Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

SS 第一歩 (オスカル11歳 アンドレ12歳)

2014-07-05 18:51:44 | SS 子ども時代の話
第一歩 (オスカル11歳 アンドレ12歳)
 自室に戻ったアンドレは、今さっき旦那さまから言われた言葉を何度も何度も頭の中で繰り返していた。

「アンドレ お前は常にオスカルの従者として そばにつき オスカルを守るのだ。」

 その場ですぐに「は---はい!! 旦那さま」と答えたが、果たして自分に従者の役目は務まるのか。オスカルを守りきれるのかアンドレは不安になった。だが他に誰がオスカルを守るのだ?やはりこれは自分に与えられた任務なのだ。近衛隊への正式入隊を前に、まず士官学校へ通う。いよいよオスカルの軍人としての第一歩が始まる---とアンドレは感じた。今までは穏やかなジャルジェ家の敷地内で共に学び遊んだ二人が、外の世界に飛び出していく。将軍から士官学校行きを伝えられた時、オスカルは両手をしっかりと握りしめ、元気よく「はいっ 父上!!」と返事した。その姿に不安など微塵も感じられなかった。まるでこの時が来るのを待っていたかのように。だがアンドレは違った。

 早くに両親を亡くしたアンドレは8歳で、たった一人の身内であるばあやを頼りに、ばあやの奉公先であるジャルジェ家に引き取られた。ジャルジェ家の6女オスカルは、将来王家を守る軍人になるため、幼い頃より男の子として育てられた。アンドレはオスカルの剣の相手をしたり、時にはふざけっこしてじゃれあったりと共に学びながら過ごし、気がつけば4年の歳月が流れていた。オスカル11歳。アンドレ12歳。少しずつ体が変わり始める年頃でもある。オスカルは貴族、アンドレは平民。折に触ればあやは「オスカルさまとおまえは身分が違うのだから---。」と口にしたが、アンドレにはまだ完全にばあやの言うことが理解できていなかった。自分はこれから先もずっとオスカルのそばにいて、いずれは王家を守る近衛隊にオスカルの護衛として入り、一緒に剣を持って戦ったり、銃を構えて敵を狙い撃つのだと漠然と思っていた。でもその日はまだまだずっと先。オスカルと共にお屋敷で武術や学問を学ぶ日々が、しばらく続くだろうと考えていた矢先、将軍から告げられたオスカルの士官学校行き。

「オスカルが遠いところに行ってしまうみたいだ。」アンドレは何となく寂しくなった。今までは何をするにも一緒だった二人。だが士官学校へ行けば、そうはいかないだろう。オスカルが学校で学んでいる間、自分はどこか違う部屋で待っているのだろうか?オスカルが共に学ぶ仲間や剣の稽古をする相手は、自分ではなくなる。オスカルの周りは少年だらけ。もう自分のことなど、見てくれなくなるかもしれない。そう思うと「ばあやが言っていたことって、こういうことなのかな?」と思えてきた。もしオスカルが、誰かを好きになったら?そしてそいつが貴族だったら?もう僕はオスカルのそばにいられなくなるのだろうか?じゃあ僕はどこへ行けばいい?そこで何をする?でも旦那さまは「常にオスカルの従者として そばにつき オスカルを守るのだ」と言っていた。だから僕はオスカルから離れることはない。僕はいつまでもずっとオスカルのそばにいたい。いつまでも。

 窓の外を見た。いつもと同じ青い空。ジャルジェ夫人がばらを摘み、オスカルは木陰で読書している。
オスカル、僕は嬉しい時も悲しい時も、いつも君のそばにいるよ。君が苦しい時は、僕が慰めてあげよう。僕らはいつまでも一緒だよ。


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