黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「多様性」の理念と現実

2012-12-01 13:28:12 | 弁護士業務
 法曹養成制度検討会議の第3回会議で『法曹養成制度の理念と現実』という資料がありますが,この24頁に以下のような記述があります。

【多様性の確保が困難である原因についての指摘】
○ 法曹志願者が減少している原因は,特に志願者の多様性を確保することを阻害する要因として顕著に当てはまると考えられる。(以下「指摘1」とします)
○ 社会人が職に就いたまま法科大学院で学ぶことは基本的に難しいが,仮に職を捨てたとしても司法試験合格が約束されるわけではない。(以下「指摘2」とします)
○ 多様性を確保する観点からも,司法試験の合格率の上昇に資するような方策を検討することが重要である。(以下「指摘3」とします)
○ 他分野からの法科大学院入学者の中には,法律学の履修に適合できない者もいるし,とりあえず入学を認めておいて厳格な成績評価でふるい落とすということも酷であり,とりわけ他分野の者にとっては,法曹を志願することのリスクが高いととらえられやすい。(以下「指摘4」とします)

【多様性の確保の状況に関する指摘】
○ 各法科大学院において,多様性の拡大を図るための入学者選抜基準を概ね満たしていることなど,現状についてかなりの成果を上げていると評価してよい。(以下「指摘5」とします)
○ 法科大学院設立当初と異なり,今後,社会人として法科大学院を志願する者は,学部修了時点では法科大学院への入学を選択せず,いったん社会人になった後に法科大学院を志願する者に限られることに留意する必要がある。(以下「指摘6」とします)
○ 大学法学部が存続している以上,大学進学前から法曹となることを志して大学法学部に入学し,そのまま法科大学院に進む者も正当に評価されなければならない。(以下「指摘7」とします)


 この記述について,他のブログで「何を言っているのか分からない」という趣旨の記事を見たこともあり,たしかに業界事情に詳しくない人には分かりにくい内容となっていますので,この記事では背景事情も含めて詳しく説明することにします(いつもにも増してかなりの長文ですが)。

1 「多様性の確保」の理念
 法科大学院制度では,法曹となる者の多様性を拡大するため,法学部以外の学部出身者や社会人等を3割以上入学させることが目標とされています。
 近年,医療過誤事件や知的財産事件など,法律学以外の専門的な知見を必要とする訴訟は徐々に増えているわけですが,弁護士や裁判官などの多くは法学部出身者であるため,理系の専門知識に関係するような主張を理解できる者は非常に少なく,法曹界が現代社会の需要に十分応えていないのではないかという批判が従来からありました。
 その他,法曹の業務範囲を抜本的に拡大するには,上記のような専門分野に対応する理系出身者に限らず,経済学や理数系,医学系など他の分野を学んだ者,社会人等としての経験を積んだ者を含め,多様な
バックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れることが有効であるとの考え方が示され,上記のような目標が定められたわけです。

2 新旧司法試験における他学部出身者の推移
 まあ,たしかに理念は立派ですが,法科大学院制度の施行によって本当に法曹の多様性拡大が実現するのか,具体的な数字によって検証する必要があります。
 上記資料の32~33頁によれば,新旧司法試験における非法学部系出身合格者の数・割合は以下のとおりです。

        旧司法試験        新司法試験
平成16年 250人(16.86%)   (未施行)
平成17年 263人(17.96%)   (未施行)
平成18年  99人(18.03%)  116人(11.50%)
平成19年  57人(22.98%)  412人(22.26%)
平成20年  30人(20.83%)  447人(21.65%)
平成21年  25人(27.17%)  426人(20.85%)
平成22年  13人(22.03%)  395人(19.05%)
平成23年   2人(33.33%)  374人(18.13%)

 上記のとおり,非法学部系出身合格者の割合は,むしろ旧司法試験の方が多かった年もあります。少なくとも,法科大学院を中心とする新しい法曹養成制度が法曹となる者の多様性確保に貢献していると積極的に評価するのは,この数字からは明らかに無理があるでしょう。
 また,法科大学院に対する『学部系統別の入学状況』を見ると,制度スタート時の平成16年には法学部出身者の割合が65.5%であったところ,平成24年には同割合が81.2%に達しており,その分他学部出身者の割合が大幅に減少しています。
 特に,理系出身者の割合は平成16年の486人(8.4%)から,平成24年には94人(3.0%)へと急速な落ち込みを見せており,今後の司法試験では,他学部出身者の合格者数は上記よりさらに落ち込むことが予想されます。もはや,法曹の多様性拡大という理念に照らせば,法科大学院制度はむしろ逆効果になってしまっているということが,数字の上でも立証されてしまっているわけです。

3 「社会人」という言葉のまやかし
 一方,社会人出身の司法試験合格者数については,新旧司法試験ともに明確なデータが取られていないため,法科大学院制度の導入によってその割合が増えたのか減ったのかは誰にも分かりません。
 社会人出身者に関する唯一のデータは,資料の25頁にある「法科大学院への社会人の入学状況」ですが,これを見ると法科大学院への全入学者に占める社会人割合は平成16年の48.4%から,平成24年には21.9%にまで激減しています。
 ただし,このデータを読むときには,「社会人」の定義に注意しなければなりません。法科大学院の入学選抜において,どのような者を「社会人」とみなすかは原則として各法科大学院の判断に委ねられているため,統計を取る際にも画一的な定義が存在しないのです。

 例えば,早稲田大学法科大学院の場合,社会人を「出願時点において、官公庁・会社等における勤務経験、自営業、主婦・主夫等、通算して2年以上の社会経験を持つ者」と定義しており,この要件に該当すれば社会人として未修者コースの優先選抜枠も適用されるそうですが,何らかの職業に就いていることは要件とされておらず,単なる主婦や主夫でも社会人に含まれてしまうため,通常「社会人」といえる職務経験を持つ者のほか,大学等に通っていない無職期間が2年以上あれば事実上「社会人」として取り扱われてしまうことになります(これは早稲田に限ったことではなく,黒猫が調べた限りほとんどの法科大学院が同様の取り扱いをしているようです)。
 さらに,「社会経験」の解釈によっては,単に大学生で2年以上アルバイトをしていたというだけでも「社会人」と取り扱われてしまう可能性があり,現にこのような大学生を「社会人出身者」として入学させていた法科大学院もあるようです。
 そのため,最近になって法科大学院の認証評価基準が改正され,「最終学歴卒業後3年を経過していない者を社会人に含めることは原則として適当でない」との方針が示されましたが,この方針に対しては「最終学歴卒業後3年を経過していなくても,例えば長い勤務経験を経て社会人入試で大学に入学し卒業後すぐに法科大学院を受験する者や,働きながら放送大学を卒業した者などは社会人として扱う方が実態に即している」などといった有力な反論があり,この方針は全く徹底していません。

 ここで,前述の「指摘6」をもう一度読み直してみましょう。

「法科大学院設立当初と異なり,今後,社会人として法科大学院を志願する者は,学部修了時点では法科大学院への入学を選択せず,いったん社会人になった後に法科大学院を志願する者に限られることに留意する必要がある。」

 この指摘は,おそらく社会人出身の入学者数が減少していることについて,上記のとおり社会人の定義が法科大学院設立当初より限定されるようになったことに起因するものであるから問題はないと言いたいのでしょうが,もともと上記の「社会人48.4%」という数字自体が,単なる無職者やアルバイトをしていただけの大学生も含むといういい加減なものだったということですから,この数字を法科大学院制度の成果として積極的に評価することはおよそ不可能です。
 なお,旧司法試験時代における「社会人合格者」の割合は正確には分かりませんが,旧司法試験では大学卒業後も長期間にわたり受験浪人生活を送ってきた合格者が多く,何らかの仕事やアルバイトをしていた人も少なくありませんでしたから,無職期間やアルバイト期間をも社会経験に含めて良いのであれば,旧司法試験合格者のうち「社会人出身者」はかなりの割合にのぼるものと考えられます。ひょっとしたら50%を超えるかもしれません。

 こんな体たらくでも,法科大学院関係者は「各大学院が,多様性の拡大を図るための入学者選抜基準を概ね満たしている」から,現状について「かなりの成果を挙げている」などと強弁しています(指摘5)。
 もっとも,法科大学院の中にはその選抜基準(社会人・他学部出身者合わせて入学者の3割以上)すら満たせないところもあり,最近は東大ローですらその基準を満たしていません。選抜基準を満たせないところは「大学法学部が存続している以上,大学進学前から法曹となることを志して大学法学部に入学し,そのまま法科大学院に進む者も正当に評価されなければならない。法学部出身者が悪いみたいに言われるのはおかしい」(指摘7参照)などと言い訳するわけです。

4 法学部の履修に適合できない他学部出身者
 法科大学院については,近年入学志望者数が激減しており,他学部出身の入学者数も激減していることは前述のとおりですが,この原因の1つとして,指摘4にもあるとおり「他分野からの法科大学院入学者の中には,法律学の履修に適合できない者もいる」ということも指摘されています。
 例えば,黒猫が以前聞いた話では,特に理数関係の学部から法科大学院に入学した者の中には「答えが二つあるような学問は学問じゃない」などと言って,自ら法科大学院を辞めてしまうような人も相当数いるそうです。
 特に未修者コースの場合,入試段階では法律学の試験を一切課することができないため,他学部出身者の多くは,そもそも法律学がどのようなものか全く分からないまま法科大学院に入学してくることになります。また,入学志望者全員に課される適性試験では,法律学とはあまり関連性のない単なる言葉のパズルのような問題が出題されるため,法律学はそのようなものだと勘違いする人も少なくないでしょう。
 そういった人たちが実際に入学してみると,「結論はどちらでもよい。結論に至る過程で,法的に説得力のある論理を展開できるかどうかが重要なのだ」などという法律学特有の思考様式になじめず,授業にも付いて行けなくなるケースが相当数あるわけです。
 これは,入試段階で法律学の試験を課すことができないという法科大学院の制度設計自体に起因する問題であり,少なくともこのような制度自体を改めない限り,他学部出身で法曹を目指す人は減るばかりでしょう。

5 「司法試験に合格できない」だけがリスクではない
 上記のほか,社会人や他学部出身者が法曹を目指す際のリスクとして,特に法科大学院関係者からは司法試験の合格率が低いため職を捨てて法科大学院に入学しても司法試験に合格できる保証がない(指摘2参照)ということが殊更に強調され,したがって問題を解決するには司法試験の合格率を上げることが重要だ(指摘3参照)ということが強調される傾向にあります。検討会議のメンバーも,残念ながらそのような発想の持ち主が非常に多いようです。
 しかし,実際には例えば医学部出身で医師免許も持っている人が法科大学院に入学し,司法試験にも無事合格したけれど,法曹関係では全く就職先が無く実務経験を積むこともできないため,結局医師の仕事に戻るしかなかった,法科大学院や司法試験で学んだことを活かせる機会が全く無かった,というケースもあるようです。
 司法試験の合格者数をこれ以上増やしたところで,他学部出身者が司法試験に合格しても法曹関係の仕事に就けず,折角の知見も活かす場が無いという問題は,むしろ悪化するばかりです。

 弁護士業界の恥部を暴露するような話になるのであまり書きたくはありませんでしたが,なぜ医学部出身の司法試験合格者が法律事務所に就職できないか,という話もしておく必要があるでしょう。
 まず,日本の弁護士業界は市場規模が小さいため,例えば医療過誤を専門にしたところでその仕事だけで食べていけるわけではありません。自ら工学部で勉強し,特許訴訟で一躍有名になった某弁護士も,実際には特許以外の事件をかなりやっているようですが,とりわけ専門分野に特化していない普通の弁護士であれば,医療やら科学技術やらの専門知識が問題になるような事件は,多くても一生に数件程度,下手をすると一生お目に掛かることはないかも知れません。
 医学部出身ということは,6年間の医学部課程を修了して医師の国家試験に合格し,研修医の経験も積んでいる人が多いでしょうが,その後で法科大学院に入学するとなると,司法試験に合格する頃には優に30歳を超えてしまいます。医療過誤事件などを専門にしている事務所でない限り,このような合格者は単なる高齢合格者であり,法律事務所であれ企業であれ,採用する側としては何らの魅力も感じないわけです。

 さらに,司法試験合格者の激増に伴い,弁護士業界では「クレサラ系ビジネス弁護士」とでも言うべき法律事務所が増加しています。従来の事務所と異なり,安い弁護士費用と派手な宣伝広告で客を集め,大量に事件を処理することで収益を挙げようという発想の事務所ですが,もともと弁護士が一件ずつ真面目に事件を処理しているような事務所では,派手な広告宣伝は費用対効果に見合わずとてもやれないというのが一般的です。
 それなのに,既存の法律事務所より安い弁護士費用を謳い,しかも派手な広告宣伝にお金を使っているということは,その分肝心の事件処理では徹底的なコスト削減,言い換えれば手抜きが行われていることになります。具体的に言えば,本来なら弁護士がやるべき仕事まで,アルバイトの事務員に丸投げといった感じですね。
 しかも,そんなやり方で仕事が出来るのかと言われると,絶対に出来ないとまでは言い切れないんですね。事務員でも,それなりに真面目で経験もあるという人は結構いますし,もともと訴訟など裁判所の手続きは,弁護士を代理人に付けることが法律上強制されているわけではなく,実際に弁護士を代理人に付けず自分で訴訟(本人訴訟)をやろうという人も相当数いますから,裁判所も当事者の言い分が全く意味不明といったものでなければ,何とか救済してあげようとします。
 そのため,仕事の大半を事務員に丸投げしているような事務所に依頼しても,事件処理自体は無事終わるというケースも相当数あります。もちろん,裁判所からの評判は大変に悪く,日弁連の宇都宮眞由美副会長は,意見交換会の席で裁判官から「裁判所は,新任裁判官を,社会に出しても恥ずかしくない人材に,裁判所の責任で教育します。検察庁もそうです。日弁連や弁護士会はそうしないのですか?」という趣旨のことを言われたらしいです(日弁連会長ブログ11月14日付け記事を参照)が,依頼者サイドとしては,そんなことに気付かないまま事件処理が終わってしまうこともあるわけです。
 もちろん,事務員の手に負えない問題が発生したりすると,そのまま事件処理が放置されてしまい,弁護過誤事件に発展するようなこともありますし,依頼者の預かり金が事実上着服されてしまうような事態が発生することも少なからずあります。
 しかし,仮に一部の依頼者が懲戒請求を起こしても,金を払って和解すれば大抵の人は懲戒請求を取り下げてくれますし,よほど苦情が頻発でもしない限り,多忙な弁護士会が取り下げられた懲戒請求事件について職権で詳しく調査することは稀です。
 さらに,弁護士会が重い腰を上げて,問題のある弁護士を業務停止などの懲戒処分にしたとしても,そういう法律事務所の多くは弁護士でない「事件屋」と呼ばれる人が裏で仕切っているため,事件屋がダミーに使っていた弁護士を懲戒処分にしたところで,別の弁護士が新たなダミーにされるだけのことであり,単なるトカゲの尻尾切りが行われるに過ぎません。
 このように,低価格と派手な広告宣伝で勝負し事件処理は徹底的に手を抜くという商売手法は,主に債務整理事件や過払い金請求事件の分野で発展したものですが,最近は過払い金の事件が激減したため,こうしたノウハウを他の民事事件に「活用」しようとする動きが広がっています。以前の記事でも触れた,某クレサラ系の事務所がB型肝炎訴訟の広告を出して客を集めているのはそうした動きの一環でしょうが,内部でどんな恐ろしい事件処理が行われているか分かったものではありません。

 ただでさえ,弁護士業界は法テラスの公設事務所が無料法律相談等をやるようになり公然と民業圧迫が行われているのに,さらにそうした「クレサラ系ビジネス弁護士」の事務所が幅を利かせるようになると,真面目に事件処理をやっていた普通の法律事務所は,低価格競争の波に付いて行けなくなり淘汰されてしまいます。
 大企業や富裕層向けの「高級ブランド」を維持している一部の渉外事務所は別ですが,それ以外の事務所はそもそも新人を雇う余裕などなく,仮に需要はあっても新人弁護士など単なる裁判所へのお遣いにしか使えませんから,時給750円くらいのアルバイトか,あるいは固定給を支払わず事務所の軒先だけ貸してあげる「ノキ弁」でも十分。高給取りの新人お医者様弁護士なんぞに用はないわけです。

 法科大学院制度の廃止については,さすがに法科大学院関係者以外で異論を唱える人は少なくなってきましたが,法曹人口問題については「司法試験合格者を増やせば,市場競争で質の悪い弁護士が淘汰されてサービスの質が向上する。就職難が発生しているから合格者数を減らそうとするのは弁護士が既得権を守ろうとするギルド的発想に過ぎない」などと主張する人が,残念ながら一般市民の中にもいらっしゃるようです。
 しかしながら,弁護士業界の現場で実際に発生しているのは,むしろ「司法試験合格者を増やしたことによって,市場競争で質の良い弁護士が淘汰され,サービスの質が維持できなくなっている」ということです。一昔前なら,一般家庭の離婚事件や相続事件は「弁護士であれば誰でも出来る仕事」と言われていましたが,今では養育費算定表の存在すら知らない弁護士がいるくらいですから,口が裂けても「弁護士なら誰でも出来る」なんてことは言えません。
 そして,弁護士の質を向上させる方策の一環である「多様性の拡大」という観点から見ても,わざわざ理系などの他学部を卒業して法科大学院に入学するなどというのは,たとえ司法試験に合格しても経済的に全く割に合わない行為であることが知れ渡っていますから,現行制度ではもはやマイナスの効果しか期待できないのです。
 法曹養成制度検討会議については,こうした深刻な問題に正面から向き合わず,むしろ事態を悪化させ方向に動いているとの評価が一般的であり,それ自体は官僚政治の弊害と呼ばれているものの一環であるため根本的な解決は難しいのですが,願わくば次の選挙で選ばれた政治家や一般市民の皆さんが,検討会議の似非有識者たちが言うことを真に受けて,司法試験合格者数を更に増やすとか予備試験の受験資格を制限するといった破滅的な施策に走ったりすることの無いよう願うばかりです。

1 コメント

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Unknown (弁理士)
2012-12-02 03:02:08
理系の弁護士がすぐに知財が出来るかというと必ずしもそうではありません。知財経験者が指導できるという環境にない限り、知財ができる弁護士として雇うわけには行かないでしょう。つまり、事務所としても文系の弁護士として雇うしかないわけです。

法科大学院に入る前に弁理士の経験が5年とか、大企業で知財の経験が5年や10年あるというのであれば、弁護士になってすぐに知財が出来ると思いますが、彼らが法科大学院に行く動機はほとんどないと思います。
まず、弁理士も付記をつけて法廷にいけますし、司法修習まで含めれば5年近く実務から離れてることになります。弁護士となるよりか、クライアントとの信頼関係を深めて営業に専念したほうが将来のためになります。弁護士になっても弁理士の時と仕事の内容も給料も全く変化なしとか、かえって悪化する危険すらあります。

知財が国際的な観点を無視できないので(日、米、中、欧で同じ特許を出願するというのはよくあります)、法科大学院よりか、アメリカの法律事務所で研修またはアメリカのロースクールに行ったほうが、役に立つわけです。アメリカで特許侵害訴訟となれば、損害額が100億円を上回ることもざらにありますが、日本ではせいぜい高く見積もっても2億程度ですから、企業もそれだけ重視しますよね。

余談ですが、アメリカではPatent attorneyになるためには、弁理士の試験と弁護士の試験を両方合格している必要があるのです。弁理士の試験を合格しただけの人はPatent Agentといって、事務所でHourly rateをあまりあげることは出来ません、つまりパートナーになることも事実上不可能です。ですから、理系の人も、たとえ理系で博士号を持っていてもロースクールに行くわけです。米国特許庁審査官の多くも夜間のロースクールに通っています。
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