Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

SS からかい (オスカル22歳 アンドレ23歳)

2014-07-09 21:52:51 | その他

            SS からかい (オスカル22歳 アンドレ23歳)

 アントワネット23歳の誕生日を祝い、鏡の間で行われた盛大な舞踏会の警護を終え、オスカルとアンドレは馬車で家路に向かっていた。華やかな舞踏会だった。貴族の娘たちがいつも以上に豪華に着飾って、鏡の間を一層きらびやかにしていた。職業柄、オスカルは会場に居合わせる人たちにまんべんなく注意を払う。不審な動きをする者はいないか、目線が怪しい者はいないかなど人物観察はオスカルの職務上欠かせない。けれど今日は不審者以外にも、気になる動きがあった。アンドレに向けるある娘のうっとりとした視線である。あの娘は確かE侯爵家の三女、名前はジュリアだったか。年の頃は18歳くらいだろうか?頻繁にアンドレに視線を向けては、彼の動きを追っていた。アンドレはその娘の視線に気づいていない。彼は彼で従者としてオスカルのそばで、舞踏会を見守っていた。

 馬車の中で斜め向かいに座るアンドレは23歳。幼いころからずっとオスカルと一緒に育ってきたから、あまりに身近すぎてじっくり顔を眺めることはなかったが、今こうして近い距離でよく見てみると、なかなかハンサムで男前である。ラテン系なのだろうか、黒い髪と黒い瞳に熱い情熱を秘めているように感じられる。だからあの娘がアンドレに夢中になるのも道理である。ふふ---オスカルはアンドレをからかってみたい衝動に駆られた。

「アンドレ、おまえは今までに誰かを好きになったことはあるのか?」いきなりこんなことを聞かれ、アンドレはとても驚いた。いったい突然何を言い出すのだ、オスカル。びっくりするじゃないか。
「い---いないよ。(俺はずっとおまえだけを見つめて生きている と言いたかったがぐっとこらえた。)」
「そうか。いやぁ、E侯爵の娘、確かジュリアだったか、今日の舞踏会で彼女はずっとおまえの動きを目で追っていたぞ。もしかして、おまえに気があるのではと思ったのだ。」
「オスカル、やめてくれよ。俺は彼女と話したことなんてないし、第一俺は平民だ。侯爵家の令嬢が俺に恋をするなんてありえない。」
「そうだろうか?しかし恋は盲目という諺がある。おまえはその気がなくても、向こうはおまえのことをどう思っているかなぁ。」
「やめてくれ。俺は---俺は---。」
「俺は何だ?先を続けろ。おまえ、ちょっと顔が赤いぞ。どうしたんだ?」
「いや、何でもない。」
本当は「俺はおまえしか見つめていない。今までも、そしてこれからも。」と言いたかったが、やめておいた。今はまだそれを言う時ではない。いや、一生言う機会はないだろう。おまえは貴族、俺は平民。
「アンドレ、おまえ、よく見るとなかなかハンサムだ。若い娘たちがおまえに恋をしてもおかしくない。屋敷の侍女たちの中に、いい娘がいないのか?おい、私に遠慮するな。恋人ができたら、紹介してくれ。おまえは23歳だ。いつ結婚してもおかしくない年齢だぞ。いったいどういうタイプが好みなんだ?お前なら今までに『あなたのこと、好きです。』と告白されたり、恋文をもらったことがあってもおかしくないはずだが---。」そういうとオスカルはニヤリと笑った。

「じゃあオスカル。俺からも質問するぞ。おまえ誰か好きな人はいるのか?」
「何だ、反撃に出るのか?だいたい、軍服を着て剣を振り回す女に惚れる男がどこにいる?」最初は笑っていたオスカルだが、ふと視線を下に落とすと一瞬悲しげな顔を見せた。アンドレは「ここにいるぞ。」と言いたかった。しまった、いけないことを聞いてしまったか?でもオスカル、俺は知っているぞ。おまえがずっとフェルゼン伯爵のことを想っていることを。けれどフェルゼン伯の心は王妃さまに向けられており、おまえは報われない恋心を抱いていることを。オスカル、ほんの少しでも俺を幼馴染でなく、男として見ることはできないか?ああそうさ、俺は平民だ。貴族のお前とは釣り合わないな。あぁ、身分違いか、いまいましい。けれど---けれどおまえを見つめ、愛することは許されてもいいだろう。

 オスカルは窓の外を見ながら答えた。「いると言えばいる。いないと言えばいない。」
「なんだ、まるで禅問答みたいだな。それで、そいつはどんな男なんだ。」
「とても遠い男性(ひと)だ。------アンドレ、もうこの話はよそう。」
「すまなかった、オスカル。」
「屋敷に戻ったら、久しぶりにワインでも一緒にどうだ。たまにはワイングラスを傾けながら、おまえとじっくり話すのも悪くないな。」
「わかった。あとで部屋に持って行くよ。今夜は冷えた白を飲みながら、久しぶりに双子座でも眺めないか?最近は星を見る余裕すらなかったから----。」
「それもいいな。ありがとう、アンドレ。それからおまえと俺、どっちが先に酔いつぶれるか競争するか?」
「おいおい、やめてくれよ。おまえのほうが強いに決まっている。俺が先に参ってしまって、おまえの部屋で熟睡するわけにいかないしな。こんなこと、おばあちゃんに知れたら、どえらく叱られるだろうな。」

 結局、オスカルの本音は聞き出せなかった。けれど聞いたところでどうなるものでない。俺たちはきっとこれからもこんな感じで、共に生きていくのだろう。あぁ、だけどオスカル、おまえが俺の気持ちに気づく日は来るのだろうか?気づいてほしい。でも気づいてどうなる?ならば今のままがいいのかもしれない。だがいずれおまえは、その身分にふさわしい男と結ばれるのだろうか?いつも最後はここに行き着いてしまう。考えても仕方ない。だがこれだけは言える、俺は一生お前だけを愛し続けると。



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