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特発性側弯症:スクリーニングの日米の対応差 (スクリーニングは効果がないとする米国に対して)

2018-01-25 16:02:38 | 脊柱検診スクリーニング
初回記載:2018年1月24日
追記記載:2018年1月25日

関連文献
◇2015年 徳村光昭他「学校健康診断における運動器検診(2016年度実施案)-整形外科を専門としない学校医による実施法-慶応保健研究 33(1)
◇2016年 白石卓也、「脊柱側弯症学校検診における問診票の保護者に対する効果」日農医誌 64巻5号
◇2017年 徳村光昭他「小中学校健康診断における運動器検診:2016年度実施成績と実施上の要点」慶応保健研究 35(1)
◇2017年 藤井陽生他「思春期特発性側弯症患者の発見理由の検討」整形外科と災害外科 66:(1)

PDF入手方法- グーグルスカラーGoogle schoolerにてキーワード「側弯症 スクリーニング」にて。

・2016年度実施案より抜粋 :
「運動器診察の手順としては,児童・生徒が診察室に入り椅子に座った状態で,内科的診察と同時に,まず胸郭の視診から漏斗胸,鳩胸などの胸郭変形の有無を確認する。次に,脊柱の診察として,後ろ向きで立たせて,肩の高さや肩甲骨の突き出し方に左右差がないか観察し,その後両腕を下に垂らした状態で前屈をさせて脊柱側彎による肋骨隆起,腰部隆起の有無を確認する。胸郭変形,脊柱側彎が疑われる者については,医療機関への受診が済んでいるか否かを確認し,医療機関へ受診していない者は,二次検診候補者名簿に追加,列記する。」
「3 年間の施行期間の運動器診察では,「脊柱側彎が疑われる者」(4.4%)が最も多くみられた。」
「運動器診察で脊柱側彎が疑われ,医療機関を受診していない者」(0.8%)
「運動器検診の結果,二次検診の対象と判定された者については,保護者宛てに通知し整形外科専門医を受診するように指示」
「試行期間の3 年間の二次検診受診率は,76.7%であった。整形外科専門医による二次検診の結果では,特発性脊柱側彎症と診断された者が最も多く(二次検診受診者の34.7%)」「特発性脊柱側彎症の1 名は側彎角度が大きく,手術療法の適応となった」
児童・生徒,保護者に運動器疾患についての十分な知識がない場合には,運動器検診で問題点が疑われ二次検診の対象者となっても,大半の者が整形外科専門医を受診しないことが報告されている

・問診票の効果より抜粋:
「問診票の活用は、保護者に対する側弯症の啓発および学校健診に対する関心の向上につながっていることがわかった」「保護者が日ごろから子供の体型の変化に気を付けるようになるため、側弯症の早期発見につながる可能性が示唆された」
保護者に記載を依頼し、検診前にその問診票を回収し、問診票の回答を参考に検診を行った



「問診票導入後に子どもの体型に気をつけるようになったと回答した保護者は61%であり、問診票は病気の理解につながったと回答した保護者は88%」
「問診票を配布し回答してもらう方法は、保護者や養護教諭の理解が得られれば実施可能で、それほどの手間や費用はかからない。学校医が視触診する検診と併用すれば、あらかじめ注意深く診察しなければならない児童を抽出でき、学校医は保護者との二重確認のもと側弯症の有無を判断できる」

・2016年度実施成績より抜粋:
「これまでは脊柱側弯検診を実施していない学校も多く存在したが、2016年度からは運動器検診が学校健康診断の必須項目となったことから、全員を対象とした実施が必要である」「思春期女子の裸の背中の診察が躊躇われる場合には,体操着などの薄いT シャツを着たままの状態でシャツの皺を伸ばして上記の診察を行うことで,十分に正確な脊柱側彎検診が可能である。」

・発見理由の検討より抜粋:
「対象は2008年から2015年に九州大学整形外科を受診したcobb角10°以上の思春期特発性側弯症259例」
「発見時平均年齢は学校検診で発見された群は、他で発見された群と比較して統計学的に有意に年齢が早かった」
「一次検診で側弯を指摘されて二次検診を受けた患者の割合が近年30~40%と低下しているという報告がある。一方、教育委員会と連携し保護者への連絡や検診の手配を行っている市町村では二次検診の受診率が98%と極めて高いという報告もあり、保護者への啓蒙及び教育機関との連携が重要であると考えられる」



2018年1月25日追記:



2004年、米国の US Preventive Services Task Force (USPSTF)は、これまでの医学研究をもとに特発性側弯症に対するスクリーニングを D評価としました。
D評価とは「スクリーニングすることの効果が認められない、あるいは逆にスクリーニングすること自体が対象者に不利益(....この場合は、長期に渡る装具療法が患者に苦痛を与えるばかりで、効果がない。という意味)を与える」というもの。

Google検索から、「Evolving Recommendations for Scoliosis Screening. A Compelling Need for Further Research」John F.Sarwark, Matthew M Davis :JAMA January 9, 2018 Volume 319, Number 2 という文献を見つけましたので、そこから抜粋、関連資料も検索した結果をご紹介します。

USPSTFは2004年に発出したG評価を I評価に更新した。(I評価とは「これまでの医学研究は不十分であり、スクリーニングすることの利益・効果と不利益とを評価するには不足している」というもの)
もし特発性側弯症に対するスクリーニングを実施する際には、スクリーニングによる効果はいまだ不確実であるということを参加者に説明する必要がある。

D評価(ネガティブ)からI評価という中立的評価に変更された背景としては、近年の調査・研究により装具療法や側弯症に対する理学療法の効果が確認できるようになったことがある。確かにまだ不確かなことが多く残ってはいるが、新たな調査や研究がUSPSTFの考え方を変えたことは確かである。

この新たな調査や研究として、下記のデータベース調査報告(Screening for Adolescent Idiopathic Scoliosis Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force)が引用されており、この中で多くの研究・調査報告が紹介されており、今後その中から幾つかをピックアップしてご紹介していくことを計画しています。

(comment by august03)
・日本国内では、学童に対する側弯症検診の実施をネガテイブにとらえている親御さんはいないと思います。おそらくそれは米国のこどもを持つ親御さんとて同じだと想像します。学校での側弯症検診実施の対応を日米比較してみますと、そこかに垣間見えてくるのは、次の2点ではないでしょうか。

1) 医学会の考え方・スタンスの違い
 単純な言い方をすれば、日本は整形外科学会の働きにより国の法律として、学校検診制度の一環として側弯症検診が組み込まれていることは、こどもを持つ親御さんにとってはありがたいことだと思います。早く発見することができれば、その後の治療効果に差がでてくることは、上記国内報告にも述べられているとおりです。

2) 情報の不足はいまだに続いている、という事実
 これも単純な言い方をすれば、子どもを持つ親御さんや祖父母の皆さんの中に「特発性側弯症」という病気があることを知っている人が一人でもいれば、おそらく学校検診より前に早期発見につながると思いますが、残念ながらいまだに側弯症を認知している方は非常に少ない。という現実も浮き彫りになっています。

どうすれば広く多くの親御さんに、お子さんの成長時に背中を見て下さい、ということを啓蒙できるのでしょう ........ Step開始以来、10年来の宿題です。

august03


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