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路上の宝石

日々の道すがら拾い集めた「宝石たち」の採集記録。
青山さんのダンスを原動力に歩き続けています。

◆”Shall I Compare Thee to a Summer’s Day?”

2007-10-24 23:14:00 | ALL SHOOK UP
「君を夏の日にたとえようか?」ご存知の方も多いとは思いますが、これはシェイクスピアのソネット18番の1行目の言葉だそうです。『ALL SHOOK UP』で、美術館の館長(日本版ではキュレーターらしい)であるMiss Sandraの元に届けられたソネットが、154編あるシェイクスピアのソネットのうち、この「18番」であるのかどうかについてはわかりませんが、「シェイクスピアのソネット」と言えば、この作品が、取り上げられる頻度の高い代表作のように受け取られているようです。それもそのはず。154編あるソネットは、内容によって、1~17、18~126、127~152に分けることができるそうで、この18番は、そのソネットの中核部分、つまり詩人(あちらこちら読んでみると、必ずしも「詩人=シェイクスピア」ということではないそうです)が謎の美青年に対して愛の賛歌を高らかに歌い始める部分の最初の詩ということです。確かにソネット1番から順番に読み進めていくと、18番から雰囲気が変わるのが、素人の私でもわかるような気がします。(この154編のソネットの並べ方ひとつ取り上げてみても、諸説あって、謎の多い作品だそうです。)

『ALL SHOOK UP』では、Miss Sandraに恋をしたChadに、Dennisが、シェイクスピアのソネットを贈ることを提案するそうです。そして、そのソネットを、変装したEd(Natalie)が、Miss Sandraに届けることに。ところが、実際には、Chadにではなく、このソネットを自分の元に届けに来たEdに、Miss Sandraが一目惚れ・・・。Edの本当の姿はNatalie、つまり女なのに・・・。さらに、そのMiss Sandraに恋焦がれているのは、Natalieのお父さんのJimだったりする・・・。というわけで、ただでさえ複雑な恋愛関係が、このソネットのおかげでさらにもつれていくということになるそうです。そして彼らの他にも、この街には様々な困難を抱えた恋人たちが住んでいるわけですから、もう「恋の?角関係」といった感じで大変です。まさに秩序だった世界が、混沌とした世界へ、ということで、『ALL SHOOK UP』というタイトルにも確かに納得。「おどろんぱ!」の「すくらんぶるえっぐ」の歌詞じゃないけれど、Chadの登場によって、街中がShake it up!Shake it up!という感じなのでしょうか(笑)。また、こうした恋の騒ぎが、”a square town in a square state during a square time”(←後でご紹介するサイトで『ALL SHOOK UP』について書かれた記事にあった言葉)で起こっているということも、また微笑ましいですよね。”square”という言葉の持つニュアンスと、そのなかで起こっている”shook up”な感じのギャップがここまでくると、そこで生きている人たちが、とても愛おしく思えてくるような気がします。まさに「街がひっくり返ってしまう」ようなことが、あちらこちらで起きているというのに、人々はそんなことには構わず、突き進んでしまう・・・。”Can't Help Falling in Love”には、” Only fools rush in”という歌詞があるけれど、この街の人たちは、次から次へと皆さん”fool”になっていってしまう。でも、曲を聴いていたりすると、どうやらこの”fool”というキーワード、この作品では意味がありそうですよね。それだけに、foolな人たちが適応しなくてはいけない新しい姿勢を身につけながら、それぞれが迎える「望ましいフィナーレ」というのは、悲劇がもたらすカタルシスと同じぐらいに、とは言えないかもしれませんが、痛快な感覚と幸福感というものを観客にもたらしてくれるのではないか、そんなことを期待してしまうのは、私だけでしょうか。

ところで、『ALL SHOOK UP』は、主にシェイクスピアの喜劇『十二夜』をベースにしているということですが、作品中の設定や台詞に、ソネットをはじめとして、シェイクスピア作品からの影響、引用が数多く見られるそうです。ネット上で、シェイクスピア作品とこの『ALL SHOOK UP』との関連性について書かれたものを読んだのですが、それによると、例えば、LorraineとDeanのやりとりに、『ロミオとジュリエット』に関する言及があったり、Miss Sandraの台詞に、ロミオの台詞からの引用で、”O! I am fortune’s fool!”というのが、あったりするそうです。また、シェイクスピア作品で「forest/(とりわけ夜の)森」に与えられている役割が、『ALL SHOOK UP』では、「fairground/移動遊園地」に与えられているということです。シェイクスピアは、「forest/森」という場で、人々を文明化した社会から隔絶し、より原始的で自然な状態におくことによって、秩序とは何かということをテストしているのだとか。『ALL SHOOK UP』でも、第1幕最後、街の人々の奔放な行いに業を煮やしたMayor Matildaが、rousatboutを投獄することを宣言したことをきっかけとして、街の人々は皆、街外れのabandoned fairgroundsへと向かうそうです。そしてそこで登場人物ひとりひとりが届かぬ想いを込めて歌うのが、”Can’t Help Falling in Love”ですね。(既にご覧になった方も多い記事だとは思いますが、All Shook Up/ Broadway Buzzで検索していただくと、一番目にヒットする[Broadway BuzzのALL SHOOK UPの特集ページ]をご覧ください。左のall articlesの上から6番目、All Shook Up and the Shakespearean Connectionをクリックすると見られます。一つの解釈として、こんな考え方もあるんだなあ、と思いながら読みました。)

それで、第1幕後半で、主要登場人物が次々と恋の病に感染していくときのひとつのきっかけとなるのが、Miss Sandraに贈られたシェイクスピアのソネットであるように思われます。勿論、さきほどから言っているように、このソネットが、「君を夏の日にたとえようか?」の18番だったかどうか、というのはわからないし、実際に劇場に行ってみたとしても、そのソネットが何番であるのか、ということがわかる演出になっているのかどうかもよくわからない。でも、そんなことよりも、シェイクスピアのソネット、18番に限らず、どれも素敵なものだと思いますので、今日はソネットにまつわる個人的な思い出と、このソネットとのうれしい再会を勝手におしゃべり、ということでおゆるしください。シェイクスピアのソネットに関しては、私なんぞが喋るより、ネット上のあちらこちらに興味深い文章がたくさん載っていますので、ご興味のある方はどうぞそちらをご覧ください。

シェイクスピアと言えば、確かに戯曲なのですが、私が個人的に親近感を持っていたのは、こちらのソネットだったりしました。・・・というのも、高校3年生のときに取った選択授業の一つに、「英文鑑賞」というのがありまして、1年間の後半で扱ったのがPoetry、そこでこのシェイクスピアのソネットが取り上げられていたのです。勿論、劇やその他で、シェイクスピアのドラマのことは知ってはいたのですが、初めてシェイクスピアの原文に親しんだのが、このクラスでだったのです。(←「親しんだ」なんて偉そうなこと言っても、なんとか授業について行っていたという感じです。)一語一語辞書を引きながら、また詩独特の文法や言葉遣いに苦労しながら読んだことや、わからないところをお互いに教えたり、教えてもらったりして読み進めていったことを今でも覚えています。当時は、たまたま読んだ二つのソネット(60番と73番)が、かなり重厚なテーマを扱っているように感じられて、正直、他の作家の詩の方に親近感を持っていたような気がします。でも、不思議なもので、20人以上の詩人の作品を読んだ授業だったのですが、なぜかこのシェイクスピアのソネットに関しては、十分消化しきれていなことがずっと気になっていたのです。

それで、この授業、高校時代に受けた授業のなかで、最も印象に残ったもので、最も大変なもので、なお且つ楽しい授業でもあったのですが、数々の詩の魅力とともに、その先生がとても素敵な方でした。その先生曰く、詩というのは、人生の宝物であり、自分の好きな詩は、いつも心の中に置いておくといい、そして誰かに何かをプレゼントしたいとき、カードにその一節を書いたりして、ことばのプレゼントにもできる、のだとか。授業を受けていた当時は、「ホントにそんなことするの!?」と、皆で半信半疑にちょっと顔を見合わせて、笑っていたりしていたのですが、『ALL SHOOK UP』のMiss Sandraのエピソードを聞くと、あの先生のおっしゃっていたことが、シェイクスピアのソネットとともに、何だかとてもリアルに蘇ってくる気がして、Miss SandraやDennisというキャラクターに対して親近感が湧いてしまったりしました。もしかして、「詩を贈る(言葉のプレゼントを贈る)」ことをChadに提案したDennisって、すごく素敵な人!?Dennisって、大好きなNatalieにもふられちゃうのに、大好きなNatalieの気持ちを考えて、Chadのsidekickの座をEd(Natalie)に譲ってあげたりして、すごく繊細な人なんだなあ、なんて思ったり・・・。

一方、Miss Sandraは、Chadを見たとき、roustaboutな彼を自分にはふさわしくない相手だと決め付け、相手にもしないわけです。ところが、そんなChadを目指して彼と同じような外見に変装しているEdには、簡単に恋をしてしまう・・・。それは、他ならぬこのシェイクスピアの素敵な言葉のプレゼントのおかげだったのかもしれません。いや、roustaboutなEdの外見と、シェイクスピアのソネットのロマンティックな雰囲気とのギャップに、彼女は恋のショックを受けてしまったのでしょうか。ちょっと単純すぎ、Miss Sandra!と思うけれど、街の文化度の低さを嘆いていながら、あっという間に恋に落ちてしまう彼女こそ、実は『ALL SHOOK UP』度数が一番高い人なのではないか!?なんて思ったり。NatalieがChadに一目惚れしてしまうのも、あっという間なのだけれど、Miss Sandraも相当速い。ことばの持つ力の不思議とともに、恋の魔力を感じさせるエピソードで、街中の人々があっという間に恋に落ちてゆく『ALL SHOOK UP』のテーマにピッタリという気がします。ちなみにこのソネットのおかげで、Edに一目惚れをしてしまったMiss Sandraですが、最後になって、実はあの素敵なソネットのプレゼントは、Edによるものでも、Chadによるものでもなく、Dennisのアイデアであったことを知り、Dennisと結ばれてめでたしめでたし、というエンディングなのは、皆さんもご存知のとおり。一見すると、Miss SandraもDennisも、最後に残り物同士がくっついたというような印象を受けますが、二人のキャラクターをこんなふうに勝手に想像してみると、意外とこの二人いいコンビなんじゃないか、と思ったりもします。『ALL SHOOK UP』に登場するシェイクスピアのソネット。ストーリーのなかの何気ないエピソードのひとつだけれど、こんな他愛のない想像をして楽しむのが、結構私は好きだったりします。


『ALL SHOOK UP』のエピソードの世界で遊ぶにもよし、またはシェイクスピアの紡いだ奥深い愛のことばの世界に浸るにもよしということで、観劇の日を待ちながら、秋の夜長を楽しむための1冊に、「シェイクスピアのソネット」おススメです。



「シェイクスピアのソネット」(文春文庫)のご紹介です。
小田島雄志さんの訳がとても親しみやすく、一編一編に山本容子さんの繊細な版画が添えられています。
巻末の村松友視さんの解説では、銀座の飲み屋さんでのこの翻訳本の誕生秘話が書かれていて、面白いです。
下に写っているのは、さきほど本文でもふれた高校時代の詩のテキストです。
大変だったけれど、たくさんのことを学ぶことができた楽しい授業でした。



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