まず最初に、フジテレビ「プレミアの巣窟」の『ALL SHOOK UP』特集についてですが、関東在住にもかかわらず、見逃してしまいました~。

番組を見逃していなければ、レポできたと思うのですが、な、なんと、私がこの番組について知ったのが、7日の朝・・・。「今日(7日)の深夜!」と大喜びしたのもつかの間、次の瞬間「昨日(6日)の深夜」の放送であることに気づき、落ち込みました~。
ご覧になった方のブログなど拝見すると、尾藤さんのお話など、とても楽しい番組だったことがわかりました。お稽古場の映像も流れていたようですね。
OZも感動のなかに笑いの要素がたくさん盛り込まれていたので、今回も坂本さん主演の『ALL SHOOK UP』とても楽しみです。
それで、今日は、前回の記事でも少しふれた、Jerry Leiber and Mike Stollerについてです。『ALL SHOOK UP』でも、彼らが作詞・作曲した3曲が、Stephen Oremusの巧みなアレンジで、新しい命を吹き込まれた魅力的な音楽に生まれ変わっています。("Hound Dog","Jailhouse Rock","Fools Fall in Love"の3曲です。)やはり原曲のメロディーラインと人を惹き付ける歌詞が素晴らしいからこそ、Oremusのアレンジも生きてくる気がします。本当は、前の記事でもっと彼らのことについて織り込むことができたらよかったのですが、冗長な文章がさらに長いものになりそうだったので、分けることにしました。彼らの周辺のことを読んでいると、興味深いことが出てきたりしたので、今日はちょっとそんなことも書いておきます。
彼らが1957年にThe Driftersのために書いた”Fools Fall in Love”を、エルヴィスが67年にシングルリリース、そして、エルヴィスが歌ったその曲が、ミュージカル『ALL SHOOK UP』のフィナーレ近くで、Natalieによって歌われる・・・、ということは前回の記事でも書きました。(勿論、”Fools Fall in Love”は、他の多くのアーティストによってもカヴァーされています。)今回の『ALL SHOOK UP』では、”Fools Fall in Love”の他にも、彼らが作詞・作曲した”Jailhouse Rock”,”Hound Dog”が、取り上げられていますが、これらの曲のコーラスアレンジやダンス、とても楽しみです。エルヴィスが歌ったLeiber and Stollerの曲では、この他にも”Love Me”,”Loving You”,”Don’t”などがあるとのこと。彼らが作詞・作曲し、エルヴィスがレコーディングした曲は、かなりの数に及ぶそうです。そのなかには、エルヴィスのために彼らが作ったものも多かったそうです。反対に、元々他のアーティスト、特にアフリカ系アメリカ人のアーティストが歌ったブルースやR&Bの曲が、エルヴィスによって歌われることによって、大ヒット曲となり、ジャンルを超えた音楽として定着していったという状況もあったようです。
戦後アメリカン・ポップスにおいて最も影響力の大きい作詞・作曲家兼プロデューサーコンビである彼らは、「ロックンロール界のRodgers and Hammerstein」と呼ばれているそうです。白人である彼らは若い頃からブルースやR&Bに傾倒していたようですが、アフリカ系アメリカ人による音楽を、狭いジャンルやマーケットのみに限定せずに、ジャンルを超えたヒット曲として、より広いマーケットへと売り出すことに長けていたようです。Ben E. Kingの名曲、”Stand by Me”も彼らが携わっている曲だったとは!高校時代に楽譜を持っていたけれど、彼らの名前には全く気がつきませんでした。それから、Donald Fagenの”Ruby Baby”も、元々彼らがThe Driftersのために書いたものをカヴァーしたものだったんですね~。私にとってエルヴィスの曲って、結構遠いものだったのですが、こんなふうに彼の音楽に携わった人たちが、自分の聞いていたあの曲この曲とつながっていたなんて、思いもよりませんでした。
同時に、彼ら二人の作った音楽というのが、50年も経過した今の時代にも、スタンダードとして様々な形で生きながらえているということに驚かされます。それは、エルヴィスをはじめとして、数多くの優れたパフォーマーの力があったというのは、紛れもない事実だったのでしょうが、Leiber and Stollerのことを読んでいると、ジャンル、さらには時代を超えたヒット曲をつくりあげる彼らの技のようなものを感じてしまいます。彼らは、アフリカ系アメリカ人の歌うR&Bの音楽に、ポップな歌詞をつけることで、白人のマーケットでも受け入れられやすい曲をつくったり、R&Bオリジナルのテイストは失われたとしても、白人アーティストが歌って受け入れられやすい曲を作ることが得意だったようです。”crossover”なヒットソングをつくる名手と呼ばれたのも、そんなところに所以があるのでしょうか。エルヴィスが白人でありながら、黒人をルーツとする音楽を携えて様々な音楽ジャンル・マーケットのあいだを行ったり来たりできたのは、彼らのようなクリエーターたちの存在があったからこそなのでしょうね。その際に、オリジナルにあったハードな感じというのは、どうしても失われていくことが多かったそうなんですが、そんなわけで、彼らはポップスとロックンロールの世界に革命を起こしたクリエーターとされているようです。
今回の『ALL SHOOK UP』でも取り上げられる”Hound Dog”。この曲の進化の仕方を見ると、Leiber and Stollerという作詞・作曲家とエルヴィスというパフォーマーの間接的な共同作業によって、狭いマーケットでヒットしていた1曲が、どのようにしてジャンルを超えたヒット曲となり、さらには50年代をゆるがす社会現象のうねりをつくりだすに至ったのかがよくわかるような気がしてきます。実際に、Leiber and Stollerが知られるようになっていったのも、エルヴィスによる”Hound Dog”のヒットが大きなきっかけだったのかもしれません。”Hound Dog”は、元々Leiber and Stollerが1952年に作詞作曲、53年にブルース歌手Big Mama Thorntonが歌ったものだったそうです。(Big Mama Thorntonヴァージョンは、You tubeで見られますが、スゴイ迫力ですね!Big Mama Thorntonのヴァージョンは、ビルボードR&Bチャートでのヒット曲だったそうです。)Big Mama Thorntonが歌った後には、カントリー・アーティストたちによってもカヴァーされたそうで、この曲は、ブルース、カントリー、ロックンロールというそれぞれのマーケットを制覇した、まさに50年代半ばのミュージックシーンを象徴する1曲だったようです。やがて55年、この曲がもっと広い層のオーディエンスにアピールできると考えたTenn RecordのBernie Loweは、Freddie Bell and the BellboysにBig Mama Thorntonヴァージョンの歌詞を、ラジオのリスナーに合うように書き換えて歌うように指示。この曲は、より多くの人たちにアピールするような新ヴァージョンへと変化します。そして、この新ヴァージョン”Hound Dog”とエルヴィスとの出会いが、彼とこの曲、さらにはこの曲を作ったLeiber and Stollerの知名度を上げたきっかけだったのかもしれません。ラス・ベガスのSands Hotelのショーで演奏している彼らのヴァージョンに触発されたエルヴィスは、彼らのライブを観てすぐに許可を得て、自分のショーのナンバーとして付け加えたそうです。
そのエルヴィスがこの曲を携えて初めて全国規模のテレビ放送に姿を現したのは、1956年6月のThe Milton Berle Show。このエルヴィスのパフォーマンスによって、スタジオに詰め掛けた女性ファンも、テレビの視聴者も熱狂の渦へ・・・。しかしその一方で、大人たちの間では議論が巻き起こり、苦情が殺到。”Elvis the Pelvis”という呼び方もこのときに生まれたのだそうで、Big Mama Thorntonのヴァージョンよりもマイルドなものとなったはずだった歌詞も、ナンセンスなものとされ、エルヴィスの存在は、若者層に熱狂的に受け入れられる一方で、青少年を非行へと導くものとしてみなされるようになり、50年代の反抗と反逆の文化を牽引してゆくような社会現象にまでなってゆくことになるのですね。前にふれた”Blue Suede Shoes”も、ロカビリー歌手Carl Perkinsによって作られ、ひとつのマーケットのなかで歌われていたものが、エルヴィスヴァージョンの登場により、ジャンルを超えた名曲となりました。さらに、そのタイトルにもなっている靴が、50年代のロックンロール精神を象徴するようなアイテムとなっていきました。こうしてエルヴィス登場当時、1曲1曲がヒットするたびに、様々な旋風が起こっていったようですが、その旋風は、パフォーマンスを繰り広げたエルヴィスだけではなく、その1曲が育つ過程で存在した多くのレコード会社関係者や敏腕プロデューサーたちの力によるところも大きかったのですね。
こうして、エルヴィスの曲のいくつかをざっと見てみるだけでも、様々な意味において、ジャンル間の垣根を取り払っていったエルヴィスの存在というものに改めて気づかされます。しかし、そこには眼に見える形でたくさんの観客の前でパフォーマンスを繰り広げたエルヴィスだけでなく、ジャンルとマーケットを越える曲作りを目指したLeiber and Stollerのような影の立役者たちの存在があったのですね。『ALL SHOOK UP』をきっかけとして、こうしたLeiber and Stollerたちの仕事について改めて気づかされると感慨深いものがあります。そして、エルヴィスの登場から50年経過した今の時代に、Leiber and Stollerとエルヴィスの残した足跡が、『ALL SHOOK UP』というミュージカル作品で新たな展開を見せてくれるのかと思うと、当時を知らない私のようなファンは、新たな音楽の魅力との出会いを予感し、うれしくなります。
今回少しふれた”Hound Dog”という曲は、『ALL SHOOK UP』のなかでは、1幕中盤で、Chad,Sandra,Natalie,Dennisの4人によって歌われます。”Teddy Bear”という甘さを感じさせてくれるナンバーと巧みに組み合わされたアレンジのせいでしょうか、「甘さ」と「ワルっぽさ」の相乗効果で、とても魅力的な1曲となっているこの曲に、聴いている方は想像力を刺激されますよね。この”Hound Dog”は、紹介したようなエルヴィスたちによる50年代の原曲とはかなり異なるイメージでしょうか。遊び心の感じられる楽しいナンバーになっているところが、私は結構好きだったりします。Miss Sandraが主に”Hound Dog”のパートを、彼女を口説こうとするChadが”Teddy Bear”を歌うという形で、四角関係にある4人がこの2曲の歌で会話をしているかのようです。当時若者たちを悪しき道に導くと苦情の殺到した記念すべき1曲を、「不良」とは無関係なはずの美術館館長であるMiss Sandraが、不良であるChadに向かってワルっぽく歌う。そしてroustaboutなChadが非常に甘いテイストの"Teddy Bear"を、Miss Sandraに向かって歌う。CDを聴いているだけでも、この2曲の巧みな組み合わせ方がとても楽しいのですが、楽譜にある”Swinging Blues”という注意書きのとおり、聴いているこちらも思わずswingしたくなるような感じです。楽譜の歌詞を見てみると、実はMiss Sandraの歌っている歌詞は、エルヴィスのものではなく、Big Mama Thorntonヴァージョンに近いもののようなんですが、逆に少しアクの強い印象の歌詞をMiss Sandraのようなキャラクターが歌うことにより、Chadとの駆け引きが魅力的になっている感じでしょうか。楽譜を読んで、歌詞の言葉だけを追っていると、確かにMiss SandraとChadは正反対のことを主張していたりするのですが、その言葉の追いかけっこのようなものが、逆に笑いを誘いますね。さらに、眼で読む楽譜から、再び耳で聴くCDの音に戻ると、歌詞の内容は、ドタバタ・ラブコメディーでかみ合っていない感じなのに、音においては4人が見事なハーモニーを奏でていて、それもまた微笑ましく、心地よい。Chadの吠えるような声も途中で聞こえてきたり、かわいい動物たちもたくさん登場する歌詞も楽しく、”Teddy Bear/Hound Dog”、ラブ・コメディー路線にぴったりのにぎやかなナンバーになりそうで、日本版のステージが楽しみです。OZにもユーモアの感じられる台詞の入れ方やハーモニーの印象的な、ピーター、ジュディー、クリス、マークの4人による"Only an Older Woman/年上の女"のような、素敵な曲がありましたが、"Teddy Bear/Hound Dog"の日本語ヴァージョン、登場人物のハーモニーや素敵な訳詞によって、楽しいシーンになるといいですね。Leiber and Stollerの世界が、例えばこの『ALL SHOOK UP』の”Hound Dog”という曲では、Oremusのアレンジによってどんなふうにふくらむのか、実際にライブなサウンドで聴くのがとても楽しみです。


番組を見逃していなければ、レポできたと思うのですが、な、なんと、私がこの番組について知ったのが、7日の朝・・・。「今日(7日)の深夜!」と大喜びしたのもつかの間、次の瞬間「昨日(6日)の深夜」の放送であることに気づき、落ち込みました~。

ご覧になった方のブログなど拝見すると、尾藤さんのお話など、とても楽しい番組だったことがわかりました。お稽古場の映像も流れていたようですね。
OZも感動のなかに笑いの要素がたくさん盛り込まれていたので、今回も坂本さん主演の『ALL SHOOK UP』とても楽しみです。
それで、今日は、前回の記事でも少しふれた、Jerry Leiber and Mike Stollerについてです。『ALL SHOOK UP』でも、彼らが作詞・作曲した3曲が、Stephen Oremusの巧みなアレンジで、新しい命を吹き込まれた魅力的な音楽に生まれ変わっています。("Hound Dog","Jailhouse Rock","Fools Fall in Love"の3曲です。)やはり原曲のメロディーラインと人を惹き付ける歌詞が素晴らしいからこそ、Oremusのアレンジも生きてくる気がします。本当は、前の記事でもっと彼らのことについて織り込むことができたらよかったのですが、冗長な文章がさらに長いものになりそうだったので、分けることにしました。彼らの周辺のことを読んでいると、興味深いことが出てきたりしたので、今日はちょっとそんなことも書いておきます。
彼らが1957年にThe Driftersのために書いた”Fools Fall in Love”を、エルヴィスが67年にシングルリリース、そして、エルヴィスが歌ったその曲が、ミュージカル『ALL SHOOK UP』のフィナーレ近くで、Natalieによって歌われる・・・、ということは前回の記事でも書きました。(勿論、”Fools Fall in Love”は、他の多くのアーティストによってもカヴァーされています。)今回の『ALL SHOOK UP』では、”Fools Fall in Love”の他にも、彼らが作詞・作曲した”Jailhouse Rock”,”Hound Dog”が、取り上げられていますが、これらの曲のコーラスアレンジやダンス、とても楽しみです。エルヴィスが歌ったLeiber and Stollerの曲では、この他にも”Love Me”,”Loving You”,”Don’t”などがあるとのこと。彼らが作詞・作曲し、エルヴィスがレコーディングした曲は、かなりの数に及ぶそうです。そのなかには、エルヴィスのために彼らが作ったものも多かったそうです。反対に、元々他のアーティスト、特にアフリカ系アメリカ人のアーティストが歌ったブルースやR&Bの曲が、エルヴィスによって歌われることによって、大ヒット曲となり、ジャンルを超えた音楽として定着していったという状況もあったようです。
戦後アメリカン・ポップスにおいて最も影響力の大きい作詞・作曲家兼プロデューサーコンビである彼らは、「ロックンロール界のRodgers and Hammerstein」と呼ばれているそうです。白人である彼らは若い頃からブルースやR&Bに傾倒していたようですが、アフリカ系アメリカ人による音楽を、狭いジャンルやマーケットのみに限定せずに、ジャンルを超えたヒット曲として、より広いマーケットへと売り出すことに長けていたようです。Ben E. Kingの名曲、”Stand by Me”も彼らが携わっている曲だったとは!高校時代に楽譜を持っていたけれど、彼らの名前には全く気がつきませんでした。それから、Donald Fagenの”Ruby Baby”も、元々彼らがThe Driftersのために書いたものをカヴァーしたものだったんですね~。私にとってエルヴィスの曲って、結構遠いものだったのですが、こんなふうに彼の音楽に携わった人たちが、自分の聞いていたあの曲この曲とつながっていたなんて、思いもよりませんでした。
同時に、彼ら二人の作った音楽というのが、50年も経過した今の時代にも、スタンダードとして様々な形で生きながらえているということに驚かされます。それは、エルヴィスをはじめとして、数多くの優れたパフォーマーの力があったというのは、紛れもない事実だったのでしょうが、Leiber and Stollerのことを読んでいると、ジャンル、さらには時代を超えたヒット曲をつくりあげる彼らの技のようなものを感じてしまいます。彼らは、アフリカ系アメリカ人の歌うR&Bの音楽に、ポップな歌詞をつけることで、白人のマーケットでも受け入れられやすい曲をつくったり、R&Bオリジナルのテイストは失われたとしても、白人アーティストが歌って受け入れられやすい曲を作ることが得意だったようです。”crossover”なヒットソングをつくる名手と呼ばれたのも、そんなところに所以があるのでしょうか。エルヴィスが白人でありながら、黒人をルーツとする音楽を携えて様々な音楽ジャンル・マーケットのあいだを行ったり来たりできたのは、彼らのようなクリエーターたちの存在があったからこそなのでしょうね。その際に、オリジナルにあったハードな感じというのは、どうしても失われていくことが多かったそうなんですが、そんなわけで、彼らはポップスとロックンロールの世界に革命を起こしたクリエーターとされているようです。
今回の『ALL SHOOK UP』でも取り上げられる”Hound Dog”。この曲の進化の仕方を見ると、Leiber and Stollerという作詞・作曲家とエルヴィスというパフォーマーの間接的な共同作業によって、狭いマーケットでヒットしていた1曲が、どのようにしてジャンルを超えたヒット曲となり、さらには50年代をゆるがす社会現象のうねりをつくりだすに至ったのかがよくわかるような気がしてきます。実際に、Leiber and Stollerが知られるようになっていったのも、エルヴィスによる”Hound Dog”のヒットが大きなきっかけだったのかもしれません。”Hound Dog”は、元々Leiber and Stollerが1952年に作詞作曲、53年にブルース歌手Big Mama Thorntonが歌ったものだったそうです。(Big Mama Thorntonヴァージョンは、You tubeで見られますが、スゴイ迫力ですね!Big Mama Thorntonのヴァージョンは、ビルボードR&Bチャートでのヒット曲だったそうです。)Big Mama Thorntonが歌った後には、カントリー・アーティストたちによってもカヴァーされたそうで、この曲は、ブルース、カントリー、ロックンロールというそれぞれのマーケットを制覇した、まさに50年代半ばのミュージックシーンを象徴する1曲だったようです。やがて55年、この曲がもっと広い層のオーディエンスにアピールできると考えたTenn RecordのBernie Loweは、Freddie Bell and the BellboysにBig Mama Thorntonヴァージョンの歌詞を、ラジオのリスナーに合うように書き換えて歌うように指示。この曲は、より多くの人たちにアピールするような新ヴァージョンへと変化します。そして、この新ヴァージョン”Hound Dog”とエルヴィスとの出会いが、彼とこの曲、さらにはこの曲を作ったLeiber and Stollerの知名度を上げたきっかけだったのかもしれません。ラス・ベガスのSands Hotelのショーで演奏している彼らのヴァージョンに触発されたエルヴィスは、彼らのライブを観てすぐに許可を得て、自分のショーのナンバーとして付け加えたそうです。
そのエルヴィスがこの曲を携えて初めて全国規模のテレビ放送に姿を現したのは、1956年6月のThe Milton Berle Show。このエルヴィスのパフォーマンスによって、スタジオに詰め掛けた女性ファンも、テレビの視聴者も熱狂の渦へ・・・。しかしその一方で、大人たちの間では議論が巻き起こり、苦情が殺到。”Elvis the Pelvis”という呼び方もこのときに生まれたのだそうで、Big Mama Thorntonのヴァージョンよりもマイルドなものとなったはずだった歌詞も、ナンセンスなものとされ、エルヴィスの存在は、若者層に熱狂的に受け入れられる一方で、青少年を非行へと導くものとしてみなされるようになり、50年代の反抗と反逆の文化を牽引してゆくような社会現象にまでなってゆくことになるのですね。前にふれた”Blue Suede Shoes”も、ロカビリー歌手Carl Perkinsによって作られ、ひとつのマーケットのなかで歌われていたものが、エルヴィスヴァージョンの登場により、ジャンルを超えた名曲となりました。さらに、そのタイトルにもなっている靴が、50年代のロックンロール精神を象徴するようなアイテムとなっていきました。こうしてエルヴィス登場当時、1曲1曲がヒットするたびに、様々な旋風が起こっていったようですが、その旋風は、パフォーマンスを繰り広げたエルヴィスだけではなく、その1曲が育つ過程で存在した多くのレコード会社関係者や敏腕プロデューサーたちの力によるところも大きかったのですね。
こうして、エルヴィスの曲のいくつかをざっと見てみるだけでも、様々な意味において、ジャンル間の垣根を取り払っていったエルヴィスの存在というものに改めて気づかされます。しかし、そこには眼に見える形でたくさんの観客の前でパフォーマンスを繰り広げたエルヴィスだけでなく、ジャンルとマーケットを越える曲作りを目指したLeiber and Stollerのような影の立役者たちの存在があったのですね。『ALL SHOOK UP』をきっかけとして、こうしたLeiber and Stollerたちの仕事について改めて気づかされると感慨深いものがあります。そして、エルヴィスの登場から50年経過した今の時代に、Leiber and Stollerとエルヴィスの残した足跡が、『ALL SHOOK UP』というミュージカル作品で新たな展開を見せてくれるのかと思うと、当時を知らない私のようなファンは、新たな音楽の魅力との出会いを予感し、うれしくなります。
今回少しふれた”Hound Dog”という曲は、『ALL SHOOK UP』のなかでは、1幕中盤で、Chad,Sandra,Natalie,Dennisの4人によって歌われます。”Teddy Bear”という甘さを感じさせてくれるナンバーと巧みに組み合わされたアレンジのせいでしょうか、「甘さ」と「ワルっぽさ」の相乗効果で、とても魅力的な1曲となっているこの曲に、聴いている方は想像力を刺激されますよね。この”Hound Dog”は、紹介したようなエルヴィスたちによる50年代の原曲とはかなり異なるイメージでしょうか。遊び心の感じられる楽しいナンバーになっているところが、私は結構好きだったりします。Miss Sandraが主に”Hound Dog”のパートを、彼女を口説こうとするChadが”Teddy Bear”を歌うという形で、四角関係にある4人がこの2曲の歌で会話をしているかのようです。当時若者たちを悪しき道に導くと苦情の殺到した記念すべき1曲を、「不良」とは無関係なはずの美術館館長であるMiss Sandraが、不良であるChadに向かってワルっぽく歌う。そしてroustaboutなChadが非常に甘いテイストの"Teddy Bear"を、Miss Sandraに向かって歌う。CDを聴いているだけでも、この2曲の巧みな組み合わせ方がとても楽しいのですが、楽譜にある”Swinging Blues”という注意書きのとおり、聴いているこちらも思わずswingしたくなるような感じです。楽譜の歌詞を見てみると、実はMiss Sandraの歌っている歌詞は、エルヴィスのものではなく、Big Mama Thorntonヴァージョンに近いもののようなんですが、逆に少しアクの強い印象の歌詞をMiss Sandraのようなキャラクターが歌うことにより、Chadとの駆け引きが魅力的になっている感じでしょうか。楽譜を読んで、歌詞の言葉だけを追っていると、確かにMiss SandraとChadは正反対のことを主張していたりするのですが、その言葉の追いかけっこのようなものが、逆に笑いを誘いますね。さらに、眼で読む楽譜から、再び耳で聴くCDの音に戻ると、歌詞の内容は、ドタバタ・ラブコメディーでかみ合っていない感じなのに、音においては4人が見事なハーモニーを奏でていて、それもまた微笑ましく、心地よい。Chadの吠えるような声も途中で聞こえてきたり、かわいい動物たちもたくさん登場する歌詞も楽しく、”Teddy Bear/Hound Dog”、ラブ・コメディー路線にぴったりのにぎやかなナンバーになりそうで、日本版のステージが楽しみです。OZにもユーモアの感じられる台詞の入れ方やハーモニーの印象的な、ピーター、ジュディー、クリス、マークの4人による"Only an Older Woman/年上の女"のような、素敵な曲がありましたが、"Teddy Bear/Hound Dog"の日本語ヴァージョン、登場人物のハーモニーや素敵な訳詞によって、楽しいシーンになるといいですね。Leiber and Stollerの世界が、例えばこの『ALL SHOOK UP』の”Hound Dog”という曲では、Oremusのアレンジによってどんなふうにふくらむのか、実際にライブなサウンドで聴くのがとても楽しみです。