豪州東岸沖に、70隻の船が行列 石炭求め1カ月待機も
世界最大の石炭輸出国オーストラリアで、石炭の争奪戦が活発化している。東岸のニューカッスル港では、約70隻もの船が1カ月も積み込みを待ち、列をなす。世界のエネルギー消費は増加の一途で、埋蔵量が多い石炭の需要も増している。だが、石炭は石油や天然ガスよりも二酸化炭素(CO2)排出量が多い。地球温暖化対策に配慮した利用技術の開発は、緒に就いたばかりだ。
豪の石炭争奪 「日本へ中国へ」沖合に船の列
豪ニューサウスウェールズ州のニューカッスル港。シドニーの約200キロ北にある世界最大級の石炭輸出港だ。4月下旬、積み込み待ちの大きな船が水平線まで列をなしていた。船は全部で約70隻に上った。
船の半数以上は石炭が確保できていないのに並んでいるそうだ。「プロ野球のチケットを買おうと早めに並ぶと列が長くなるのと同じです」。関係団体がつくった調整組織の責任者アンソニー・ピットさんは指摘した。
直接輸入国が買い付けるわけではなく、輸出には約30社がかかわる。石炭を買う契約を結ぶより前に、各社が船を調達してしまって列になるという。
契約がないまま入港の順番が来ても、ペナルティーがあるわけではない。いわば、早い者勝ちだ。それで、列がふくれあがった。そのため、4月から入港を制限する割当制が始まったが、列がすぐ解消されるかどうかはわからない。
インフラの不備も拍車をかける。
港から車で西へ40分ほどの所に、良質の石炭が採掘できるバルガ炭鉱がある。露天掘り現場は深さ130メートル、長さ3キロ。腕の長さ100メートル、重さ5000トン余の巨大クレーンのような機械「ドラッグライン」が谷を掘り崩していた。こうした採掘場が周辺にいくつもあり、その輸出用石炭の年間生産能力は1億トン以上。だが、鉄道などの不備で、運搬能力が9000万トンしかない。
輸出されるのは、ほとんどが発電用の一般炭だ。80年代、輸出量は1400万トンだったが、06年には8000万トンと6倍近くに達した。船は日本向けが約6割、台湾、韓国が1割強で続く。中国向け輸出も2年前に始まり、年3~4%を占めるほどになったという。
中国は、石炭消費量が世界一。著しい経済成長で、電力の4分の3を占める石炭火力発電が、炭鉱開発以上に伸びているという。需要が急増していて、世界一の埋蔵量を持ちながら、生産が追いつかない。中国が今後、豪州からの輸入を増やす可能性も指摘されている。
■伸びる需要
石炭は、80年代半ば以降、1次エネルギー供給の2割余りを占め続けてきた。石炭の可採年数は155年あり、石油の40年、天然ガスの65年、ウランの85年より多いとされる。産地も世界各地にあることから、安定的なエネルギー源としての期待が高まっている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の石炭需要量は80年に約38億トンだったのが、04年には約56億トンと1.5倍近くに伸びた。30年には、さらにその1.6倍近い約89億トン程度になると予測される。
石炭の需要増は、世界のエネルギー需要が急激に伸びていることが背景にある。今後の予測でも、エネルギー供給に占める割合はほとんど変わらないが、需要増に伴い、使われる量も増えていくとみられている。
日本は世界最大の石炭輸入国。電力の約4分の1を石炭でまかなっており、この半分は豪州からの輸入に頼っている。比率は今後もあまり変わらない見通しだ。
豪州の石炭は、品質がよく、量が安定していることから、日本だけでなく、各国が「安定供給源」とみている。争奪戦は収まりそうにない。
■CO2が課題
ただ、石炭は、燃やすと石油の1.3倍、天然ガスの1.6倍ほど多くCO2を出す。温暖化対策への課題も多い。
環境と経済性を両立させるため、最近は効率的な石炭の使用技術「クリーンコールテクノロジー(CCT)」が注目を集めている。
火力発電所から出るCO2をそのまま回収して地中に閉じこめたり、石炭をガス化してエネルギー効率をよくしたりする技術だ。CO2の排出量を削減するための京都議定書の約束期間が来年から始まるのを前に、日本をはじめ各国で研究開発が加速している。
世界最大の石炭輸出国オーストラリアで、石炭の争奪戦が活発化している。東岸のニューカッスル港では、約70隻もの船が1カ月も積み込みを待ち、列をなす。世界のエネルギー消費は増加の一途で、埋蔵量が多い石炭の需要も増している。だが、石炭は石油や天然ガスよりも二酸化炭素(CO2)排出量が多い。地球温暖化対策に配慮した利用技術の開発は、緒に就いたばかりだ。
豪の石炭争奪 「日本へ中国へ」沖合に船の列
豪ニューサウスウェールズ州のニューカッスル港。シドニーの約200キロ北にある世界最大級の石炭輸出港だ。4月下旬、積み込み待ちの大きな船が水平線まで列をなしていた。船は全部で約70隻に上った。
船の半数以上は石炭が確保できていないのに並んでいるそうだ。「プロ野球のチケットを買おうと早めに並ぶと列が長くなるのと同じです」。関係団体がつくった調整組織の責任者アンソニー・ピットさんは指摘した。
直接輸入国が買い付けるわけではなく、輸出には約30社がかかわる。石炭を買う契約を結ぶより前に、各社が船を調達してしまって列になるという。
契約がないまま入港の順番が来ても、ペナルティーがあるわけではない。いわば、早い者勝ちだ。それで、列がふくれあがった。そのため、4月から入港を制限する割当制が始まったが、列がすぐ解消されるかどうかはわからない。
インフラの不備も拍車をかける。
港から車で西へ40分ほどの所に、良質の石炭が採掘できるバルガ炭鉱がある。露天掘り現場は深さ130メートル、長さ3キロ。腕の長さ100メートル、重さ5000トン余の巨大クレーンのような機械「ドラッグライン」が谷を掘り崩していた。こうした採掘場が周辺にいくつもあり、その輸出用石炭の年間生産能力は1億トン以上。だが、鉄道などの不備で、運搬能力が9000万トンしかない。
輸出されるのは、ほとんどが発電用の一般炭だ。80年代、輸出量は1400万トンだったが、06年には8000万トンと6倍近くに達した。船は日本向けが約6割、台湾、韓国が1割強で続く。中国向け輸出も2年前に始まり、年3~4%を占めるほどになったという。
中国は、石炭消費量が世界一。著しい経済成長で、電力の4分の3を占める石炭火力発電が、炭鉱開発以上に伸びているという。需要が急増していて、世界一の埋蔵量を持ちながら、生産が追いつかない。中国が今後、豪州からの輸入を増やす可能性も指摘されている。
■伸びる需要
石炭は、80年代半ば以降、1次エネルギー供給の2割余りを占め続けてきた。石炭の可採年数は155年あり、石油の40年、天然ガスの65年、ウランの85年より多いとされる。産地も世界各地にあることから、安定的なエネルギー源としての期待が高まっている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の石炭需要量は80年に約38億トンだったのが、04年には約56億トンと1.5倍近くに伸びた。30年には、さらにその1.6倍近い約89億トン程度になると予測される。
石炭の需要増は、世界のエネルギー需要が急激に伸びていることが背景にある。今後の予測でも、エネルギー供給に占める割合はほとんど変わらないが、需要増に伴い、使われる量も増えていくとみられている。
日本は世界最大の石炭輸入国。電力の約4分の1を石炭でまかなっており、この半分は豪州からの輸入に頼っている。比率は今後もあまり変わらない見通しだ。
豪州の石炭は、品質がよく、量が安定していることから、日本だけでなく、各国が「安定供給源」とみている。争奪戦は収まりそうにない。
■CO2が課題
ただ、石炭は、燃やすと石油の1.3倍、天然ガスの1.6倍ほど多くCO2を出す。温暖化対策への課題も多い。
環境と経済性を両立させるため、最近は効率的な石炭の使用技術「クリーンコールテクノロジー(CCT)」が注目を集めている。
火力発電所から出るCO2をそのまま回収して地中に閉じこめたり、石炭をガス化してエネルギー効率をよくしたりする技術だ。CO2の排出量を削減するための京都議定書の約束期間が来年から始まるのを前に、日本をはじめ各国で研究開発が加速している。