戯言

萌えやら呟きやらたまに更新記録も混じる無駄口日記
現在ジャンルが雑穀米

もいっちょクジラキュウ

2009年06月10日 | お侍
 それは赤い悪魔と言われていた。南の海には緋眼の魔物が棲んでいて、通る船をことごとく沈めていくのだと。
 どんなに腕利きの船乗りを集めた漁船だろうが巨大な商船だろうが、最新鋭の武器を搭載した戦艦でさえ、魔物に出会ってしまったが最後、真っ二つに裂かれ海底へ引き擦り込まれるのだという。
 魚雷よりも速く、雷光よりも鋭く、島よりも大きな其れ。
 噂は畏怖となり、尾ひれがつき神格化され、やがて伝説となった。

 しかしながらそれも今は昔の話。
 魔物が席捲したという伝説の海は、度重なる戦の所為で今や完全に干上がり、砂漠となっていた。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花、とはよく言ったものだな」

 何が魔物だ、と。眩しそうに白い柱を見上げながら男が言った。
「恐らく底の浅くなった海で此奴に乗り上げ沈没したのであろうよ」
 がつがつと軍靴で柱の根元を蹴る。細かい砂塵が舞い上がり、風に流されて行く。
 男の足元からは、大理石のような柱が二本対になって生えていた。柱の上方は中央に向かって湾曲しており、天井部分で左右が組み合わさっていた。まるで半円型の門のようだ。門は男の前にも後ろにも、等間隔にいくつも並んでいる。

 それは、大きな大きなクジラの死骸であった。

「枯れ尾花とは、何だ」
 男の傍らに居た少年が、相手の方を見もせずに問うた。
「枯れ尾花とはちょうどお前の頭のような…と、何を見ておる」
 相方の視線に気づいた男が傍へ寄る。枯れ尾花と称された蓬髪を靡かせる少年の視線を辿り、男は「ほう」と声を上げた。

 柱の一本から、赤く錆びた刀がぶら下がっていた。

 元は沖であったであろう方向から強く風が吹き寄せる。
 風は錆びた刀を揺らし、クジラの肋骨をコツコツと叩いた。





 某こと屋さん(全然伏せてねェ)宅の御日記でクジラキュウを救済して頂いたので、謝意を込めてご返杯。
 時空を超えても愛じゃよ、愛。


 拍手のお侍様方有難うございました。注目すべきはクジラの胃液にも風化にもびくともしない刀の下緒です。新素材か(笑)。


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