黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

迷走する「理念」,破綻する「現実」

2013-02-24 04:29:02 | 法曹養成制度と経済負担
 法曹養成制度検討会議については,1月30日に開催された第8回会議の議事録と,2月22日に開催された第9回会議の資料が公開されています。第7回会議の議事録も最近公開されたばかりなので,当分はこれらの話題で埋まってしまうと思いますが,今回は第8回会議の議事録を見た上での総評とでもいうべき内容です。

<参 照>
第8回会議議事録
http://www.moj.go.jp/content/000107712.pdf
第9回会議
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00014.html

 第8回会議の議題は,弁護士になった後の継続教育と法曹養成制度総論で,後者では特に司法修習の貸与制が大きな議論となりましたが,議論の有様を一言で表現すると,「迷走する理念,破綻する現実」というのが最も相応しいかと思います。

1 迷走する「理念」
 継続教育に関する議論では,アメリカなどの例に倣って継続教育プログラムを設けるべきだというような意見が鎌田委員,井上委員及び国分委員からなされました。特に国分委員は医師としての立場から,医師の専門医制度と同様に,各都道府県の弁護士会で司法修習を終えた人を一定数受け入れ,弁護士としての本給を保障して複数の専門分野を短期間ずつローテートさせるシステムを作ったらよいのではないか,という趣旨の発言をしており,井上委員や鎌田委員も,とにかく目下の危機を何とか乗り越えれば,そういう明るい方向での議論が出来るのではないかという感じで,このような考え方に賛同しているようです。
 たしかに,そのような制度が本当に実現すれば,弁護士業界にとって明るい話題になるかも知れませんが,仮に法科大学院と弁護士会が共同でそのようなプログラムを作って継続研修を行うとしても,研修生をして受け入れる弁護士の給料を含め,研修にかかる莫大な予算を一体どこから捻出するつもりなのでしょうか。
 実際,法科大学院の中には独自に継続研修のようなプログラムを作ったところもありますが,そこで受け入れた弁護士は法科大学院内に新設された法律事務所の共同経営者という形にさせられ,給料は出ず仕事は自分で探せと言われるそうです。早稲田大学でも似たようなシステムを作る動きがあるそうですが,予算の裏付けがなければ待遇面も似たような扱いにならざるを得ません。
 こういう夢物語のようなことを言っておきながら,その前段階である司法修習については,給費制復活は無理だという議論が平然と行われています。特に井上委員は,貸与制が導入された趣旨について,以下のような指摘をしています。

「お金がほかのところにかかるので国民負担の面から見て合理的なところに重点配分するという場合の,お金がかかるというのは,司法試験合格者ないし修習生の数が増えるので,それにお金がかかるということだけではなく,他の諸々の改革を含む司法制度改革全体について相当のお金がかかるので,どこに重点配分するかという話であるということです。したがって,合格者の数を減らせば,その分,修習生に対する給費や手当に回せるという関係には必ずしも立たないということに御留意いただきたいと思います。」

 要するに,司法修習の貸与制が導入された趣旨は,単に司法試験の合格者が増えて修習生にお金がかかるからというものではなく,一連の司法改革では法科大学院の設置や法テラスの創設などに多額の財政負担がかかるので,限りある財政資金を国民負担の面から見て合理的なところに重点配分するというものであるため,単に司法試験合格者数の数を減らせば給費制を復活できるというものではない,ということらしいです。
 つまり,政府側の論理としては,司法修習生への貸与制導入は,法科大学院や法テラスなど大変お金のかかる司法制度改革を実施するにあたり,司法改革全体の経費を切り詰めるために行ったものであるため,少なくとも法科大学院に係る予算の全廃などをしない限り,給費制復活はあり得ないという結論になります。
 制度改革失敗のしわ寄せを,弱い立場にある修習生に押しつけるという考え方自体いかがなものかとは思いますが,そうであるならば給費制を復活するにはまず法科大学院の全廃を主張しなければならず,法科大学院の問題を脇に置きまず給費制復活だけを主張するという運動方針は全くの無駄である,ということにもなります。
 前述した継続教育のほか,第9回会議では法曹有資格者の海外展開について国が支援すべきなどという議論もなされているようですが,このような状況の下で多額の財政負担を伴う新たな政策が承認されるはずもなく,また企業や地方自治体に進出する弁護士を増やすというのは,法科大学院がこれらの新たなニーズに応えられる教育をするというのが前提であるところ,実際には法律事務所向けの人材すらろくに育てられない法科大学院にそのような教育ができるはずもありません。
 読んでいて呆れ返るほど,まさしく絵に描いた餅のような議論ばかりしているのが検討会議の実態であり,法曹養成制度検討会議のメンバーは,一部を除き集団催眠か集団麻薬中毒にでもかかっているのではないかと勘繰りたくもなります。


2 破綻する「現実」
 そんな世迷い言のような議論をする人がいる一方で,きちんと現実を見ている委員もいます。
 田島委員は,各県の弁護士会会長やその他の関係者,65期や66期の修習生からいろいろな話を聴いたそうですが,まず弁護士の数が激増したことにより,従来は司法書士や行政書士と仕事を分け合い共存していたものが,一転して法律上弁護士が出来るものは自分達でやろうということになり,増員のしわ寄せは司法書士や行政書士,宅建,社労士といった隣接業種の人にも確実に及んでいるそうです。
 また,九州のうち規模の大きい福岡は別として,それ以外の弁護士会では一昨年くらいから司法修習生や雇用を受け入れる力が急速に弱くなり,今年は一昨年の半分くらいになってしまったそうです。従来どおり司法修習生を受け入れられるのは今年くらいが限度で,来年になったら修習生を受け入れることが本当に出来るのか心配しているところもあるそうです。
 前回の記事で,修習の内容について裁判所から注意を受けた弁護士会があるという話を書きましたが,事態はそれだけにとどまらず,来年には司法修習生の受け入れさえ出来ない弁護士会が出て来そうだという話になっているのです。田島委員が話を聴いたのは九州の人らしいですが,他の地域でも弁護士数が少ない単位会ではおそらく似たような状況になっているでしょうから,来年の司法試験を受験する人あたりからは,もはや司法試験に合格しても,配属先によっては弁護修習を事実上受けられない事態が生じ得るということになります。
 むやみに弁護士の数を増やし,公益活動を担ってきた弁護士の経済的基盤を破壊した結果,弁護士の公益活動に頼ってきた司法修習制度も崩壊するのは当然の結末ではありますが,現状でも弁護士としての実務教育を受ける機会は激減しているというのに,一部の地域で弁護修習が事実上実施不可能となれば,実務教育ゼロのまま社会に放り出される新人「弁護士」が大量に発生することになりかねません。
 恐ろしいことですが,検討会議で司法修習の給費制,貸与制といった狭い範囲の議論が行われている間に,実は司法修習そのものが破綻の危機に陥っており,政府もその実情を知りながら何ら有効な対策を打っていないというのが実情になっているのです。 司法修習が破綻したら,おそらく司法試験合格後一定期間の実務経験を義務づけ,それを経た人に弁護士資格を認めるといった制度になるのでしょうが,公認会計士みたいに,試験に合格しても実務経験を積む機会が無く弁護士登録を受けられない「待機合格者」が大量発生するのはほぼ確実でしょう。一度そういう状態になったら,制度の修復も極めて難しくなります。

 黒猫自身は平成11年度の旧司法試験合格者ですが,最近は司法試験を受けてこの業界に入ったこと自体を後悔するようになってきました。当時は司法界がこんな状態になるなど予想すらしていませんでしたから,もし十年以上前の自分と話す機会があったら,司法試験なんか絶対に辞めろと必死に説得しますし,もともと法曹の仕事に強いこだわりを持っていたわけではないので,そうと知っていれば司法試験など受験しなかったでしょう。黒猫に限らず,最近は現職の弁護士にも,自分の子どもには跡を継がせず自分の代で廃業しようと考えている人が多いようです。

 これから司法試験や予備試験を受ける人,法科大学院への入学を考えている人に忠告しておきます。裁判官や検察官に任官できる人や,独自の研修プログラムを実施している大手の法律事務所に司法試験合格前から内定が決まっているような人は別ですが,そうでない人はもはや司法試験に合格しても事実上弁護士になれない可能性が高いです。司法試験の勉強に多大な時間と費用と労力を費やしても,全く割に合わない結果になる可能性が非常に高く,今後も状況が改善する見込みは全くありません。
 特に,今年から法科大学院に入学するなどというのは,はっきり言って自殺行為と同義ですから,どうしても入学するという人は入学前に遺書を書いておくことを強くお薦めします。

58 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-02-24 05:47:28
弁護士が増え、修習が十分にできなくなれば、自分の事務所内で研修システムを採用できる大手事務所の一人がちになります。日本の良い制度を捨てて、闇雲にアメリカを追っかけるのは、日本の悪い癖です。
http://americanlegalsysteminfo.blogspot.com/2012/10/blog-post.html
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 06:50:23
ローの先生方,本当にもう頭が悪い病気にかかってますね。何をいろいと言ってんですか。間違って移植した悪性腫瘍は除去するだけの話でしょ。
それと遺書はこれから法曹になろうとする人だけでなく,たいした見通しもないまま今後もまだ法曹を続けていこうと思ってる人も書いておくべきかもしれません。みなさん,10年後にまだやってる自信ありますか。私はありません。
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 07:29:17
アメリカであれほど大量の弁護士がやっていけるのは、陪審員制度とか懲罰賠償とかがあるからでしょう。ぶっちゃけた話、弁護士の腕次第で巨額の損害賠償が取れる可能性があるから、着手金ゼロ成功報酬のみというビジネスモデルが成り立つわけで。
 日本の司法改革では陪審員制度や懲罰賠償は取り入れられていないし、今後も採用される見込みは乏しい。日本の司法改革は実態上もアメリカの模倣にはなっていないし、理念としてもアメリカの模倣をするつもりはないのではないでしょうか。
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 08:31:22
権利(給費制、一定の収入保証)があったから、通常のビジネスではありえない義務(自分の事務所に就職するわけでもない修習生の弁護修習、高額の会費負担、その他の公益活動)を果たしていたのであって、権利だけ奪って、義務はそのままなんてありえない。
権利がないなら、ビジネスライクに義務も果たしませんというだけのこと。

ビジネスライクに考えたら、こんな業界選ばないか……
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 10:35:40
だから、法科大学院志願者が減ってる。
現実(就活)から目をそらそうとする人か、あるいは、情報薄弱者しか来ない世界になったってことだね。
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 11:50:45
「遺言」ではなくて「遺書」なんですね。

これ以上弁護士を続けても消極財産の方が多く残るから、相続人は相続放棄するほかなく、分割方法の指定をしても意味がないということでしょうか。

修習生への貸与金を貯蓄しておいてそれを非相続人へ遺贈した上で推定相続人へは相続放棄をススメ、崩壊大学院へのウラミツラミを書き記した「遺書」を準備しておくことにしますか。
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 11:59:56
4大内定者は云々
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 13:13:51
これだけ警鐘を鳴らされても、それでも法科大学院で自爆したい人は自殺願望のある人ということで良いのではないでしょうか。
現在弁護士の人も生き残りを賭けて、ロー卒をつぶしにいかないといけないのですから、研修なんて弁護士会に義務づけようというのが笑ってしまいますね。

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Unknown (Unknown)
2013-02-24 14:45:10
何より滑稽なのが、あれだけ新司組の弁護士はレベルが低いだの、基礎知識を欠くだの言っておきながら、結局、現役の弁護士先生はその人たちを「潰しに」いかなければならないことですね。
新司組も旧試組の素晴らしい先生方の商売を脅かすほどの力があるということじゃないですか!
法的能力に歴然とした差があるなら、何も「潰しに」いかなくてもいいでしょう。
無能な弁護士は市民に被害が及ぼす。これはその通り。しかし、それを理由に弁護士が合格者減員を説くというのは、いかにも偽善的で欺瞞に満ちていて、たちの悪い冗談としか思えません。
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 15:46:35
市民に害を及ぼすことなど既存の弁護士の知ったことではないのでしょう。
大切なのは、違法行為をした弁護士を市場から退場させることで、間違った競争をさせないことです。つぶすのは新試だけではなく旧試も一緒です。つぶさないとつぶされるという生存競争です。
もちろん採算の合わない事件など引き受けろなどという方が間違っているでしょう。
司法改革万歳ですね。
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