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遠い家への道のり (Reprise)

Bruce Springsteen & I

Stereophonics "Dakota"

2016-08-12 23:55:51 | ROCK
昔のことを思い返して 君のこと考えたりしてる
夏、確か6月だった
そう、6月
寝転がって 芝生の上に頭を乗っけて
ガムを噛みながら笑って
楽しい話をしたよね

君といると自分が特別な存在なんだって思えた
君にとってのいちばん
大切な存在だって
君といると自分が特別な存在なんだって思えた
君にとってのいちばん
大切な存在だって

飲み干すつもり 2人分を
君と飲んだ頃は
飲むこと自体が新鮮だった
俺の車の後部座席で眠ったりして
遠出はいちどもしなかった
遠くになんて行く必要なかった

どこへ向かってるのか分からない
俺たちがどこへ行こうとしてるのか

モーニングコール コーヒーとジュース
君のことを思い出すよ
君はどうなったの?
また君と会うことってあるのかな
あれ以来どうしてたかとか
2人の関係が終わってしまった理由を話したりすることって

君といると自分が特別な存在なんだって思えた
君にとってのいちばん
大切な存在だって
君といると自分が特別な存在なんだって思えた
君にとってのいちばん
大切な存在だって

どこへ向かってるのか分からない
俺たちがどこへ行こうとしてるのか

こっちを見て 俺のことを見てよ

ENGLISH



7月の終わりに渋谷のO-Eastでステレオフォニックスというウェールズのバンドを観ました。ものすごくストレートで衒いのないステージがとても清々しく、とても懐かしくて、それ以来、何度もこの夜のことを思い返しています。それくらい、胸に突き刺さるコンサートだった。

ステレオフォニックスにとって、今年はデビューから20周年にあたる節目の年であるとのことです。私が初めてこのバンドの曲を聴いたのはちょうど15年前の2001年のことでした。今と同じ夏の季節で、行ったことのない土地へ向かう飛行機のなかで"Have a Nice Day"を聴いたことが深く印象に残っています。本当はそれより先に"Mr. Writer"を聴いたことがあって、そのおかげ初めて聴いたときにも"Have a Nice Day"がステレオフォニックスの曲だと分かりました。私はまだティーンエイジャーにもなっていない年齢だった。学校もない季節で、見知らぬ土地が待っている。ステレオフォニックスは「良い1日を」と心地良く歌っている。なんて完璧な夏の1日だろう。

その次にステレオフォニックスを聴いたことを鮮やかに覚えているのはそれから更に3年半くらい経ってからのことです。記憶のなかではもっと後の時期のような気がしていたけれど、受験生になる直前の春休みのこと。1年後には大嫌いな高校生活は終わっている。でも、高校を出ていったい私は何をしているだろう。どこにいるだろう。私は高校受験をしなかったから、自分で進路を決めるというのはこのときが初めてでした。自分の可能性と希望とを秤にかけて、夢を見たり、不安になったりする時期だった。でも、この頃にはすでにブルース・スプリングスティーンに出会っていたし、"Thunder Road"は人生のテーマソングになっていて、きっと自分はここを出て行くんだと心に決めていたんだと思います。毎日自分にそう言い聞かせて、それまでよりも夜更かしをして勉強をするようになった。たぶん、その頃、母親が入院したために早く寝るように言う人もいなくなっていたのかもしれない。

田舎の夜は本当に静かです。私の部屋の真下にある書斎で、父親が起きている音以外、なにもしない。みんなが眠っている時間。この頃、新しい習慣を作りました。夜の勉強に区切りがついたら、FM COCOLOというラジオ局にチャンネルを合わせておやすみタイマーをつけてベッドに潜り込む。部屋は真っ暗だけど、シーリングライトのカバーに貼った星型の蓄光シールが灯りを消しても暫くぼんやりと光っている。ラジオではイギリスのBBCがいろいろな国際ニュースを伝えている。英語が得意になりたかったから少しでもたくさん英語を聴こうと思って毎晩寝るときにはこのニュースが聴けるようにしていたのです。どれくらい分かったのかもう今では全然思い出せません。でも、ずっと育ってきた田舎の自分の部屋でイギリスのことを想像するのは最高だった。きっとイギリスは今は夜じゃない。私が想像もできない人たちが今頃、昼の光のなかで私のことなんか考えもしないで学校に行ったり、仕事をしたり、普通の生活をしている。それはすごく自由を感じることだった。世界は本当に広くて、私は行きたいところに行ける。いたくないところなんかにいなくていい。誰ひとり私のことを知らない場所に行って、なにもかも自分の望む通りに生きることができるように思えた。そして、この習慣を始めた頃にFM COCOLOが今月のパワープッシュソングに選んでいたのがステレオフォニックスの"Dakota"だったのです。だから私のなかで、この曲はずっと未来とつながっている曲でした。真っ暗な夜の闇のずっとずっと先には昼間がある。この曲を聴くといつでも当時の不安とじりじりするような気持ちと自由への渇望を思い出しました。真っ暗な自分の部屋で天井を見つめていたときのことを。

そして今や私はそのとき思い描くことのできた未来よりも遥か先の未来を生きている。こうしてこの年齢になって、渋谷で迷子になることもなくクラブに来て、ステレオフォニックスを観ることになるなんて考えたこともなかった。"Dakota"がこんなにもたくさんの人にとって大切な曲だなんて思ってもみなかった。ひとりきりの暗闇の外で、こんなにも多くの人と一緒にこの曲の歌詞を口にするなんて想像したこともなかった。同時に"Dakota"が本当は過去を振り返る曲だなんて思ってもみなかった。私の記憶のなかではミュージックビデオのなかのケリー・ジョーンズは車を運転して、どこかへ向かっていた。けれども、本当は彼はどこかの古びたモーテルで運転していた過去の自分の姿を眺めている。これから自分がどこへ向かうのかなんて知らない。でも、あの時に故郷の町を出て行くことを、暗闇のなかで昼間の世界のことを強く強く望んだから、今私はここでステレオフォニックスを観ている。そう思うと本当に胸がいっぱいだった。自分のやってきたすごくランダムなことやたくさんのいい加減なことのなかにもこうしてちゃんともっと真面目だった頃の自分自身とつながっている部分があるのだと実感できた。そしてたぶん、想像しなかった未来だってきっと悪いことばかりじゃない。


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2 コメント

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Unknown (matz)
2016-08-14 22:39:59
「そのとき思い描くことのできた未来よりも遥か先の未来を生きている。」
asburyさんの文章はしばしば、自分が普段、見落として埃まみれに汚してしまった事実を、拾い上げて見つめ直さなきゃ、という気持ちにしてくれます。

10代なんて、何も持ってなくて当たり前で、そんなことをそれほど焦る必要なんかない。
10代の自分に会えたら、そう言ってやりたいけど、きっと10代の自分はそんなことに耳を貸さない。
どこへ向かうべきかもわからず、でも走りながら標識だけは見落とさないように目を剥いて、ただ焦燥感と欲望だけがポケットから溢れてた。
大切なものを抱きとめようと、いつでも力の限りだったけど、きっとその力は誰かにとっては暴力のようなものだったかもしれません。
実際に、取り返しのつかないことをしてしまいましたし。
だから、やり直したいとは決して思わない。
他のやり方もあったかもしれないとは思うけど。

今ここにいる自分は、あの頃必死に掴もうとしていた未来の可能性の、どれでもない。
だけど、好きな音楽が聞こえてきたら、穏やかに微笑むことができるくらいには、人生を謳歌しているのです。

そんなことを、あらためて想いました。
それはきっと、明日からの自分の生き方に、ほんの少し影響があるでしょう。
そんなことの積み重ねで、ここまで来たように。
ありがとうございます。

まるで自分の日記に書くべきようなことを、asburyさんのブログに来てまで、ごめんなさい。
つい出来心です。
最後にもうひとつ。
がむしゃらだった時の自分、何もかも持ってなくてもがいていた自分を思い出すと、なぜか季節は夏なんです。
そんなはずはないのに。
不思議です。
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Unknown (asbury)
2016-08-16 16:12:11
matzさん

いつも心のこもったコメントをありがとうございます。日記に書かれても良かったかもしれないことを、こうしてこちらに書いてくださったことは、私にとってはとても嬉しいことです。

なんとなく、matzさんのコメントを拝読して、matzさんは今きっと幸せな日々を過ごされているのだろうなという気持ちになりました。いろいろ今のこと、明日のこと、これまでのことを思って心が乱されることもあるかもしれませんが、「好きな音楽が聞こえてきたら、穏やかに微笑むことができるくらいには、人生を謳歌している」と言い切ることができるというのは、素晴らしいなと思い心が温まりました。きっと今振り返られていつも一生懸命だったと思うことができるからなのかなと想像したりしています。すてきなコメントをありがとうございました。
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