海軍航空技術廠出身の父親は技術万能主義者のようなところがあった。大学進学のとき「理系へいけ」と口をすっぱくして言われた。自分が経済学部への進学を決めると「総合レジャーセンターに行くのか」と言ってほとんど口を利かなくなった時期もある。今、父親が言っていたことが痛いほどわかる。この本を読んでそう思った。やっぱりシステムの設計にしろ開発にしろ、デザインにしろ、技術があるってことはいいことだ。
東京の下町で岡野工業株式会社という社員6人の町工場をやっておられる岡野雅行さん。テルモの痛くない注射針の開発で知られ、「世界一の職人」と呼ばれている。そんな岡野さんの役に立つ「世渡り」ノウハウがべらんめぇ調で語られる痛快な本だ。さまざまな世渡りノウハウが語られる中で「自分が技術屋だったら」と強く思ったのは以下の部分。
日本じゃ口数は少ないほうが人間として深みを感じさせるとか、やたらと目立とうとするのは品がないなんていうだろう。冗談じゃねぇってんだよ! しゃべらなくても自分のことをわかってくれとか、みなまで言わせないで思いを汲んでくれってほうが、よっぽど身勝手で品がないじゃないか。なんでちっともしゃべらないヤツの胸の内を、こっちが苦労して忖度してやんなきゃいけないんだよ。分かってもらいたかったら、分かってもらえるようにちゃんとしゃべれ。
(中略)
しゃべるときは10のものを100にも1000にも膨らませなきゃダメだね。
(中略)
学校じゃ、「簡潔に話せ、控えめに話せ」なんて教えるだろ。これがいけないんだよ。だから、立派な大学を出た政治家にも、自分の言葉でまともに話せるのがいないっていう、お寒いニッポンになっちゃうんだ。しゃべるのは世渡りの大事な戦略なんだ。
(中略)
ゼロを「10だ」っていうのはウソになるけど、1を「100」はウソじゃない。大風呂敷ってやつだな。
このあたりは職人であり一流の技術屋の岡野さんだからこそ、響く言葉なのだ。「今はウソでも 必ず自分が作り上げてやる」という心意気がある。とても共感するんだけど、残念ながら自分は技術屋ではないし、職人でもない。技術がないから作れないのだ。父親が昔「技術は若いときに身につけないとダメだ。商売なんてのは歳をとってからでもいくらでも勉強できる」と言っていたのを思い出す。「今からでも遅くないからシステム開発の勉強をすれば」と言われてしまうかもしれないけど、システム開発の世界もそんなに甘いものじゃない。
幸いにしてウチの会社には若くて優秀な技術屋がたくさんいるから、彼らが岡野さんのような「考え方」をするようになれば、彼らの人生は大きく変わるはずだし、「痛くない注射針」に匹敵するようなシステムやサイトも作れるはずだ。だから自分は「考え方を変えていくプロ」になろうと思った。岡野さんのような技術屋を育てて、会社をますます発展させていきたい。
上の写真の「人生は勉強より世渡り力だ!」の下の本は「秋葉に住む」。東京の秋葉原の同じマンションに住むオタクのSさんが夏のコミケで販売されていた。そこにエッセイを出稿したので謹呈していただいた次第。
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