、APECの中でもアングロアメリカ側が、ASEAN+3の台頭によって、この域内においての影響力が損なわれるのではないかということを懸念していると思います。
そしてTPPにおいては、常にそのアジア・太平洋地域においての影響力を拡大するということが主旨であります。とりわけアメリカは、東アジア首脳会議に参加していませんので、メンバーではないのでTPPを重要視しているのだと思います。
だからこそアメリカは、何としても日本をTPPの中に参加させたいと思っています。日本が参加することによって、アジア・太平洋地域のその他のアジア諸国のTPPへの参加につながると考えているからです。テコのような作用を期待しているのだと思います。
しかも既に多くの国々とFTAを締結しているインド、中国、韓国にとりましては、TPPに日本が入らないということになれば、TPPは全く意味のない枠組みとなってしまうのです。日本が入ることが必要不可欠というふうに位置づけられています。
また、確かにおっしゃるとおり、戦略としては中国とその他のアジアの国々とを対立させようという思惑もあります。かつて「APEC全域においてのFTAを」という構想も出てきたこともありましたけども、それはアメリカ主導の色彩が強すぎて失敗に終わっています。だからこそ、今回のTPPに関しても、アジアのサポートというのを取り付けるのが難しいのではないかと私は感じております。やはり分割統治という考え方を受け入れることが出来ないからです。ですから全体が成功するか否かということについては、日本の判断にかかっているといえるのです。
(質問者)
先生がニュージーランドから見えられたということで一番聞きたかったのは、ニュージーランドは、最初にTPPの4カ国に参加されてここまでやってきている。2008年からですか、アメリカが交渉に参加を表明したわけで、ニュージーランドにとってこのTPPが、どのような意味を持って、どのような影響があって、どのような利便
があるのか。日本については今お聞きしましたが、ニュージーランドにとって、TPPの影響はどうなのかということをお聞きしたいと思います。
(ケルシー教授)
日本について申し上げた問題点というのは、実はニュージーランドにおいても共通のものが非常に多くあります。ニュージーランドにおいて、今まで難しかったのは、このTPPがいかに広い分野を包含しているのかということを理解してもらうことでした。
ニュージーランドで一番問題視されているのは、生乳を安く購入することを可能にする機関があるんですけども、それを解体するということについての議論です。そしてもう一つ問題になっているのは煙草に関しての問題です。それは先ほどご説明したとおりです。そして開放されたインターネットに関する権利の問題も議論されています。また、土地並びに天然資源に関しての外資規制を廃止しなければならないという問題点です。そして、次が鉱業、とりわけ沿岸の掘削などについて権利を再規制する権利が損なわれるということです。
これから予定されています国有企業の民営化に対する影響も懸念されています。中には空港、そして電力会社の民営化が検討されています。そちらへの影響です。このような民営化の流れの中で、外資が所有権を持つということについて制限できるのかどうかが懸念されています。
さらには一旦民営化してそれが失敗した場合に、また国有化するということが、果たして可能かどうかということも懸念されています。例えば過去において航空会社を一旦民営化して、また国有化したという事例があります。鉄道会社についても同様です。そして公的な郵便貯金の制度が民営化されたんですけど、貧困者そして遠隔地に対するサービスが不十分であるということで、再国有化、改めて国立の機関を設立する必要性がありました。また、建設、電力、通信の規制の見直しが今までに必要でした。今後、TPPにおいて要求されると思われるような構想、推進的な手法というのはかつてニュージーランドで試されたけれども失敗したという経緯があるからです。
心配されているのは、我々の日常生活に極めて重要な影響を及ぼすような、今申し上げた様々な戦略的な事業に関して、自ら国内で徹底することが不可能になるのではないかということが懸念されています。
私どもも日本と同様に様々な経験を培って参りました。公益を十分に考慮することなく、短絡的に自由市場政策を推進することの失敗から多くの教訓を得ています。

(質問者)
外資の漁業権の参入について伺います。今、宮城県では、民間の漁業者が漁業権に参入することを特区を設けて考えていると思われます。それとTPPが組み合わせることによってもたらされる問題点はどんなことがあるのか、ニュージーランドでおきている漁業権の外資の参入の問題点は何か伺います。
(ケルシー教授)
ご質問ありがとうございます。実は、今いただいた質問は、昨日仙台でも議論した内容です。実は、1986年にニュージーランドでは、漁業権に関して民間への開放を行っています。その結果、零細な漁業事業、漁師の権利という
のは、商業権としては確立されなくなってしまい、大きな企業に集約されることになりました。
そして、このような漁業権というのは、投資ということとしてTPPの脈絡ではみなされますので、投資であるが故に保護の対象となります。そして、このような漁業の企業あるいは加工工場に外資が参入していたならば、TPPの協定で投資家としての保護を受けることができます。そして、先ほど申し上げましたこの内容、権利というのは、投資家対国家の紛争解消手続きに付されることも可能です。
また、ルールによりまして、漁業権に関しても日本の企業と同等の権利を外資にも与えることを要求されると思います。このような漁業権に関しましては、後に日本の漁業の状況を考え、そしてまた、地域社会の状況を考えルールを変えたいと提案国政府が考えていても、それは変更ができなくなってしまいます。ルールの適用外という領域を提案国政府がリストアップすることも可能です。しかし、その内容というのは、交渉の対象となります。ニュージーランドの法律によりますと、漁業権に関しましては、外資1社は20%以上持ってはならないとしています。しかし、この制約も緩和するよう圧力を受けているところです。
この投資協定に関してのもう1つ重要なポイントなんですけれども、例外措置として扱ってほしいものに関しては、全てリストアップしなければなりません。しかし、この漁業権というのは、協定の交渉に参加する後で決まることがあります。ですから、先見の明を持って最終のリストに加えていればいいんですけれども、後で出てきた内容というのは、対象外となります。ですから、魔法の水晶の玉があればいいんですけれども、それがないと私は位置づけています。
(質問者)
日本人の多くは裁判に慣れていないのですが、紛争解決センターで外国人が訴えると英語が公用語になってしまうと圧倒的に不利になってしまうのではないでしょうか。
(ケルシー教授)
言語以上に大きな問題はたくさんあると思います。この手続きはまず、本国以外のところで争われることになるということです。そしてこの紛争解決センターというのは、公開されていません。外部の人が入ることができないのです。そして、そこで対象になっている文書も公開されません。また、そこで争われる内容、すなわち両者の法的な主張についても外部に公開されません。従いまして、このプロセスは、非常に秘密裏に行われる法的なプロセスです。
アメリカについては、NAFTAという北米自由貿易協定がありますけれども、その中でも物議をかもした内容となっています。このような権限を強く要
求しないようにというプレッシャーがオバマ大統領にも寄せられています。また、オーストラリアとアメリカの自由貿易協定においては、オーストラリア政府が拒否することが可能でした。そして、TPPの中でも、受け入れないということを主張しています。ニュージーランド政府の立場は、議論の用意はあるというということです。しかし、今申し上げたようなこの投資家対国家の紛争解決手続きが入っていない内容の協定であれば、アメリカの議会の承認を取り付けることは難しいと思われます。
実は、もう1つ触れておきたいのですが、日本は既に締結している自由貿易協定の中にも、この権限が網羅されているものがあります。実は、日本郵政の民営化について、私は深く研究をさせていただきましたけれども、日本・シンガポールの自由貿易協定の中にある条文によって海外の金融機関が日本民営化を否定する、それを逆転させることを可能とする内容が含まれています。しかし、それは、さらにTPPになればリスクがより大きくなるということです。アメリカの企業は、皆さんもよくご存じのように大変訴訟が好きです。
(質問者)
投資家が国を訴えることができるというのは、逆に言うとアメリカがよく今までも問題にされてきたダンピング協定とアメリカが一方的に外国企業に対し制裁を科すということに対する逆の面のことなのかと理解できるのですが。
(ケルシー教授)
私はいつもサービスと投資の分野の研究をしていますので、アンチダンピングの話がでるととてもナーバスになってしまいます。その両者を比べると、むしろ今回、投資家に与えられる権利の方がより強力なものだと思います。今回の投資家対国家の紛争解決手続きの中で謳われているのは、世界銀行の国際投資紛争解決センターこれはICSIDというのですけれども、ここで決定された判断については、それぞれの提案国の国内の裁判所が行使、執行するということも条件として加えられているからです。その仲裁内容、判断というのは、非常に高額になりうる損害賠償金です。
(質問者)
私どもは、米を無農薬で作っている農家から直接買っている団体です。食の安全が脅かされるようで心配でなりませんが、ニュージーランドでは、安全なお米とか食品に関しまして、それを守るためにどのようになさっているのか教えてもらいたい。
(ケルシー教授)
競争原理が働いているそれぞれの市場において、食の安全性を確保すること
は、非常に難しい問題だと思います。私どもの国の食品安全基準、そしてまた、食品表示についても、様々な物議をかもしています。とりわけ、遺伝子組み換え食品ならびに食品についてのトレーサビリティが問題視されています。
そしてもう1つは、ニュージーランドとオーストラリアの間で食料安全基準が整合化されているということに起因する問題があります。すなわち、整合化されているハーモナイゼーションされているので、ニュージーランドが自国民のために決定できる権限に制約を受けているのです。とりわけ、効率性を高めるために、食品会社あるいは流通業者などが表示に関しての、あるいは規格に関しての整合性を求めています。従いまして、最近、ニュージーランドの緑の党の国会議員の方々と食の安全性をTPPの骨格の中でどのように位置づけるのかということについて、更なる研究が必要だということを議論しています。
これからTPPに関しましても、無農薬や有機栽培などの食品を対象としている消費者団体などは、対象の国となっている、例えばマレーシアも積極的にこの問題を取り組んでいるので、連携を深めて話し合っていくことが重要だと思います。
(質問者)
なぜ、紛争解決機関が秘密主義ということがあるのですか。透明性を要求する傍らで秘密、こんな国際協定は認められるのか、理解できません。
(ケルシー教授)
1つ1つの言葉の持つ意味が従来の考え方とは乖離してきたということだと思います。ただこのように、投資家が国際協定の中で権利を行使するという手続きは、新しいものではないのです。
二国間貿易協定というのは、何十年もの歴史を持っています。ただ、例えば建設などに関しての紛争などで扱われてきたという経緯があります。そして背景と致しましては、植民地時代の宗主国が植民地が独立する際に自分たちの権利を守るために文言を入れたっということに遡るのです。そして、このような文言をより協定に盛り込む、またFTAのなかに盛り込むという傾向がますます増えてまいりました。そして今では、より豊かな国もこの紛争の対象となってしまうということがより明確になってまいりました。
アメリカ、メキシコ、カナダというNAFTAの協定にも、この権利が謳われていまして、それが一番最近の明らかな事例だと思います。様々な紛争が起き、それが大きな物議をかもしている状況となっています。しかし、いったん協定の中で、1つの構想が決定してしまいますと、とりわけ大企業の利益が絡んだ際には、もはや元に戻ることはできない、修正はできなくなるのです。
今いただいたような質問は、多くの方も疑問に思っている点です。しかしながら、大きな協定の流れのなかでは、もはや身動きがとれない状況になってしまっているということです。


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