明日いよいよ開幕するROCKIN’ Broadway、どんな演出で、どんな曲を見せてもらえるのでしょうか?8月22日号の『婦人公論』には、和央さんと萩尾望都さんの対談記事が掲載されています。「宝塚のゴージャスさとは違うけれども、宝塚のときにはやりたくてもできなかったスペクタクルなものをやろう、と。宝塚と同じことをやるなら、宝塚でやったほうがよっぽどきれいだと思うんで。」こんなコメントをうかがうと、とても期待が高まります。ブロードウェイミュージカル作品の音楽を、ROCKなアレンジで(でもワイルドホーンさんの曲もあるということは、ROCK調ということだけではなさそう、と解釈しておいたほうがよいのでしょうか?)、しかも、それを「スペクタクル」なものとして、あれだけの大会場で見せてもらえる・・・。どんなノリのライブ・コンサートになるのか、本当に楽しみです。和央さんや花總さんのファンの方々に負けないように、楽しんでこよう!今からそんなことを考えたりしています。
「ブロードウェイ」ということで、これまで青山さんが出演された作品、およびその周辺の作品からの曲が使われたら、ファンとして、それはとてもうれしいことですが、でもそのこと以上にブロードウェイ・ミュージカルの曲をROCKなアレンジで見せるという、ちょっと想像しにくい状況が、やはり何よりも楽しみです。ミュージカル作品を観たりしていると、ダンスシーンのための音楽でなくても、「あっ、これで踊っている青山さんを観られたら・・・」と思うこともあります。そんな曲や、クラシックで、オーソドックスなミュージカル作品の名曲でも、ROCKなアレンジを施せば、ダンス満載な曲になるのではないか?非常に単純な発想ですが、「おどろんぱ!」時代から踊りまくる青山さんをできるだけ多く観たい!とやかましく言い続けてきたファンとしては、ついついそんな期待をしてしまうわけです。しかも、今回は未だかつてないほどの規模の大会場でのライブ・コンサート。和央さんをはじめとして、バックダンサーの方々の動きは、2階最後部席の人までをノリノリにしてくれるような、かなりハードなものになるのではないか、と内心かなり期待しています。
そんなことを思いながら、これまでのご出演作品のCDなどを聴いていたのですが、この暑さのなかですと、ついつい繰り返し手にとってしまうのは、やはりWSS(『ウエスト・サイド・ストーリー』)のCDです。青山さんのタイガーを脳内再生するときの私のBGMは、以前から書いているようにBW版CD、とりわけその後半に収録されているSymphonic Dancesなわけですが、こうしてこの作品の音楽を聴いて改めて思うのは、WSSというのは、本当に「聴きどころ」満載の贅沢な作品なのだなということです。それで、そんな名曲すぎる「聴きどころ」を「見どころ」として観客の心に鮮やかすぎるぐらいに焼き付けたうえに、なおかつ「聴きどころ」として有名な数々の名シーンに劣らぬインパクトをダンスシーンに与えていた青山さんたちの仕事は、本当に素晴らしかったなあ、としみじみ思うわけです。3年経った今でも、タイガーが踊っていたPrologueからJet Song、The Dance at the Gym、Cool、QuintetからRumble、Somewhere、Gee,Officer Krupke・・・、と珠玉の名場面を少し思い出しただけでも、この夏の暑さを、心の中に沸き起こる熱さで制することができるぐらいかもしれません。
それで、そんな青山さんのタイガーを語り始めると、またいくらでも暴走できるので、それはまた別の機会にすることとして、今日は「聴きどころ」名シーンの中で、私がついつい繰り返し聴いてしまう曲、”I Feel Pretty”について書いてみたいと思います。2004年夏の少年隊版では、マリア役は島田歌穂さん、冬の嵐版では、宝塚の和音美桜さんでした。舞台をご覧になった方は、WSS第2幕冒頭、客電が消えて、オーケストラがこの曲を奏でる始めるときの、あの何ともいえない素敵な感じを覚えていらっしゃることと思います。第1幕最後は、Rumbleのシーンで、この緊迫感溢れる決闘の結果、JetsとSharksそれぞれのリーダーが死んでしまい、重苦しい空気に包まれて休憩時間に入っているために、第2幕のあの始まり方は、ちょっと一息つかせてくれるというか、沈んだ気持ちを一気に引き上げてくれるというか、そんな感じです。
しかし、Sharksのリーダー、ベルナルドを刺してしまったのは、マリアの愛するトニー。悲劇の結末へと一気に向かい始めることになる第2幕ですが、2幕冒頭のこのシーンで、トニーに会うために自分の寝室で心弾ませながら準備をするマリアは、愛する人が自分の兄を刺殺してしまったという恐ろしい事実を、まだ知らされていません。ただ愛する人との再会を心待ちにする16歳の少女の気持ちが、無邪気に歌い上げられていきますが、WSSの楽曲のなかで最も屈託のない明るい曲ではないでしょうか。映画版CDでは、ナタリー・ウッドの歌は、マーニ・ニクソンが吹き替えているそうですが、マリアの声は「16歳」であることを求められたそうで、その要求にすべて応えられそうでないナタリー・ウッドの代わりに、彼女が起用されたそうです。そんなエピソードを読んで、この曲”I Feel Pretty”を聞くと、もしかしてこれは一番「16歳らしさ」が求められている曲なのではないか、という気がしてきます。島田さん、和音さんお二人の歌唱はとても素晴らしく、またマリアとSharks女性陣が掛け合うようにして楽しい身振りをまじえて賑やかに歌い上げるのがとても魅力的だったこのシーン。非常に高さのある、文字通り「宙に浮いているような」2階寝室のセット上で歌い踊る様子が、悲劇を知らずにただ恋に歓喜するマリアと、そこに漂う一抹の危うさを視覚的にも印象付けているようでした。(昨年夏に観た来日版West Side Storyでは、このシーンは、1階の寝室セットの上で歌い踊るということになっていました。)
WSSでは、映画版と舞台版で、曲順が異なっている部分が数箇所ありますが、この”I Feel Pretty”もそのひとつ。BW版と映画版のCDを聴いただけでも、印象が異なりますし、シーンが帯びる意味も多少違ってきます。ただ、3年前にこの曲をじっくり聴くようになってから、私がずっと思っていたのは、この曲のジャズバージョンが聴きたい、ということでした。それ以来、まずOscar Peterson TrioのWest Side Storyに収録されているもの、Sarah Vauhnの名演などを聴いてきましたが、満足はするものの、やはり「コレ!」という決め手に欠けているような気がしていました。やはりあれだけのWSSです。ミュージカルの世界で感じたあの感動を上回るような、また違う感動を与えてくれる”I Feel Pretty”はないのかな~、と半ばあきらめていたのです。そんななか、ちょっと前に出会ってしまったのが、ソフィー・ミルマン(Sophie Milman)の”I Feel Pretty”。彼女の歌声を初めて聴いたのは、別の曲においてだったのですが、一声聴いて虜になった私は、早速他の曲も物色、彼女の”I Feel Pretty”にたどり着いたというわけです。つい先日も来日公演があって、そのライブに行ってみたのですが、外見は24歳なのに、歌い出せばとてもそうは聞こえない貫禄。”I Feel Pretty”自体は、ジャンルにこだわらなければ、いろいろなシンガーが歌っていますが、女性ジャズボーカリストがこの曲を歌っているのを見つけるのは結構難しい気がします。けれどもソフィーが歌うこの曲は、ミュージカル・映画版CDや、Sarah Vauhnのものとは一味も二味も違う魅力があると思いました。まず、豪快に歌い上げたり、たたみかけるように一気に盛り上がるところもなく、肩の力の抜けた軽快さがあり、それでいてとても深みのあるメローな感じに惹かれました。さらに、この曲には本来あるはずのないアンニュイな感じがひとつまみぐらい漂っているところが、明らかに新しいという気がしたんです。ミュージカルの中で歌われているわけではないのですが、原作とは違うストーリーを感じさせてしまう歌い方にもかなり感動しました。舞台版や映画版では、1人称でどっぷりはまって歌い上げるマリアと、おもしろおかしく、でもちょっぴり冷静にきれいにコーラスしながら、3人称的に突っ込みを入れるようなSharks女性陣との掛け合いが、非常に楽しいシーンとなっているのですが、このソフィー・ミルマンによるものは、一人で歌っているのに、なんとなーく2・5人称的な歌い方のような感じがして、結構好きだったりします。この歌の歌詞には、主語の「I/私」が繰り返し出てきますが、わずか4分50秒ほどの時間の流れのなかで、歌っているソフィーがこの「I」に語らせる感情に、とても豊かな起伏が感じられる気がして、ドラマが感じられます。また“See the pretty girl in the mirror there~”あたりの、ちょっと突き放した感じの歌い方も、個人的には結構好きだったりします。
彼女は学生時代に語学を勉強していて、また小さいときからロシア→イスラエル→カナダと移住を繰り返してきたので、多言語を操るマルチリンガルなのですが、そんなことによって、歌の「ことば」を伝えることに対して他のシンガーよりも敏感なところがあるのでしょうか。ライブのときも、Bein' Green(セサミストリートの歌)に関して、kids'songだけれど、(移住を繰り返してきた)自分にとっては、especially special songで、personal connectionのある歌だと言っていました。ミュージカル・映画版で慣れ親しんでいた、バーンスタインとソンドハイムによる”I Feel Pretty”という曲に、新しい世界を感じさせてくれたソフィー・ミルマン。この曲だけでなく、他の曲もおススメですので、よろしかったら、皆さんも是非聞いてみてください。ひとつの曲に関しても、聞く人それぞれの感じ方があって、それだからこそ面白いのだと思いますが、自分の探していたものがみつかるときって、やはりとてもうれしいですよね。ソフィーの歌う”I Feel Pretty”は、私にとっては、まさに「コレ!」という1曲でした。今回のライブでは残念ながら、”I Feel Pretty”は歌ってくれなかったのですが、眼の前のステージで歌うソフィーを見ながら、あんなふうに歌えたら素敵だろうなあ~、そんなことを感じたりして。勿論、私は歌など歌えませんけれども。ちなみにソフィーは、さきほどふれたOscar Petersonのライブで初めてジャズに開眼したのだとか。”I Feel Pretty”をファースト・アルバムで歌っているのには、もしかしてそんなことも関係しているのでしょうか。
ソフィーも数多くのジャズ・スタンダードを得意としていて、それ以外にもボサ・ノヴァ、シャンソン系の曲、故郷ロシアの曲、そしてさきほどもふれたセサミストリートの曲(It’s Not Easy Bein’ Green)まで何でも見事に歌いこなしてしまうシンガーで、本当に驚くのですが、「ジャズ・スタンダード」といわれている曲は、元はミュージカル作品で歌われていたものが多いです。そうした曲の数々が、ジャズのアーティストたちによって演奏されていくなか、元の作品から離れて、スタンダードとして定着し、いまだに進化をし続け、新たなストーリーを紡ぎながら歌い継がれ、演奏されてゆく・・・。現代のミュージカル界とジャズの世界の間の関係性には、かつてのような活発な行き来というのはないのかもしれませんが、ミュージカル作品の音楽をROCKなアレンジで見せることにより、ミュージカル界の素晴らしい名曲の数々が、新たな魅力で観客を魅了する、そんな機会が増えていったらよいな、と思います。すべてを一概に語ることはできないかもしれませんが、『TOMMY』を考えてもROCKと舞台芸術の世界の融合があったり、『ボーイ・フロム・オズ』、『ムーヴィン・アウト』、『マンマ・ミーア』などは、既存のポップスやRockの曲をミュージカル作品のなかで再構成したものです。今回のROCKIN’ Broadwayは、そうしたミュージカル界に見られる動きとは反対の方向性を持つ、つまり、ミュージカルの楽曲をROCKなアレンジで解体してみせるような、そんな試みなのかもしれませんが、ポップスやROCKの世界と接近していっているミュージカルの世界を考えてみれば、観客は潜在的に、今回のROCKIN’ Broadwayのような企画、待っていたのではないか、そんな気がするのは私だけでしょうか?
「ブロードウェイ・ミュージカル」と言えば、どうしても3年前の夏、クラシックな大作『ウエスト・サイド・ストーリー』を、「今・ここ」でしか見られない作品として魅せてくれた青山さんのタイガーを思い出します。これまでの宝塚の世界とは違うものを追求する和央さんと、ストーリーのあるミュージカルの世界で活躍してきた青山さんたちが、ROCKIN’ Broadwayという新たなステージで、何を見せてくれるのか。「コレ!」という嬉しい驚きに満ちたダンスや音楽とのたくさんの出逢いを予感させてくれるROCKIN’ Broadway、とても楽しみです。もうすぐ開幕。劇場に向かう日を指折り数えて心待ちにする毎日です。
ところで、気がついたらブログを開設してから1年が経過していました。カメのような歩き方で、マイペースに綴っている拙いブログですが、読んでくださる方がいるのだなあと思うと、励みになります。途中でお休みすることもありましたが、こうして寄り道しながら書き続けていられるのも、読んでくださる皆さんのおかげです。いつもありがとうございます。心から感謝しております。あちらこちらに寄り道しながらのブログですが、2年目も初心を忘れずに、「宝石採集」の記録をしてゆきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
「ブロードウェイ」ということで、これまで青山さんが出演された作品、およびその周辺の作品からの曲が使われたら、ファンとして、それはとてもうれしいことですが、でもそのこと以上にブロードウェイ・ミュージカルの曲をROCKなアレンジで見せるという、ちょっと想像しにくい状況が、やはり何よりも楽しみです。ミュージカル作品を観たりしていると、ダンスシーンのための音楽でなくても、「あっ、これで踊っている青山さんを観られたら・・・」と思うこともあります。そんな曲や、クラシックで、オーソドックスなミュージカル作品の名曲でも、ROCKなアレンジを施せば、ダンス満載な曲になるのではないか?非常に単純な発想ですが、「おどろんぱ!」時代から踊りまくる青山さんをできるだけ多く観たい!とやかましく言い続けてきたファンとしては、ついついそんな期待をしてしまうわけです。しかも、今回は未だかつてないほどの規模の大会場でのライブ・コンサート。和央さんをはじめとして、バックダンサーの方々の動きは、2階最後部席の人までをノリノリにしてくれるような、かなりハードなものになるのではないか、と内心かなり期待しています。
そんなことを思いながら、これまでのご出演作品のCDなどを聴いていたのですが、この暑さのなかですと、ついつい繰り返し手にとってしまうのは、やはりWSS(『ウエスト・サイド・ストーリー』)のCDです。青山さんのタイガーを脳内再生するときの私のBGMは、以前から書いているようにBW版CD、とりわけその後半に収録されているSymphonic Dancesなわけですが、こうしてこの作品の音楽を聴いて改めて思うのは、WSSというのは、本当に「聴きどころ」満載の贅沢な作品なのだなということです。それで、そんな名曲すぎる「聴きどころ」を「見どころ」として観客の心に鮮やかすぎるぐらいに焼き付けたうえに、なおかつ「聴きどころ」として有名な数々の名シーンに劣らぬインパクトをダンスシーンに与えていた青山さんたちの仕事は、本当に素晴らしかったなあ、としみじみ思うわけです。3年経った今でも、タイガーが踊っていたPrologueからJet Song、The Dance at the Gym、Cool、QuintetからRumble、Somewhere、Gee,Officer Krupke・・・、と珠玉の名場面を少し思い出しただけでも、この夏の暑さを、心の中に沸き起こる熱さで制することができるぐらいかもしれません。
それで、そんな青山さんのタイガーを語り始めると、またいくらでも暴走できるので、それはまた別の機会にすることとして、今日は「聴きどころ」名シーンの中で、私がついつい繰り返し聴いてしまう曲、”I Feel Pretty”について書いてみたいと思います。2004年夏の少年隊版では、マリア役は島田歌穂さん、冬の嵐版では、宝塚の和音美桜さんでした。舞台をご覧になった方は、WSS第2幕冒頭、客電が消えて、オーケストラがこの曲を奏でる始めるときの、あの何ともいえない素敵な感じを覚えていらっしゃることと思います。第1幕最後は、Rumbleのシーンで、この緊迫感溢れる決闘の結果、JetsとSharksそれぞれのリーダーが死んでしまい、重苦しい空気に包まれて休憩時間に入っているために、第2幕のあの始まり方は、ちょっと一息つかせてくれるというか、沈んだ気持ちを一気に引き上げてくれるというか、そんな感じです。
しかし、Sharksのリーダー、ベルナルドを刺してしまったのは、マリアの愛するトニー。悲劇の結末へと一気に向かい始めることになる第2幕ですが、2幕冒頭のこのシーンで、トニーに会うために自分の寝室で心弾ませながら準備をするマリアは、愛する人が自分の兄を刺殺してしまったという恐ろしい事実を、まだ知らされていません。ただ愛する人との再会を心待ちにする16歳の少女の気持ちが、無邪気に歌い上げられていきますが、WSSの楽曲のなかで最も屈託のない明るい曲ではないでしょうか。映画版CDでは、ナタリー・ウッドの歌は、マーニ・ニクソンが吹き替えているそうですが、マリアの声は「16歳」であることを求められたそうで、その要求にすべて応えられそうでないナタリー・ウッドの代わりに、彼女が起用されたそうです。そんなエピソードを読んで、この曲”I Feel Pretty”を聞くと、もしかしてこれは一番「16歳らしさ」が求められている曲なのではないか、という気がしてきます。島田さん、和音さんお二人の歌唱はとても素晴らしく、またマリアとSharks女性陣が掛け合うようにして楽しい身振りをまじえて賑やかに歌い上げるのがとても魅力的だったこのシーン。非常に高さのある、文字通り「宙に浮いているような」2階寝室のセット上で歌い踊る様子が、悲劇を知らずにただ恋に歓喜するマリアと、そこに漂う一抹の危うさを視覚的にも印象付けているようでした。(昨年夏に観た来日版West Side Storyでは、このシーンは、1階の寝室セットの上で歌い踊るということになっていました。)
WSSでは、映画版と舞台版で、曲順が異なっている部分が数箇所ありますが、この”I Feel Pretty”もそのひとつ。BW版と映画版のCDを聴いただけでも、印象が異なりますし、シーンが帯びる意味も多少違ってきます。ただ、3年前にこの曲をじっくり聴くようになってから、私がずっと思っていたのは、この曲のジャズバージョンが聴きたい、ということでした。それ以来、まずOscar Peterson TrioのWest Side Storyに収録されているもの、Sarah Vauhnの名演などを聴いてきましたが、満足はするものの、やはり「コレ!」という決め手に欠けているような気がしていました。やはりあれだけのWSSです。ミュージカルの世界で感じたあの感動を上回るような、また違う感動を与えてくれる”I Feel Pretty”はないのかな~、と半ばあきらめていたのです。そんななか、ちょっと前に出会ってしまったのが、ソフィー・ミルマン(Sophie Milman)の”I Feel Pretty”。彼女の歌声を初めて聴いたのは、別の曲においてだったのですが、一声聴いて虜になった私は、早速他の曲も物色、彼女の”I Feel Pretty”にたどり着いたというわけです。つい先日も来日公演があって、そのライブに行ってみたのですが、外見は24歳なのに、歌い出せばとてもそうは聞こえない貫禄。”I Feel Pretty”自体は、ジャンルにこだわらなければ、いろいろなシンガーが歌っていますが、女性ジャズボーカリストがこの曲を歌っているのを見つけるのは結構難しい気がします。けれどもソフィーが歌うこの曲は、ミュージカル・映画版CDや、Sarah Vauhnのものとは一味も二味も違う魅力があると思いました。まず、豪快に歌い上げたり、たたみかけるように一気に盛り上がるところもなく、肩の力の抜けた軽快さがあり、それでいてとても深みのあるメローな感じに惹かれました。さらに、この曲には本来あるはずのないアンニュイな感じがひとつまみぐらい漂っているところが、明らかに新しいという気がしたんです。ミュージカルの中で歌われているわけではないのですが、原作とは違うストーリーを感じさせてしまう歌い方にもかなり感動しました。舞台版や映画版では、1人称でどっぷりはまって歌い上げるマリアと、おもしろおかしく、でもちょっぴり冷静にきれいにコーラスしながら、3人称的に突っ込みを入れるようなSharks女性陣との掛け合いが、非常に楽しいシーンとなっているのですが、このソフィー・ミルマンによるものは、一人で歌っているのに、なんとなーく2・5人称的な歌い方のような感じがして、結構好きだったりします。この歌の歌詞には、主語の「I/私」が繰り返し出てきますが、わずか4分50秒ほどの時間の流れのなかで、歌っているソフィーがこの「I」に語らせる感情に、とても豊かな起伏が感じられる気がして、ドラマが感じられます。また“See the pretty girl in the mirror there~”あたりの、ちょっと突き放した感じの歌い方も、個人的には結構好きだったりします。
彼女は学生時代に語学を勉強していて、また小さいときからロシア→イスラエル→カナダと移住を繰り返してきたので、多言語を操るマルチリンガルなのですが、そんなことによって、歌の「ことば」を伝えることに対して他のシンガーよりも敏感なところがあるのでしょうか。ライブのときも、Bein' Green(セサミストリートの歌)に関して、kids'songだけれど、(移住を繰り返してきた)自分にとっては、especially special songで、personal connectionのある歌だと言っていました。ミュージカル・映画版で慣れ親しんでいた、バーンスタインとソンドハイムによる”I Feel Pretty”という曲に、新しい世界を感じさせてくれたソフィー・ミルマン。この曲だけでなく、他の曲もおススメですので、よろしかったら、皆さんも是非聞いてみてください。ひとつの曲に関しても、聞く人それぞれの感じ方があって、それだからこそ面白いのだと思いますが、自分の探していたものがみつかるときって、やはりとてもうれしいですよね。ソフィーの歌う”I Feel Pretty”は、私にとっては、まさに「コレ!」という1曲でした。今回のライブでは残念ながら、”I Feel Pretty”は歌ってくれなかったのですが、眼の前のステージで歌うソフィーを見ながら、あんなふうに歌えたら素敵だろうなあ~、そんなことを感じたりして。勿論、私は歌など歌えませんけれども。ちなみにソフィーは、さきほどふれたOscar Petersonのライブで初めてジャズに開眼したのだとか。”I Feel Pretty”をファースト・アルバムで歌っているのには、もしかしてそんなことも関係しているのでしょうか。
ソフィーも数多くのジャズ・スタンダードを得意としていて、それ以外にもボサ・ノヴァ、シャンソン系の曲、故郷ロシアの曲、そしてさきほどもふれたセサミストリートの曲(It’s Not Easy Bein’ Green)まで何でも見事に歌いこなしてしまうシンガーで、本当に驚くのですが、「ジャズ・スタンダード」といわれている曲は、元はミュージカル作品で歌われていたものが多いです。そうした曲の数々が、ジャズのアーティストたちによって演奏されていくなか、元の作品から離れて、スタンダードとして定着し、いまだに進化をし続け、新たなストーリーを紡ぎながら歌い継がれ、演奏されてゆく・・・。現代のミュージカル界とジャズの世界の間の関係性には、かつてのような活発な行き来というのはないのかもしれませんが、ミュージカル作品の音楽をROCKなアレンジで見せることにより、ミュージカル界の素晴らしい名曲の数々が、新たな魅力で観客を魅了する、そんな機会が増えていったらよいな、と思います。すべてを一概に語ることはできないかもしれませんが、『TOMMY』を考えてもROCKと舞台芸術の世界の融合があったり、『ボーイ・フロム・オズ』、『ムーヴィン・アウト』、『マンマ・ミーア』などは、既存のポップスやRockの曲をミュージカル作品のなかで再構成したものです。今回のROCKIN’ Broadwayは、そうしたミュージカル界に見られる動きとは反対の方向性を持つ、つまり、ミュージカルの楽曲をROCKなアレンジで解体してみせるような、そんな試みなのかもしれませんが、ポップスやROCKの世界と接近していっているミュージカルの世界を考えてみれば、観客は潜在的に、今回のROCKIN’ Broadwayのような企画、待っていたのではないか、そんな気がするのは私だけでしょうか?
「ブロードウェイ・ミュージカル」と言えば、どうしても3年前の夏、クラシックな大作『ウエスト・サイド・ストーリー』を、「今・ここ」でしか見られない作品として魅せてくれた青山さんのタイガーを思い出します。これまでの宝塚の世界とは違うものを追求する和央さんと、ストーリーのあるミュージカルの世界で活躍してきた青山さんたちが、ROCKIN’ Broadwayという新たなステージで、何を見せてくれるのか。「コレ!」という嬉しい驚きに満ちたダンスや音楽とのたくさんの出逢いを予感させてくれるROCKIN’ Broadway、とても楽しみです。もうすぐ開幕。劇場に向かう日を指折り数えて心待ちにする毎日です。
ところで、気がついたらブログを開設してから1年が経過していました。カメのような歩き方で、マイペースに綴っている拙いブログですが、読んでくださる方がいるのだなあと思うと、励みになります。途中でお休みすることもありましたが、こうして寄り道しながら書き続けていられるのも、読んでくださる皆さんのおかげです。いつもありがとうございます。心から感謝しております。あちらこちらに寄り道しながらのブログですが、2年目も初心を忘れずに、「宝石採集」の記録をしてゆきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
