ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

高野秀行【メモリークエスト】

2013-07-25 | 幻冬舎

「あの人は今?」
遠い昔出会ったきり、今となっては定かではない記憶の中の「あの人」を探す旅。
例えば、それは「タイのスーパー小学生」。

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 メモリークエスト

 著者:高野秀行
 発行:幻冬舎
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誰もが記憶の中に紛れ込ませている「物語」を探しに行く旅といえば、なんだかロマン~な感じですが、これは妙な旅です。ものすごく変な旅です。
第1章は「スーパー小学生(タイ)」。
第2章は「根なし草の男(タイ)」。
第3章は「楽園の春画老人(セーシェル)」。
第4章は「大脱走の男(南アフリカ共和国)」。
第5章は「ユーゴ内戦に消えた友(旧ユーゴスラビア)」。

最後の章はちょっと様子が違いますが、第3章の第1節のタイトルは「曙がいっぱい」。最後の節は「さそり座の男」。
目次をみているだけでも、わくわくしてきます。
曙がいっぱいってなに?さそり座の男って?
大脱走って?(この大脱走がすごかったですよ。なんというか。)

「あの人を探してほしい」と依頼した人の記憶だけが手掛かりのこの探索行。
そもそもよく思いついたと思いますが、さすが「変な人や奇妙な事件に巻き込まれやすい体質」で「一般の人の百倍くらい特殊な体験をしている」探検家の著者らしく、思うよりずっと事態は動いていきます。
もちろん変な方へ。
著者は成り行きに一喜一憂。浮かれたり落ち込んだり、達観したりとお忙しいかぎり。
でも、それもそうですよね。依頼されたという責任もあれば、仕事としての責任もあるわけですから。
読んでいるほうは楽しいばかりですけれど。

それにしても、いろんなひとがいるなぁと、しみじみ。
かくかくしかじかの人を探していますと、もし、私が聞かれても、たぶんその人のことを知らないと思います。
古い写真を見せられて、「あ、知ってる知ってる、この人のこと」となるほうがかえって不思議。
観光とも真面目な仕事の滞在とも違う、雲をつかむようなことをしながら、それでも何かが手に触れるものです。
こうして1冊の本にまとまってしまうのですから。
私が読んだのは単行本ですが、すでに文庫化されています。
ちなみにメモリークエストが実行されたのは2007年のこと。
この本の出版後にも、記憶に引っかかり続ける出来事がたくさんの人の中に生まれているのかと思うと、なんだかそのことが可笑しくなります。
探される人ももちろん印象深い人たちですが、そういう記憶を持つにいたった人もすごいですよねぇ。
だって、「楽園の春画老人」の記憶を持つには、そこに行って、その人と言葉を交わし、記憶に引っかかり続けるような時間を共有しなければならないわけですから。
変な記憶を持つということは、旺盛な行動力に支えられた立派な能力なのだと思います。
少なくとも、私にはそういうふうに探してほしい人、いませんもの。
そもそも、あんまりいろいろなこと、覚えてないのですよね。
だからでしょうか、この本、とても面白かったです。

あかつきさん、ご紹介ありがとうございました。…と、ここで言っても伝わるわけないな。




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