せっかく1つの対局を集中して見ていて、いろいろ感じたのでそれを観戦記みたいな感じで、まとめてみました。指し手のコメントとかは棋譜コメントを参考にしています。多少メモしたとはいえ、あくまで素人の感覚と文なので、うまく伝わらないかもしれませんが、当日いけなかった人に少しでも対局場の雰囲気を感じてもらえればと思います。行けなかった人に「いけばよかった」と思わせる文章を書きたいと思いますが、無理だろうな(笑)。
誤字等は大目に見て、こっそり指摘してくださるとうれしいです。
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※ネットで公開されている棋譜だし大丈夫だと思って、棋譜載せました。まずかったら削除します。この辺の権利関係が曖昧なのが将棋界の問題の1つじゃないでしょうか。
先手:島井咲緒里初段
後手:伊奈川愛菓2級
▲7六歩 △8四歩 ▲6八飛 △6二銀 ▲4八玉 △5四歩
▲3八玉 △1四歩 ▲2八玉 △4二玉 ▲1八香 △3二玉
▲1九玉 △3四歩 ▲6六歩 △3三角 ▲1六歩 △2二玉
▲2八銀 △1二香 ▲7八銀 △8五歩 ▲7七角 △1一玉
【
2回戦開始】
注目のマイナビ女子オープンの予選一斉対局も昼休みを挟んで午後2時から再開。2回戦の戦いが始まった。1回戦同様、主催者の掛け声で32人の対局者が入場。2回戦は、この日最多の16局が同時に行なわれた。2回戦から週間将棋のランキングで選ばれた予選シードの8人が登場することもあってか、午前中より多くのファンが対局場を訪れていた。
2回戦の中でも注目の対局は、女流名人戦リーグA級に所属し予選シードの岩根忍初段に、デビュー戦で見事に初勝利をあげた中村桃子2級が挑戦する一戦、そして関東の若手注目棋士同士の対戦となった坂東香菜子2級と貞升南1級の対戦。この2局が対局場の入り口からみて右手前側で並んでの対局となったために、多くのファンがそのエリアに集まっていた。
この島井咲緒里初段と伊奈川愛菓2級も将棋連盟から独立したLPSA所属で、中井六段、石橋四段に続く3番手として注目の棋士と将棋連盟所属の人気若手棋士ということで、ネット中継の対象局にも選ばれた。入口からみて右奥の盤での対局となったこの一戦にもやはり多くのファンが見守る中での対局となった。
振り駒の結果、歩が3枚出て島井初段の先手に。四間飛車が十八番の島井初段と純粋居飛車党の伊奈川2級の対局ともあって、開始から1分・わずか3手で四間飛車と居飛車の対抗系になることが確定。伊奈川2級はなかなか角道をあけずに飯島流引き角戦法かと思わせたが、14手目に角道をあけ、結局は四間飛車穴熊対居飛車穴熊の相穴熊戦になった。
▲6七銀△5三銀 ▲5六銀 △4四銀 ▲4六歩 △2二銀
▲3九金△5一金右▲5八金 △4二角 ▲6五歩 △3二金
▲3六歩△4一金 ▲4八金寄△3一金寄▲4五歩 △3三銀引
▲4七銀
【
女子高生棋士】
後手の伊奈川2級は人気の現役女子高生棋士。今の女流棋士の中では、伊奈川2級のほかに、昨年マイナビ杯の前身・レディースオープンで活躍して話題になった里見初段、中京地区ただ一人の女流棋士・室田1級の計3人の女子高生棋士がいる。この対局の斜め奥で対局している室田1級は私服での対局だったが、伊奈川2級は高校の制服を着ての対局だ。伊奈川2級は、今の若手の中では数少ない居飛車党。この対局でも、2手目で△8四歩と飛車先を突き、早々に居飛車を明示している。
同じ列の反対側で対局している中村桃子2級は、女流2級昇級時のインタビューで伊奈川2級から育成会の対局の日の前にはメールをもらっていたと答えていたが、対局前には、同時期に育成会を戦った熊倉2級とともに3人で対局場の外で談笑していた。
抽選の結果、2回戦からのスタートになった伊奈川2級はこの対局が、今日最初の対局で、普段の対局と違い公開対局で多くのファンやマスコミの視線が集まる中での対局だ。こういう場での経験は少ないのだろう。伊奈川2級は、対局直後はなかなか対局場の雰囲気になれないのか、何度か外に目をやったり、他の対局を見渡したりするなど落ち着かないようだ。落ち着くためか、伊奈川2級の指し手はゆっくりだ。対局開始から10分が経過して、主催者を除くマスコミの撮影をやめるような放送があった。この頃になると、やっと伊奈川2級もの対局場の雰囲気にも慣れてきたか、落ち着きを取り戻し、盤面に集中している。
△7四歩 ▲9八香 △8六歩 ▲同 歩 △7五歩 ▲6六飛
△7二飛 ▲7五歩 △同 飛 ▲3五歩 △同 歩 ▲3八金寄
△8八歩 ▲7六歩 △7二飛 ▲6四歩 △同 歩 ▲8八角
【
3番手争い】
本譜は、伊奈川2級が角引きから金銀4枚の穴熊に組み、島井初段もやはり金銀4枚の囲いを完成させた。伊奈川2級のプロ初勝利の対局は、中倉宏美初段に居飛車穴熊で勝ったものだ。島井初段も1週間前に行なわれたLPSAの独自棋戦・1dayトーナメントこそは、穴熊を封印したもの四間飛車穴熊はもちろん得意戦法だ。お互い得意な戦型になった。
島井初段も1dayトーナメントでは2連覇したとはいえ、名人戦リーグではA級の1期での陥落が既に決まっている。中井六段、石橋四段に続く3番手として隣で対局している中倉宏美初段とともにファンからの期待は大きい。今回の予選一斉対局を将棋連盟とLPSAの対抗戦という見方をすることも多く、抽選でその中倉宏美初段と同じブロックになってしまったとはいえ、是が非でもマイナビ杯で予選を突破し、活躍したい気持ちは強いはずだ。静かだが、その対局姿・指し手からは闘志を感じる。
どの対局も、対局が一段落したところなのだろうか。島井が45手目▲9八香を指した直後に何人かの女流棋士がほぼ同時に席を立った。島井も少し前に、一度席を外している。最初は島井初段の指し手は早く、伊奈川2級はゆっくり指していたが、序盤から中盤に入りお互いに少考を繰り返し、ここまでの消費時間はほぼ同じだ。
伊奈川2級の46手目△8六歩の仕掛けも約2分の考慮。その後も、慎重に一手一手に3分から5分の時間をかけながら指し手が進んでいく。61手目▲8八角の局面で、残り時間は、島井初段が約10分、伊奈川2級が約14分。
△8二飛 ▲7五歩 △6五歩 ▲7六飛 △6四角 ▲6三歩
△7二飛 ▲7七角 △5五歩 ▲4六銀 △8八歩 ▲同 角
△5六歩 ▲同 飛 △7五飛 ▲7六歩 △7二飛
【
静かな対局】
早くも他の対局では秒読みが始まっているようだ。
対局中は扇子を盤の前に置いたり、手にしたりしている棋士も多いが、伊奈川2級も島井初段もタオルをひざにおいているだけで、隣の中倉宏美初段-船戸陽子二段戦では、中倉初段が扇子で扇ぎながら、船戸二段が扇子を手に持ちながら考慮しているのとは対称的だ。両者とも考慮中でも大きな動きはなく、大きく前傾姿勢を取ることもない。むしろ盤側の記録係やネット中継スタッフが考慮しているときのほうが動きは大きいかもしれない。
他の対局でも続々と秒読みが始まるなか、伊奈川2級が67手目▲6三歩に対する応手を考慮中、坂東2級-貞升1級戦が終わったようで、主催者のインタビューや感想戦の声が聞こえてくる。貞升1級は、インタビューに対して「研究範囲でした」という意味の受け答えをしているようだ。
この対局は、たしかに静かだ。たしかに、大きく前傾姿勢を取るわけでもない。しかし、静かといっても、島井初段からも伊奈川初段からも闘志を感じることができる。テレビの聞き手やイベントでおなじみの島井初段だが、そのときはまったく違った表情をみせている。
ついに伊奈川2級も73手目▲8八同角を考慮中に秒読みに入った。78手目△7二飛は、秒に追われたか、迷ったような手つきで指された。この手を見て、島井初段も最後の長考。残り時間約3分をすべて使いきり、記録係から「1分将棋でお願いします」という声がかかり、島井初段は、はっきりとした声で「はい」と答えた。
▲7七角 △8二飛 ▲6二歩成△同 飛 ▲5一飛成△8二飛
▲5五銀 △8六角 ▲3四歩 △4二角 ▲7一龍 △8九飛成
▲3三歩成△同 角 ▲4四歩 △1五歩 ▲3四歩 △2四角
▲4三歩成△1六歩 ▲4四銀 △1七歩成▲同 銀 △4七桂
【
1分将棋】
秒を読まれた島井初段は、角をすーっとすべらせるようにして、79手目▲7七角と指した。83手目▲5一飛成はノータイムだったが、秒読みの中では、相手に考えさせないように時間を使わず指す棋士もいるが、お互いにまだまだ難しいと感じているのか、ほとんどの指し手で、50秒、1、2、3…という記録係が秒を読むまで考えている。それまで、ほとんど動きのなかった両者だが、さすがに秒読みに入り、身を乗り出したり、お互いに首をかしげたりする場面も出てきた。
他の対局では、既に終わったところも何局かあるようで、感想戦の声も対局場では聞こえくる。石橋四段と思われる声が対局場に響いていたが、両者の耳には入らないようだ。お互いに盤面に集中している。
秒読みの声が響く対局場には、いつの間にかそれぞれの対局を見つめるファンの数が増えてきて、対局場の熱気も増してきた。秒読みの中、本局は島井初段の鋭い攻めが決まり、先手優勢のようだ。
93手目▲4四歩力強い手つきで指された。それまで、秒読みに入ってから首をかしげる場面が少なくなかった島井初段だが、ここに来て、その表情からは力強さをより感じられるようになってきた。逆に伊奈川2級は指した直後に視線を落とす場面が増えてきた。それでも逆転の望みをかけて端攻めにでるその手つきにはまだ力が残っている。
しかし、相手は相穴熊の経験は豊富の島井初段だ。ここまでくればもう寄せが見えているのだろう。伊奈川2級の100手目△1七歩成には、ノータイムで▲1七同銀と応じた。
▲3二と △同 金 ▲2一龍 △同 玉 ▲3三桂 △同 銀
▲同歩成 △1七香成▲3二と △1二玉 ▲1七香 △1六歩
▲1四香
まで115手で先手の勝ち
【
見事な寄せ】
102手目△4七桂にもほとんど時間を使わず島井初段は▲3二と。形勢は先手勝勢だろう。それでも、当然ながら、島井初段の表情が緩むことはない。先手玉は「ゼット」と呼ばれる絶対詰まない形。島井初段は、後は確実に後手玉を追い詰めるだけだ。105手目▲2一竜もほぼノータイム。島井初段は読みきったか、もうほとんど時間は使わない。107手目▲3三桂を指して、島井初段はお茶を一口、口に含んだ。伊奈川2級も時間は使わず指すが、さっきまでの力強さの残っていた手つきではない。
▲1四香を見て、伊奈川2級は、「負けました」と投了を告げた。主催者のインタビューに「序盤は作戦負けだった」と答えた島井初段だったが、相穴熊の経験を生かし最後は鮮やかな寄せで先輩の意地をみせ、予選決勝進出を決めた。感想戦がはじまっても島井初段の表情からは、まだ終わったわけじゃないといった雰囲気があったように感じた。もしかしたら、感想戦で本局を振り返りながらも、すでにこのあとすぐ行なわれる予選決勝に負けられないという気持ちを持っていたのかもしれない。
この対局が終わるとほぼ同時に隣で対局していた中倉宏美初段が投了し、島井初段の予選決勝は船戸二段決まった。その反対側で対局していたLPSAの代表理事・中井六段が苦しい将棋を逆転勝ちで予選決勝進出を決めたのは、それからそう時間の立たないうちのことだった。