Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

エルゼベート・バートリ・黒衣の伯爵夫人

2015-12-03 21:49:39 | つぶやき

 「ベルばら」外伝シリーズの中で、一番絵が美麗なのが「黒衣の伯爵夫人」かな?オスカルがところどころ、フェミニンなタッチで描かれているし、ショートヘアで両目を開いているアンドレがとても精悍。可愛いル・ルーがデビューする作品でもある。

 前から一度調べてみたかった黒衣の伯爵夫人の実在モデルについて。このストーリーの最後に池田先生はこう書いている。

 

 この物語は16世紀の末、ハンガリアにおいて600人以上もの少女たちを殺した、伯爵夫人エルゼベート・バートリの実際の事件からヒントを得たものです。

 つまり黒衣の伯爵夫人には、実在モデルがいることになる。そこで検索してみると、エルゼベート・バートリの肖像画が出てきた。こんな女性です。この人が600人以上もの罪のない少女を殺しただなんて!

 エルゼベート・バートリ (1560年8月7日-1614年8月21日)は、ハンガリー王国の貴族。「血の伯爵夫人」という異名を持つ。バートリ家は16~17世紀ハンガリーで、屈指の名門の家柄。一族は財産や権力を保つため、血族結婚を繰り返した。そのため有力者を輩出する一方で、異常性格者もかなりいた。

 1575年、エルゼベートは15歳で、5歳年上のハンガリー貴族ナーダシュディ・フェレンツ2世と結婚した。この方が夫。

 しかし夫は軍の指揮官で、オスマン帝国との戦争で家を留守にすることが多く、エルゼベートは性別を問わず多くの愛人を持ち、贅を尽くすことと自らの美貌を保つことに執着した。また夫から召使をせっかんする方法を学んだようである。

 1604年に夫が亡くなると、夫から贈与されて彼女自身の所有となっていたチェイテ城 (現在はスロバキア領)に居を移した。これがそのお城。外伝でモンテ・クレール城と呼ばれているのはここだろうか?しかしこの城内で、とんでもない惨劇が、次々と起きる。

 さてここから拷問の話が出てくるので、読むと不快になる方もおられるでしょう。こうした話が苦手な方は、ここでストップされることをお薦めします。

 ある時、粗相をした侍女を折檻したところ、その血がエルゼベートの手の甲にかかり、血をふき取った後の肌が非常に美しくなったように思えた。そのことがあってから、若い処女の血液を求め、侍女を始め近隣の領民の娘を片っ端からさらっては生き血を搾り取り、血液がまだ温かいうちに浴槽に満たしてその中に身を浸す、という残虐極まりない行為を繰り返すようになった。その刑具として「鉄の処女」を作らせ、用いたと言われている。

 これが「鉄の処女」。中は空洞になっていて、この中に少女を入れる。左右に開く扉からは、長い釘が内部に向かって突き出しており、本体の背後の部分にも釘が植えられているものもある。犠牲者の悲鳴は外に漏れないように工夫されていた。漫画では池田先生は「鉄の処女」の代わりに、美貌を備えたしかけ人形のリオネルを登場させ、女の子たちを惹きつけては殺していた。被害者の数は、エルゼベート本人の記録では650人。何ともおぞましい。彼女のベッドの周囲には、生き血で家具や床が汚れぬよう、流れ落ちた血を吸い込ませるために灰が撒かれていたという。

 地元のルター派の牧師の告発により、役人達は薄々事態に気付いていたが、バートリ家の名誉を考慮し、内密にしていたようである。しかし貴族の娘に被害が及ぶようになると、ハンガリー王家(ハプスブルク家)でもこの事件が噂され始め、1610年に監禁されていた娘の1人が脱走したことにより、ついに捜査が行われることになった。

 その後裁判が行われ、事件に関与した従僕や女中らは刑に処せられたが、エルゼベート本人は高貴な家系であるため死刑を免れ、扉と窓を漆喰で塗り塞いだチェイテ城の自身の寝室に生涯幽閉されることが決まった。その屋上には、彼女が本来であれば死刑に処せられるべき重罪人であることを示すために絞首台が設置されたという。外伝では燃えさかる城の中、自らリオネルを抱きしめ自害する。

 わずかに1日1回食物を差し入れるための小窓だけを残し、扉も窓もすべて厳重に塗り塞がれた暗黒の寝室の中で、彼女はなお3年半にわたって生き長らえた。そして、1614年8月21日、食物の差し入れ用の小窓から寝室をのぞいた監視係の兵士により、彼女の死亡が確認された。享年54歳。

 こちらはエルゼベート25歳の時の肖像画。この時既に残虐行為を日常的に行っていたと思うと、こんな素朴そうに見える女性のどこに、怖ろしい悪魔が潜んでいるのか全く想像できない。「ベルばら」の史料を当たっていくうちに、池田先生はエルゼベートに行き着いたのだろう。ル・ルーの登場、発展家カロリーヌなど本編には登場しないキャラが、この外伝では重要な役割を果たす。伯爵夫人を妖艶な女性に仕立てたのが巧い。事実に架空の人物を絡め、絶妙な創作に仕上げる池田先生の手腕がいかんなく発揮されている。

 読んでくださり、ありがとうございます。 



13 コメント

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Unknown (minnto)
2015-12-04 18:26:25
本編が終わって空虚な日々を送っていたときに書かれたこの作品、ドキドキしながら読みました。本当に麗しかったですね。クラスの男の子達が「あれ死んだんちがった?」と言いながら回し読みしていたのを覚えています。彼らも読んでいたんだ。
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mintoさま (りら)
2015-12-04 20:55:14
 コメントをありがとうございます。
 
>本当に麗しかったですね
 
 今読んでも、本当にきれいだなと毎回見とれます。ちなみにお気に入りは、オスカルとアンドレが、ロザリーたちを待つ間、外で無言で遠くを見つめる場面です。

 そして---男の子たちも読んでいたのですか!外伝だけでなく本編も!お姉さんや妹さんの漫画を、こっそり隠れて読んでいたのでしょうか?その男の子たちも、今ではいいおじさんになっているのでしょうね。
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大好きな外伝 (marine)
2015-12-05 15:45:43
りら様こんにちは。
黒衣の伯爵夫人は私も絵が美麗で大好きです。アンドレの目もまだ傷ついてなくて。ただ、オスカルの心はフェルゼンにある頃ですよね。
ちょっと疑問というか、確認?なんですが、このお話の中でカロリーヌがロザリーに嫉妬して「パリの下町の乞食娘のくせに!」と言うシーンですが、カロリーヌはオスカル様に全て聞いた!と言ってますが、そんな事言うわけはないので、では誰が?と子供の頃は思ってましたが、あれはやはり一緒に同行してた召使いか、アンドレ以外の従僕とかがしゃべっちゃったんですよね?
と言うことは、ジャルジェ家でもロザリーはちょっと意地悪されたりしてたんでしょうか。
それと、休暇なのになぜオスカルは軍服だったんでしょうね?旅の移動時はわかるとしても、ピクニックの時位、アンドレみたくブラウスにキュロットとかでも良いのになぁ。
その後に起こる事件を考えると軍服のが良いのはわかるんですけどね。

オスカル、アンドレも絵が美しいのはさることながら、ロザリーもピクニックの時などはとても可愛らしかったです。

それにしても、いくら高貴な身分だったからといって、600人もの娘達を毒牙にかけるまで捜査が行われなかったとは、なんとも酷い話です。
意地悪キャラとはいえ、カロリーヌも可哀想な最後でした。
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Unknown (minto)
2015-12-05 17:18:27
りらさま、marineさま、このお話は読者の満たされぬ思いを満足させるために書いて下さったような気がしています。自作の「おにいさまへ」「クロディーヌ」あたりも。それぞれに良い作品ですが、ともかく読者が見たいすてきな方を見たい形で書いて下さった気がしているのです。そうでないと今で言うようなオスカルロスに読者が陥ってしまっていたのでは。
またあまりにも悲劇的な二人をkidsもそうですが活躍させていただけたのかと。
あ、それは今のりら様の連載も同じでしょうか。
このエピソードの題材はとても印象に残り、あとで結構調べました。それだけ身分の差、貴族ってすごい存在だったのだなと思います。ひどいことですね。
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身分差 (たぷたぷ)
2015-12-05 17:32:22
日本でも、昔のお姫様は下男の目の前で着替えをしたそうです。

下男は、ペットの犬猫と一緒であって、男だの女だの言う存在ではないから。
オス犬の眼なんか、別に特に気にする必要はないから。

そう言う時代が、たかだか数百年前にはあったと言うことなんだろうと思うと、
今の時代の有難さを痛感します




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なるほど (marine)
2015-12-05 20:44:54
mintoさま、ありがとうございます。
私は連載当時は知らず、コミックスが出揃ってからベルばらに入りました。
毎週連載を待ち望み、2人が革命で倒れ、アントワネット、フェルゼンと主要人物全員の死で幕を閉じ空虚な気持ちになった読者へ向けての先生からのプレゼントのようなものだったのですね。
とすれば、オスカルはやはり軍服でなくてはなりませんしね。
今の言葉でいうなら、ほんと、オスカルロスに陥りますよね。
そこまで思いが至りませんでした。
理代子先生の作品もそんなに読んでいないので、まだまだ若輩者です~。
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殺人鬼 (mugi)
2015-12-05 21:00:06
 実は私もベルばら外伝『黒衣の伯爵夫人』で、初めてエルゼベート・バートリーの名を知りました。彼女のことは私も前に記事にしています。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/a903781773f8ce5b8031c164fa56d849

 これだけ少女を惨たらしく大量虐殺した女ですが、同性愛の傾向もあったという説もあります。ベルばらにもサディスティックに美しい同性を痛めながら、“愛”を求める『黒衣の伯爵夫人』が描かれていましたね。ロザリーにキスしたり、鞭でオスカルを責めながら、「最後までわたくしを拒絶なさるのですね」と勝手な恨み言を言っている。

 数は少なくとも、女にも殺人鬼はいるのです。名は忘れましたが、ロシアにも数百人単位の農奴を殺害した女領主がいたそうです。
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marineさま (りら)
2015-12-05 21:22:50
 コメントをありがとうございます。

 今、手元にある朝日新聞出版「池田理代子の世界」で、次のことを確認しました。

「ベルばら」は1973年、12月23日号をもって連載終了。

「黒衣の伯爵夫人」は、1974年1月27日号(前編)、2月3・10日合併号(後編)に掲載。

 つまり池田先生は本編の連載を終了して、約1カ月足らずでこの外伝をマーガレットに掲載されたわけです。「池田理代子の世界」の解説にも「連載終了後、読者の喪失感は筆舌に尽くしがたく、再開を願う声が殺到。そんな声に応えてか、終了から1カ月も経たぬうちに、前後編の読み切り「黒衣の伯爵夫人」が「週刊マーガレット」に掲載された。」とあります。わずか1カ月足らずで、これだけの作品を発表された池田先生の、当時のパワーはすごいですし、ファンの熱い想いに応えようとする気持ちが嬉しいですね。それは現在の新作エピソードにも、つながっているのかもしれません。

>あれはやはり一緒に同行してた召使いか、アンドレ以外の従僕とかがしゃべっちゃったんですよね?
と言うことは、ジャルジェ家でもロザリーはちょっと意地悪されたりしてたんでしょうか。

 カロリーヌがジャルジェ家の関係者にお金を握らせて、「ロザリーって何者?」と聞き出したのかもしれませんね。オスカルの軍服姿は、ファンサービスでしょうか?

>意地悪キャラとはいえ、カロリーヌも可哀想な最後でした。

 そうですね。でもオスカルって、カロリーヌとロザリーのどちらにも肩入れせず、中立の立場を保っているようにも思えます。

 「あさが来た」---来週の予告編を見たら、新次郎さんが髷を落し、散切り頭になりますね。思わず「おぉ、アンドレ!」と思ってしまいました。(スミマセン)
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mintoさま (りら)
2015-12-05 21:39:27
 コメントをありがとうございます。

>このお話は読者の満たされぬ思いを満足させるために書いて下さったような気がしています。

 さっそく「黒衣の伯爵夫人」の連載時期を調べました。上のmarineさまへの返信にも書きましたが、本編連載が終わった約1カ月後、「黒衣の伯爵夫人」を「週刊マーガレット」に掲載したとあります。当時もう一度オスカルやアンドレに会いたいと願うファンの気持ちが、どれほど強かったか!そしてそれに応えてくださった池田先生。

>自作の「おにいさまへ」「クロディーヌ」あたりも。それぞれに良い作品ですが、ともかく読者が見たいすてきな方を見たい形で書いて下さった気がしているのです

 「おにいさまへ」も大好きな作品です。池田先生は「ベルばら」執筆中、編集部から「オスカルの死後は、10回で連載を終えるように。」との指示を頂いていました。まだまだ描きたいエピソードはたくさんあったのに、泣く泣く編集部の方針通り10回で連載を終了。しかしあのまま続けていたら、どんな作品が生まれていたかと思うと残念に思うと同時に、あのまま「ベルばら」を描き続けていたら「おにいさまへ」は、生まれなかったことを思うと、複雑な想いに駆られます。「ベルばら」と「オル窓」の間に描かれた「おにいさまへ」。洋物を描かなかったのもポイントですよね。

>それだけ身分の差、貴族ってすごい存在だったのだなと思います。ひどいことですね。

 アンドレが思い余ってオスカルと心中しようとするくらい、身分の壁はどうしようもないほど、彼を苦しめましたね。
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たぷたぷさま (りら)
2015-12-05 21:52:27
 コメントをありがとうございます。

>下男は、ペットの犬猫と一緒であって、男だの女だの言う存在ではないから
そう言う時代が、たかだか数百年前にはあったと言うことなんだろうと思うと、今の時代の有難さを痛感します

 たぷたぷさまのおっしゃるとおりです。日本にもつい最近まで、同じようなことがあったわけで、決して他人事ではないですね。

 アンドレが平民だからといって偏見を持ったり、見下すことをせず、幼馴染・兄妹・良き相棒・;親友として対等に接するオスカル。そんなところも彼女の魅力の1つですよね。

 突き詰めればいろいろありますが、今の時代の日本に生まれたことは、幸せだと思います。
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