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対独爆撃部隊 ナイトウィッチ
パッケージの表装も、邦題も、宣伝用のあおり文句も、何か色物の匂いがしますが、中身は真面目な映画です。
とは言っても1960年代~1970年代のソ連大作戦争映画のようなものを想像されると、戦闘シーンはかなりしょぼいです。
映画は女性だけで編成された爆撃部隊の日常を淡々としたタッチで描いていくので、あおり文句に踊らされた人はがっくり来るのではないでしょうか。
「スターリンの下に集まった、最強の女兵士たち!!」
の戦いではなく、戦争がなければ普通の主婦、普通の女学生だったであろう女性たちの普通の生活なのです。舞台が前線でなければ……
ただ、私は同じ女性なので色々と考えさせられる面があって、女性なら一度は見て欲しい映画です。
「女性兵士」という存在はジェンダー論の究極の問題らしく、彼女たちの存在が果たして男女平等の姿なのか、泥沼の論争は未だに決着がついていません。
男性主権の最後の砦である軍隊に女性が進出することは是か非か
是=「戦争=男性の領分」という考えは突き崩されねばならず、軍隊の上でも男女平等は為されるべきである。
非=そもそも「戦争」は男性原理から生まれたものであり、女性兵士の存在はその男性原理を暗黙の内に認めるものである。
現在では自衛隊の幹部にも女性士官がいるそうで、この議論はかなり過熱気味だと思いますが、意外と二次世界大戦のソ連軍女性兵士についての議論は為されていない気がします。(クローズアップされるのはアメリカの女性兵士)
私としては社会主義として男女同権を謳ったソヴィエト連邦における女性兵士の研究は、こういった議論に一石を投じると思うのですが、誰か文章書いている人はいないのですかねぇ。情報求む。
で、この話、76分という短い映画でありながら、ものすごく内容は濃いのです。
あらすじ
第588女子夜間爆撃機連隊はパイロットから管制官、整備士まですべて女性のみで構成された連隊。彼女たちは一晩に8回も出撃して爆撃し、ドイツ軍の安眠を妨害し続けたので「夜の魔女」の名で恐れられていた。
その一員であるガーリャは病院を抜け出し、連隊に復帰する。相棒は中隊長のオクサーナ。二人はベストチームとして軍から表彰される名コンビだ。
ガーリャが病院を抜け出したことはすぐに連隊長にばれ、怒られるが、折良く出撃命令が出てうやむやになる。
彼女たちが乗る飛行機は木製布ばりの複葉機のため、ドイツ軍の戦闘機メッサーシュミスに見つかったら一発で終わりだ。帰還が明け方になったガーリャとオクサーナの機体がそのメッサーシュミスに見つかってしまう。
何とか小回りをきかせて逃げる二人の目に、戦車に襲われる少年の姿が映る。
慌てて少年を助ける二人。
オクサーナは夫と生き別れ、息子を亡くしたために、少年、フュージャに息子の面影を重ねる。だがフュージャは年若いガーリャになつく。
孤児となったフュージャを何かとちやほやする隊員たち。中でもオクサーナの可愛がり方は尋常じゃない。
しかし連隊内ではフュージャの存在は大問題となり、彼をモスクワの孤児院へと送ることが決まる。
その孤児院からの手紙を思わず隠してしまうオクサーナ。
次の任務は海軍への物資の輸送と上陸作戦の援護。
久しぶりに男に会えると隊員たちは色めき立つが、常に油と泥にまみれている整備士たちは複雑な心境。実際、彼ら水兵たちは、パイロットはちやほやするが、整備士たちは微妙にスルーである。
この任務の中、ガーリャは落ちない荷物を身を乗り出してヒモを切断し、落とす。
フュージャの存在でギスギスしている二人だが、無事帰還すると、オクサーナは思わずガーリャを抱きしめた。
そしてオクサーナは水兵の言葉で、自分の夫が生きていることを知る。
「お父さんが生きていたわよ!」
フュージャに駆け寄るオクサーナ。だが、フュージャは自分の息子ではなかった。
久しぶりの海と休暇を満喫する隊員たち。フュージャも小さな部下を手に入れる。
テニスをしたり、裸で整備をしたりしていた隊員たちの下に、将校がやってくる。
てっきり連隊の風紀を査察しに来たのかと思えば、親衛隊昇格の報告だった。
照明弾を打ち上げて喜ぶ隊員たち。
だが、オクサーナとガーリャはフュージャを巡ってケンカをし、コンビを解消する。
ガーリャの恋人が連隊を尋ねて来る。一時の逢瀬を楽しむガーリャ。焼き餅を焼くフュージャ。政治将校はそんなフュージャに、子供は戦場にいてはいけないと諭す。
フュージャが孤児院へ行ったことの寂しさを振り切るようにオクサーナとガーリャは次の出撃に飛び立つ。
ところが、今度はドイツ空軍の待ち伏せがあった。
一機、一機と落とされていく少女たち。そしてオクサーナとガーリャの機体も……
はい。ここまででハリウッドなら2時間は軽く過ぎているだろうし、日本のアニメなら1クールぐらい軽くこなしています。
しかもこの後、ガーリャの生還のシーンとか、新兵がやってくるシーンとか、フュージャと再会するシーンとかあるのです。
NHKのドラマなら軽く1年はもたせられます。
というか、誰か作って。
ソヴィエトの女性兵士は他にもパイロットとか戦車兵とか狙撃兵とかが存在し、どの女性も男性顔負けの格好良さで戦場を駆け抜けています。
新兵を守るために技と機体に派手な印を付けた女性とか、
復讐のために戦車を駆りながら、兵士たちにとっては良き母だった女性とか、
戦後栄光の道を約束されながら、ただの主婦に戻った女性とか、
他にも、パルチザン活動に身を投じた女性や、銃弾をかいくぐりながら負傷兵を助けた衛生兵とか。
一応軍人だったけど思い切り後方勤務だったイギリス、アメリカと違い、ソヴィエトの女性はバリバリ前線で戦っています。
そして戦争が終わると、あっさり銃をお玉に、軍服をエプロンに替えちゃうのです。
このさりげない格好良さは憧れます。
もっとも彼女たちは女性であるが故に、戦争の罪深さを実感し、平和の中、普通の女性であることの大事さを理解していたのかもしれません。
そんな彼女たちの葛藤が聞こえてくる映画です。
ちなみに女性兵士を扱った映画として、「女狙撃兵マリュートカ」があります。
こちらは未見なので、また見たら感想を書こうと思っています。
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