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遠い家への道のり (Reprise)

Bruce Springsteen & I

Bruce Springsteen @ Times Union Center (16/2/8)

2016-02-14 18:04:43 | Live in Concert
"Bobby Jean"

この前 家に寄って
君は行ってしまったとお母さんから聞いたよ
俺にはどうしようもないことだった
誰にも言えることなんてなかったと言ってくれたけど
俺たちは16の頃から友達だったんだ
知っていて電話できれば良かったって思うんだよ
そうすればさよならと言えたのに ボビー・ジーン

ほかの奴らがみんな俺を避け ばかにしても
いつでも俺とつるんでくれた
同じ音楽、同じバンド、同じような服装が好きで
俺たちみたいにワイルドな奴はいないよなって言い合っていた
せめて伝えてくれたら、話すことができたら良かったって思うんだよ
お前にさよならを言うために ボビー・ジーン

雨のなかを歩きながら俺たちが身を隠すこの世の中の痛みについて話した
お前のように俺のことを分かってくれる人はもうどこにもどうしたって見つからない
きっと今頃お前は旅のさなかだろう
バスかそれとも電車に乗って
どこかのモーテルの部屋でラジオがかかり
俺がこの歌を歌うのを耳にすれば
きっと分かるよ どれだけ遠く離れていても俺がお前のことを思っていると
最後にもういちどこうして呼びかけているのは気持ちを変えたいからじゃない
お前がいなくて寂しいけれど、幸運を祈るよ、さよならと言いたいからなんだ
ボビー・ジーン

ENGLISH


ニューヨーク州の州都オルバニーは私にとって特別な街でした。ブルース・スプリングスティーンを好きになってずっと訪れたいと思っていたアメリカの地を初めて踏むことになったのはオルバニーで暫くのあいだ暮らす機会を得たからでした。その上その暮らしの本当に終わりの頃に、ブルースは『Working On A Dream』(2009)というアルバムを出してツアーに出、私はまさにオルバニーで初めてのブルースのコンサートを経験したからです。

今回、『The River』ツアーに行こうと決めたとき、本当はどこか行ったことのない土地に行きたいと思っていました。新しいことに挑戦したかったし、自分が歳を重ねて保守的になっていると思いたくなかったからです。けれども、思っていた街のチケットを獲ることはとても難しく、験担ぎの意味を込めてオルバニーに変えたところ本当にチケットが手に入ったのでした。この頃からオルバニーは私にとってのラッキー・タウンかもしれない、という気がしてきました。

特別な土地ではあったものの、今回2010年ぶりに訪れるにあたってとりたてて感傷的な気持ちになることはありませんでした。私はこの街で特別な経験をしたけれど、同時にそれはとても現実的な経験でもあったのです。夢が叶うということは夢みたいな経験というだけではなかった。そのなかで自分の性格だとか考え方だとか育った環境だとか捨て去り、逃げることのできないものが自分のなかにあるということがよく分かった。それは部分的には異国の地における日本人同士の濃密な人間関係とも関わりのあることだったと思うのだけど、とにかく精神的にこの街と深い結びつきを持ち続けることを私は選ばなかったのです。

ところが実際には、マンハッタンから電車に乗るとかつていちどだけこの電車を使ったときのことを思い出さずにはいられなかったし、駅に降り立っても、ブルースのコンサートがあるタイムズ・ユニオン・センターに行ってもGAのリストバンドをもらってから時間つぶしをするあいだも、いろいろなことを思い出してしまってずいぶんセンチメンタルな気分になってしまいました。初めてブルースのコンサートに行った日を私にとって特別なものにしてくれたのはブルースだけではなかったことを、そう思うことを拒否したい気持ちもありながら、考えずにはいられなかったのです。2009年のコンサートで私が受け取ったGAのリストバンドの番号は30番で、それは「自分のラッキーナンバーだからきっといいことがあるよ」と言ってくれた人がいた。そしてその日私は最前列でブルースを観ることができたのでした。

今回、私はひとりでリストバンドをもらい、ひとりで時間をつぶし、ひとりで並んだけれど、やっぱりオルバニーは幸運の街でした。私は前から5列目くらいでブルースを観、15歳の頃にテレビで観て心を奪われたブルースのこめかみの青筋までこの目でちゃんと見ることができました。そして開演までの時間に気持ちがすっかり柔になってしまったおかげで、『The River』の1曲目、"The Ties That Bind"ではもう歯を食いしばって泣くのを我慢しなければいけないほどでした。

この日、私がEストリート・バンドから受けた最初の印象はみんなずいぶん歳をとったな…というものでした。ブルースがいつまでも若々しいのに対して、周りは少しくたびれているようにも感じられました。そのなかでひとり若いジェイクが控えめながらすごく大きな役割を果たしているように思ったのです。クラレンスとはまるで違う形ではあるだろうけれど、やはりブルースはジェイクのことをかなり頼りにしているように思えました。印象的だったのは、"Hungry Heart"のときにGAフロアの真ん中に設けられた通路からステージまでブルースがクラウドサーフをしたときのことです。ジェイクはサックスを左手を使って演奏し続けながらステージに辿り着いたブルースを右手でステージに引き揚げるという場面でした。ブルースがこの歳でクラウドサーフをすることも大胆だけど、ジェイクがいて初めてこのクラウドサーフは完璧なものになるんだということが分かった。暫く観ていると一見するよりはみんな元気なんだということも感じられたけれど(ニルス"Because the Night"で今もスピンしていたし、スティーブも途中からちゃんと笑顔を見せるようになった)特に『The River』を再現するにあたってジェイクの一貫した活力は本当に大切だったと思う。

『The River』の再現のなかでは、時々織り込まれるブルースの話がどれもすごく良かった。多くは無料で配布されたシカゴ(16/1/19)の音源で聴くことができる通りです。このアルバムが人とのつながりを追い求め、理解したくて作られたこと、"Independence Day"は若いときに書くことができる曲であり、両親には両親の人間性があり、自分とは違う夢や理想があることを初めて知った時の衝撃や、両親の重ねる大人の妥協に対する恐れが含まれていること。でも、その妥協がもたらす喜びを若者はまだ知り得ないのだということ。"I Wanna Marry You"は決して出会うことのない人との人生を思い描くというデイドリームの歌であること。どんな帰結をも伴わない人生、存在することのない人生、愛を想像する歌であること。そして『The River』の底流にあるもうひとつのテーマは限りのある時間であったこと。こうしたひとつひとつの短い語りがこのアルバムをとても親密なものにしていました。そのせいなのか"Drive All Night"のとき、周りの人々が一瞬みんな遠のいたような気がしました。薄暗い闇のなかにブルースと自分しかいたいみたいな感覚。『Springsteen & I』(2013)のなかで、スウェーデン人の男性が、コンサートでブルースが自分だけに話しかけてくれている気持ちになることがあると話していたけれど、そんな感じだった。

けれども本ツアーの主眼は『The River』なのに、オルバニーの公演で私がいちばん心に残ったのは『The River』が終わってから3曲目に演奏された"Backstreets"でした。この曲をコンサートで聴くのは初めてではなかったけれど、これほど胸に突き刺さる"Backstreets"は初めてでした。これは、コンサートが始まる前に思い出したり、考えたりしたいろいろなことがあったから、つまりオルバニーでブルースを観ていたからこそのことでした。まさか"Badlands""Wrecking Ball"が演奏されたあとに何の前触れもなくこの曲が演奏されるだなんて思ってもみなかったのでロイ・ビタンの演奏するピアノのイントロが流れてきたときには不意をつかれた思いでした。そして最初から最後まで、目玉がとけてしまうんじゃないかというくらい涙が止まらなかった。それはオルバニーに戻って来てから私の心を捉え、感傷的にさせていたのは、私が人生のなかでただひとり出会うことのできた「テリー」のことだったからです。共に裏通りに身を隠し、永遠に友達であることを誓い、一緒に観た映画のヒーローたちのように歩く術を探った相手。それは若いときにだけ出会うことのできる存在であり、築くことのできる人間関係だった。裏通りに身を潜めることが何の解決にもならないことや、ヒーローのように歩くことができてもヒーローにはなれないことを知ったあとには夢でしか見ることのできない関係でした。彼の示してくれた理解、忍耐、そして愛情はこうしてお互いのあいだに距離ができて初めてやっと私には理解することができた。私が泣いたのは決して後悔したからではありません。どれだけ尊いものであってもその価値が発揮されないことはあるし、タイミングだってある。私自身の心が狭かったということと共に。それは悔いても仕方のないことです。けれども、こうしてオルバニーを再び訪れ、初めて観たのと同じ場所でブルースを観、そして"Backstreets"を聴き、胸が張り裂けるような思いをすることができて良かったと心から思う。

大好きな"Be True"がそのあとに演奏され、いちばん最後の"Shout"の前には"Bobby Jean"まで演奏されました。"Backstreets"と"Bobby Jean"という2曲は私のなかでとても一貫性のあるように感じられました。次にオルバニーに来ることがたとえあったとしても、もう今回のように感傷的になることもないだろう。なぜなら私は今ここで人生の一時期を共にしたテリーの大切さを知り、彼と利己的だった自分自身に本当に別れを告げるからだ。テリーは私にとって同じ音楽やバンドが好きで、どんなときでも味方をしてくれた相手だった。家族を除いて誰も彼のように私のブルースへの愛を理解した人はいなかったし、だからこそ2009年に初めてオルバニーでブルースを観たとき、私は幸せだった。そのことを分かることが、たぶん今の私にとってすごく大切なことなのだと感じられた。
Setlisit:
Meet Me in the City
The Ties That Bind
Sherry Darling
Jackson Cage
Two Hearts
Independence Day
Hungry Heart
Out in the Street
Crush On You
You Can Look (But You Better Not Touch)
I Wanna Marry You
The River
Point Blank
Cadillac Ranch
I'm a Rocker
Fade Away
Stolen Car
Ramrod
The Price You Pay
Drive All Night
Wreck on the Highway

Badlands
Wrecking Ball
Backstreets
Be True
Because the Night
The Rising
Thunder Road
Born to Run
Detroit Medley
Dancing in the Dark
Rosalita (Come Out Tonight)
Bobby Jean
Shout

The Beach Boys "Isn't It Time"

2013-07-02 03:34:27 | Live in Concert
言うべき言葉が尽きた後
頭のなかを巡り続ける音楽がある
忘れようがない
夏の恋の魔法

君にも味わわせてあげたいんだよ
ちょっとページを戻ってみないかい
思い出や写真を振り返ったりして
世界は変わってしまったけれど
ゲームは今もそのままだから大丈夫

また僕らで一晩中踊り明かしたっていい頃合いじゃないかな
昨日のことのようにもう一度やろうよ
君のことや
かつて一緒にしたいろんなことを思い出すたびに
2人きりで過ごした夜を思わずにはいられないんだ
時がどんなに早く過ぎ去るものか
僕らはまるで知らなかった
きっといい時期だよ
今がいい頃合い

素敵な時間がずっと続けばいいのさ
そんな時をもう1度起こす時だよ
大いに楽しむんだ
楽しい時は過去だけにあるものじゃないんだから

また一晩中踊り明かしたっていい頃合いじゃないかな
昨日のことのようにもう一度やろうよ
君のことや
かつて一緒にしたいろんなことを思い出すたびに
2人きりで過ごした夜を思わずにはいられないんだ
時がどんなに早く過ぎ去るものか
僕らはまるで知らなかった
きっといい時期だよ
今がいい頃合い

日が落ちる頃
僕らは互いの温かさと
共に分かち合ってきた楽しい時間に乾杯をする

そろそろ準備をして進む頃じゃないかな
また2人で一緒に過ごす時だと思わない?

また一晩中踊り明かしたっていい頃合いじゃないかな
昨日のことのようにもう一度やろうよ
君のことや
かつて一緒にしたいろんなことを思い出すたびに
2人きりで過ごした夜を思わずにはいられないんだ
時がどんなに早く過ぎ去るものか
僕らはまるで知らなかった
きっといい時期だよ
今がいい頃合い

ENGLISH


7月になって、だんだんと夏の匂いがするようになってくると、またビーチ・ボーイズの季節がやって来たな…と思う。ありきたりかもしれないけれど、それでも夏が来るたびにいつだってビーチ・ボーイズが聴けるというのは幸せなものです(実際には真冬にアイスを食べたっていいように、もちろん真冬にビーチ・ボーイズを聴いたって構わないし、聴くのだけれどやっぱり夏が来たときに聴くのはまた特別なのです)。そして、今年はいつにも増してそう感じるのは、昨年の夏の思い出があるからです。

昨夏(2012年8月)、ビーチ・ボーイズは日本でコンサートをしていて、私はそれを千葉マリンスタジアムに観に行きました。そんな話を今頃するのか、という気がしなくもないけれど、これは本当に素敵なコンサートで、それも不思議なことに時が経つほどにその素敵さ、素晴らしさが、実際にそうであった以上ではないかというくらいにぐんぐん膨らんでいき、今ではどこからどこまでが本当かよく分からないけれど、でもとにかく最高に楽しかったという半分夢のような記憶になってしまった。

気の良いリンゴが、ビーチ・ボーイズはどちらかというと私に聴かされた、という程度だったのに高いチケットを買って付き合ってくれたので、2人で千葉マリンスタジアムへの遠い道のりを電車に揺られながら過ごす。そして、スタジアムの傍で、なにか晩ごはんを食べたのだけれど、今になるとそれはメキシカンだったような気もするし、ハンバーガーだったような気もするけれど、それは"Fun, Fun, Fun"の歌詞のせい(「彼女はバーガースタンドを走り抜けていくところ」)かもしれないし、でも、とにかく何やらアメリカンな雰囲気だったことだけは覚えています。まるで、"I Get Around""Surfin' U.S.A."しか知らなかった小学生の頃に、この2曲にも感じていたようなアメリカの、おおらかで豪快で解放的なイメージを思い起こさせるようなお店。ビーチ・ボーイズを観に行くのだから、それは1960年代以降のいつの時代のことでもいいような気がするけれど、ダイナーのテレビでは流行りのミュージックビデオを流していて、リンゴが黒髪の女の子が洗車をしているビデオを指して、「あれがカーリー・レイ・ジェプセンだよ。"Call Me Maybe"っていう曲、知ってる?」と言ったおかげで、この日のことは永遠に、否応なく2012年的な記憶として残ることになりました。

初めて訪れたマリン・スタジアムは、オープンエアーのスタジアムで、それがたまらなく魅力的でした。ヨーロッパでのブルース・スプリングスティーンのコンサートは野外で行なわれる、ということを以前からよく聞いていて、それがどんなに素敵なものであるかということも繰り返し耳にしていたからかもしれない。でも、前座のアメリカが終わって、席に座っていると8月の暑い空気でさえもだんだんとひんやりとしてきて、空も次第に暗くなり、やがて星まで見えるようになってくる。ステージの周りやスタジアムの眩しい光の当たるところだけが特別な魔法のような空間のように感じられてくる。今になると、周りではホットドッグやポップコーンの匂いがしていたり、ソーダの泡の音まで雑踏の中から聞こえていたような気がするけれど、自分が食べたり飲んだりした訳でもないし、映画館じゃないのだから、これはきっと思い込みなんだろうと思う。でもそんなようなお祭りのようなとても幸せな、そしてロマンティックな雰囲気がそこにはあったのです。私はコンサートに行くのはひとりでも大抵はまるで平気だけれど、この日はリンゴが一緒に来てくれたことをとても嬉しく思いました。

コンサートが始まってからのことは、1年近く経ってしまうと詳しいことはあまり覚えていないけれど、ビーチ・ボーイズが想像以上に想像通りの(という表現があるなら)ビーチ・ボーイズで、たいそう感激したように思います。失礼だけれど、もっと、「歳をとってしまったのだから仕方がないかな」というように思うかもしれない、と思っていたのに、全然そんなことがなかった。ブライアン・ウィルソンの表情が終始浮かないものであったことは、心に残っているけれど、でもそれ以上に印象的だったのは、立ち上がって踊ったり、歌ったりしているお客さんたちをぐるりと見渡したときに、自分の親くらいの歳の夫婦が何組も寄り添いながら、"Sloop John B""Help Me, Rhonda"なんかで踊ったり、歌ったりしている本当に楽しそうで幸せそうな姿でした。たぶん、私やリンゴだって、隣にいた見知らぬ男の子だって、後ろにいたおじさん達だって、きっと同じような顔をして同じようにうまくないダンスをしていたに違いないけれど、私にはその姿は見えなかった。代わりに、そんなに近くにいた訳でもない、きっとこの先、決して会うことのないような夫婦の姿を、とてつもなく、素敵じゃないか、と思った。本当に魔法のようで、信じられないくらいロマンティックだった。まるでビーチ・ボーイズの音楽そのもののように。

そんなアメリカンな晩ごはんや、まばゆい夏の夕暮れのスタジアムや、ありもしなかったホットドッグの匂いと、リンゴのこと、そして素敵なお客さんたちの姿が1年経っても忘れられないのです。夏の匂いのするなかで、ビーチ・ボーイズを聴くだけで、じんわりと心が温かくなって幸せな気持ちになる。でも、ビーチ・ボーイズも「楽しい時間は過去だけにあるものじゃない」と言っていることだし、そろそろまた一晩中、踊り明かしてもいい頃合い。今年の夏も、なにか素敵でロマンティックなことが起きるかもしれない。私にもリンゴにも、永遠に会うことのないおじさん、おばさん達にも。


Japandroids "Younger Us"

2013-03-31 23:57:55 | Live in Concert
覚えているか
どんなことでも時間が足りないみたいに詰め込んでいた頃や
白夜の夜のことを
「死んだら寝るよ」なんてことを言い合って
いつまでもこんな気持ちでいられるんだと思っていた

覚えているか
どんなことでも時間が足りないみたいに詰め込んでいた頃や
白夜の夜のことを
「死んだら寝るよ」なんてことを言い合って
いつまでもこんな気持ちでいられるんだと思っていた
あの夜のことを覚えているかい
もうベッドに入っていた君は「だから何だ」って言って
起き上がって俺と飲みに出かけたんだ

むき出しの新しい肌に感じる快感をくれよ
もっと若い俺たちを
君と俺が大真面目に信用し合っていた関係を
もっと若い俺たちを
自由奔放に駆け回るのが大好きな女の子たちを
もっと若い俺たちを
通りをかき分けてやってくる少年たちを

もうベッドに入っていた君は「だから何だ」って言って
起き上がって俺と飲みに出かけた夜が恋しいんだ

ENGLISH


少し前になるけれど、先月18日にカナダの2人組、ジャパンドロイズの来日公演を渋谷WWWで観ました。彼らのことは、昨年末に幾つかの2012年のベストリストでアルバム『Celebration Rock』(2012)やシングル"The House That Heaven Built"が取り上げられていたので少し聴いてみたらとても良くて好きになったので、とても良いタイミングのコンサートでした(加えて、ガスライト・アンセムの春の欧州ツアーの前座にも決まったことにもとても心を惹かれた)。ただ、好きとは言っても、『Celebration Rock』とその前のアルバム『Post-Nothing』(2009)(どちらもいいタイトル!)も少し聴いたくらいだったし、ベストリストの記事も全然きちんと読まなかったし、ボーカルのブライアン・キングの歌は何を言っているのか全然聴き取れないのでどんなことを歌っているのかもよく知らなかった。でも、大きな音で聴いたら気分がいいだろうな、と思って出かけて行ったのでした。そして、それは間違いなかった。

コンサートは、ものすごく躍動的で時々スポーツを観ているみたいな気分にさせられるくらいでした。"Adrenaline Nightshift"なんていうタイトルの曲もあるけれど、本当にアドレナリンが2人の身体中を駆け廻っているのが目に見えるようで、観ているこちらも興奮で息が切れそうな気がしました。ブライアンの髪から汗が飛び散る様子や、首に筋が立つ姿や、デヴィッド・プラウズが一瞬身を反らせてからドラムに腕を振り下ろす息を呑むような瞬間が何だかひと月以上経った今も印象に残っています。後になって、ブルース・スプリングスティーンとの類似性を指摘する記事なども幾つか読んだけれど、あの肉体的な全力疾走感みたいなところは確かに通じるものがあるのかな、とも思います。無骨で、曲と曲の合間には時々しんとする時間があったり、そうかと思ったら、ギターに貼ってある2枚の写真は何かと訊かれて、ブライアンの祖父母のハネムーンとまた別のときの写真で、長年連れ添ったというのがとてもキュートだと思う、と答えるというほんわかした部分もあったり、緊張感と親密さの間みたいなところに立っている気分でした。でも、そんなところも含めて愛しいと思わせる人たちとコンサートでした。

コンサートではところどころ歌詞が印象的に聴こえてきたのもとても良かったです。特に心に残ったのは、今日取り上げた"Younger Us"の"Give me younger us"というフレーズと、"Young Hearts Spark Fire""We used to dream Now we worry about dying I don't wanna worry about dying I just wanna worry about sunshine girls"(昔は夢を見ていたけれど、今は死ぬことを恐れてばかり 死ぬことなんて怖がっていたくないんだよ、日の光を浴びた女の子たちに心を悩ませていたいんだ)というフレーズでした。愚直すぎるほどにストレート。たまらなく魅力的だったし、帰り道にもどこか遠くからこのフレーズがついてくるみたいでした。自分が過ごしたことのない夜に感じるロマンティシズム。それはどこかで感じたことがあると思ったけれど、今になって『Born to Run』(1975)がまさにそうだったということに思い当たります。夜のハイウェイを駆け抜けたことなんてないけれど、焦燥感と憧憬に胸が締めつけられるような気持ち。ブライアンはブルースが好きだと口にしていて、2枚のアルバムにいずれも8曲しか入っていないことに対して、他の例を挙げつつ『Born to Run』だって8曲だ、と言ったりしています。アートワークが白黒のところも同じだし、歌詞に表れるイメージ(モチーフ)がたまにブルースを彷彿とさせることもあります(それから絶対に書いておかないといけないのが、『No Singles』(2010)というEPには、"Darkness on the Edge of Gastown"という曲があるということ!)。

"Younger Us"は、『Celebration Rock』に収録されている1曲だけれど、本当は2010年にシングルとして発表されていたようです。その頃に『Pitchfork』がこの曲について書いていた記事の出だしにはこんなことが書かれていた。「どんなことに関するにせよ、自分はノスタルジックになるには若すぎると思うとき、そこには独特のノスタルジアがある」


Weezer @ Zepp Tokyo (2011/7/13)

2011-07-18 18:45:55 | Live in Concert
"Perfect Situation"

僕の頭はどうなってるんだ?
どうしてこんなに目に見えていかれてるんだろう
完璧な状況で
愛を側溝へ流し去ってしまう
ゆっくりで真っ直ぐな投球
あとはバットを振りさえすればいい
それで僕はヒーロー なのに何もできない

満たされない夜が また続く
だんだん信じられない気がしてくる
だってあれ以上うまい話ってなかったのに
でも僕には気を引くことができない
女の子はそこいらにいて
一緒にいられる人を夜のあいだ探しているけれど
僕のことはただ通り過ぎるばかり

歌っているんだ
Ooohhhhh oh. Ooohhhhh oh. Ooohhhhhhhhhh
歌っているよ
Ooohhhhh oh. Ooohhhhh oh. Ooohhhhhhhhhh

その子から離れなよ
僕の彼女なんだから
悪いけどあんたは邪魔者
でも僕には彼女の要求をみんな満たすことはできなくて
彼女が彷徨い始めても
責めることができない

きっと何か考え方ってものがある筈だ
何かすごく特別なことが起こる時のために
僕がもっと準備や覚悟をする方法が
僕にも少しは希望があると言ってくれ
この世にいる限り これからずっと
ひとりきりでなんていたくない

ENGLISH


音楽評論家のジョン・ランダウは1974年の伝説的なコンサートレビューの中でこう書きました。「…僕はロックンロールの過去が目の前を一瞬で通り過ぎていくのを見、それから別なものを目にした。僕はロックンロールの未来を目にしたのだ。その名前はブルース・スプリングスティーン。そして僕が若い気分でいる必要のあった夜、彼はまるで音楽を生まれて初めて聴いているかのような気分にさせてくれた」。

よく取り上げられるのは真ん中の部分だけれど、私はこの最後の一文がとても好きです。毎日音楽に耳を傾け、それなしでは生きていけない生活をしていながら、これほどの経験をすることがいかに稀有であるか、その特別さを感じることができるから。そして、それでもそうした瞬間が時に本当に訪れることを実感として知っているからです。7月13日に私が観たウィーザーのコンサートはこのジョン・ランダウの文章を想起させるくらい、とびきり素晴らしいものでした。

"Troublemaker"で幕を開けて、2曲目に演奏されたのが、今日取り上げた"Perfect Situation"という、アルバム『Make Believe』(2005)からの1曲でした。この作品は、私が高校生の頃に初めて買ったウィーザーのアルバムだったので、格別に思い入れが深く、とても嬉しかった。そして、その感慨に劣らず、私の胸を強く打ったのは、すぐ傍にいた2人組の女の子の片方が、歓声を上げたかと思うと、どうしようもなく泣き崩れたからでした。私にとってはこの1曲の間に押し寄せた2つの特別な感懐こそが、その夜を要約するものでした。

そもそも私がウィーザーを観に行こうと思った主な理由は、彼らが私にとってとても大切なバンドであるから、というよりも、私にとって大切な人にとっての大切なバンドである、というものの筈でした。そして、以前少しふれたように、高校時代に私に『Weezer/ Blue Album』(1994)をCDに焼いて渡してくれたバスケットボール部の女の子の存在があったから、『Pinkerton』(1996)の夜ではなくて、『Blue』を選んだのです。たぶん、この2人の存在が無かったら、これほど迷いなく観に行くことを決められないで、その間にチケットが売り切れてしまっていたかもしれない。"Perfect Situation"で号泣する女の子を目にして、私があれほど心を動かされたのは、そこに私がニューヨーク州にいた時に、私にとっての"Buddy Holly"の役を務めてくれた男の子やバスケットボール部の女の子の姿が重なったからでした。こんなにも激しく涙するほど深い思い入れを、あの2人も持っていたに違いないのだと。「完璧な状況」での自分の不甲斐なさ、ひとりぼっちの思い、悔しさ、やきもちや、喪失感、そんなやりきれない無数の思いを抱えながら、それについて為す術も持たないままでも、何とかやっていくしかない。鬱々とした気持ちは重なっていく一方だし、ウィーザーを聴いて何かが解決する訳でもない。けれども、リヴァースの声の底には、それでも屈しないぎりぎりの抵抗と反逆があり、不思議とそれがプラスの何かに転じていく瞬間がある。そういえば、私が音楽を聴く姿勢というのも、10代の間、ずっとそんな瞬間を追い求めるものでした。コンサートの間、柔らかい色のライトが客席を明るく照らすことがしばしばあり、私はその度に左右を見渡さないではいられませんでした。"My Name Is Jonas"でギターがかき鳴らされる瞬間、"Say It Ain't So"と懇願する時、客席がぱっと明るくなり、それは2000人の"Buddy Holly"な男の子やバスケットボール部の女の子が積年の屈辱を放り出して、世界を見返す瞬間でした。その一瞬のためなら、すべてが値すると思い込んでしまえるような瞬間。

5年前に高校を卒業して念願の東京へ来たばかりの頃は、私はコンサートがあると必ず、新鮮な高揚感と期待と少しばかりの緊張、そして感慨を抱いてアパートを出発していたことを思い出します。それは、私は本当に夢見た通り、故郷の町から遠く離れて、その気の抜けたような町での生活を生き抜くために耳を傾け、雑誌やラジオで読み聞いて想像することしか叶わなかったコンサートを、東京という街でまさに観ようとしているんだという、故郷との、高校時代との精神的な距離を実感させてくれる感慨でした。でも、東京暮らしもだんだんと長くなり、コンサートも行き慣れてしまったり、高校時代から親しんでいるようなミュージシャンのコンサートに行くよりも、東京で新しく知ったアーティストを観に行くことの方が増えてしまったりして、そうした感覚というのはだんだんと薄れていきました。そして、この日ウィーザーを観に行くまで、そのことに気づきさえしなかった。でも、"Perfect Situation"を耳にし、子どものように泣いている女の子を目にした時、10年前に"Photograph"という曲でウィーザーを知った中学生や『Make Believe』を買いに行った高校生の頃の私自身に引き戻され、「まるで音楽を生まれて初めて聴いているかのような」というジョン・ランダウの言葉とも近い新鮮な心持ちになりました。それは、真新しい感覚ではなくて、矛盾するようだけれど、とても馴染み深い新鮮さでした。買ったばかりのCDをプレーヤーで再生する瞬間の新鮮さ、楽しみにしていたミュージシャンの新しい曲が初めてラジオで流れた時の新鮮さ、初めての場所で初めてのコンサートに行く新鮮さ、そして、そうした新鮮さによって、自分が思いがけないくらい高揚し、何とかやっていけると思える強かさを得られる、そのこと自体の新鮮さ。とても素直な気持ちで、自分と音楽だけの関係を築くこと。それをこの日のウィーザーと2000人のお客さんは、私にもう1度思い起こさせてくれたのでした。



Paul Collins' Beat Live @ Shimokitazawa Garden (2011/03/05)

2011-03-07 00:21:44 | Live in Concert
"Hey D.J."

Hey DJ, あの曲をかけておくれ 僕のために
何度も何度も
Hey DJ, あの曲をかけておくれ 僕のために
聴いているから

夜中の1時 ベッドの中で
ラジオをぴったり頭に引き寄せて
明かりはすっかり消えて 本当なら眠っていなきゃならないけど
音楽はあんまり素敵すぎるんだ
ラジオの音と共に起きる また朝の8時だなんて どうしてこうなったんだろう
急がなきゃ遅れちまう でも世界もみんなも待っていればいい だから

Hey DJ, あの曲をかけておくれ 僕のために
何度も何度も
Hey DJ, あの曲をかけておくれ 僕のために
聴いているから
連れ戻してほしいんだ
僕がただのラジオに夢中な子どもだった頃に
よみがえらせてほしいんだ
思い出を ありとあらゆる思いや夢を だから

Hey DJ, あの曲をかけておくれ 僕のために
何度も何度も
Hey DJ, あの曲をかけておくれ 僕のために
聴いているから
連れ戻してほしいんだ
僕がただのラジオに夢中な子どもだった頃に

夜中の1時 僕はひとりぼっちで 枕元でラジオをつけている
放送が僕のもとに届く
僕のためにかけてくれ 何か夢が見られるようなものを


3月3日に観たのが、'King of the Beach'なら、3月5日に下北沢Gardenで観たのは'King of Power Pop'Paul Collins' Beatでした。こちらは先月のThe Rubinoosに続いて、The Yum Yumsつながりの人で、私はヤムヤムスによる"Walking Out On Love""Let Me Into Your Life"のカバーで知りました。そう思うと私にとってヤムヤムスとの出会いは本当に幸運でした。ちょっと考えられないくらい沢山のカバーをレコーディングして、自分達のベストアルバムにもどんどん入れてしまうことも、ここまで徹底していると潔くて気持ちいいほどだし、一聴するとオリジナルそのままのように聴こえても、アルバム全体を通すときちんとヤムヤムスらしさがあって統一性があるのも不思議な感じがします。ヤムヤムスとポール・コリンズは交流もあり、ヨーロッパで何度か同じステージに立ったり、"Let's Go"という曲なんかを一緒にレコーディングもしたという、ヤムヤムスにとっては夢のような出来事もあったようです。ポール・コリンズはヤムヤムスの"Walking Out On Love"のカバーを聴いて、関心を持ったとのことですが、私が見た時にも、笑顔の絶えないとても感じのいい粋な人だったので、きっと気兼ねのない素敵な交流だったのだろうなと想像が膨らみます。

コンサートは、私が何をどう書いても冗長で退屈に思えてしまうくらい、隙がなくてとてもとても楽しく、まさに王様然とした会場の掴みぶりでした。ポール・コリンズは途中で自分でも「昔、もっとほっそりしてて髪がふさふさしてた頃」と冗談めかして言っていたように、お腹は出ているし、頭はつるりとしているのだけど、それでも十分にチャーミングでした。首に結んだペイズリー柄の赤いスカーフと赤いスニーカーというのが何とも気が利いていました。世界で1番かっこいいバンドやコンサートではなかったかもしれない。でも、文句なしに心を掴まれるポップでスウィートな音楽と親密さに溢れた暖かで幸せな、永遠に続いてほしいと思えるようなひとときだったことは間違いありません。コンサートの翌朝、目が覚めると、夢を見ていたのか余韻が続いているのか、頭の奥の方でポール・コリンズ・ビートの曲が流れていました。あんなに素敵なコンサートに本当に行ったのだと再び心が浮き立つと共に、まるで良い夢から覚めてしまったように、その夜が帰れぬ過去になったこと、再び日常が続いていくことに対するほろ苦い思いも感じたのでした。

歌詞を取り上げたのは、帰りに物販で買って帰ったアルバム『Ribbon of Gold』(2008)の冒頭に収録されていた"Hey D.J."です。(英語の歌詞はウェブサイトが見つからなかったので追記の中に書いておきました。)他にもかなり沢山の曲がこのアルバムからコンサートでも演奏されていました。家に帰ってからこのアルバムが2008年にリリースされたと知って、本当に驚いてしまったのだけれど、初期の『The Beat』(1979)や『The Kids Are The Same』(1981)からの楽曲とこうした近年の作品や最新作である『King of Power Pop!』(2010)からの楽曲が、お互いにちっともちぐはぐになったり、見劣りすることなく、1つのセットの中で一体感をもって演奏されていたのです。どの曲も不思議に時間を超越しているようで、今は一体何年だっただろうと思わず考えてしまいそうになるほどです。でもその一方で、ポール・コリンズは折にふれて演奏の前に「この曲は僕のキャリアの本当に始めの頃のもので…」とか「これはサンフランシスコにいた頃に書いたもの」というふうに場所や時間を告げることで、曲に歴史的な立体感を与えると共に、その東京での夜もそうした長い時間の中に位置するものなのだという感慨深さを感じさせるものだったのが印象に残っています。

"Hey D.J."では、観客の合唱も誘われるままに起こり、とても和やかで感動的な1曲でした。みんながやや戸惑っている時に、ひとりで少しためらいがちに"Hey DJ play that song for me"と歌ってみんなを導いてくれた男の人も素敵でした。夜中の1時、私はiPodをかけてポール・コリンズ・ビートを聴く。思い出を、ありとあらゆる思いや夢をよみがえらせるために。夢が見られるように。 

セットリストは見づらいですが、こちらをどうぞ。

"Hey D.J."

Hey D.J. play that song for me, over and over
Hey D.J. play that song for me, I'm listening to you
It's one o'clock at night and I'm in bed got my radio glued to my head
All the lights are out and I should sleep, but the music it sounds so sweet
I wake up morning with my radio on, it's eight a.m. again I don't know how
Gotta hurry up or I'll be late but the world and everyone can wait... I said
Hey D.J. play that song for me, over and over
Hey D.J. play that song for me, I'm listening to you
Take me back to when I was just a boy with a radio
Bring me back those memories all those thoughts and fantasies... I said
Hey D.J. play that song for me, over and over
Hey D.J. play that song for me, I'm listening to you
Take me back to when I was just a boy with a radio
It's one o'clock at night and I'm alone, got my pillow and my radio's on
Airwaves are coming through to me; play me something that will make me dream
I said, Hey D.J. play that song for Hey D.J., over and over
Hey D.J. play that song for, Hey D.J., I'm listening to you.