夏への扉、再びーー日々の泡

甲南大学文学部教授、日本中世文学専攻、田中貴子です。ブログ再開しました。

きなこ評論全集 クロード・レヴィ=ストロース「料理の三角形」

2009年08月22日 | Weblog
構造主義の祖ともいうべきクロード・レヴィ=ストロースの著作は『野生の思考』

が著名であるが、『レヴィ・ストロースの世界』という書名の翻訳書に収められて

いる「料理の三角形」は、料理の方法に着目して全世界の料理を分類し、複雑な現

象の基礎となる「構造」を明らかにしたことで知られている。

「料理の三角形」とは、すべての料理を、

 「生のもの」
 「火にかけたもの」
 「腐ったもの」

の三つに分類したものである。「腐ったもの」とは穏やかではないが、なれずし、

ニュクマム、シュールストレーミングなどの発酵食品がそれである。

この分類は人間界では通用するだろうが、こと、きなこにおいては異なっている。

きなこは「料理」しないうえ、ほとんどすべての「世界」を、

 「食べられるもの」
 「食べられないもの」

の二つに分類することで認識していると思われる。

 写真は、私の手をかじって「食べられないもの」であることを確認するととも

に、「害はない。ごはんをくれるよい人」であることをかみしめているきなこであ

る。


*なつかし思い出余話*
 ちなみに、私は学部一回生(関西では一年生をこういう)のとき、教養の授業で
レヴィ=ストロースの名を知った。講義中、うっかりうたた寝した後、黒板を見ると「revis....」といった綴りがあった。ジーンズの名前に似ていたので、隣の友人に「なんでリーバイス?」と聞くと、「ちゃうで、文化人類学のヒトらしいで」といわれたことがある。
 その後、学部三回生の冬休み、私はそれまでも一人でふらふら全国の伝統的な祭りや宗教儀礼などを見に行っていたが、その冬はちょうど時期が合ったので、高千穂の夜神楽に出かけた。宿などないので、神楽宿と呼ばれる会場の民家でお茶やご飯を接待してもらい、徹夜で見学した。当時は若い女子学生が一人でこういうところに来るのが珍しかったためか、「まれびと」のように歓待されたが、頂いた食事の味付けがすべて甘かった。聞くと、「砂糖が貴重品だったので、昔からお客さんにはお砂糖を増やすのがご馳走」だとのこと。焼酎のお湯割りがサントリーレッドの空き瓶数十本に詰められ、端から順に飲み干されてゆく。
 翌朝、お茶などいただきつつ神楽宿のお年寄りと話したところ、

 「三年くらい前か、フランスのエビさんが見に来た」

という。「海老?エビ?あ、フランスか」と思い、

 「レヴィ=ストロース、と言いませんでしたか?」

とたずねたが、おばあちゃんは「よう知らん」というばかりだった。
 二十年ほどたったとき、何かのインタビューでレヴィ=ストロースが高千穂を訪れたことがあることを知ったので、「エビ」さんの正体がやっとわかったのであった。
 神代からあるといわれる滝が凍る、寒いさむい冬のことである。
  

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