自衛隊に勧誘するために、高卒・大卒見込みの人の住所・氏名などの情報を市町村から得ている問題について、「自衛隊勧誘のための個人情報開示は認められるのか」として書いた。民間企業による住民基本台帳の閲覧はNGだが、国の閲覧は法で認められている。ただ、閲覧できるのにコピーはできない、という運用の是非について、逆に市民団体が行政資料を閲覧するような事例とも併せて検討してもいいとも書いた。
だが安倍首相は対象者の情報を市町村が紙か電子媒体にまとめて提供してくれないことを嘆く発言を何度かしている。
2月10日の自民党大会でこう言ったという((朝日新聞2019-2-13))。
「残念ながら、新規(自衛)隊員募集に対して、都道府県の6割以上が協力を拒否しているという悲しい実態があります。地方自治体から要請されれば自衛隊の諸君はただちに駆けつけ、命をかけて災害に立ち向かうにもかかわらずであります。皆さん、この状況を変えようではありませんか。憲法にしっかりと自衛隊を明記して、意見論争に終止符を打とうではありませんか。」
(「都道府県」は防衛相が「市町村」に訂正済み。また、「6割」というのは「紙や電子媒体で提供しなかった割合」であって、民間企業には認めていない住民基本台帳の閲覧を許可するという意味では9割近くが協力している。)(追記:朝日新聞2019-2-16によればさらに、対象者を抽出した名簿の作成までして閲覧を許している自治体も33.7%に上るという。追記2:それにそもそも、「閲覧」を要請されたから「閲覧」を認めただけで、文書提出の要請がされなかったケースもあるという。)
最初は首相の失言かと思っていたが、1月30日には衆院本会議、2月13日にも衆院予算委員会でこの件を取り上げている。さらに、自民党は党所属の国会議員に首相発言に沿って「選挙区内の自治体の状況をご確認頂くなど、法令に基づく募集事務の適正な執行」に協力を求める文書を配布した(朝日新聞2019-2-15)というから、本気で国を挙げて若者を自衛隊に勧誘しようとしているようだ。アリバイのように「法令に基づく」とは書いてあるが、法で明確に認められている「閲覧」まではすでに許されているのだから、勧誘対象者の名簿作成に協力させようということだろう。国会議員から「問い合わせ」があっただけでも地方自治体の職員は圧力に感じるはず。なしくずし的に現場が国の言いなりにならないことを願わずにはいられない。(追記:朝日新聞2019-2-16によれば、識者も「自治体側は、応じないと何らかの不利益を受けるんじゃないかという気持ちが働く。『圧力』にほかならない」と指摘している。)
私は自衛隊の存在は認めている。「リベラル」を名乗ってはいても、自衛隊が定員を満たせないのも問題だとは思っている(人手不足は民間も同様だが、さすがにここは外国人というわけにはいかないだろう)。だが自衛隊が個人情報を収集してリクルートするというのには違和感がある。一般企業やせめて官公庁なみの募集活動ではだめなのだろうか。安倍首相はしきりに自衛隊を持ち上げるが、国のために働いているのは海保だって、警官だって、他の公務員だって同様のはずだ。
日の丸だって君が代だって、私はべつに嫌っているわけではないのだが、右派がそれを政治利用して強制しようとすると、逆に反発を覚えてしまう。
市町村から得た個人情報に基づいて、自衛隊はダイレクトメールを送るだけでなく、戸別訪問も行っているという(朝日新聞2019-2-13)。国が自治体に名簿を提出させて戸別訪問で自衛隊に勧誘するというのは、一歩間違えば「国のために入隊せよ」という圧力になりかねない。自衛隊の勧誘も、海保、警官、官公庁並みくらいに留めるべきではないだろうか。
関連リンク:
社説「自衛官募集 自治体への不当な圧力」(朝日新聞2019-2-20)
追記:志望者減に悩むのは警察も同じ。神奈川県警では県警察学校で初めてオープンキャンパスを開いて学生に関心をもってもらうよう努力しているようだ(朝日新聞2019-2-24神奈川版)。自衛隊でも同じように学生に親しんでもらうようにしているという。「左」の人は中高生に自衛隊に親しませようとするとなると反発する人もいるが、警察と同じくらいのことは認められていいだろう。ただ、それと自衛隊による個人情報収集に自治体を駆りだすということとは別問題だ。
だが安倍首相は対象者の情報を市町村が紙か電子媒体にまとめて提供してくれないことを嘆く発言を何度かしている。
2月10日の自民党大会でこう言ったという((朝日新聞2019-2-13))。
「残念ながら、新規(自衛)隊員募集に対して、都道府県の6割以上が協力を拒否しているという悲しい実態があります。地方自治体から要請されれば自衛隊の諸君はただちに駆けつけ、命をかけて災害に立ち向かうにもかかわらずであります。皆さん、この状況を変えようではありませんか。憲法にしっかりと自衛隊を明記して、意見論争に終止符を打とうではありませんか。」
(「都道府県」は防衛相が「市町村」に訂正済み。また、「6割」というのは「紙や電子媒体で提供しなかった割合」であって、民間企業には認めていない住民基本台帳の閲覧を許可するという意味では9割近くが協力している。)(追記:朝日新聞2019-2-16によればさらに、対象者を抽出した名簿の作成までして閲覧を許している自治体も33.7%に上るという。追記2:それにそもそも、「閲覧」を要請されたから「閲覧」を認めただけで、文書提出の要請がされなかったケースもあるという。)
最初は首相の失言かと思っていたが、1月30日には衆院本会議、2月13日にも衆院予算委員会でこの件を取り上げている。さらに、自民党は党所属の国会議員に首相発言に沿って「選挙区内の自治体の状況をご確認頂くなど、法令に基づく募集事務の適正な執行」に協力を求める文書を配布した(朝日新聞2019-2-15)というから、本気で国を挙げて若者を自衛隊に勧誘しようとしているようだ。アリバイのように「法令に基づく」とは書いてあるが、法で明確に認められている「閲覧」まではすでに許されているのだから、勧誘対象者の名簿作成に協力させようということだろう。国会議員から「問い合わせ」があっただけでも地方自治体の職員は圧力に感じるはず。なしくずし的に現場が国の言いなりにならないことを願わずにはいられない。(追記:朝日新聞2019-2-16によれば、識者も「自治体側は、応じないと何らかの不利益を受けるんじゃないかという気持ちが働く。『圧力』にほかならない」と指摘している。)
私は自衛隊の存在は認めている。「リベラル」を名乗ってはいても、自衛隊が定員を満たせないのも問題だとは思っている(人手不足は民間も同様だが、さすがにここは外国人というわけにはいかないだろう)。だが自衛隊が個人情報を収集してリクルートするというのには違和感がある。一般企業やせめて官公庁なみの募集活動ではだめなのだろうか。安倍首相はしきりに自衛隊を持ち上げるが、国のために働いているのは海保だって、警官だって、他の公務員だって同様のはずだ。
日の丸だって君が代だって、私はべつに嫌っているわけではないのだが、右派がそれを政治利用して強制しようとすると、逆に反発を覚えてしまう。
市町村から得た個人情報に基づいて、自衛隊はダイレクトメールを送るだけでなく、戸別訪問も行っているという(朝日新聞2019-2-13)。国が自治体に名簿を提出させて戸別訪問で自衛隊に勧誘するというのは、一歩間違えば「国のために入隊せよ」という圧力になりかねない。自衛隊の勧誘も、海保、警官、官公庁並みくらいに留めるべきではないだろうか。
関連リンク:
社説「自衛官募集 自治体への不当な圧力」(朝日新聞2019-2-20)
追記:志望者減に悩むのは警察も同じ。神奈川県警では県警察学校で初めてオープンキャンパスを開いて学生に関心をもってもらうよう努力しているようだ(朝日新聞2019-2-24神奈川版)。自衛隊でも同じように学生に親しんでもらうようにしているという。「左」の人は中高生に自衛隊に親しませようとするとなると反発する人もいるが、警察と同じくらいのことは認められていいだろう。ただ、それと自衛隊による個人情報収集に自治体を駆りだすということとは別問題だ。