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そくわん症手術 20年後の身体の堅さは...

2007-12-24 00:45:22 | 側弯症手術について
今週は20代、30代になってからの手術ケースについてご紹介してきました。
10代で手術を受けられる方にとっても、また20代30代で手術を受けられる方に
とっても、脊柱にチタン製ロッドやスクリューの入ったご自分の身体が、将来どれだけ
曲がるのかについては不安もおありだと思います。

次の文献は調査対象者は10代の思春期特発性側弯症で手術した患者さんがたの
20年後の身体の曲がり具合を調査したものです。大人になってから手術を受けられ
た患者さんにとっても、ここで示されているデータはひとつの目安になると思い
ます。

専門誌 Spine 2006 Feb
タイトル Spinal range of motion, muscle endurance, and back pain and
function at least 20 years after fusion or brace treatment for
adolescent idiopathic scoliosis: a case-control study.
特発性側弯症にて手術(または装具療法をした)患者の20年後の
     脊柱の動き、筋力、腰痛等
医療機関 スゥエーデン Göteborg University

(概要を簡単に説明すると以下のようになります)
1968年~1977年にかけて思春期特発性側弯症で手術した156人、装具療法の127人の
20年後のアウトカムを調査した。比較対照として側弯症ではない同年代の100人と
比較した。その結果は側弯症ではない人たちと比較した場合、手術患者の脊柱の曲
がり具合や筋力は劣っていた、しかし、日常生活における動作機能には制限は
なかった。

(以下は本文中の説明より抜粋)
Range of motion of the lumbar spine was significantly decreased for both BT
and ST patients compared with controls, a reduction with 61% for ST and
37% for BT (Table 4). ST patients also had significantly reduced thoracic
as well as cervical spine motion, and the distance between fingertips and
floor was reduced in ST patients (but not BT patients) in comparison with
the controls (mean value for fingertip–floor distance: ST, 12.3 cm;
CTR, 4.1 cm, P 0.0001).
側弯症ではない人に比べると、手術または装具の患者では腰椎部のROM(可動域)は
かなり減少しており、手術患者では61%、装具患者では37%の減少であった。
手術患者では頸椎および胸椎部の動き、および背中を曲げたときの床から指先まで
の距離も減少していた。床から指先までの距離は手術患者の平均は12.3cm、側弯症
ではない人の場合平均は 4.1cmであった。

the fingertip–floor distance, i.e., the mobility that the patient uses in
daily living activities, as reaching out for things down at, for example,
the floor, did not differ between those with a high and a lower ending
fusion. This indicates that the lost mobility of the fused spine might have
been taken over by increased motion by the hip joint or other joints of the
lower extremity. This might be the reason for having a good functional
mobility despite a stiff spine and be the body’s own way of protecting the
spine from increased stress over the remaining free disc levels.
手術患者において、指先から床までの距離等、日常生活における動作、手をのばして
モノをとる動作、等について、手術した部位による違いは見られなかった。
脊柱を固定したことによる背中の可動域減少は、股関節や他の関節(膝や足首等)に
よって代償されていることが示唆された。背中は「硬い」かもしれないが、十分な
動作機能が維持されているのは、そのようなことが理由であろう。また背中が
「硬い」ことによってストレスが増えることを他の自由な部分で補うという働きを
している。

 ..............................................................
(august03より)
添付表はこの文献中の可動域(ROM)等を示したものです。
本文中にもありますように、手術した患者さんの20年後の筋力、曲がり具合は
側弯症ではない人達に比べると減少している、ということですが、この表をもとに
具体的な数値として見てみますと、
                         手術患者
 Thoracic spine (胸椎) ROM 28.2(11 - 52)   14.4(0 - 50) 度
 Lumber spine (腰椎) ROM 87.3(56 - 113)  34.4(0 -70) 度
 Distance finger and floor 4.1(0 -30)     12.3(0 -49) cm
 flexion (屈曲)       6.4(2 -9)     3.6(0 - 7) cm
 extention(伸展)       4.9(1 -10)   1.5(0 - 6) cm
 rotation to right(右回旋)  40.6       28.7 度
 rotation to left(左回旋)  40.7       28.4 度

 左側が側弯症ではない人たちの数値、右側が手術患者の数値です。
 いわば左側は手術前の身体の動き、右側は手術後の患者の動きと読み替えること
 もできるでしょう。
 これらの数値を見比べてみるとわかりますように、手術前と後では、その数値が
 だいたい半分に減少していると読むことができます。
 どういう感じになるか、実際に身体をうごかしてみるとわかると思います。
 背中が曲がる角度、腰を回してみて回る範囲、それらが半分程度に減った感じを
 感覚として掴んでみてはどうでしょう。

 では、次に指先を伸ばして床につけてみましょう。
 手術前のひとたちは、0cm(床にぴったりついた人)からマイナス30cm、平均4cm
 手術後のひとたちは、0cm(床にぴったりついた人)からマイナス49cm、平均12cm

 スポーツ選手であるならば、これらの動きの制限は過酷な現実かもしれません。
 しかし、普通の生活を送るうえで、これらの制限が日常動作にハンディを及ぼす
 ものと感じられたでしょうか?

 さらに大切なことは、背中の曲がりが制限を受けても、日常動作では、背中の
 制限を身体の他の部分が補ってくれるということです。
 手術を受けられた患者さんのコメントをネット上で読む機会がありますが
 皆さん、日常動作、生活には支障がない。とおっしゃるのは、このような事実に
 よるものなのです。
 過激なスポーツはできませんし、避けるべきと思います。
 しかし、普通に暮らしていくうえには何の制限も生じることはありません。
 女性として、結婚し、妊娠し、出産、子育てをしていくことに身体の動きとして
 の制限は、手術によって生じることはありません。
 腰痛が残るかもしれず、あるいは腰痛に悩まされる患者さんもいることが他の
 研究調査で示されていました。しかし、そのような腰痛疾患は側弯症手術患者
 さんだけに生じるものではなく、加齢とともに、あるいは、他の疾患によっても
 生じる可能性のあるリスクです。

 できれば、手術は避けたいものです。
 早期に発見し、早期に装具療法をすることで大半の患者さんは手術をすること
 なく普通の生活を送ることができます。残存するコブ角が小さければ小さいだけ
 老齢になってからの変形による手術のリスクも減少させることができます。
 しかし、もしも、10代、20代、30代で手術することになったとしても、
 それは新しい「身体」を手に入れることであって、そこから新しい人生が始まる
 のだと思います。

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 ブログ内の関連記事
左のカテゴリーより「20年後のアウトカム」を参照ください


STUDY DESIGN: A consecutive series of patients with adolescent idiopathic scoliosis (AIS), treated between 1968 and 1977 before 21 years of age with either distraction and fusion using Harrington rods (ST, n = 156; 145 females and 11 males) or with brace (BT, n = 127; 122 females and 5 males), were followed at least 20 years after completion of the treatment. OBJECTIVES: To determine the long-term outcome in terms of spinal mobility and muscle strength and its possible correlations to present back pain and function in patients surgically or brace treated for AIS. SUMMARY OF BACKGROUND DATA: Few reports on long-term outcome on these variables have previously been presented for this group of patients. METHODS: A total of 135 (87%) of ST and 102 (80%) of BT patients underwent a complete examination by two unbiased observers incl. evaluation of lumbar muscle endurance and spinal mobility, curve size (Cobb method), validated questionnaires in terms of general and disease-specific quality of life aspects, as well as present back function and pain. An age- and sex-matched control group of 100 persons was randomly selected and subjected to the same examinations. RESULTS: For both ST and BT groups, lumbar spinal motion as well as muscle endurance were significantly decreased compared with controls. For ST patients, better lumbar extensor and flexor muscle endurance or lumbar spinal mobility correlated with a better physical function. The length of fusion into the lumbar spine correlated inversely with lumbar range of motion, but the finger-floor distance was not affected. BT patients with reduced lumbar spinal mobility experienced lumbar back pain more often than controls. CONCLUSIONS: For both brace treated and surgically treated AIS patients, spinal mobility and muscle endurance were reduced more than 20 years after completed treatment. The physical function was not severely restricted.

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1 コメント

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いつも感謝です (ランママ)
2007-12-26 17:32:54
いつもaugust03のブログにどれだけ助けられているかわかりません。
娘の病気が分かって半年、さんざん迷いましたが、先週手術日を決めました。それでもまだ親はこれでよかったかと迷う日々です。

しかし、もしも、10代、20代、30代で手術することになったとしても、
 それは新しい「身体」を手に入れることであって、そこから新しい人生が始まる
 のだと思います。

というあなたの言葉にとても励まされました。どうしても体に傷をつけるというイメージから抜け出せないでいたので。本当にそういうイメージを持たないといけませんね。ありがとうございます。本当に感謝です。どうかブログ、大変でしょうが、ここで救われている人がたくさんいると思います。無理せず続けていってくださいね。今後もお願い致します。
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