俺は力を尽くしてきた 正しい道に乗ろうと
今夜はモンローからアンジェリンへ 埃っぽい道を飛ばしていこう
お前に金の指輪といかした青いドレスを買いに
たった1度のキスでどちらもお前のものになる
今夜俺たちに起こることを封印する1度のキス
それを一晩かけて示すキスで
夜を徹して証明するんだ
他に俺たちにできることなんて何もない
だから一晩中 夜を徹して示すんだよ
そして俺は一夜をかけてお前に示してみせる
誰もが飢えを抱えている 決して抗えない飢えを
お前が求めるものはあまりに多いが 更に望んだって構わない
だがもしも夢が現実となったら それは素敵じゃないか
けれども今夜俺たちが生き抜くのは夢でも何でもない
いいか 望んだものを手にしろ そして代価を支払うんだ
夜を徹して証明してみせる
怯むことなんかない
一晩中 休むことなく示すんだ
俺はお前への愛のために示してみせる
白い長いリボンで髪を後ろで束ねて
発電所裏の空き地に会いに来てくれ
行くなという声を耳にするだろう
奴らは自分の選択を下したんだ
連中には決して分からない
盗みや欺瞞、嘘が一体何を意味するのか
生き、そして死ぬことがどんなものなのか
ENGLISH
1978年8月15日の演奏。
今日はブルース・スプリングスティーンの『Darkness on the Edge of Town(闇に吠える街)』(1978)からの1曲、"Prove It All Night(暗闇へ突走れ)"を取り上げました。私が最初にこの曲を聴いたのは、『Live in New York City』(2001)の2曲目としてでしたが、コンサートの中でも演奏されればハイライトの1つになる楽曲だと思います。特に『Darkness』ツアーの頃の長い長いドラマティックなイントロをつけた10分前後に及ぶ演奏は、何だかなにかに憑りつかれているような鬼気迫る様子さえする凄まじいものです。私は曲も歌詞も、少しハードでタフすぎる気がして以前は他の曲に比べてとても好きという訳ではなかったのだけれど、近頃じわじわと心を惹かれるようになってきた1曲です。
最初にはっとしたのは、『The Promise: Darkness on the Edge of Town』(2010)に収められたドキュメンタリ『The Promise: The Making of Darkness on the Edge of Town』を観た時でした。この中にとても印象的なシーンがあるのです。話はミキシングに関する部分で、『Darkness』の楽曲のレコーディングは終わったものの、ミキシングで行き詰まり、ジョン・ランダウがチャック・プロトキンというプロデューサーとして活動していた男性に助言を頼みます。それまでミキシングをしたことはなかったという彼が、結局ミキサーとして携わることになるのですが、最初に手を加えたのが、たぶん"Prove It All Night"だったとブルースは振り返っています。プロトキンが作業をする前にブルースは、曲について説明を与えたといい、それをプロトキンが話すシーンがとても印象深いところです。
ブルースの説明の仕方は、「君は映画館にいると思ってくれ。スクリーンではカップルがピクニックをしている。そこでカメラがぱっと、1つの死体に切り替わる。アルバムの中でこの曲は、必ずその死体の場面なんだよ」というようなものだったそうです。このブルースの言葉を話している時の映像と音がとてもいいのです。画面では再生機の上で回転するレコードが大写しになっている。「そこでぱっと」とプロトキンが言ったところで針がレコードに落ちて、"Prove It All Night"の「You hear the voices telling you not to go」という部分で最も耳に残る鍵盤の澄んだ音が零れ落ちるように聞こえてくるのです。それがまるで、その死体から血がしたたり落ちる音のように聞こえる。初めてこのシーンを観た時に、なんてかっこいいのだろう…!と思いました。プロトキンも言っているけれど、曲を書いた人からこのような表現で、曲のイメージを告げられるというのは、とても胸の躍ることだと思います。そして、プロトキンにはそれを実際に音にする力があった。その過程を想像するだけでも本当に興奮を誘われます。
歌詞は改めてじっくりふれると、アルバム『Darkness』の真髄のように感じられます。『Born to Run』(1975)が若者の見果てぬ夢とロマンを描いたアルバムであったとするならば、『Darkness』というアルバムは、現実との対峙が主題であると思います。夢ばかり見ている訳にはいかない。逃げ続ける訳にはいかない。ブルースはドキュメンタリーの中でこう述べています。
「大人の生活には多くの妥協がつきものだ。それは避けられない。多くのことに妥協を迫られる。その一方で、決して妥協したくないという自分の本質に関わる物事がある。それらを見極めていくんだ。自分の人生において、世の中を渡っていくために妥協しなくてはならないこととは何なのか?何だっていいさ、請求書の支払いをするだとか、人付き合いをうまくするとか、子どもを食べさせていくとかいったことだ。そして、自分の人生において、決して妥協できないことや我を忘れて夢中になることとは何なのか?」
"Prove It All Night"の中で主人公が懸命に示そうとしているのは、その妥協できない部分についてなのだと思います。自分は完璧ではないし、"Thunder Road"での意味より更に厳しく、確実に「ヒーローなんかではない」。けれども、決して譲れない部分があり、それが自分自身の本質にかかわる物事(essential things)であり、それこそが自分の生き様を肯定してくれる。だから望んだからには手にしなくてはならないし、そのためにいかなる代価を支払わねばならないとしても、それは甘んじて受ける外ない。これはその覚悟と挑戦と努力の歌だと思うのです。
けれども、この曲は、それだけではなくて、とてもタフなラブソングにも聞こえるように書かれているために、物語的なふくらみを持っている点が少し特別です。言わんとしていることはアルバムの中で続きになっている""Darkness on the Edge of Town"ともたいへん近いと思うのだけれど、女の子に話しかける体裁をとることでやっぱりロマンティックな要素が加わって、何だかとても映画的な感じがする。発電所裏の殺風景な空き地で白いリボンをたなびかせて立っている女の子の姿が目に浮かびそうです。そして、何よりいいなと思うのは、この主人公が示すと言っているのは、彼女への愛ではないというところです。彼女のため、彼女への愛のために、「俺はそれを示してみせる」というふうに言っている。これは私にはとてもとても誠実に思われるのです。自分にとって決して妥協できないことを守り抜く。自分に対して忠義を尽くす。そうすることができて初めて、ひとは他人に対しても誠実であることができるように私には思えるからです。
たぶん、私自身ここに書いたような観点で自分自身に向き合うことが多いからかと思うのだけれど、年末くらいからはずっといろいろなバージョンの"Prove It All Night"を聴き続けています。昔はかなり鋭くきりきりと突き刺さるような突き放すような演奏だったのが、いつ頃からか、もっと吹っ切れて太いどっしりとした印象に変わっているのが面白いです。『Live in New York City』の方はもう完全に後者で、これも良いのだけれど、今は私は古いものやスタジオ録音のものが胸に迫るように感じます。
『Live in New York City』の演奏。2000年。
今夜はモンローからアンジェリンへ 埃っぽい道を飛ばしていこう
お前に金の指輪といかした青いドレスを買いに
たった1度のキスでどちらもお前のものになる
今夜俺たちに起こることを封印する1度のキス
それを一晩かけて示すキスで
夜を徹して証明するんだ
他に俺たちにできることなんて何もない
だから一晩中 夜を徹して示すんだよ
そして俺は一夜をかけてお前に示してみせる
誰もが飢えを抱えている 決して抗えない飢えを
お前が求めるものはあまりに多いが 更に望んだって構わない
だがもしも夢が現実となったら それは素敵じゃないか
けれども今夜俺たちが生き抜くのは夢でも何でもない
いいか 望んだものを手にしろ そして代価を支払うんだ
夜を徹して証明してみせる
怯むことなんかない
一晩中 休むことなく示すんだ
俺はお前への愛のために示してみせる
白い長いリボンで髪を後ろで束ねて
発電所裏の空き地に会いに来てくれ
行くなという声を耳にするだろう
奴らは自分の選択を下したんだ
連中には決して分からない
盗みや欺瞞、嘘が一体何を意味するのか
生き、そして死ぬことがどんなものなのか
ENGLISH

今日はブルース・スプリングスティーンの『Darkness on the Edge of Town(闇に吠える街)』(1978)からの1曲、"Prove It All Night(暗闇へ突走れ)"を取り上げました。私が最初にこの曲を聴いたのは、『Live in New York City』(2001)の2曲目としてでしたが、コンサートの中でも演奏されればハイライトの1つになる楽曲だと思います。特に『Darkness』ツアーの頃の長い長いドラマティックなイントロをつけた10分前後に及ぶ演奏は、何だかなにかに憑りつかれているような鬼気迫る様子さえする凄まじいものです。私は曲も歌詞も、少しハードでタフすぎる気がして以前は他の曲に比べてとても好きという訳ではなかったのだけれど、近頃じわじわと心を惹かれるようになってきた1曲です。
最初にはっとしたのは、『The Promise: Darkness on the Edge of Town』(2010)に収められたドキュメンタリ『The Promise: The Making of Darkness on the Edge of Town』を観た時でした。この中にとても印象的なシーンがあるのです。話はミキシングに関する部分で、『Darkness』の楽曲のレコーディングは終わったものの、ミキシングで行き詰まり、ジョン・ランダウがチャック・プロトキンというプロデューサーとして活動していた男性に助言を頼みます。それまでミキシングをしたことはなかったという彼が、結局ミキサーとして携わることになるのですが、最初に手を加えたのが、たぶん"Prove It All Night"だったとブルースは振り返っています。プロトキンが作業をする前にブルースは、曲について説明を与えたといい、それをプロトキンが話すシーンがとても印象深いところです。
ブルースの説明の仕方は、「君は映画館にいると思ってくれ。スクリーンではカップルがピクニックをしている。そこでカメラがぱっと、1つの死体に切り替わる。アルバムの中でこの曲は、必ずその死体の場面なんだよ」というようなものだったそうです。このブルースの言葉を話している時の映像と音がとてもいいのです。画面では再生機の上で回転するレコードが大写しになっている。「そこでぱっと」とプロトキンが言ったところで針がレコードに落ちて、"Prove It All Night"の「You hear the voices telling you not to go」という部分で最も耳に残る鍵盤の澄んだ音が零れ落ちるように聞こえてくるのです。それがまるで、その死体から血がしたたり落ちる音のように聞こえる。初めてこのシーンを観た時に、なんてかっこいいのだろう…!と思いました。プロトキンも言っているけれど、曲を書いた人からこのような表現で、曲のイメージを告げられるというのは、とても胸の躍ることだと思います。そして、プロトキンにはそれを実際に音にする力があった。その過程を想像するだけでも本当に興奮を誘われます。
歌詞は改めてじっくりふれると、アルバム『Darkness』の真髄のように感じられます。『Born to Run』(1975)が若者の見果てぬ夢とロマンを描いたアルバムであったとするならば、『Darkness』というアルバムは、現実との対峙が主題であると思います。夢ばかり見ている訳にはいかない。逃げ続ける訳にはいかない。ブルースはドキュメンタリーの中でこう述べています。
「大人の生活には多くの妥協がつきものだ。それは避けられない。多くのことに妥協を迫られる。その一方で、決して妥協したくないという自分の本質に関わる物事がある。それらを見極めていくんだ。自分の人生において、世の中を渡っていくために妥協しなくてはならないこととは何なのか?何だっていいさ、請求書の支払いをするだとか、人付き合いをうまくするとか、子どもを食べさせていくとかいったことだ。そして、自分の人生において、決して妥協できないことや我を忘れて夢中になることとは何なのか?」
"Prove It All Night"の中で主人公が懸命に示そうとしているのは、その妥協できない部分についてなのだと思います。自分は完璧ではないし、"Thunder Road"での意味より更に厳しく、確実に「ヒーローなんかではない」。けれども、決して譲れない部分があり、それが自分自身の本質にかかわる物事(essential things)であり、それこそが自分の生き様を肯定してくれる。だから望んだからには手にしなくてはならないし、そのためにいかなる代価を支払わねばならないとしても、それは甘んじて受ける外ない。これはその覚悟と挑戦と努力の歌だと思うのです。
けれども、この曲は、それだけではなくて、とてもタフなラブソングにも聞こえるように書かれているために、物語的なふくらみを持っている点が少し特別です。言わんとしていることはアルバムの中で続きになっている""Darkness on the Edge of Town"ともたいへん近いと思うのだけれど、女の子に話しかける体裁をとることでやっぱりロマンティックな要素が加わって、何だかとても映画的な感じがする。発電所裏の殺風景な空き地で白いリボンをたなびかせて立っている女の子の姿が目に浮かびそうです。そして、何よりいいなと思うのは、この主人公が示すと言っているのは、彼女への愛ではないというところです。彼女のため、彼女への愛のために、「俺はそれを示してみせる」というふうに言っている。これは私にはとてもとても誠実に思われるのです。自分にとって決して妥協できないことを守り抜く。自分に対して忠義を尽くす。そうすることができて初めて、ひとは他人に対しても誠実であることができるように私には思えるからです。
たぶん、私自身ここに書いたような観点で自分自身に向き合うことが多いからかと思うのだけれど、年末くらいからはずっといろいろなバージョンの"Prove It All Night"を聴き続けています。昔はかなり鋭くきりきりと突き刺さるような突き放すような演奏だったのが、いつ頃からか、もっと吹っ切れて太いどっしりとした印象に変わっているのが面白いです。『Live in New York City』の方はもう完全に後者で、これも良いのだけれど、今は私は古いものやスタジオ録音のものが胸に迫るように感じます。
