シリーズ第4弾を書こうとしたところで,タイミングよく記事が転がってきました。
http://www.meijigakuin.ac.jp/~lawyers/info/20120528.pdf
上記リンクは,明治学院大学大学院法務職研究科(法科大学院)が,5月28日付けで翌年度から新規学生募集を停止する旨を発表したものですが,この教授会名義で出された文書には,司法試験合格者が伸びないといった下位ロー定番の泣き言のほか,次のような気になる記述がありました。
「ここ数年、適性試験について入学最低基準点を設定するようにという国側の働きかけが強くなってきています。本法科大学院としては、本法科大学院の教育に対する考え方に抵触しない範囲で、運用を通し、こうした国側の働きかけをできるだけ尊重してきました。
しかし、今後、入学試験を行う際、適性試験について入学最低基準点の設定を強く求められ、本法科大学院の教育に対する考え方に沿わない入試制度へと制度の変更を余儀なくされるのは、本法科大学院の教育理念を維持するという面からも受け入れることのむずかしいものです。
適性試験の成績と法科大学院の成績・司法試験の合格率との間に統計的相関はあることは否定できませんが、統計的相関があることをもって、適性試験の一定の点数を一人一人の受験生の合否を決する際の絶対的指標として用いるのは、多様な法曹養成という面からも行き過ぎではないかと考えています。」
一体,明治学院大学と国(文部科学省)との間に何があったのでしょうか。ちょうどよい機会ですので,この記事では適性試験の経緯とその概要について触れた上で,上記声明文の意味について考えてみることにします。
1 適性試験の趣旨
司法制度改革審議会意見書では,適性試験について以下のように述べられています。
「(法科大学院の)入学試験においては、法学既修者であると否とを問わず、全ての出願者について適性試験(法律学についての知識ではなく、法科大学院における履修の前提として要求される判断力、思考力、分析力、表現力等の資質を試すもの)を行い、法学既修者に対して修業年限の2年への短縮を認める法科大学院にあっては、法学既修者としての入学を希望する者には適性試験に加えて法律科目試験(法科大学院の基礎的な法律科目の履修を省略できる程度の基礎的な学識を備えているかどうかを判定するもの)を行うという方向で、各試験の在り方を検討する必要がある。」
この意見書を踏まえて,全ての法科大学院では全ての出願者について「適性試験」が課されることになりました。
なお,適性試験は,平成22年度まで独立行政法人大学入試センターが行うものと,財団法人日弁連法務研究財団が行うものの2種類が存在していましたが,平成23年度以降は,法科大学院協会,財団法人日弁連法務研究財団,社団法人商事法務研究会によって新たに「適性試験管理委員会」が組織され,統一的な適性試験が実施されています。
ただし,このような適性試験がなぜ必要かという問いに対しては,意見書は何も答えてくれていません。おそらく,アメリカのロースクール入学前に,LSATという試験のスコアが審査の対象となることから,この制度を真似たのでしょう。
2 適性試験の概要
現在の「法科大学院全国統一適性試験」は,年2回実施されます。今年は5月27日と6月10日です。
試験の内容は,「法律学の知識を問うものではない」ことが大前提とされており,実際には以下のように第1部から第4部までで構成されています。
第1部 論理的判断力を測る問題(40分,択一式)
第2部 分析的判断力を測る問題(40分,択一式)
第3部 長文読解力を測る問題(40分,択一式)
第4部 表現力を測る問題(40分,論文式)
そして,適性試験を受験すると,後日実施機関から「成績証明カード」が発送されます。成績証明カードは,第1部から第3部までのスコアが示されたものですが,素点ではなく,2回実施された試験の難易度を考慮した得点調整後の点数が表示されます。また,適性試験を2回とも受験した人は,どちらか良い方の点数だけが表示されますので,大半の受験生は2回とも受験するようです。
なお,第4部の論文試験は,採点基準は一応定められているのですが,内容の評価やこれを採用するかどうかは各法科大学院の裁量に委ねられており,これを採用する法科大学院では,成績証明カード以外に第4部の解答用紙の写しを受験時に提出することになります。
しかし,東大,京大,一橋,早稲田,慶應,中央の各法科大学院について受験要項を確認したところ,第4部の解答用紙の写しを提出するよう指示している大学はありませんでした。これらの主要大学がみんな使っていないのであれば,第4部を入試の際に参考資料として使っている大学はおそらくほとんどないものと推察されます。一応,適性試験では全科目受験することが義務づけられているので受験はするのでしょうが,実際には第4部はほとんど意味がないわけです。
ちなみに,法科大学院人気の急低下に伴い,この適性試験も受験者が激減しており,今年の受験者は第1回が5,186名(対前年比 12.8%減),第2回が5,974名(対前年比 19.1%減)となっています(いずれも現時点の速報値)。前述のとおり,法科大学院の受験生は2回とも受験するのが一般的なので,今年度の受験者総数は6,000名前後になるのでしょう。
3 適性試験をめぐる問題
適性試験は,要するに学者の思いつきで始まったものに過ぎず,法律の問題でもない適性試験の内容が,法律の専門家としての資質を見るのに適切なものであるか,十分な研究や検証を経て始められたものではありません。
そのため,実際に法科大学院制度が始まってみると,適性試験の内容は法曹としての素質を十分に評価するものとはなっておらず,適性試験の成績と入学後の成績との相関関係も低いことから,各法科大学院は次第に適性試験の点数を重視しなくなり,小論文など独自に行う試験の点数を重視するようになり,中には適性試験の点数が著しく低い受験者を合格させてしまうところもありました。
この状況を問題視した文部科学省は,適性試験に「下位15%」という入学最低基準をもうけ,適性試験の点数がそれ以下の受験者を合格させないよう,各法科大学院に対する強い行政指導を行いました。
別に,もともと意味のない試験なので,合格最低基準を設けても入学者の質の向上に結びつくわけではないのですが,適性試験を無視されるのは文部科学省としての面子や利権にかかわるので,国家権力を濫用して適性試験の活用を強制したわけです。
もっとも,実際に活用されているのは,適性試験のうち国によって強制された部分だけであり,表現力に関する論述試験である第4部は,その採否自体が各法科大学院に委ねられているということもあり,実際にはほとんど活用されていないとみられることは前述のとおりです。
そして,大手の法科大学院では,概ね国の意向に従い,適性試験の下位15%を入学最低基準として活用するようになりましたが,下位の法科大学院からは異論も出たらしく,文部科学省では適性試験の点数が下位15%未満だった者の成績について統計を取りました(下記リンク参照)。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/012/siryo/__icsFiles/afieldfile/2012/03/15/1318599_2.pdf
これを見ると,確かに適性試験の成績が悪かった者については入学後の成績も全体的にやや低いですが,平成16年から平成20年までの修了者のうち,適性試験の成績が下位15%未満であった者であっても,新司法試験には合計22名の合格者を出しており,特に平成18年度の既修者については,修了者28人中司法試験合格者12人となかなかの結果を残しています。正直なところ,下位15%というショッキングな成績の割には以後の成績との相関性が低く,法科大学院に入学させてはいけないという程の低いレベルとは言えないでしょう。
4 明治学院大学の問題について
明治学院大学は,適性試験の成績が低い受験者に対しては,小論文試験や面接試験についてより厳格な評価を行うものとしており,それなりに適性試験の評価も活用してきたのですが,入学者数の減少に加え同大学が補助金の削減対象にされたこともあり,文部科学省からは「適性試験の下位15%未満の者は絶対に合格させるな」という強い圧力を受けたようです。その結果,文部科学省の圧力に屈して自らの教育理念に沿わない入試制度の変更を迫られるのであれば,いっそのこと法科大学院から撤退しようということになったようです。わが国では,4番目の法科大学院撤退事例になります。
明治学院大学自体については,本来レベルが低すぎるので早期撤退が相当であり,別に可哀想だとは思いませんが,文部科学省がその権力を背景に各法科大学院に色々と難癖を付け,ひたすらお役人に忠実な法科大学院だけが生き残れるというのは,大学の自治といった点から考えてもかなり間違っているような気がします。
http://www.meijigakuin.ac.jp/~lawyers/info/20120528.pdf
上記リンクは,明治学院大学大学院法務職研究科(法科大学院)が,5月28日付けで翌年度から新規学生募集を停止する旨を発表したものですが,この教授会名義で出された文書には,司法試験合格者が伸びないといった下位ロー定番の泣き言のほか,次のような気になる記述がありました。
「ここ数年、適性試験について入学最低基準点を設定するようにという国側の働きかけが強くなってきています。本法科大学院としては、本法科大学院の教育に対する考え方に抵触しない範囲で、運用を通し、こうした国側の働きかけをできるだけ尊重してきました。
しかし、今後、入学試験を行う際、適性試験について入学最低基準点の設定を強く求められ、本法科大学院の教育に対する考え方に沿わない入試制度へと制度の変更を余儀なくされるのは、本法科大学院の教育理念を維持するという面からも受け入れることのむずかしいものです。
適性試験の成績と法科大学院の成績・司法試験の合格率との間に統計的相関はあることは否定できませんが、統計的相関があることをもって、適性試験の一定の点数を一人一人の受験生の合否を決する際の絶対的指標として用いるのは、多様な法曹養成という面からも行き過ぎではないかと考えています。」
一体,明治学院大学と国(文部科学省)との間に何があったのでしょうか。ちょうどよい機会ですので,この記事では適性試験の経緯とその概要について触れた上で,上記声明文の意味について考えてみることにします。
1 適性試験の趣旨
司法制度改革審議会意見書では,適性試験について以下のように述べられています。
「(法科大学院の)入学試験においては、法学既修者であると否とを問わず、全ての出願者について適性試験(法律学についての知識ではなく、法科大学院における履修の前提として要求される判断力、思考力、分析力、表現力等の資質を試すもの)を行い、法学既修者に対して修業年限の2年への短縮を認める法科大学院にあっては、法学既修者としての入学を希望する者には適性試験に加えて法律科目試験(法科大学院の基礎的な法律科目の履修を省略できる程度の基礎的な学識を備えているかどうかを判定するもの)を行うという方向で、各試験の在り方を検討する必要がある。」
この意見書を踏まえて,全ての法科大学院では全ての出願者について「適性試験」が課されることになりました。
なお,適性試験は,平成22年度まで独立行政法人大学入試センターが行うものと,財団法人日弁連法務研究財団が行うものの2種類が存在していましたが,平成23年度以降は,法科大学院協会,財団法人日弁連法務研究財団,社団法人商事法務研究会によって新たに「適性試験管理委員会」が組織され,統一的な適性試験が実施されています。
ただし,このような適性試験がなぜ必要かという問いに対しては,意見書は何も答えてくれていません。おそらく,アメリカのロースクール入学前に,LSATという試験のスコアが審査の対象となることから,この制度を真似たのでしょう。
2 適性試験の概要
現在の「法科大学院全国統一適性試験」は,年2回実施されます。今年は5月27日と6月10日です。
試験の内容は,「法律学の知識を問うものではない」ことが大前提とされており,実際には以下のように第1部から第4部までで構成されています。
第1部 論理的判断力を測る問題(40分,択一式)
第2部 分析的判断力を測る問題(40分,択一式)
第3部 長文読解力を測る問題(40分,択一式)
第4部 表現力を測る問題(40分,論文式)
そして,適性試験を受験すると,後日実施機関から「成績証明カード」が発送されます。成績証明カードは,第1部から第3部までのスコアが示されたものですが,素点ではなく,2回実施された試験の難易度を考慮した得点調整後の点数が表示されます。また,適性試験を2回とも受験した人は,どちらか良い方の点数だけが表示されますので,大半の受験生は2回とも受験するようです。
なお,第4部の論文試験は,採点基準は一応定められているのですが,内容の評価やこれを採用するかどうかは各法科大学院の裁量に委ねられており,これを採用する法科大学院では,成績証明カード以外に第4部の解答用紙の写しを受験時に提出することになります。
しかし,東大,京大,一橋,早稲田,慶應,中央の各法科大学院について受験要項を確認したところ,第4部の解答用紙の写しを提出するよう指示している大学はありませんでした。これらの主要大学がみんな使っていないのであれば,第4部を入試の際に参考資料として使っている大学はおそらくほとんどないものと推察されます。一応,適性試験では全科目受験することが義務づけられているので受験はするのでしょうが,実際には第4部はほとんど意味がないわけです。
ちなみに,法科大学院人気の急低下に伴い,この適性試験も受験者が激減しており,今年の受験者は第1回が5,186名(対前年比 12.8%減),第2回が5,974名(対前年比 19.1%減)となっています(いずれも現時点の速報値)。前述のとおり,法科大学院の受験生は2回とも受験するのが一般的なので,今年度の受験者総数は6,000名前後になるのでしょう。
3 適性試験をめぐる問題
適性試験は,要するに学者の思いつきで始まったものに過ぎず,法律の問題でもない適性試験の内容が,法律の専門家としての資質を見るのに適切なものであるか,十分な研究や検証を経て始められたものではありません。
そのため,実際に法科大学院制度が始まってみると,適性試験の内容は法曹としての素質を十分に評価するものとはなっておらず,適性試験の成績と入学後の成績との相関関係も低いことから,各法科大学院は次第に適性試験の点数を重視しなくなり,小論文など独自に行う試験の点数を重視するようになり,中には適性試験の点数が著しく低い受験者を合格させてしまうところもありました。
この状況を問題視した文部科学省は,適性試験に「下位15%」という入学最低基準をもうけ,適性試験の点数がそれ以下の受験者を合格させないよう,各法科大学院に対する強い行政指導を行いました。
別に,もともと意味のない試験なので,合格最低基準を設けても入学者の質の向上に結びつくわけではないのですが,適性試験を無視されるのは文部科学省としての面子や利権にかかわるので,国家権力を濫用して適性試験の活用を強制したわけです。
もっとも,実際に活用されているのは,適性試験のうち国によって強制された部分だけであり,表現力に関する論述試験である第4部は,その採否自体が各法科大学院に委ねられているということもあり,実際にはほとんど活用されていないとみられることは前述のとおりです。
そして,大手の法科大学院では,概ね国の意向に従い,適性試験の下位15%を入学最低基準として活用するようになりましたが,下位の法科大学院からは異論も出たらしく,文部科学省では適性試験の点数が下位15%未満だった者の成績について統計を取りました(下記リンク参照)。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/012/siryo/__icsFiles/afieldfile/2012/03/15/1318599_2.pdf
これを見ると,確かに適性試験の成績が悪かった者については入学後の成績も全体的にやや低いですが,平成16年から平成20年までの修了者のうち,適性試験の成績が下位15%未満であった者であっても,新司法試験には合計22名の合格者を出しており,特に平成18年度の既修者については,修了者28人中司法試験合格者12人となかなかの結果を残しています。正直なところ,下位15%というショッキングな成績の割には以後の成績との相関性が低く,法科大学院に入学させてはいけないという程の低いレベルとは言えないでしょう。
4 明治学院大学の問題について
明治学院大学は,適性試験の成績が低い受験者に対しては,小論文試験や面接試験についてより厳格な評価を行うものとしており,それなりに適性試験の評価も活用してきたのですが,入学者数の減少に加え同大学が補助金の削減対象にされたこともあり,文部科学省からは「適性試験の下位15%未満の者は絶対に合格させるな」という強い圧力を受けたようです。その結果,文部科学省の圧力に屈して自らの教育理念に沿わない入試制度の変更を迫られるのであれば,いっそのこと法科大学院から撤退しようということになったようです。わが国では,4番目の法科大学院撤退事例になります。
明治学院大学自体については,本来レベルが低すぎるので早期撤退が相当であり,別に可哀想だとは思いませんが,文部科学省がその権力を背景に各法科大学院に色々と難癖を付け,ひたすらお役人に忠実な法科大学院だけが生き残れるというのは,大学の自治といった点から考えてもかなり間違っているような気がします。
適性試験ちゃんと運用してますよっていう、型だけは作らないと、利権は維持できませんから。
このあたりは、手慣れたものですよ。
あの試験で優秀でも大して参考にならないでしょうが、15%未満というのは知的能力が乏しいと考えてもあながちまちがっていないでしょう。司法試験が、その程度の知能の持主でも合格できる程度の試験になってしまったということだと思います。
ロースクールに関しては坊主憎けりゃで合格推定を働かせ
司法試験に関しては職域保護のために門戸を閉ざせで不適合の推定を働かせてしまうのですね