教会史における「新しい歌」 ー賛美と礼拝の歴史神学的考察ー

「新しい歌」がどのように生み出され、受け継がれ、また新たな歌を必要とする状況を生み出したかを歴史的に検証します。

本論⑥ 中世のローマ式典礼の概要とその特徴 <1>

2005-04-19 21:43:43 | 講義
<はじめに>
◆AD313年にコンスタンティヌス帝がキリスト教会を公認(ミラノ勅令)したことによって、キリスト教会は確固たる教会を目指して、最初の偉大な時期に入ることとなった。そしてキリスト教会の標準的な典礼の形式が成立していく。6世紀頃にはローマ大司教のもとに、キリスト教会の典礼のスタイルは統一され、さらに強化されていく。そして11世紀頃までにはこの統一は完了する。以後、1960年代の第二バチカン公会議まで、実に900年以上にわたってそれは受け継がれていくのである。
◆ローマ式の典礼の内容を考えるとき、そこにはキリスト教会がユダヤ教から受け継いだものと、キリスト教独自のものが見事に調和され、より深遠で神秘的な方法で表出されていく。ここでは中世ローマ・カトリック教会の礼拝の全体的な概要を見てみよう。

1. ミサの概要の概説

(A)みことば礼拝(シュナクシス)・・会堂、ユダヤ教の伝統、信者および信者以外の者にも公開された。
(B)聖 餐・・・個人の家庭、キリスト教独自、信者のみの神への感謝。

◆これが3~4世紀にかけて以下のような礼拝を形成する。

(A)シュナクシス(みことば礼拝)

①長老によって挨拶がとなえられ、会衆がそれに応答する。
②聖書からの三つの節が引用され、朗詠のかたちで歌われ、その節の間で詩篇が応唱のかたちで歌われる。
a.第一朗読 モーセ五書から
b.第二朗読 預言書から
c.第三朗読 新約聖書から
ー詩篇の選定は、これらの朗読の内容にしたがって決められたー
③司祭や司教が説教を行なう。
④参会者の中のキリスト教信者でない者はここで退散となる。

(B) 聖 餐(パン裂き礼拝)

①信者たちが祈祷を行なう
②祭壇にさまざまの奉献をなす。聖職者がささげものに対する祝福の祈りをささげる。
③聖体拝領が行なわれる。すなわち、パンとぶどう酒の分餐かなされる。
④前後の祈りがあり、その後に参会となる。

◆中世に確立したローマ・カトリック教会の典礼は、聖餐(ミサ)をクライマックスとした精巧な企画された完成度の高いドラマである。ミサのはじめからある主の雰囲気が人間の五感のすべてを通して伝わる仕組みになっている。
①神にささげられる賛美と聖書朗読を聞く・・・・・〔聴覚〕
②司祭の象徴的な動きを見ること・・・・・・・・・〔視覚〕
③聖体拝領で与えられるパンとぶどう酒の味わい・・〔味覚〕
④空気をきよめる香りの匂いを嗅ぐ・・・・・・・・〔臭覚〕
⑤主の平安を互いに祈るための握手や抱擁を交わす・〔触覚〕
◆このように、ミサという行為を通して、会衆(礼拝者)は深遠で神秘的な方法で新しくされるのである。特質すべきことは、中世におけるミサは経験することに意義があった。何かを得るために人々はミサに来るわけではなかった。千年以上にわたって、人々はミサの内容は理解できなかった。なぜなら、ほとんどの人々はラテン語を理解することができなかったからである。ミサは五感を通して神の存在を呼び起こす聖なる時間だったのである。(脚注1)

2. ミサの構成と特徴

通常文(O)  固有文(P)  歌う形を取る賛歌(S)  抑揚をつけて唱える形を取る賛歌(I)

〔前半〕 シュナクシス―志願者のためのミサ―
①入祭唱 Introitus(PS)              
②キリエの賛歌 Kyrie (OS)
③栄光の賛歌 Gloria(OS)
④集祷文(PI)
⑤書 簡(PI)
⑥昇階唱 Graduale(PS) 
⑦アレルヤ唱 Alleluia (PS) (脚注2)
⑧福音書朗読 (PI)  
⑨信仰告白 Credo (OS)     
⑩奉納唱 Offertorium(PS)
⑪密 誦 Secreta (PI) 

〔後半〕聖 餐 ―信者のためのミサ― 
①序 誦
②感謝の賛歌 Sanctus(OS)
③カノン(OI)
④平和の賛歌 Agnus Dei (OS)
⑤聖体拝領唱 Commmunio (PS)
⑥聖体拝領後の祈り(PI)
⑦終祭唱 Ite Missa est (イテ・ミサ・エスト) あるいは主をたたえまつらん(Benedicamus Domino)

◆各々の祝祭日の重要な礼拝としてのミサは、常に同一の歌詞を持つ不変の部分、つまり通常文(Ordinarium)と、機能は変わらないがそれぞれの日に応じて変化する歌詞を持つ部分、つまり固有文(Properium)とを使用して、その日の特別な性格をあらわしている。
◆また、一定の法則にしたがって抑揚をつけて唱えられ、他は、特定の旋律で歌われる。この後者こそ、音楽史においては最も重要なものとなる。なぜなら、この部分において演奏家や作曲者の才能は十分に発揮できるからであった。
◆固有文と通常文という二つの範疇は音楽上の特性からも異なっている。固有文は、スコラ・カントール、つまり専門の歌手養成の学校で教育された独唱者、ならびに聖歌隊を対象にした歌で、通常文よりずっと優れた技巧を要するものである。それに引き換え、通常文は、はじめ、会衆一同や司式を行なう聖職者によってふつう歌われていた。しかし聖歌隊が通常文も歌うようになってからは、この区別は次第になくなっていった。また、固有文の歌詞はふつう聖書に基づくものであり、特に大部分が詩篇によっているが、通常文の歌詞は聖書以外のものに基づいている。
◆初期に行なわれた固有文の歌い方は二種類に分類できる。
①交唱 (アンティフォナ) で歌われる聖歌・・入祭唱、奉献唱、
交唱は、聖歌隊の半分が他の半分に答えるという方法。
②応唱 (レスポンソリウム)で歌われる聖歌・・昇階唱、アレルヤ唱
応唱は、聖歌隊が訓練された独唱者もしくはそれ以上の数の先唱者に応じて歌う方法。


(脚注1)
◆ 言うなれば、仏教のお経を聞くようなものである。そこに参列している人々はお経の意味が全く分からなくても、聖なる空間と時間を共有している。
(脚注2)
◆すべての聖歌の中でアレルヤ唱は、力いっぱい音楽上の表現ができるという点で最適なものである。中世の作曲家たちにとっては、つまり魂の恍惚を感動的に表現する箇所であった。したがって、この聖歌はカタルシスを暗示する点、つまり魂の浄化を教えるという点から、典礼の中で特殊の位置を占めていた。このカタルシスは、歌詞から生まれるものではなく、音楽とその効果から生まれてくるものであった。


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