アモルの明窓浄几

芦屋・仕舞屋・三輪宝…生噛りの話題を机上で整理します。

直野章子さんの講演から

2012年10月15日 | まちのこと
一昨日の13日に上宮川文化センターにおいて、「非核平和祈念のつどい」がありました。
メインの講演『被ばくと補償』は、九州大学准教授の直野章子さんのお話しでした。

この「非核平和祈念のつどい」は、芦屋非核都市宣言27周年・被爆67周年を記念した行事ですが、毎年行われています。
今年は、橋本美香さんの歌「ミニ・コンサート」と直野章子さんのお話しでした。
毎回、最後にアピールを宣言し、広島・長崎を忘れず、非核平和をねばり強く訴え、行動を続けて行くことを誓っています。

直野章子さん(以下、直野さんと呼ぶ)の講演「被ばくと補償――広島、長崎、そして福島」から主な点をご紹介します。
先ず、はじめに直野さんは、福島第一原子力発電所事故を受けて、(広島・長崎の)被爆者の苦しみが繰り返されるのではないかという危機感を感じたと仰っていました。
被曝線量の限度を引き上げ、「非常時」を理由に高線量の被曝を余儀なくされた作業者や不要な被曝を強いられた周辺住民を思ってのことです。

そして、原子力に関連する法文から国の狙いがどこにあるのかを指摘されていました。
例えば、1961年に成立した「原子力損害の賠償に関する法律」(以下、「原賠法」)では、
>現賠法第一条:この法律は、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、もって被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする

直野さんは、「被害者のための賠償確保と並んで、事業者の保護も重要な狙いの一つとなっている」と指摘しています。
この事は大変重要な指摘であり、往々にして被害者の保護に対しては厳しく、原子力事業者にたいしては寛容な政策がとられかねないということです。この点を直野さんは「損害賠償は国家の責任が比較的軽い、原子力産業推進は国家の介入が高い」と表現されています。原賠法は、被害者の保護のためだけの法律ではないということです。

又、原賠法制度の特徴のひとつとして、直野さんは「無限責任」を上げています。
これは、原子力事業者に対して、賠償責任の限度を定めていないことを意味するのですが、それによって、賠償(現賠償責任保険等2,400億円)措置額以上の損害を生じた場合は、政府が援助することになっています。
そして、直野さんは「(このことは)『政府の援助』であって『国家補償』ではない」といわれます。原子力災害に対する国家補償を認めると、他の産業災害に波及する恐れがあり、如いては財政的に国家が破たんすることを憂慮しているのです。
直野さんは、次の文章を引用しています。
>不測の事態における巨額な賠償負担に対し国が積極的に助成することを明確にすることによって、事業者に予測可能性を与え、もって原子力事業の健全な発展を促進することが、重要な目的となっているのである(「原子力損害賠償制度」科学技術庁原子力局編)

全ての面において、原子力事業は特別扱いされているのです。

直野さんは、「被爆者」の歴史から学べる事のひとつとして、「『被爆者』認定は緩やか、それに対して『原爆症』認定は切り捨てを基本」としているといわれます。
被爆者は、定義にあるように「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」と比較的緩やかであるのに対して、様々な援護を受けるためには、被爆者は下記の法律により原爆症の認定が必要となります。
>「被爆者援護に関する法律」第18条:第10条1項に規定する医療の給付を受けることができる負傷又は疾病(=原爆症)、遺伝性疾病、先天性疾病及び厚生労働大臣の定めるその他の負傷又は疾病を除く

更に、直野さんは空襲被害者と区別するために、放射線による晩発生の健康被害のみが補償の対象とされていることに対し、他の戦争被害者に波及しないよう歯止めとしている「放射線起因性」を厳しく問うています。
国の健康被害に対する補償の基本は、「保健、医療及び福祉」であって、原爆被害(戦争遂行の責任)に対する償い(補償)ではないと指摘しています。

>反人間的な原爆被害が、戦争の結果生じたものである以上、その被害の補償が戦争を遂行した国の責任で行われなければならないのは当然のことでしょう。(中略)被害者が求めているのは、原爆被害に対する「国としての償い」なのです。被害に対する補償は、同じ被害を起こさせないための第一歩です。原爆被害者援護法は、国が原爆被害への補償を行うことによって、核戦争被害を「受忍」させない制度を築き、国民の「核戦争を拒否する権利」をうち立てるものです。(「原爆被害者の基本要求」1984年より)

最後に、直野さんは改めて、次の図式を示されました。
原賠法=被害者の保護と原子力産業の育成を目的(としているが)

被害者保護(から)

事業者保護にすり替えられる?

それは、これまでの歴史からも、戦争に対して最も責任がある高級軍人に対しては「国家補償の精神」で手厚い援護をしながら、非戦闘員には被害の受忍を強い続けてきた戦後補償の歴史をたどれば、原子力においても国が補償するから、事故を起こしても電力会社が保護されるという方向?ではないかと直野さんは述べています。





最新の画像もっと見る