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読書の森

ラストソング その1



1990年、バブルが危うい綱渡りをする頃、そのホールは煌びやか輝いていた。
歌姫の声は満場の観客を酔わせた。
彼女のよく響くアルトが信じられない程深く心に届く。

大場舞の歌声は、人を酔わせると言う。
15の歳から25年間歌姫と呼ばれる女は、寧ろ小柄でキュートという形容が似合っていた。

「先生、お疲れ様」舞台を終えた舞に、同じ事務所の香坂翔が遠慮がちに声をかけた。
瞬間、二人の視線が交錯した。

目を伏せて舞は楽屋に急ぐ。
急がねばならぬ。

楽屋で付き人の百恵に声をかける。
「ちょっと疲れたの。別室で休んでるから誰とも会えないと言っておいてね」
百恵は片笑くぼを見せた。

別室とはこのホールの秘密の休憩室であり、ちょっと見には壁の一部の様で分からない。

舞の様にその都度主役を張れる人間だけその鍵を持てる。

舞は今そこで誰にも知られてならぬ密会をする。
相手は香坂翔である。

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