Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

SS 7月2日夜、あともう少しの時間

2014-07-02 22:16:04 | SS 恋人同士
 6月29日、アンドレが命を賭けてジャルジェ将軍の成敗から、オスカルを救った。将軍がオスカルの部屋を出ていったあと、オスカルはしばらくテーブルに手をつき黙りこくっていた。さまざまな思いがオスカルの胸を去来した。自分が本当に愛していたのは、そして自分をいつも支えてくれる優しいまなざしの持ち主は誰なのか、今はっきりとわかった。

 何とか事態が丸く収まったのを見届けて、アンドレも部屋を去ろうとしたその時、オスカルがおもむろに左腕を伸ばし、アンドレの行く手を遮った。そして---涙を浮かべながら、アンドレを愛していることを告白した。アンドレは実に20年近い片思いがようやく報われ、二人とも涙を流しながらしっかりと抱き合い、くちづけを交わした。

 その日から二人はこれまでの年月を埋めるかのように、二人だけで過ごせる時間を大切に、宝物のように過ごした。厳しい任務を終え、軍人であることを忘れられる時間。オスカルはアンドレの暖かい胸に飛び込み、彼の逞しい腕、広い背中に懐かしい故郷を感じていた。
「アンドレ、おまえは幼い頃、一緒に剣の稽古をしては、私に突かれてよく泣いていたっけ。あのアンドレが----いつのまにこんなに大きくて逞しい男性になっていたのだろう。あぁ、ここはとても暖かいそして懐かしい場所。ここにいれば何も恐れることはない。」オスカルはアンドレの腕の中で幼子のように、しっかりと抱きしめられているだけで安心し幸せだった。アンドレもそんなオスカルがいとおしくてたまらなかった。絶対に自分の胸に飛び込んでくることはないだろうと思っていた相手だけに、今自分の腕の中で安心しきって体を寄せてくるオスカルを、このままずっと永遠に抱きしめていたいと思った。自分は従卒としてどんな事態が起ころうとも彼女を守り抜くのだと決めていた。オスカルのためなら、自分の命を差し出しても惜しくない----そんな思いがいつの頃からか芽生えていた。オスカル愛しさに、思わず彼女を押し倒してしまったこともある。けれどその後もオスカルはアンドレを遠ざけることなく、むしろアンドレなしでは自分は思うように動けないことを悟っていた。

 二人だけで過ごすひと時はそれまでもよくあった。オスカルの部屋でアンドレはバイオリンの演奏を聴いたり、雑談に興じたりしていた。しかし異性として幼馴染と抱き合うことに慣れていないオスカルは、恋人同士になって最初の頃は緊張で体がこわばった。アンドレもそんなオスカルの気持ちがよくわかっているから、自分の欲望を押しつけるようなことは避けていた。オスカルが怯えないよう、まるでガラス細工を扱うかのように優しく彼女の体に触れ、愛しさを伝えた。それでも次第に愛撫が激しくなっていく。触れるか触れないかの軽いくちづけは、やがてお互いの舌を絡め合うキスへと自然に移っていった。アンドレの熱っぽくて、弾力があり、吸うようにしっとりとオスカルのくちびるを押し包み、忍びこむくちづけだけで、オスカルは自分がアンドレに愛されていることを実感できた。と同時になぜもっと早く彼の気持ちに気づいてあげられなかったのか、悔む思いも生じた。そんな時、オスカルはさらに激しくアンドレのくちづけを求めた。アンドレもオスカルの気持ちに応えようと、自分の熱い思いをくちびるそして指先に託し、彼女を愛撫することで、自分の思いを伝えた。オスカルのブロンドの髪を、まるで手櫛で梳かすように何度も触れた。アンドレの指の間からサラサラとこぼれ落ちるブロンドの髪。柔らかい耳たぶを軽く噛むと、オスカルはうっとりと眼を閉じ「あぁ」と甘い声を発し、ほんのりと顔を赤らめ、アンドレを欲情させた。後ろ髪を軽く持ち上げ、うなじにキスをすると、首を傾け恍惚とした表情を見せる彼女。アンドレの思いが次第に高まり、思わずオスカルのクラバットをほどき、ブラウスの合わせが開き、白い胸元に手が触れた時、オスカルの体がぴくっと緊張したのを彼はすぐ察した。
「すまない、オスカル。つい----。」
「いいんだ、アンドレ。私はまだ---。」

 二人の動きが止まった。オスカルは心の中ですまないと思った。20年近く、私だけを見つめてきてくれた彼。愛している気持ちに偽りはない。だけど----だけど----体が一つになることにまだ不安がある。その時、私はどうなってしまうのか?自分が自分でいられるのか?そんな私を見て、アンドレは自分を嫌いにならないだろうか?押し寄せる不安。今はまだ一つになれない。だけど----私はアンドレの妻になりたい。私に代わって衛兵隊を指揮することのできる軍人は他にもいる。でも私の夫になる人はアンドレ以外考えられない。アンドレ、身も心もおまえの妻になるために、あともう少し時間が欲しい。いつも私のわがままを許してもらってばかりですまないが。あともう少し---。おまえを愛している気持ちに、揺るぎはない。


2 コメント

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ありがとうございます (チィエリ)
2016-02-13 22:36:04
始めましてチィエリと申します。原作のイメージを更にふくらませ、細やかなオスカルの感情が痛々しく伝わってきました。また立ち寄らせていただきますね。
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チィエリさま (りら)
2016-02-13 23:12:16
 初めまして。コメントをありがとうございます。

 拙いお話ばかりですが、読んでいただき本当にありがとうございます。書いている自分が、一番楽しんでいるかもしれません。

 街中のカフェにふらりと立ち寄る感覚で、いつでもお気軽に遊びに来てください。これからもどうかよろしくお願いいたします。
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