ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

いよいよ。【怪談/文豪怪談傑作選 幸田露伴集】

2010-10-03 | 筑摩書房
 
満を持して幸田露伴翁、登場。
 
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 怪談/文豪怪談傑作選 幸田露伴集

 著者:幸田 露伴
 発行:筑摩書房
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実は待っていました。
幸田露伴といえば一時代を築いた大作家。江戸末期生まれ、昭和まで生きた文豪中の文豪。
ある種の風格を漂わせる名前だと思います。
博識で、生きることについて美意識の高い人物という印象。
1作くらいは読んでみたいと思っても、私にとっては、ちょっと読んでみようかなぁという気軽さを受け付けない作家でもありました。
みっちりとした文語体で書かれた作品。
漢籍に通じていて、さくっと漢文が引用されていたりするページをみると、とたんに及び腰になって「まだ今度にしよう…」と閉じてしまっていました。
有名作にも、想い人の面影を宿らせて仏を彫る男の物語などもあり、このシリーズなら登場は確実。
これは読むいい機会と待っていましたのに、なかなか登場しない。
解説によればその理由は私がひるんでいた理由そのまま。とっつきにくいことこの上ない作風によるものでした。
 
でも、大丈夫。
案ずるより産むが易しとはまさにこのこと。
馴染みのない文語体も、読み始めてみれば、作品ごとのそのリズムの良さにひきこまれます。
勉強のように一字一句の意味をとって読むのであれば苦痛にもなるでしょうけれど、大意を読み取るには一向に差し支えありません。
もとより学問のために書かれたものではないのですから。
文語体で書かれた文字の並び自体も優しく美しく、リズムとともに、気持ちとして伝わります。
 
本の前半は物語。
「幻談」、「観画談」、「対髑髏」、「夢日記」、「土偶木偶」、「新浦島」。
「土偶木偶」は旅の男が手紙を軸に仕立てたものを見つけます。手紙はある女が、いけすかない男に買われ、好きな男と添い遂げられなくなったことに絶望して身を投げようとする次第を語ったものの一部。どうしてか心を惹かれた男はその軸を買いますが、その夜、宿から焼け出されて、軸だけをもって旅を続けることになります。その旅の途中、夜道をひとり逃げる女と出会い…という物語。前世、後世、死してもなお残り、先に続く想いが描かれます。このあたり、筋としては世話物の雰囲気がありました。
「新浦島」は浦島太郎の子孫のお話。人が魔の力を求めた末、迎えた結末は?
 
後半は「魔法修行者」、「怪談」、「支那に於ける霊的現象」、「神仙道の一先人」、「聊斎志異とシカゴエキザミナーと魔法」、「東方朔とマンモッス」、「今昔物語と剣南詩藁」、「蛇と女」、「金鵲鏡」、「ふしぎ」、「伝説の実相」、「それ鷹」、「扶鸞之術」。
中国の不思議な話や、作家たちについてが語られます。
こちらは漢文がぐっと増え、難読感も確かに増しますが、文語体ではないものも多いので、こちらも大丈夫。
魔法を修行した人物の人生を追っていったり、中国の詩人が霊と思しきものと親しくしていた中国の詩人が題材であったりしますが、著者自身の不思議なこと、怪異との距離の取り方がなんだか不思議。
好きなのか嫌いなのか。随所に「信じちゃいないよ」という感じが挟まれはするのですが…。
でも、延々、語ってしまうですから、やっぱり大好きですよね。

今回、改めて幸田露伴翁の略歴をみて、初めて気がつきました。
生まれ年が夏目漱石と同じ1867年。
ちょっと驚きました。
没年1947年(昭和22年)、享年80歳。





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