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気ままに生活してるシニアの残日録

藤田真央「指先から旅をする」を読む

2024年01月07日 | 読書

先日買っておいた藤田真央著「指先から旅をする」(文藝春秋)を読んで見た。この本は藤田真央の2022年と2023年の2年間の演奏活動の記録である。上質な紙に藤田の文章とともに写真家の小野祐司氏らの写真が載っている。Amazonで見ると、このカテゴリーのベストセラー1位になっている。

このような形式の本は大好きだ。今までも先日亡くなった伊集院静氏の「美の旅人」シリーズ、作家浅田次郎氏の「サイマー」(競馬好きな氏が世界の有名な競馬場を訪ねる旅行記)など、興味のある分野の本を見つけると買ってきた。今回も池袋の本屋で偶然見つけ、良さそうなので買ってみた。

最近のクラシック音楽会での日本人の若者たちの世界を股にかけた活躍ぶりには目を見張るものがあり、感心してきた。藤田真央もその活躍している代表バッターの一人であろう。1998年生まれというから今年で26才になる若手で、既に18才でクララ・ハスキル国際ピアノコンクール優勝、2年後にチャイコフスキー国際コンクールで2位入賞など輝かしい実績を出している。

その藤田真央がこの直近2年間の演奏活動について、どういった思いで望んできたのか、どういう経験をしてきたのか、日頃どういう考えで音楽に向かい合っているのか、などについて書いたものが本書であり、一気に読んだ。

読んでみると、彼はなかなかしっかりした考えを持ち、若くて有名になりちやほやされることもあるだろうが自分を厳しく律して音楽に向き合っていることがよくわかる。人間だから時に傲慢になったりするが、巨匠からの指摘や自ら気付いて直ぐに軌道修正できるのはたいしたものだ。彼の技術や人柄により、出会って一緒に仕事をした芸術家やホールの責任者、マネージャーなどから次々と次の仕事を一緒にしないかとのオファーをもらう、素晴らしいことだ。

読んでいて若干心配になったことと言えば、

  • 彼も書いているが、グローバルに活躍している人は国を跨ぐ移動が多く、時差もあり、体調や気力の維持、調整が大変だ。現在は若いから何とかなるが、食事や体力強化に十分意を注いでもらいたい。そんなに強靱な体力の持ち主にも見えないし、食事も健康面を考えた内容になっていないように思える。その面でもアドバイザーも起用する必要があるのではないか。
  • クラシック音楽会の芸術家がどれだけの報酬をもらっているのかわからないが、なるべく稼いでもらいたい、大谷のように。まだ本人にはそんな発想はないだろうが、これもしっかりしたマネージャーをつけて条件交渉してもらいたい。そして、活躍の場が欧州中心だが、金が稼げるのはやはりアメリカではないか、もう少し名が売れてくれば、もっとアメリカも重視した活動を考えても良いかもしれない。

さて、本書を読んで興味を持てた事項を少し書いてみたい

  • 共演した指揮者のエッシェンンバッハから「カラヤンからモーツアルトの21番で共演したピアニストでもっとも印象的だったのはディヌ・リパッティだ」と聞かされる。藤田も以前はリパッティを良く聞いており、師匠の野島先生がいつも手元に置いていたレコードは1950年のブザンソン音楽祭で収録された最後のライブである。本書で作家の恩田陸との対談をしているが彼女も一番好きなピアニストがリパッティで、最後のライブは涙無しに聴けないと言っている。私も早速Amazonで注文した。
  • 藤田はモーツアルト好きであるのがうれしい。モーツアルトは困窮している中にも常に軽やかな楽しみを求め続けた人だった、オプティミストの自分はショパンよりモーツアルト寄りの人間だ。明るい音でみんなが幸せな気持ちになれたらそれも素敵なことだと述べているのも自分と同じ考えでうれしくなった。私は悲劇、悲恋、困窮などを題材にした音楽やオペラ、小説などはあまり好きではない。
  • また、藤田はシューベルトも高く評価しているが、これも自分と同じでうれしくなった。シューベルトのハーモニーは天才的だと述べ、今後彼のピアノソナタ20番や私の好きな4つの即興曲D899などに挑戦したいと述べているのもうれしい。私の大好きな曲だ。
  • 楽譜には出版社ごとにいろんな「版」があり、同じ曲でも音や強弱の指定がけっこう違ったりするので、どの版を選ぶかは演奏者にとってもっとも大切なこと。これは知らなかった。
  • 音楽をやる人はイメージ先行型(ロシアの大地の情景を思い浮かべて演奏するなど)と楽譜・理論先行型とがあるが自分は後者であると言っているのは興味深い。
  • 塩野七生の「ローマ人の物語」に言及しているが、若いのにそんな本を読んでいるとは感心だ。私もほぼ全部読んだが、もう1回手に取る気がまだおこらない。

今後のますますの活躍を期待したい。



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