さあキャプテンのお通りだよ
爆竹みたいな彼女 スキニ―ジーンズを履き
蜂蜜のような唇をして
ガソリンの跡を残していく
親父さんよりもウィスキーを呑むんだぜ
歌まで歌えて
お喋りな連中は
彼女の世界に君が絡めとられていると言う
通りで噂が広まる
彼女はコカインの匂いが好きで
シャンパンと混ぜるとやばいことになるって
檻に閉じ込めておかなきゃ
君の方が生き延びられない
今頃、他の女の子なら誰でもいいのにって
後悔しているんじゃないの
彼女の世界の重みに
引きずられちゃだめだ
部屋に入れてぼろぼろにされるようなことをしちゃ
彼女の手にふれて
傷つけられたりするなよ
今も
この先も2度と
6時45分に起きると
彼女は布団に入ったばかり
読んでもいない大量のメッセージを
携帯から消す
彼女が欲しいのは君だけだけど
それはもっと遅い時間、彼女が酔ってラリっている頃
よく考えてみなよ
彼女の世界に絡めとられているだけだろ
スウェーデン人の女の子たちが
ホテルの外で待っているけど
グリーンカードのために寝たいだけ
君のこともよく知っているんだろうよ
映画のワンシーンみたいな
真っ暗なエンディングが見えるだろ
今頃 他の女の子なら誰でもいいのにって
思っているところなんじゃないの
そもそも君と一体何の話をすればいいって言うんだろ
君が生まれた年に僕は高校を卒業してるんだよ
運転係をやりながら君のちゃちなカーステで
君が自分で発見したと思っているバンドのCDを焼いたやつを聴いたりしたくないんだよ
心許ない気分になるだけなんだ
ENGLISH
前回に続いて、アズベリー・パークのストーン・ポニーでのブッチ・ウォーカーのコンサートについて。
ブッチ・ウォーカーを私が知っていたのは、かつてのカリフォルニアへのひとり旅があったからでした。その頃は、ニューヨーク州北部の雪がどさどさ降るオルバニーという街に滞在していたので、冬休みを使って、カリフォルニアをあちこち歩き回ったりしていたのでした。カリフォルニアのどこかで夜に大きなCD屋さん(ヴァージン・メガ・ストアだった…?RIP)を見つけ、そこで面出しして並べられて試聴機に入った『Sycamore Meadows』(2008)を目にしたことや1曲目の"The Weight of Her"を聴いて、すぐに好きになったことなんかをよく覚えています。けれども『Sycamore Meadows』はいつでも、このカリフォルニアの思い出のために少し特別な存在ではあったけれど、アルバム自体はそれほど心に残ることはありませんでした。"The Weight of Her"は折にふれて聴いたり、今年になっても走るときに聴いたりしていたけれど、暫く聴くとそのうちまた聴かなくなる、ということを繰り返したりしていました。結局のところ、あまり思い入れることができなかったのだと思う。
だから、そんな薄いつながりが、大好きなフランク・ターナーのコンサートさえ凌いでしまうかもしれないくらい、忘れられないコンサートに結びつくというのは、本当に驚くべきことでした。「次の水曜日にストーン・ポニーでブッチ・ウォーカーを観るんだ」とアズベリー・パークで出会った人が言ったときに、私は「ふうん」と言わずに、「『Sycamore Meadows』を持っているよ」と答えることができた。このアルバムは、そのブッチ・ウォーカーが昔から好きだという人にとってもそれほど心に残っている作品ではないようだったけれど、それでも、少なくともそんな話ができたし、そういうところから、じゃあ私も行ってみようかな、という気持ちになりました。
私はブッチ・ウォーカーがどういう人か全然知らなかったし、見た目も『Sycamore Meadows』のジャケットを見て、お洒落そうなハンサムな人、という印象を持っていただけでした。だから、ストーン・ポニーに行って、ピアノから離れてステージに立った彼が、『Sycamore Meadows』のアートワークのような綺麗な艶のある黒髪のあごの細いお兄さんではなくて、結構普通のおじさんだったことがすごく印象的でした。でも彼の姿を見て、お客さんたちの穏やかさや和やかさになんとなく納得がいった。超売れっ子のプロデューサーやソングライターというイメージがあったから、スター然とした雰囲気を想像していたけれど、彼はとても気さくで、暖かい感じのする人でした。そして、彼ならではのキャッチーな曲の助けもあって、曲や彼のことをほとんど何も知らなくても、親しみを感じられたし、その場の居心地がすごく良かった。
ショウの半ばで"Let It Go Where It's Supposed To"という曲が演奏されて、それが今回の旅の中でも最も心に残った出来事のひとつである、ということは前回の記事の中で書いたのですが、そのすぐ後に演奏されたのが、私が唯一知って(覚えて)いた曲だった"The Weight of Her"でした。そしてそのこともまた、なんだか運命的に感じられたのです。『Sycamore Meadows』を買ったとき、5年後にこんな所で、ブッチ・ウォーカーを観ているなんて、夢にも思わなかった。だからやっぱり彼は正しいのかもしれない。人生なんて窓の外に干しておけばいいのかもしれない。風をとらえて、アズベリー・パークでのコンサートに辿り着くかもしれないのだから。間奏の部分では、"Baba O'Riley"を挿入していたのも彼の真っ直ぐさを感じたし、最高に気持ち良く、胸がいっぱいになりました。
この日はハロウィンの前日だったからか、メインセットの後、バンドは黄色い全身タイツ姿でステージに再登場して、"Hot Girls in Good Mood"を演奏しました。ブッチも頭まですっぽりと黄色いタイツをかぶっていて、それでもちゃんと歌を歌ってギターを弾いていたので、すごいな、と感心したものです。途中で頭だけ脱ぎたくなったのに、脱げずにもたもたしていると、バンドの人とローディさんが助けに来たりしました。ブッチは間奏に入ると、ステージから降りて人をかき分け、いちばん後ろのバーカウンターまで行ってお酒をあおると、お客さんの真ん中に戻ってきた。それが、ちょうど私の目の前でした。隣にいる、ブッチのことが昔からずっと好きなんだ、と言ってコンサートに誘ってくれた人のことを思うと本当に嬉しく、彼がどんな顔をしているか振り返らずにはいられなかった。どれだけコンサートに通っても、こういうことはいつも起きるわけじゃない。そういう特別な機会を、ブッチのことがそれだけ好きな人と共有できてとても幸せだった。そして、黄色い全身タイツの彼を目の前にしているのはどう考えてもひとりでいるより、誰かと目を丸くして見ている方が楽しい。すぐ傍で見ているとブッチはお腹もぽちゃぽちゃで、全然スターという感じではなくて、ハロウィンだからと差し出されたお菓子をむしゃむしゃ食べたり、背中にお菓子を投げつけられたりしていた。でも、そんな雰囲気が本当に素敵でした。そして、彼はしゃがませたお客さんに、してほしいことがあるのだと言いました。「亡くなった父親はきっと今頃、僕のことを見てくれていると思うんだ。だから僕がカウントしたら、みんな一斉に跳び上がって叫んで踊ってほしいんだ。ここはニュージャージーだからな。みんな恥も外聞もないだろ!殆どの人は白人で、どうせ踊れやしないんだから、好きにやってくれよ!」。すると、「おれ、黒人だよー」という陽気なお兄さんが現れて、「確かにどう見てもあんたは黒人だ」とブッチに脇へ呼び寄せてもらったりする。そして、ブッチがせーのでカウントすると同時にみんなが一斉に跳び上がり、銀テープや紙吹雪がばっと会場に降り注いだ。
アズベリー・パークは、ずっと日本の真冬のように寒い日が続いていたけれど、この日は上着が要らないくらい暖かい気温が夜まで続いていました。ブッチ・ウォーカーが好きだという人に、少しだけボードウォークを歩きたいと頼むと、いいよと言ってくれた。そして、ボードウォークを降りて、浜辺をどんどん海の方へ歩いて行くと、あっという間にボードウォークの明かりは遠くなって、波の音が大きくなる。"4th of July, Asbury Park (Sandy)"の歌詞を思い出すような、ボードウォークの煌めきや星空が本当に綺麗で、夢のようだった。

爆竹みたいな彼女 スキニ―ジーンズを履き
蜂蜜のような唇をして
ガソリンの跡を残していく
親父さんよりもウィスキーを呑むんだぜ
歌まで歌えて
お喋りな連中は
彼女の世界に君が絡めとられていると言う
通りで噂が広まる
彼女はコカインの匂いが好きで
シャンパンと混ぜるとやばいことになるって
檻に閉じ込めておかなきゃ
君の方が生き延びられない
今頃、他の女の子なら誰でもいいのにって
後悔しているんじゃないの
彼女の世界の重みに
引きずられちゃだめだ
部屋に入れてぼろぼろにされるようなことをしちゃ
彼女の手にふれて
傷つけられたりするなよ
今も
この先も2度と
6時45分に起きると
彼女は布団に入ったばかり
読んでもいない大量のメッセージを
携帯から消す
彼女が欲しいのは君だけだけど
それはもっと遅い時間、彼女が酔ってラリっている頃
よく考えてみなよ
彼女の世界に絡めとられているだけだろ
スウェーデン人の女の子たちが
ホテルの外で待っているけど
グリーンカードのために寝たいだけ
君のこともよく知っているんだろうよ
映画のワンシーンみたいな
真っ暗なエンディングが見えるだろ
今頃 他の女の子なら誰でもいいのにって
思っているところなんじゃないの
そもそも君と一体何の話をすればいいって言うんだろ
君が生まれた年に僕は高校を卒業してるんだよ
運転係をやりながら君のちゃちなカーステで
君が自分で発見したと思っているバンドのCDを焼いたやつを聴いたりしたくないんだよ
心許ない気分になるだけなんだ
ENGLISH
前回に続いて、アズベリー・パークのストーン・ポニーでのブッチ・ウォーカーのコンサートについて。
ブッチ・ウォーカーを私が知っていたのは、かつてのカリフォルニアへのひとり旅があったからでした。その頃は、ニューヨーク州北部の雪がどさどさ降るオルバニーという街に滞在していたので、冬休みを使って、カリフォルニアをあちこち歩き回ったりしていたのでした。カリフォルニアのどこかで夜に大きなCD屋さん(ヴァージン・メガ・ストアだった…?RIP)を見つけ、そこで面出しして並べられて試聴機に入った『Sycamore Meadows』(2008)を目にしたことや1曲目の"The Weight of Her"を聴いて、すぐに好きになったことなんかをよく覚えています。けれども『Sycamore Meadows』はいつでも、このカリフォルニアの思い出のために少し特別な存在ではあったけれど、アルバム自体はそれほど心に残ることはありませんでした。"The Weight of Her"は折にふれて聴いたり、今年になっても走るときに聴いたりしていたけれど、暫く聴くとそのうちまた聴かなくなる、ということを繰り返したりしていました。結局のところ、あまり思い入れることができなかったのだと思う。
だから、そんな薄いつながりが、大好きなフランク・ターナーのコンサートさえ凌いでしまうかもしれないくらい、忘れられないコンサートに結びつくというのは、本当に驚くべきことでした。「次の水曜日にストーン・ポニーでブッチ・ウォーカーを観るんだ」とアズベリー・パークで出会った人が言ったときに、私は「ふうん」と言わずに、「『Sycamore Meadows』を持っているよ」と答えることができた。このアルバムは、そのブッチ・ウォーカーが昔から好きだという人にとってもそれほど心に残っている作品ではないようだったけれど、それでも、少なくともそんな話ができたし、そういうところから、じゃあ私も行ってみようかな、という気持ちになりました。
私はブッチ・ウォーカーがどういう人か全然知らなかったし、見た目も『Sycamore Meadows』のジャケットを見て、お洒落そうなハンサムな人、という印象を持っていただけでした。だから、ストーン・ポニーに行って、ピアノから離れてステージに立った彼が、『Sycamore Meadows』のアートワークのような綺麗な艶のある黒髪のあごの細いお兄さんではなくて、結構普通のおじさんだったことがすごく印象的でした。でも彼の姿を見て、お客さんたちの穏やかさや和やかさになんとなく納得がいった。超売れっ子のプロデューサーやソングライターというイメージがあったから、スター然とした雰囲気を想像していたけれど、彼はとても気さくで、暖かい感じのする人でした。そして、彼ならではのキャッチーな曲の助けもあって、曲や彼のことをほとんど何も知らなくても、親しみを感じられたし、その場の居心地がすごく良かった。
ショウの半ばで"Let It Go Where It's Supposed To"という曲が演奏されて、それが今回の旅の中でも最も心に残った出来事のひとつである、ということは前回の記事の中で書いたのですが、そのすぐ後に演奏されたのが、私が唯一知って(覚えて)いた曲だった"The Weight of Her"でした。そしてそのこともまた、なんだか運命的に感じられたのです。『Sycamore Meadows』を買ったとき、5年後にこんな所で、ブッチ・ウォーカーを観ているなんて、夢にも思わなかった。だからやっぱり彼は正しいのかもしれない。人生なんて窓の外に干しておけばいいのかもしれない。風をとらえて、アズベリー・パークでのコンサートに辿り着くかもしれないのだから。間奏の部分では、"Baba O'Riley"を挿入していたのも彼の真っ直ぐさを感じたし、最高に気持ち良く、胸がいっぱいになりました。
この日はハロウィンの前日だったからか、メインセットの後、バンドは黄色い全身タイツ姿でステージに再登場して、"Hot Girls in Good Mood"を演奏しました。ブッチも頭まですっぽりと黄色いタイツをかぶっていて、それでもちゃんと歌を歌ってギターを弾いていたので、すごいな、と感心したものです。途中で頭だけ脱ぎたくなったのに、脱げずにもたもたしていると、バンドの人とローディさんが助けに来たりしました。ブッチは間奏に入ると、ステージから降りて人をかき分け、いちばん後ろのバーカウンターまで行ってお酒をあおると、お客さんの真ん中に戻ってきた。それが、ちょうど私の目の前でした。隣にいる、ブッチのことが昔からずっと好きなんだ、と言ってコンサートに誘ってくれた人のことを思うと本当に嬉しく、彼がどんな顔をしているか振り返らずにはいられなかった。どれだけコンサートに通っても、こういうことはいつも起きるわけじゃない。そういう特別な機会を、ブッチのことがそれだけ好きな人と共有できてとても幸せだった。そして、黄色い全身タイツの彼を目の前にしているのはどう考えてもひとりでいるより、誰かと目を丸くして見ている方が楽しい。すぐ傍で見ているとブッチはお腹もぽちゃぽちゃで、全然スターという感じではなくて、ハロウィンだからと差し出されたお菓子をむしゃむしゃ食べたり、背中にお菓子を投げつけられたりしていた。でも、そんな雰囲気が本当に素敵でした。そして、彼はしゃがませたお客さんに、してほしいことがあるのだと言いました。「亡くなった父親はきっと今頃、僕のことを見てくれていると思うんだ。だから僕がカウントしたら、みんな一斉に跳び上がって叫んで踊ってほしいんだ。ここはニュージャージーだからな。みんな恥も外聞もないだろ!殆どの人は白人で、どうせ踊れやしないんだから、好きにやってくれよ!」。すると、「おれ、黒人だよー」という陽気なお兄さんが現れて、「確かにどう見てもあんたは黒人だ」とブッチに脇へ呼び寄せてもらったりする。そして、ブッチがせーのでカウントすると同時にみんなが一斉に跳び上がり、銀テープや紙吹雪がばっと会場に降り注いだ。
アズベリー・パークは、ずっと日本の真冬のように寒い日が続いていたけれど、この日は上着が要らないくらい暖かい気温が夜まで続いていました。ブッチ・ウォーカーが好きだという人に、少しだけボードウォークを歩きたいと頼むと、いいよと言ってくれた。そして、ボードウォークを降りて、浜辺をどんどん海の方へ歩いて行くと、あっという間にボードウォークの明かりは遠くなって、波の音が大きくなる。"4th of July, Asbury Park (Sandy)"の歌詞を思い出すような、ボードウォークの煌めきや星空が本当に綺麗で、夢のようだった。
