日本の小学校、中学校で実施されている学校検診のなかでの「脊柱側弯検診」というシステムは、世界の中でも誇るべき特異的なものと言えると思います。私たちは、それが「当たり前」のこと、あるいは「意識もしない」というのが現実だと思いますが、それはいわば日本人が普段目にしている風景や日常生活が「当たり前すぎて」、その価値を忘れている-意識もしない。ということにとても似ていると感じます。
例えば、次の3か国(ノルウエー、カナダ、イギリス) -スクリーニングシステムが廃止された国- の現状報告を見ていただくとき、私たちがいかに恵まれた環境にあるかを実感してもらえるのではないでしょうか
スクリーニングは過去から現在にいたるまで、そのメリットの有無について議論がなされてきました。米国でも、医学会からの要望が提出されているにも関わらず国を挙げて実施という状況にはありません。そのもっとも大きな理由は、早期発見したからといって治療効果にどう影響するのかの医学データがない。ということが挙げられます。ノルウエーもカナダもイギリスも、かつてはスクリーニングが行われていた国でしたが、米国で停止されたことが影響しているのでしょう、次々と国のシステムとしてのスクリーニングは廃止されていきました。その廃止から10年、20年がたち、やはり何かおかしいと感じる先生がたが廃止後の実態調査をしたのが上図に示した内容です。 (それぞれの医学論文はグーグル検索により入手することができます。)
学校という子ども達が集団検診できる場を失い、我が子の側弯症が発見される「機会」は、本人が気づく・両親が気づく・家族の中の誰かが気づく・友人が気づく、という形が大半となっていきます。その傾向はこれら3か国全てに共通するものです。
そして、その発見は、遅くなることはあっても早まることはありませんでした。その結果が、上図に示した如く「手遅れ状態」のコブ角という形になって子ども達を襲うことになりました。
でも、早期発見したからといって、メリツトがあるのか? という先の疑問に対する答えは見つかったのでしょうか? 早期発見のメリットがなければ、予算の無駄遣いではないか! という壁を壊しうる医学データは?
それが見つかったのが、この図中のグラフということになります。これは「Effect of Bracing in Adolescent with idiopathic scoliosis」という2013年に発表された文献からのものです。
このデータにプラスして、これまでに医学情報として蓄積されてきたところの、初診時にコブ角25度というメルクマール(スレッスホールド:閾値)を踏まえるならば、25度から装具療法(1日13時間以上)を骨成熟完了まで継続することができるなら90%の患者は手術を避けうる。ということが、このデータから導くことができるのです。
日本は、脊柱側弯検診が国の法律として「システム化」されていることの結果として、学校検診(一次検診)で発見に努めている異常は 10度以上からとか、15度以上からとか、のようにその「閾値」が小さな角度から見つけることが目標とされています。従って、一次検診で異常が見つかり、二次検診(レントゲン検査)で確定診断した際も、かなり低いコブ角で発見することができるわけです。
しかし、これはある意味「理想では」という枕詞が付いているのが、私たちが抱える課題となっています。
学校検診の実施は国の法律で義務付けられています。しかし、その具体的方法は、各自治体の判断によります。つまり、上に記したように、地域によって、検診精度に大きな差が生じている。というのが現実に存在します。九州大学の報告によれば、この地域での発見率は40%程度、一方、新潟や秋田では80%前後と、発見率に二倍の開きがあります。もちろん実施方法が一律ではありませんので、「率」の過多だけをもってAシステムがBシステムより優れている、という単純解ではありません。しかし、何かがそこに影響していることは確かです。そして、その何か、というのは地域の学校関係者、医療機関関係者そして行政関係者にはおそらく見えていることがあると思います。
近年新たに法律が改正され、運動機能検診も加味された形での学校検診システムがスタートしています。
私たちは、そのシステムがより効果的に実績を持つように、協力できることには積極的に関与していくことが、ひいては子ども達の健康を守ることに繋がると考えます。
せっかく得られてる世界に誇りうるシステムを「当たり前」と考えずに、このシステムをより有効活用できるよう、ぜひとも皆さんの地域行政の施政とその結果報告に関心を持たれるように期待しております。
august03