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美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

中の島香雪 開館展最後は物語絵|美の五色 ~物語とうたにあそぶ 2/11まで

2018年12月16日 | 美術館・展覧会

今年2018年3月のオープン以来、村山コレクションをフルに紹介する5回シリーズの展覧会「珠玉の村山コレクション」が、早いもので最終回を迎えています。最終回のタイトルは「物語とうたにあそぶ」、絵巻・やまと絵や歌仙・かるたの逸品が展覧会のフィナーレを飾ります。

  • 関心の低くなりがちな江戸時代の物語絵を丁寧に収集
  • 江戸時代にも百人一首や源氏物語の人気はとても高かったことがわかる
  • 写生画や風俗画といった周辺作品にも秀作が多い


朝日新聞創業者・村山龍平の蒐集の幅の広さがわかる5回シリーズでした。その最後を優雅なやまと絵でぜひお楽しみください。



展示は第1章「源氏物語」からスタートします。「源氏系図」は複雑で数の多い源氏物語の登場人物を系図形式で解説したガイドブックです。現代の歴史もののドラマや映画でも、人間模様を説明するためによく用いられる手法です。

ただし大きな紙に大きな系図を描いているわけではなく、冊子ですので系図はひたすら左に伸びていきます。現代人にとっては見やすいとは言えませんが、製作された室町時代には画期的だったのでしょう。表紙のやまと絵の描写は、金箔をふんだんに用いておりきらびやかです。かなりの高級品であることがうかがえます。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

第2章は「絵になる物語」で、近世の絵巻や風俗画をまとめています。作者不詳「立美人図」は江戸時代初期によく見られる街中の女性の描写です。岩佐又兵衛の「堀江物語」にも、やまと絵の基本を外してはいませんが、描写には風俗画としてのリアルさが如実に表れています。後の浮世絵の原点と言われた江戸時代初期の風俗画の魅力がよくわかります。

第3章は「うたの景色」で、茶会や歌会で客人に披露するにふさわしい掛軸の名品が揃っています。江戸時代後期の京都画壇のリーダー・原在中の「秋草図」は、青と橙の色使いに京都らしい上品さが見られます。一方、原在中とほぼ同世代の江戸琳派のリーダー・酒井抱一の「十二カ月図景物図短冊」は、余白を活かした描写に江戸らしい洗練さが見られます。両者の対比は実に興味深いものでした。



エピローグは「伊勢物語図色紙」です。伝俵屋宗達の同作品が著名ですが、こちらはより古い室町時代の作品です。彩色がよく残っており、保存状態は良好です。平安・鎌倉期のやまと絵と比べ、描写が緻密になっていることが分かります。フィナーレにふさわしい重厚なやまと絵作品です。



「珠玉の村山コレクション」が終わってどうするのかと思っていましたが、次回は鳥獣戯画全4巻を展示するサプライズ企画を用意していました。2019年3月から始まる「明恵の夢と高山寺」展です。鳥獣戯画だけにとどまらず、高山寺所有の国宝で木に腰掛けた姿がほのぼのしい「明恵上人像」、愛くるしさで著名な重文彫刻「子犬」もやってきます。

鳥獣戯画は2014年秋に京博で公開された際は、2時間待ちの行列が当たり前でした。今回もすさまじい行列が予想されます。中之島香雪美術館は敷地が広くないだけに、入場時間指定チケットなどの混雑回避策を期待したいものです。

【中之島香雪美術館】 今後の開催予定「明恵の夢と高山寺」

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



師弟関係にある巨頭二人は日本美術をどう語るか?

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中之島香雪美術館
開館記念展「珠玉の村山コレクション ~愛し、守り、伝えた~」
V 物語とうたにあそぶ
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:香雪美術館、朝日新聞社、朝日放送テレビ
会期:2018年12月15日(土)〜2019年2月11日(月)
原則休館日:月曜日、12/29-1/7
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※1/14までの前期展示、1/16以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車、4番出口から徒歩3分
京阪中之島線「渡辺橋」駅下車、12番出口から徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、7番出口から徒歩8分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅(西梅田駅)→メトロ四つ橋線→肥後橋駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設が入居するビルに有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
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陶磁器の”肖像画”を中之島で味わう|美の五色 ~東洋陶磁美術館 Object Portraits

2018年12月15日 | 美術館・展覧会

大阪・中之島の東洋陶磁美術館で不思議なモダンアートの展覧会「オブジェクト・ポートレイト」が始まりました。

  • 東洋陶磁美術館所蔵の陶磁器を撮影し、輪郭や文様などその作品の特徴を表す部分だけをモノクロに浮かび上がらせて表現
  • 作者のエリック・ゼッタクイストは、ニューヨークで杉本博司から東洋古美術と写真を学んだ
  • 対象を表す特徴の抜き出し方が絶妙、まさにモノの似顔絵を見ているよう


エリックの作品の横には、被写体となった陶磁器を並べて展示しています。よく見比べてみてください。その中では本物よりエリック作品の方が魅力的に映る場合もあるでしょう。そんな不思議な展覧会です。



展覧会タイトルのObject Portraitsとは「モノの肖像」という意味です。作者のEric Zetterquistは既存の美術品の特徴を強調するために、極端に不要な要素をそぎ落として2Dモノクロで表現することを思いつきます。その方が、特徴がより分かりやすくなるためでしょう。

【東洋陶磁美術館の画像】 国宝・飛青磁花生

例えばエリック作品の一つに、東洋陶磁美術館の至宝である国宝の飛青磁花生(とびせいじはないけ)があります。花瓶の胴体に「飛青磁」と呼ばれて茶人に愛された、鉄紛がさびたような斑点模様がちりばめられています。エリックは斑点である飛青磁だけを取り出して表現しています。私は飛青磁花生を何度も見ており、エリック作品を見ただけで飛青磁花生とすぐわかりました。

エリック作品の横には、当の飛青磁花生は展示されていません。さすがに国宝だけあって、防災対策がしっかり施された常設展示室のいつものところに展示されています。このようにその作品の特徴をしっかりと記憶している人にはすぐわかるのです。上手な似顔絵を見ると誰かすぐわかるのと同じです。



エリック作品には全体としての特徴ではなく、一部分だけを取り出したものもあります。

【東洋陶磁美術館の画像】 白磁 瓜形水注・承盤

エリックは、水柱の胴体を持つための取っ手の空間や、蓋をつまみやすくするために開けられたわずかな穴に目を付けます。横に展示されている被写体の陶磁器を見ても、どの部分を取り出したのか最初はよくわかりません。エリック作品は取っ手の大きな空間の左上に小さく2つ、蓋のつまみの穴を表現しています。一部分だけでも被写体の個性をとても上手にとらえているのです。

東洋陶磁美術館は、常設展示されている所蔵品そのものがワールドクラス揃いです。それら作品が発する強い主張をエリックはとても上手に受け止めて表現しています。モノの肖像は、現代アートの多様性の素晴らしさを実感できる素晴らしい表現です。



【東洋陶磁美術館】 特集展 高田コレクション・尾形コレクション ペルシアの陶器

オブジェクト・ポートレイト展と並行してペルシア陶器のコレクションを紹介する特集展も行われています。古九谷を思わせるような黄色や緑の鮮やかな色使いと共に、動物をデフォルメした表現が印象的です。シルクロード一帯の各民族の文化がブレンドされたような、奥深い作品が揃っています。こちらもぜひどうぞ。



こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



海外に比べて国内知名度が低い現代アーティストはたくさんいる

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大阪市立東洋陶磁美術館
企画展「オブジェクト・ポートレイト Object Portraits by Eric Zetterquist」
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:大阪市立東洋陶磁美術館
会期:2018年12月8日(土)~2019年2月11日(月)
原則休館日:月曜日、12/28-1/4
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(12/21-24は~18:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影とWeb上への公開が可能です。
 ただしフラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音は禁止です。



おすすめ交通機関:
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、1番出口から徒歩6分
大阪メトロ堺筋線・京阪本線「北浜」駅下車、26番出口から徒歩6分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
JR大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→淀屋橋駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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三重で「浮世絵モダーン」展|美の五色 ~パラミタmuseum

2018年12月14日 | 美術館・展覧会

前から行きたかった三重県の菰野(こもの)にあるパラミタミュージアムをようやく訪れることができました。新版画の多様な作家を紹介する「浮世絵モダーン展」も、とても内容が充実していました。

  • 三重県の名峰・御在所岳の麓にある緑豊かな高原の美術館
  • 常設展示では池田満寿夫や長快作・十一面観音が必見
  • 浮世絵モダーン展は五葉・巴水ら著名作家以外も多数紹介
  • 新版画では見慣れない役者絵や花鳥画も注目


事前の期待を裏切らない美術館であり、展覧会でした。近くには湯の山温泉もあります。リゾート地によく見られる個性的な美術館です。


美術館への入口

パラミタミュージアムは2003年、現在のイオングループの基礎・ジャスコを築き上げた岡田卓也の姉・小嶋千鶴子が開館しました。開館のきっかけは、現在も館の目玉収蔵品になっている池田満寿夫の彫刻「般若心経シリーズ」を入手する際に、展示施設の建設を約束したためです。一風変わった館名の「パラミタ」とは、般若心経の一説「波羅蜜多(はらみった)」に因んだものです。

現在は岡田文化財団が運営しており、美術館では音楽コンサートもよく行われています。館の裏にあるパラミタガーデンでは、高原の森のような庭園を、点在する彫刻作品を見ながら散策することができます。美術・音楽・自然と多様なコンテンツが用意された美術館です。


玄関横の庭

2階建ての美術館は、1Fが常設展示、2Fが企画展示の部屋です。玄関からガーデンや2Fへ向かう通路にあるギャラリーでは、2008年に三重県内の旧家で発見され、館が購入した十一面観音が荘厳な姿を見せています。作者の長快は快慶の高弟で、それまでは六波羅蜜寺の弘法大師像しか作品が確認されていなかった謎の仏師です。

師匠の快慶が制作した奈良・長谷寺本尊の余材を用いた長谷寺本尊の縮尺像です。快慶一門らしい静けさのある表情が印象的です。明治に廃絶した興福寺の子院の本尊で永らく行方不明でしたが、三重県の旧家で大切に保存されていました。地肌や光背に痛みは見られず、金箔の輝きをとてもよく残しています。保存状態が良いことがわかります。重要文化財にふさわしい美仏です。

【パラミタミュージアムの画像】 池田満寿夫「般若心経シリーズ」

池田満寿夫の「般若心経シリーズ」は、とてもエネルギッシュに輪廻転生の世界観を表現した彫刻です。まるで庭に座って自己と向き合うように、時間をかけて鑑賞してしまいます。



パラミタガーデンをのぞむサロン

2Fへは1Fから緩やかに上るスロープを歩くのがおすすめです。美しいガーデンを一望できます。2Fの浮世絵モダーン展は「女性」「風景」「役者」「花鳥」「自由なる創作」の全5章で構成されています。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

最初の美人画から、私にとっての新しい発見が相次ぎました。オーストリア人のフリッツ・カペラリによる「黒猫を抱く女」は、繊細さは見られないものの、青い目を通じて見えたのであろう日本女性のヌードの印象の素朴な表現が目を引きます。欧米人にも新版画を制作していた画家がいたことには驚きです。

【町田市立国際版画美術館の画像】 橋口五葉「髪梳ける女」

橋口五葉の代表作「髪梳ける女」もやってきていました。新版画の美人画を代表する傑作であることは昔も今も変わりません。橋口五葉では珍しい風景画、「耶馬渓」は興味深い作品でした。美人画の画風と同じく風景をとても明るく描いています。

同様に風景画をあまり見かけない伊東深水の「セレベス マカッサル郊外」も斬新でした。インドネシアの人々の生活をまさに赤道直下と思わせる明るい陽光の下に描いています。

巴水・深水らと共に鏑木清方の門人だった小早川清(こばやかわきよし)による、芸者や女給を描いた美人画も目に留まります。芸者や女給は現代でいう風俗嬢です。自らの職業に向き合い、客を誘惑するようで挑戦的でもある目線の表現に、戦前という時代の日本社会の実情を見て取れます。一生賢明生きていた女性の表情を、美しく怪しく、実にリアルに表すテクニックには感服します。

山村耕花(やまむらこうか)・名取春仙(なとりしゅんせん)らによる役者絵は、写楽らによる江戸時代の役者絵より格段に写実性が増しています。現代の劇場の舞台を宣伝する看板のようなリアルな趣を感じます。戦前は、写真はあったものの、まだまだ高価で看板には使いにくかった時代でした。マスへの宣伝が写真に移行する直前の時代を学べる、稀有な作品をのこしてくれました。
小原古邨(おはらこそん)の花鳥画が出展されていることにも驚きました。日本国内に比べ欧米での人気が圧倒する古邨の魅力は、欧米にも中国にもない、風景と重ね合わせたリアルながらも平面的な花鳥の表現にあります。立体感を出さない伝統的な日本画の手法と写実性のバランスを絶妙に調和した表現は、小原古邨そのものです。

橋口五葉・伊東深水・川瀬巴水・吉田博といった、早くに有名になった作家が多く手掛けていたため、風景画と美人画の印象が強い新版画です。これほど多様なモチーフや表現がなされていることは驚きでした。作家の多さにも同じく驚きました。古き良き戦前のカルチャーを色濃く伝える新版画を、私はますます好きになりました。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



近年人気上昇中の「新版画」を確立した画商の生涯

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パラミタミュージアム
浮世絵モダーン 深水の美人! 巴水の風景! そして・・・
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:岡田文化財団パラミタミュージアム、中日新聞社
会期:2018年12月6日(木)~2019年1月14日(月)
原則休館日:12/24-1/1
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2018年6月まで町田市立国際版画美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、他の巡回先と展示作品が一部異なります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄四日市駅から近鉄湯の山線「大羽根園」駅下車、徒歩5分
東名阪道「四日市」ICから車で15分

近鉄四日市駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
近鉄四日市駅→近鉄湯の山線→大羽根園駅
近鉄四日市駅まで近鉄特急で 大阪難波から2時間、近鉄名古屋から30分

【公式サイト】 アクセス案内

※鉄道は本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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三重県立美術館は企画展・常設展ともに充実 ~川端康成愛蔵の国宝が登場

2018年12月12日 | 美術館・展覧会

三重県の津を訪れ、津駅から徒歩で行ける三重県立美術館で「川端康成と横光利一展」を見てきました。

  • 親友同士だった二人の文豪の交流や文筆活動の足跡を当時の手紙や雑誌から濃厚に紹介
  • 川端コレクションとして名高い大雅・蕪村・玉堂の国宝もお目見え
  • 近代洋画と西洋絵画のコレクションが充実、常設展も見逃せない


駅の西側の静かな高台にあり、緑にも囲まれています。行きやすく、行く価値のある美術館です。



川端康成は1899(明治32)年、横光利一(よこみつりいち)1898(明治31)年生まれとほぼ同い年です。学生時代に共通の師である菊池寛を介して知り合い、生涯にわたって深い交流を続けました。二人は大正後期から昭和初期にかけて一世風靡した「新感覚派」作家の中心となり、「蟹工船」の小林多喜二ら「プロレタリア文学派」と並んで、モダニズム文学の潮流を成していました。

横光は子供時代を三重県で過ごしており、生誕120年の節目でこの企画展が立案されたと思われます。戦前には「文学の神様」とも称されます。1931(昭和6)年に刊行された代表作「機械」は、主人公が機械のように淡々と語る調子で、モダニズム文学の最高傑作と位置付けられています。

横光は戦後間もない1947(昭和22)年に生涯を終えます。「伊豆の踊子」「雪国」などの代表作で作家として確固たる地位を築いていた川端康成は、無二の親友の死に深い悲しみに包まれます。

川端の美術品蒐集が本格的になったのは横光の死の後で、池大雅/与謝蕪村「十宜図」と浦上玉堂「凍雲篩雪図」は川端入手後に国宝に指定されています。川端の審美眼とコレクターとしての信用が、現在(公財)川端康成記念会にのこされている見事なコレクションを形成したのです。


美術館入口

【美術館公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

二人が新感覚派として作品を発表していた雑誌「文芸時代」の表紙デザインには、大正モダニズムの香りを濃厚に感じます。書店に山積みされていた時にはさぞかしまばゆいばかりの輝きを発していたことでしょう。

「伊豆の踊子」「機械」といった二人の著名作品が掲載された雑誌や単行本に加え、手紙や写真が数多く展示されています。文学ファンやモダニズムファンにとってもたまらない展示構成になっています。

【展覧会公式サイトの画像】 池大雅/与謝蕪村「十便十宜図」展示期間
【川端康成記念会公式サイトの画像】 浦上玉堂「凍雲篩雪図」

国宝の池大雅/与謝蕪村「十宜図」は大雅と蕪村がそれぞれ10面ずつを描いており、展覧会期間を通じて二人の作品を1面ずつ入れ替えながら展示されます。山村での隠遁生活をどこか洒脱にアニメのようなタッチで描いています。一方色使いは上品で、文人画としての気品の高さも見事に表現されています。やはり江戸時代の文人画の最高傑作です。

浦上玉堂の「凍雲篩雪図」は10/27-28と12/4-16のみ原本、その他期間は複製品が展示されます。私が訪問した日は本物を見ることができました。雪に閉ざされた山河の姿を、幾重にも塗り重ねた墨で雪の立体感までをも表現した浦上玉堂の最高傑作です。雪解けをじっと待つ大自然の雄大さが伝わってきます。

川端作品の単行本の装幀を手掛けたことで交流のあった東山魁夷の作品も見応えがあります。小林古径の装幀も実に美しい作品です。川端の交流の幅広さが伝わってきます。


ロビー空間

2Fの常設展示室でも名品に出会うことができます。

【美術館公式サイトの画像】 ルノワール「青い服を着た若い女」

ルノワール「青い服を着た若い女」は真正面から描いた肖像で、生活の糧のために上流階級からの注文で描いた作品です。とても静寂に表現していますが、どこか冷たくも感じます。”温かくない”ルノワール作品として、注目される名品です。

【美術館公式サイトの画像】 藤島武二「日の出(伊勢朝熊山よりの眺望)」

藤島武二「日の出(伊勢朝熊山よりの眺望)」は、藤島らしい濃厚なタッチで伊勢の聖なる光景を描いています。朝焼けする空の色使いがとても見事な作品です。この他、安井曾太郎や荻須高徳ら日本の近代洋画、モネやシャガールら19c以降の西洋絵画も名品が揃っている印象です。

三重県立美術館のコレクションは、イオングループの礎を築いた岡田卓也が運営する(公財)岡田文化財団からの寄贈品が中核をなしています。岡田文化財団が直接運営するパラミタミュージアムと共に、三重県で素晴らしい名品の鑑賞機会を提供してくれています。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



文豪同士の仲良しは、当然ですがたくさんいます

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三重県立美術館
横光利一生誕120年 川端康成コレクション
川端康成と横光利一展
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:三重県立美術館、中日新聞社、公益財団法人川端康成記念会
会期:2018年10月27日(土)~12月16日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30

※展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄・JR「津」駅下車、西口から徒歩10分
津駅まで近鉄特急で 大阪難波から1時間20分、近鉄名古屋から50分
伊勢道「津」ICから車で15分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。


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ロシア絵画の表現力にぞっこん ~渋谷Bunkamuraで1/27まで

2018年11月30日 | 美術館・展覧会

今年2018年の美術展では、ロシアが世界に誇るモスクワの二大美術館から名作が連続してやってきています。春から夏にかけてのプーシキン美術館展に引き続き、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムでトレチャコフ美術館所蔵作による「ロマンチック・ロシア」が11月から始まりました。

展覧会は19c後半から20c初頭に活躍した、写実表現を基本とする「移動派」と呼ばれるロシアの画派の作品で構成されています。クラムスコイ、シーシキン、レーピンといった移動派の巨匠の名作が目白押しです。

移動派の画家たちは、ロシア芸術の世界的巨匠として著名な音楽のチャイコフスキー、文学のトルストイやドストエフスキーと同じ時代に活躍しています。ロシアの画家は日本での知名度は正直高くはないですが、この展覧会であらためて彼らの表現力の見事さに気付くことができます。

19c後半のロシア社会は、西欧列強に比べ近代化に出遅れたことによって帝国主義戦争で敗戦が続き、民衆の不満が高まる時代でした。この展覧会では、そんなロシア社会と向き合った画家たちの”エネルギー”を感じることができます。ロシアはとても奥深い国なのです。



トレチャコフ美術館は、紡績業で巨万の富を得たパーヴェル・トレチャコフが、1880年代にモスクワの自宅でロシア画家のコレクションを公開し始めたことを起源としています。

ロシアの著名美術館は所蔵作品の線引きが明確なことが特徴です。モスクワにあるトレチャコフ美術館はロシアの画家、プーシキン美術館は西欧の画家です。サンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館は西欧の画家、ロシア美術館はロシアの画家です。いずれもソ連時代に国家によって強制的に貴族や富裕層の所蔵品を集約したことで、明確に線引きされています。

結果的に所蔵作品の質量とも世界トップクラスの美術館になっています。美術品は集約されると一か所で鑑賞できることから、かけがえのない価値が生まれます。日本はこの点で大きく世界の遅れをとっています。世界の巨大美術館やその展覧会を鑑賞するたびに、集約のチカラに対してとても羨ましく思います

移動派という名前は、旧態依然としていた官立アカデミーと決別し、ロシア各地を巡回しながら写実的な作品を発表していたことに因んでいます。フランスの印象派と同じような経緯で形成された画派なのです。

【展覧会の見どころ 公式 YouTube】

まず最初に展覧会を紹介するYou Tubeをご覧いただくのもおすすめです。展覧会の雰囲気をつかむにはとても便利です。展覧会は4章で構成されています。

【トレチャコフ美術館公式サイトの画像】 レヴィタン「春、大水」
【トレチャコフ美術館公式サイトの画像】 シーシキン「雨の樫林」

第1章は大地の風景画を四季ぞれぞれ展示しています。どこまでも広大な大自然と大地を主役にしていることに強く惹かれます。北海道どころではない世界最大の大地の奥深さに惹かれます。フランスの印象派の画家たちは見ることができなかった、けた違いのスケールの大自然の表現は、ロシアの画家にしかできない芸当です。

レヴィタンIsaak Ilyich Levitanの「春、大水」は、大量の雪解け水が森を水浸しにしている風景を描いています。木々はまだ葉もつけておらず一見殺風景に見えますが、これこそロシアの人にとっては春の訪れを象徴するシーンです。とても明るさを感じます。

シーシキンIvan Ivanovich Shishkinの「雨の樫林」もとてもロシア的な表情です。どこまでも続くうっそうとした森に夏の陽光が差し込んでおり、その光をたどるように男女が歩いています。よく見ると男女は傘をさしています。雨にもかかわらずロシアの短くも明るい夏を見事に表現した名作です。

【トレチャコフ美術館公式サイトの画像】 レーピン「ルビンシュテインの肖像」
【トレチャコフ美術館公式サイトの画像】 クラムスコイ「忘れえぬ女」

第2章は人物画です。レーピンIlya Efimovich Repinはモデルの内面をも描き出す写実的な肖像画で知られます。「ピアニスト・指揮者・作曲家アントン・ルビンシュテインの肖像」や「画家イワン・クラムスコイの肖像」はその最たる傑作です。今回の展覧会で私にとって最も印象に残った画家です。

クラムスコイIvan Nikolaevich Klamskoyは移動派の中心的人物です。日本で最も人気のあるロシア絵画と言える「忘れえぬ女」は今回で驚きの8回目の来日です。クラムスコイはモデルがだれかを明らかにしていませんが、トルストイの小説アンナ・カレリーナの不倫する女性主人公をイメージして描いたと今では考えられています。

絵の原題は「見知らぬ女」です。挑発的でもある女性の視線の描写によって、クラムスコイは当時のロシア社会に自らの思いを投げかけているように見えます。

【トレチャコフ美術館公式サイトの画像】 クズネツォフ「祝日」

最後の第4章は都市や生活の様子を描いた作品です。クズネツォフNikolay Dmitrievich Kuznetsovの「祝日」は草原で一眠りしている少年を描いています。少年が纏う衣装から一目でロシアとわかります。横たわる少年にだけスポットライトをあてたような明るい描写が印象的です。



展覧会と並行してBunkamuraでは音楽やグルメなど、様々な角度からロシアを楽しむコンテンツを用意しています。ホールや劇場もあるBunkamuraらしい演出です。。

【Bunkamura公式サイト】 Russian Celebration

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



ロシア絵画ってあまり知られていないよね。

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Bunkamuraザ・ミュージアム
Bunkamura 30周年記念
国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:Bunkamura、日本経済新聞社、電通
会期:2018年11月23日(金)〜2019年1月27日(日)
原則休館日:11/27、12/18、1/1
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~20:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2019年4月から岡山県立美術館、2019年7月から山形美術館、2019年9月から愛媛県美術館、に巡回します。
※この美術館は、常時公開している常設展示はありません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR山手線「渋谷」駅下車、ハチ公口から徒歩7分
京王井の頭線「神泉」駅下車、北口から徒歩7分
東京メトロ銀座線、京王井の頭線「渋谷」駅下車、徒歩7分
東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線「渋谷」駅下車、3a出口から徒歩5分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→赤坂見附駅→東京メトロ銀座線→渋谷駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場(東急本店)があります。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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絹谷幸二の元気な絵を梅田で ~絶景も見事な天空美術館

2018年11月29日 | 美術館・展覧会

日本の現代美術を代表する画家・絹谷幸二(きぬたにこうじ)作品を専門に展示するミュージアム「絹谷幸二 天空(てんくう)美術館」が大阪・新梅田シティにあります。

明るく迫力のある絵で知られる絹谷の名を一躍有名にしたアフレスコ画(壁画の古典技法)や、近年多く制作しているミクストメディア(混合技法)の作品をはじめ、絹谷の迫力ある描写を堪能できる3D映像体験もできます。

空中展望台からの絶景で外国人観光客に大人気の梅田スカイビルの27Fにあり、西の大阪湾から神戸にかけての絶景も見下ろすことができます。カフェから眺める夕陽はたまらない美しさです。

絹谷の表現力は、現代美術がとっつきにくいと感じる人をも必ずや魅了させてくれます。



絹谷幸二は1943(昭和18)年に奈良の中心街、現在でいう「ならまち」に生まれました。東京芸大卒業後、1971(昭和46)年からのイタリア留学でアフレスコ画を学びます。帰国後の1974(昭和49)年に画壇の芥川賞とも呼ばれる安井賞を受賞し、一躍名をあげます。

その後も長野冬季オリンピック公式ポスター(1997年)、東京メトロ副都心線渋谷駅陶板壁画・きらきら渋谷(2008年)といった著名作品を手掛け、日本の現代美術の中心的なアーティストの一人になっています。

【絹谷幸二公式サイトの画像】 銀嶺の女神(長野五輪ポスター原画)

絹谷はフレスコ画の前に必ず”ア”を付けます。イタリア語の発音にこだわったもので、絹谷のイタリア時代への深い感謝の気持ちが感じられます。

天空美術館は2016年12月に、大手住宅メーカー・積水ハウスのCSR活動の一環として、同社の本社がある梅田スカイビルに開設されました。絹谷にとっては初の個人美術館となります。

受付では絹谷のド派手な太陽が来館者を迎え、最初から心地よく期待感を高めてくれます。受付では3D映像鑑賞用メガネを渡されます。すぐ横の円筒状のスクリーンに囲まれたシンボルゾーンの中で、立体映像「祝・飛龍不二法門」を楽しむことができます。

登場する風神・雷神は2Dでもとても迫力がある描写です。3Dで動くとなると爽快なインパクトがあります。舞い散る花びらのきらきら感も、気分をとても明るくさせてくれます。

展示ゾーンは二つ、「青」はイタリアや欧州を描いた西洋のモチーフ、「赤」は富士山や古事記、宗教画など東洋のモチーフが並びます。主に青の方が若い頃の作品が多くなります。イタリア時代は地中海の陽光をどこまでも明るく表現した作品が印象的です。長野五輪公式ポスターの原画となった「銀嶺の女神」は、絹谷の陽光表現の真骨頂と言えるでしょう。

東洋のモチーフではダイナミックな表現が印象的です。ランドマークやモチーフを、空を飛び回るように描いた作品が目立ち、こちらも気分をとても明るくしてくれます。「人類を元気に!」。美術館のキャッチコピーとしてよく目につきます。まさにその通り、絵なんてよくわからないと思う人でも、ほぼ確実に元気になって帰ることができます。

なお帰る前にもう一度3D映像を見ると、さらに記憶が鮮明になります。3D映像は何度でも見られます。


カフェの壁にはアフレスコ画の顔料瓶

カフェやミュージアムショップはスペースにゆとりがあり、ゆっくりと鑑賞後の余韻を楽しむことができます、なお西側の壁には「本日の日の入時間」が表示されています。心憎く顧客ニーズに応えています。


西側・神戸方面のパノラマ眺望

美術館と空中庭園展望台がセットになった、お得な入館チケット(1,800円)も販売しています。なお2018年9月の関空を閉鎖に追い込んだ台風の影響で屋上庭園は現在も閉鎖されています。入場は室内展望台だけになりますのでご注意ください。

【空中庭園公式サイト】 営業案内

とにかく元気になれる新梅田シティです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



絹谷幸二の「私の履歴書」

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絹谷幸二 天空美術館
【公式サイト】https://www.kinutani-tenku.jp/

原則休館日:火曜日、年末年始、展示替え期間
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜・祝前日~19:30)

※この美術館は、常設展示を中心にコレクションを公開しています。
※展示作品は逐次入れ替えされます。



◆おすすめ交通機関◆

JR「大阪」駅、阪急・大阪メトロ・阪神「梅田」駅下車、徒歩10~15分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設は有料の駐車場(新梅田シティ)を利用できます。


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池袋に古代オリエント美術の殿堂 ~展示は素晴らしい

2018年11月28日 | 美術館・展覧会

熊谷守一美術館の帰りに池袋サンシャインシティにある古代オリエント博物館に行ってきました。国内では数少ない古代オリエント美術を専門とする博物館で、エジプトからメソポタミア、ペルシャ、中央アジアと世界と日本の文化の原点となった地域の文化と美術を幅広く体験することができます。

子連れファミリーでも、大人だけでも楽しめます。東洋でも西洋でもない中間地帯の神秘的な美術品の輝きは、まさにエキゾチックという言葉が似合います。



古代オリエント博物館は1978(昭和53)年、サンシャインシティのオープン時に開館しました。オイルショック時の中東油田の買収や電電公社民営化で辣腕を振るい、財界官房長官と呼ばれた今里広記(いまざとひろき)が音頭を取って設立した財団によって、現在も運営されています。

博物館は、サンシャインシティでは池袋駅から最も遠い一番奥の文化会館ビルの7Fにあります。池袋駅からは遠いですが、メトロ有楽町線の東池袋駅からは逆に最も近くなります。

コレクション展に加え、小さい「クロースアップ展示室」を使ってテーマに応じた展示が行われています。夏と秋には特別展が行われており、その際は展示スペース確保のためにコレクション展が行われない場合もあるようです。

私が訪れた時には「開館40周年記念特別展 シルクロード新世紀」が行われていました。特別展のテーマがコレクション展と大きな差異がないこともあり、コレクション展の展示の有無がよくわかりませんでした。コレクション展と特別展は入館料金が異なることもあり、明確な説明をされた方が良いと感じました。

展示品は、国内の古代オリエント美術のもう一つの拠点・岡山市立オリエント美術館を中心に、全国の美術館・博物館から集められており、とても見応えのあるものが揃っていました。日本にこれほどの古代オリエント美術があるとは驚きました、長年にわたっての努力の成果ですが、こうして一堂に集まることで花が開きます。バラバラに本拠地で展示されているだけでは目立ちません。

【平山郁夫シルクロード美術館公式サイトの画像】 菩薩像頭部

展覧会チラシの表紙にも採用されている平山郁夫シルクロード美術館蔵「菩薩像頭部」は、中国の西端にあったオアシス国家・亀茲(きじ)がのこした仏教遺跡・クムトラ千仏洞からの出土品です。赤い唇が怪しいまでの美しさを醸し出しています。西域の民族と明らかにわかる顔立ちは、仏教を西から東へ伝えた伝道師の役割を果たしたことでしょう。ちょうど玄奘がインドへ行った7cの作品と考えられています。

MIHO MUSEUM所蔵の「二頭の馬浮彫」は紀元前4-6世紀、アレクサンダー大王に滅ぼされる以前のアケメネス朝ペルシャでの制作と考えられています。馬の上部が欠けていますが、騎馬や戦車である可能性が高いと思われます。馬の頭部が太く力強く造形されています。中国や日本のように細身ではなく、より西の作品であることが分かります。馬の目の造形も丸くパッチリしていているところが、どこかペルシャ的です。

クロースアップ展示室では、現代の日本の大学を中心とした探検・発掘隊の活動がパネル展示されています。中でもイスラム武装組織タリバンによって2001年に爆破されたアフガニスタンのバーミヤン遺跡の大仏を、バラバラになった石から可能な限り復元しようとする取り組みには心を打たれました。東京芸大によってクローン再生されたバーミヤンの天井壁画の展示もとても美しいものでした。

【古代オリエント博物館公式サイト】 音声ガイドアプリ

展覧会ではもはや常識となっている音声ガイドを、スマホの有料アプリで提供している取り組みが目を引きました。場所を選ばず鑑賞前・中・後、いつでも聞くことができます。

しかしアプリ解説ページには、コレクション展と特別展のどれを対象にしているのか、作品の展示替えにはどう対応するのかといった説明がありません。展覧会場で借りる音声ガイドとは異なり、こうした疑問にはあらかじめ答える必要があるでしょう。

取り組みとしては面白いだけに、スムースな情報提供を期待したいものです。コンテンツが素晴らしいだけに、情報提供のわかりにくさは惜しい限りです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



西欧文明にオリエントはどのような影響を与えたか?

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古代オリエント博物館
開館40周年記念特別展
シルクロード新世紀 ―ヒトが動き、モノが動く―
【博物館による展覧会公式サイト】

主催:古代オリエント博物館
会期:   2018年9月29日(土)〜12月2日(日)
原則休館日:会期中は無休
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※会期中、11月上旬に展示替えがあります。



◆おすすめ交通機関◆

JR・東京メトロ・西武池袋線・東武東上線「池袋」駅下車、東口から徒歩20分
東京メトロ・有楽町線「東池袋」駅下車、7出口から徒歩8分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:40分
東京駅→東京メトロ丸の内線→池袋駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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モリとの思い出、熊谷守一美術館 ~東京 要町で家族が伝える

2018年11月27日 | 美術館・展覧会

東京・池袋からメトロで一駅、要町にある熊谷守一(くまがいもりかず)美術館に行ってきました。今年2018年初頭に東京国立近代美術館で行われて大きな反響があった「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」展に行けなかったこともあり、守一が後半生を過ごした地にある美術館をどうしても訪ねてみたくなりました。

守一の次女・榧(かや)さんが館長を務めています。守一が家族から呼ばれていたあだ名「モリ」との思い出を、展示作品の解説にふんだんに登場させています。守一が温かい家族とともに過ごしていたことがよくわかります。展示作品からは守一が愛した池袋モンパルナスの自然の美しさを感じ取ることができます。

入り口のドアを開けた瞬間に、雰囲気の温かさが伝わってくる美術館です。


入口のブロンズは「いねむるモリ」

守一は1880(明治13)年に現在の岐阜県中津川市で、後に岐阜市長になった名士を父に生まれます。東京美術学校を卒業し、フォービズムのような激しいタッチの絵を二科展に出展し続けますが、当時の日本では彼の絵はなかなか理解されませんでした。

館所蔵の「某夫人像」は、1922(大正11年)に結婚した秀子夫人を描いたもので、艶めかしい表情の描写にどきりとする作品です。しばらくは芸術家気質で気が向いた時しか絵を描かないこともあり、かなりの貧しい生活が続きます。5人の子供に恵まれますが、3人の子を次々亡くす不幸も続きました。

1932(昭和7)年に美術館のある現在地に夫人の実家の援助で家を建てた頃から、少しずつ絵が売れ始めたと榧さんは回想しています。出展を続けていた二科会会員の縁が1940(昭和15)年前後から守一の運を大きく上昇させます。愛知県の資産家・木村定三と出会い、守一に積極的に絵を描かせるとともに個展も数多く開きました。

木村定三コレクションは愛知県美術館に一括して寄贈され、守一の代表作「猫」もここにあります。守一作品と共に江戸絵画や陶磁器も含め、愛知県美術館のコレクションの根幹をなすほどの名品が揃っています。

【愛知県美術館公式サイト】 木村定三コレクション

この頃から守一のイメージが強い、輪郭と平面だけで極端に単純化して描くスタイルに画風が代わっていきます。画風の変化に伴い、動物・昆虫や草花をクローズアップしたモチーフも増えていきます。絵はかなり売れるようになり、1965(昭和40)年には文化勲章の内示があるほどの評価を得るようになりました。しかし受賞を辞退しているところが守一らしいところでもあります。

【熊谷守一美術館公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

美術館は1-2Fが常設展示で、3Fが企画展示・貸ギャラリーのスペースです。1Fは主に油絵作品と、守一の使っていたイーゼルが展示されています。「某夫人像」もここにあります。

「白猫」は守一が好んで用いた板地の黄土色の背景に、眼が描かれていない白猫がすやすや眠っているように描かれています。背景は板地を隠すほど塗り重ねていないため横方向に木目が残り、絵に暖かな印象を与えています。猫は輪郭だけに完璧に単純化されています。守一は腕利きの”切り絵師”にもきっとなれただろうと、ふと感じました。1959年、最も活躍していたころの作品です。

「桃」は「白猫」の少し前、1951年の作品です。風景画でもあり、輪郭の強調はないですが彩色によるモチーフの区分が見られます。平面な表現にも取り組んでおり、スタイルが変化する過渡期の作品なのかもしれません。桃の花びらのピンク色を強調する絵の具の置き方に、守一らしさを感じます。

「アゲ羽蝶」は1977年に97歳で大往生する前年の作品です。中心の蝶への黒色ののせ方は、ほのぼの感をのこしてはいますが、近づく死を意識しているようにも見えます。蝶が90度回転したかのように真横に描き、その横にかなり目立つ大きさで、クマガイモリカズと彫刻刀で彫ってサインしています。この変わった構図も意味深です。

守一は晩年の30年間、ほとんど自宅から出なかったといいます。自宅で目にしたはかなくも見える蝶に、残り少ないと感じた人生を重ねたのかもしれません。守一の人生を集約したような素晴らしい傑作です。

【日活公式サイト】 映画「モリのいる場所」

近年は大規模展覧会と様々な異業種がコラボする活動が活発です。今年2018年は守一夫妻の晩年のある一日を山崎努と樹木希林が演じた映画「モリのいる場所」が公開され、東京国立近代美術館の回顧展に続いて話題を呼びました。樹木希林にとっても遺作の一つ前の作品になります。

守一作品を多く収蔵するする美術館は他に、故郷の中津川市と山形県天童市にもあります。いずれも地元の名士が蒐集したものです。中津川市には画家でもある榧さんのギャラリーもあります。

また天童市美術館には、日本有数の企業コレクションである吉野石膏の日本絵画が寄託されています。中津川と天童、美術館の名前を記憶しておく価値は大いにあります。

【公式サイト】 熊谷守一つけち記念館(中津川市)

【公式サイト】 天童市美術館
【公式サイト】 熊谷榧つけちギャラリー(中津川市)


館の外壁には昆虫

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



画家自ら語るのは珍しい、猫というモチーフの魅力

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豊島区立熊谷守一美術館
【公式サイト】http://kumagai-morikazu.jp/

原則休館日:月曜日、12/25-1/7
入館(拝観)受付時間:10:30~17:00



◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ有楽町線・副都心線「要町」駅下車、2出口から徒歩8分
西武池袋線「椎名町」駅下車、北口から徒歩15分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→池袋駅→東京メトロ副都心線→要町駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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嵯峨嵐山文華館で至福の時間を ~時雨殿がリニューアルオープン

2018年11月25日 | 美術館・展覧会

京都・嵐山にあった百人一首のミュージアム時雨殿(しぐれでん)が、1年半のリニューアルを終えました。嵯峨嵐山文華館(さがあらしやまぶんかかん)と館名を改めた上で、2018年11月から再スタートしています。

従来の百人一首に関する展示をパワーアップするとともに、日本画を中心とした企画展を行う展示室を2Fに設けたことが最大のポイントです。2F展示室は圧巻の120畳の大広間で、座りながら展示作品と大堰川の美しい流れの両方を鑑賞できます。和の空間を楽しむことにこだわったミュージアムになっています。

これまでミュージアムの少なかった嵯峨嵐山エリアですが、新たな魅力が加わりました。リニューアルオープン企画展のタイトルは「胸きゅん!嵐山」です。嵐山を描いた”きゅん”とする作品も目白押しです。


建物と入口も和を意識したデザイン

嵯峨嵐山文華館の前身・時雨殿は、小倉百人一首に関するミュージアムとして2006年に任天堂の山内溥氏個人の支援を受けてオープンしました。館の背後にある小倉山で、鎌倉時代初めに藤原定家が小倉百人一首を選んだとされ、ゆかりの地に設けられたことになります。現在の運営は京都商工会議所が設立した財団により行われており、2017年3月から今回のリニューアル工事に着手していました。

ミュージアムは大堰川の北岸の小倉山の麓にあります。館の裏にはこちらも大堰川の眺めが抜群の亀山公園があります。渡月橋から歩く大堰川沿いの道からは、何といっても嵐山の絶景が四季を通じて楽しめます。普通に歩けば5分ほどですが、記念写真を撮らない人はまずいないので、10分以上かけてゆっくり歩くことをおすすめします。

【嵯峨嵐山文華館公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

1F手前は企画展のスペース、奥が小倉百人一首に関する常設展示です。企画展スペースでは展覧会チラシにも採用されている矢野夜潮(やのやちょう)「高雄秋景・嵐山春景図屏風」が鑑賞者をまず出迎えます。

矢野夜潮は江戸時代後期の円山派の画家ですが、確認された作品数が非常に少ないことで知られています。展示作品は2017年に発見され、今回が初公開となります。金箔を雲に見立て、その雲の切れ目から見える高雄と嵐山の美しい風景を描いています。金箔の雲の面積が大きいことから、美しい風景を逆に目立たせています。構図が面白い作品です。

奥の小倉百人一首の常設展示では、壁一杯に並べられた100人のフィギュアが目を引きます。それぞれ和歌の解説が日英2カ国語でなされており、壁に向き合う時間が長くなりそうな一角です。江戸時代の古今和歌集の写本やかるたの展示と共に、競技かるたの解説パネルもあります。アニメ「ちはやふる」ファンの方は特に必見です。


2Fから大堰川がこのように見えます

2Fは大広間の壁三面が展示スペースです。あと一面はガラス張りで大堰川を見渡せます。保津川下りの船が優雅に動いていきます。天井のかぎ型のデザインが斬新なこの大広間では、スペースを活かして競技かるたの試合も行われるようです。大きさの割には、とても落ち着きがある空間です。

嵐山にアトリエを構えた竹内栖鳳(たけうちせいほう)・冨田渓仙(とみたけいせん)の二人の作品が中心です。四条派の二人による繊細な描写は、嵐山をのぞむ空間によく調和しています。そんな中で池田遙邨(いけだようそん)の「嵐山薫風」が目を引きます。青を基調にしながらも嵐山の和のテイストをきちんと感じさせる名品です。東山魁夷を思わせます。



1Fにはカフェ「嵐山OMOKAGEテラス」があります。こちらからも嵐山が見渡せ、ミュージアムに入館しなくても利用できます。フレンチ懐石の「祇園おくむら]がプロデュースした店で、人気が出そうな予感がします。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



百人一首の足跡を京都でたどる

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嵯峨嵐山文華館
リニューアルオープン企画展
いまもむかしも 胸きゅん!嵐山
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:嵯峨嵐山文華館
会期:2018年11月1日(木)~2019年1月27日(日)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※12/10までのI期展示、12/12以降のII期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、常時公開している常設展示があります。



◆おすすめ交通機関◆

JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅下車、南口から徒歩15分
京福電鉄・嵐山本線(嵐電、らんでん)「嵐山」駅下車、徒歩7分
阪急電鉄・嵐山線「嵐山」駅下車、徒歩15分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
京都駅→JR嵯峨野線→嵯峨嵐山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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現代美術の潮流をワタリウムで体感 ~東京 外苑前 提案上手な美術館

2018年11月20日 | 美術館・展覧会

東京メトロ銀座線の外苑前駅で降り、キラー通りを北に進むと外壁に櫛のような細かい線の入った個性的な建築が見えてきます。日本のコンテンポラリー・アート(現代美術)の発展を後押しする展覧会やイベントで定評のあるワタリウム美術館です。

年4回程度の展覧会は、国内外の様々な分野のコンテンポラリー・アーティストの作品を主に紹介しています。岡倉天心や伊藤忠太ら明治時代の人物に焦点を絞った展覧会も行われたことがあります。現代のコンテンポラリー・アートの発展に資すると見るや、時代定義にとらわれない柔軟さがあります。

1Fのミュージアムショップ「on Sundays」にはコンテンポラリー・アート作品のポストカードが圧巻の品揃えで販売されています。インテリアやデスクの雰囲気を少し変えたいときに、とても便利なショップになります。

コンテンポラリー・アートの多様性と柔軟性を体感できる素晴らしい美術館です。


美術館の外壁には子供の写真

英語のコンテンポラリー・アートは「現代美術」と日本語訳されることが一般的です。時代区分に明確な定義はありませんが、第二次大戦後の作品を指すことが多くなっています。欧米では20世紀初頭までさかのぼって含める場合もあります。

一方英語のモダン・アートは「近代美術」と日本語訳されることが一般的です。時代区分の定義は、西洋美術では19cから20cにかけての範囲を指し、さらに曖昧です。日本では明治から第二次大戦までを指すことがほぼ定説ですが、モダンの日本語訳に引っ張られて戦後の作品を対象に使われる場合もあります。

アートは時代が進むほど様々な表現が続々現れます。19cまでのように2Dは絵画と版画、3Dは彫刻と建築しかなかった時代には可能だった、流派や画風による明確な区分はほぼ不可能になっています。コンテンポラリーとモダンの境界は今後も明確になることはないでしょう。

ワタリウム美術館は「コンテンポラリー・アートの発展」というしっかりした思いを持っています。そのため展覧会やイベントを通じて、コンテンポラリー・アートの現在や将来像への仮説を確かめることができます。過去ではなく未来をより重視して運営されていることに深い感銘を受けます。

定評のある講演会やワークショップも魅力的なテーマが目白押しです。2018年は「ランドスケープを創る人」をテーマに京都の日本庭園からランドスケープ想像のヒントを得ようという講演と見学会も行われています。明治時代に日本とオスマン帝国の文化交流に追う黄な貢献をした山田寅次郎の足跡をイスタンブールまで訪ねるツアーもあります。美術館として提案するコンテンツが実に多様なのです。



1Fは入館受付とon Sundaysのフロアです。on Sundaysのショップ空間の雰囲気は通販サイトからも味わえます。一度ご覧になってください。

【ワタリウム美術館公式サイト】 on Sundays

私が訪れた2018年11月には展覧会「Hyper Land Scape KAZUKI UMEZAWA +TAKU OBATA」が行われていました。

梅沢和木は膨大な画像をPCでコラージュし、アクリル絵の具で加筆した作品が目を引きます。ICT技術を活用して現実と想像の融合を表現しています。TAKU OBATAはファッションショーに登場するような衣装をまとった人物をバランスよくデフォルメし、木彫りというクラシカルな手法で表現しています。

いずれもコンテンポラリー・アートの方向性をまさに提案しており興味深く鑑賞できました。「バーチャル」という時代が求める表現に、上手に応えられていると感じられます。

【ワタリウム美術館公式サイトの画像】 Hyper Land Scape KAZUKI UMEZAWA +TAKU OBATA



最新のコンテンポラリー・アートは、鑑賞にあたって制作当時にさかのぼった時代背景の理解が不要です。自分の感性だけで関心が持てるか否か、好きか否かをぜひ判断してみてください。ギャラリーまでは入りにくい方でも、ここは美術館ですので敷居の高さは全くありません。感性”だめし”体験には最適な美術館です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



館オーナー自ら語るワタリウムの運営コンセプト

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ワタリウム美術館
HYPER LANDSCAPE 超えてゆく風景展 梅沢和木×TAKU OBATA
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:ワタリウム美術館
会期:2018年9月1日(土)~12月2日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:11:00~19:00(金土曜~21:00)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。



◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ・銀座線「外苑前」駅下車、3番出口から徒歩10分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
京東京駅→東京メトロ・丸の内線→赤坂見附駅→東京メトロ・銀座線→外苑前駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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東京で運慶仏にいつも会える ~半蔵門ミュージアム

2018年11月18日 | 美術館・展覧会

運慶作と推定される大日如来を購入して話題となった宗教法人の真如苑。その所蔵する仏教美術を公開する「半蔵門ミュージアム」を訪れました。今年2018年4月のオープンで、真新しい展示室には大日如来以外にも目を見張るような名品がたくさんありました。

熱海のMOA美術館や滋賀県のMIHO MUSEUMなど、宗教法人が設立した美術館はとても優れたコレクションが目立ちます。その蒐集力の背景には豊富な資金力があると思われ、名品を日本国内で大切に保管・展示していることには大きな意義があります。

半蔵門ミュージアムもその一つと言え、驚くことに入館料は無料です。メトロ半蔵門駅の真上にあり、仕事の合間にも立ち寄りやすいところにあります。ぜひおすすめします。


エントランス

国内の一般的な美術館と異なるのは、無料であることに加え、1F受付で首から下げる入館証を受け取ることです。館内はミュージアム以外の機能もあるようで、そこへの来館者と区別するためだと思われます。

【半蔵門ミュージアム公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

最初にB1Fの展示室におります。大日如来像などの常設展示のフロアです。エレベーターを降りるとガンダーラの仏頭が目に入ります。とても美しい目にくぎ付けになり、この美術館のコレクションの上質さが最初に強く印象付けられます。

続いて岩に浮き彫りにしたガンダーラの仏像彫刻が並んでいます。いずれも大きさが1mに満たない小さな作品ですが、素朴ながらも菩薩の瞑想や仏陀の入滅など仏教信仰の象徴的なシーンが丁寧に彫刻されています。2-3世紀のガンダーラの人々の篤い信仰心が伝わってくる名品です。

続いて最大の目玉作品である大日如来像が目に入ります。テーブル上の展示台に置かれていますが、像を取り囲むガラスケースがほとんど見えないほど透光性に優れたガラスを使用しています。光のあて方も実に上質で、仏像自身が輝いているように演出しています。

運慶作とは断定されていませんが、座像の底の上げ底や納入品の特徴から、運慶作の可能性が高いと考えられています。お顔の表情に若々しさ、ボディの造形に力強さといった運慶らしい特徴も確認できます。仏像に詳しい方でも、運慶作と言われて違和感を感じる方は少ないと思われます。

この作品は2008年のニューヨークのクリスティーズのオークションに出品され話題を呼びました。一級の仏教美術の海外流出を懸念する報道が相次いだためです。真如苑による落札後まもなく重文に指定され、ミュージアム開館まで東京国立博物館に寄託されていました。私も東博でお会いしました。

醍醐寺旧蔵の不動明王像は、保存状態が良くボディラインが光背の金箔に美しく映えています。大日如来の左側に置かれており、二体で実に荘厳な空間を醸し出しています。

2Fでは企画展示が行われています。展示期間については明らかにされていませんが、春の開館以来「当館の大日如来坐像と運慶作品-その納入品と像内荘厳-」が行われています。全国の主要な運慶作品の像内納入品やX線写真をパネルで紹介し、運慶作品の特徴を詳しく学べるようになっています。仏像ファンの方にはとても”熱い”内容が楽しめます。

【半蔵門ミュージアム公式サイト】 企画展示

3Fにはシアターがあります。こちらも春の開館以来、18分の映像「大日如来坐像と運慶 祈りと美、そしてかたち」が上映されています。運慶作品の特徴をとても美しい映像で表現しています。こちらは仏像の知識があまりない方でもうっとりするように楽しめます。

【半蔵門ミュージアム公式サイト】 上映作品

都内に常設でこれだけの美しい仏教美術空間を鑑賞できる施設ができたことは、歴史のある古刹が少ない東京ではとても素晴らしいことです。

東博本館の仏像の常設展示室も、ここを見倣って光のあて方を工夫してほしいと強く感じました。平成館の仏像の企画展ではきちんとできています。日本の文化予算の少なさが要因でしょう。東博は世界有数の美術館になれるレベルのコレクションは揃っているだけに残念です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



天空に君臨する大日如来をあなただけの空間に

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半蔵門ミュージアム
【公式サイト】https://www.hanzomonmuseum.jp/

原則休館日:月火曜日、12/29-1/4
入館(拝観)受付時間:10:00~17:00



◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ半蔵門線「半蔵門」駅下車、4番出口から徒歩1分
東京メトロ有楽町線「麹町」駅下車、3番出口から徒歩5分
JR中央線・東京メトロ南北線・丸の内線「四ツ谷」駅から徒歩15分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
東京駅→東京メトロ丸の内線→大手町駅→東京メトロ半蔵門線→半蔵門駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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だまし絵以外もすごいエッシャー ~大阪 ハルカス美術館 1/14まで

2018年11月17日 | 美術館・展覧会

大阪のあべのハルカス美術館で「だまし絵」で知られる版画家エッシャーの大回顧展「ミラクルエッシャー」が始まっています。世界最大級のエッシャーのコレクションを誇る国立イスラエル美術館から150点が初来日し、エッシャーの魅力を濃厚に楽しめる展覧会になっています。先に行われた上野の森美術館でも大きな反響を呼びました

だまし絵を見たことがある人は少なくないでしょうが、エッシャーの名前は案外知られていないような気がします。あまりに作品のインパクトが強いため「だまし絵」という言葉だけが独り歩きし、エッシャーの名前が記憶に残りにくくなっているのではと感じています。

鑑賞者はこの展覧会でエッシャーの名を強く印象付けられると思います。だまし絵はもちろん、幾何学模様を繰り返す表現や精密な生き物や風景の描写など、彼の表現の多様性を堪能することができるからです。

イスラエル博物館は海外へのエッシャー作品の貸出をほとんど行いません。とても貴重な機会になります。


入口ロビーの恒例の撮影コーナー

マウリッツ・コルネリス・エッシャー(Maurits Cornelis Escher)は1898年にオランダに生まれ、1930年代から50年代にかけて活躍しました。芸術家の世代としてはシュールレアリズムの画家たちと同じで、ベルギーのルネ・マグリットとは同い年です。

エッシャーの作風には超現実を表現したシュールレアリズムに近い雰囲気も感じますが、彼にシュールレアリズムの画家たちとの交流はありません。エッシャーはスペインのアルハンブラ宮殿のイスラムモザイク模様に強く感銘し、膨大な宮殿のスケッチを残しています。「滝」はだまし絵としても著名な作品ですが、丸いアーチが見られる建築のデザインはイスラム的でエキゾチックです。

【公式サイトの画像】 イスラエル博物館「滝」

エッシャーはまた、様々な分野の自然科学の研究者と交流していました。自然界に存在する造形や幾何学の知識を豊かにし、彼独特の表現を創造していきます。彼の作品が芸術というよりグラフィック・デザインとして日の目を浴びていった背景には、自然科学に基づいた規則性を感じさせたことが大きいと考えられます。

エッシャーの作品は、版画以外でもほとんどがモノクロで表現されていることもあり、クラシカルな印象を与えます。20cの作品というよりも、ルネサンス期のボスやブリューゲルの幻想的な表現に近しいと感じることもあります。一方連続した幾何学模様はきわめて現代的です。まさに強烈に不思議な芸術家なのです。

展覧会の前半は、エッシャーのイメージが薄いモチーフで構成されています。彼の多様性を知るにはとても大切な構成です。

【公式サイトの画像】 カストロヴァルヴァ、アブルッツィ地方
【公式サイトの画像】 椅子に座っている自画像

イタリア滞在時代の作品が多い風景画では、奇をてらうものではなく写実的な表現が多くなされています。「カストロヴァルヴァ」は雄大な山の風景を表現しており、空の雲がその雄大さを演出している傑作です。

「椅子に座っている自画像」は、影の表現を強調しており、黒が目立ちます。しかし暗い印象は全くなく、自らの姿をとてもシュールに描いています。

後半は連続した幾何学模様やだまし絵など、エッシャーの本丸というべきジャンルの傑作が目白押しです。

【公式サイトの画像】 球面鏡のある静物
【公式サイトの画像】 発展Ⅱ

「球面鏡のある静物」は彼の特徴でもある球面の鏡に自らの世界観を表現しています。ヨーロッパでは古くからある平面の鏡ではなく球面に描くところが彼の個性で、ミラクルにふさわしい表現です。

「発展Ⅱ」は外周に向かって爬虫類と思える幾何学模様が拡散していく様子を表現しています。爬虫類の気味悪さは全くなく、むしろ”かわいさ”を感じます。完璧に計算されて造形したような印象で、きわめて美しいグラフィックと言えます。

【公式サイトの画像】 メタモルフォーゼⅡ

展覧会の最後を目玉作品である「メタモルフォーゼⅡ」が飾ります。4mもある絵巻のように細長い作品で、絵巻とは逆に左から右にモザイク模様が変化していく様子が描かれています。輪廻転生のように循環を意識して表現されており、彼の代表作と呼ばれるにふさわしい大作です。


ミラクル デジタル フュージョン

鑑賞後の出口手前では、エッシャーのだまし絵の中に体験者の動きを動画で合成する「ミラクル・デジタル・フュージョンも行われています。不思議ワールドを自らに重ねて体験することで、エッシャーの魅力を濃厚に記憶させてくれます。

【公式サイト】 ミラクル デジタル フュージョン

エッシャー作品は日本国内では佐世保のハウステンボス美術館が多数所有しています。常時公開はされていませんが、不定期の企画展で鑑賞する機会が設けられています。現時点で予定の発表はありませんが、ぜひ訪れてみたいものです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



だまし絵の秘密。

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あべのハルカス美術館
生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展
【美術館による展覧会サイト】
【主催者による展覧会サイト】

主催:イスラエル博物館、あべのハルカス美術館、産経新聞社、関西テレビ放送
会期:2018年11月16日(金)~2019年1月14日(月)
原則休館日:11/19、11/26、12/31-1/1
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(火~金曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2018年7月まで東京・上野の森美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、2019年2月から福岡アジア美術館、2019年4月から愛媛県美術館、に巡回します。



◆おすすめ交通機関◆

JR・大阪メトロ「天王寺駅」、近鉄「大阪阿部野橋」駅、阪堺電車「天王寺駅前」駅下車
あべのハルカスB1Fシャトルエレベーター乗り場まで徒歩3分、エレベーターで16Fへ
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→天王寺駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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大阪で80'sアートの多様性を体感 ~中之島 国際美術館 1/20まで

2018年11月16日 | 美術館・展覧会

大阪・中之島の国立国際美術館で日本人アーティストによる1980年代の作品に絞った興味深い展覧会「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」が始まっています。1980年代の日本社会の記憶がある方は現在40代以上の方になりますが、バブル経済に向かってイケイケどんどんで、今思えば昭和の最後を一生懸命駆け抜けていました。

笑っていいとも・東京ディズニーランド・ファミコン・コンビニ・マハラジャ、現在も続くもの・すでにないもの・復活したもの、様々ありますが、数多くの記憶に残る文化を生み出した時代でした。

80年代に生きた人はそんな時代の美術作品に今ではレトロ感を感じる方も少なくないでしょう。一方80年代に生きていない人は、現代にはない斬新さを感じる方もいらっしゃるでしょう。ポップアートのようにその時代を彷彿とさせる作品も多く、まさに80年代を映し出した鏡のようです。

世代によって見え方・感じ方がかなり異なると思われる展覧会です。異なる世代の方と一緒に鑑賞すると面白いかもしれません。



国立国際美術館は、前回1970年の大阪万博会場に設けられた美術館を母体に開設され、国内外の第二次大戦後の美術作品を収集しています。現代美術では東京都現代美術館・金沢21世紀美術館と並んで日本有数の美術館と言えます。そのためこの展覧会は国際美術館のコレクションの本丸をプレゼンするものでもあります。国際美術館の所蔵作品が出展作品の半数を占めています。

出展アーティストのラインナップを見ていると、知名度のあるアーティストが少ない印象を受けます。70年代までは岡本太郎や横尾忠則、90年代以降は村上隆や奈良美智といった知名度の高いアーティストがいます。草間彌生も1960年代にはよく知られるようになっていましたが、80年代は活動が目立ちません。

アーティストの知名度だけで判断することは適切ではないですが、日本の現代美術にとって80年代はある意味、エアー・ポケットのような時代なのかもしれません。

出展作品の印象としては、表現に勢いを感じる作品が多いと感じます。また難解にとらえられがちな前衛的な表現が、なくはないですが目立ちません。とても表現に多様性があります。展示は制作年代順に5章に分けて行われており、時代の変遷もわかりやすくなっています。

【公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

会場の入口では中西學「THE ROCKIN' BAND」の3作品が鑑賞者を出迎えます。バブルへの階段を上り始めた1985年の作品です。いかにも80年代を思わせる衣装でエレキギターやドラムを奏でる姿は元気にあふれています。色使いの派手さが印象的です。

80年代アーティストの中では知名度の高い日比野克彦の「BJ.MACKEY」は、日比野が得意とする段ボールで、箱の上に置かれるトラックのオブジェを表現しています。紙ならではの温かい質感を感じさせるとともに、とにかく明るい作品であることが目を引きます。ぶりっ子という言葉が定着し、松田聖子の人気が絶頂期だった1982年の作品です。

【国立美術館 所蔵作品総合目録検索システムの画像】 石原友明「I.S.M.(スカート)」

石原友明の「I.S.M.(スカート)」は発泡スチールで造形し、表面を牛革で覆ったオブジェです。スカートをはいた少女のようにも、皮の椅子に巨大な野球ボールが置かれているようにも見えます。強い存在感があり、鑑賞者に表現の意味を考えさせるしっかりした主張がある作品です。浅野ゆう子&温子のW浅野がトレンディドラマで時代の寵児となったバブル絶頂期の1988年の作品です。

B2Fのコレクション展の会場では同時開催で「80年代の時代精神から」が行われています。欧米では80年代は、難解なコンセプチュアル・アートのような表現に対し、絵画が復権した時代ととらえられるのが一般的です。

そんな時代を生きた国内外のアーティストたちの所蔵作品から、日本だけではなく世界の視点で80年代を振り返ることができます。こちらもあわせて鑑賞すると、日本の80年代のアートシーンがより明確になります。

【公式サイト】 80年代の時代精神から



80年代にスポットをあてた展覧会は、今年2018年の夏にも金沢21世紀美術館で開催され、高松市美術館と静岡市美術館に巡回中です。昭和の最後を飾った80年代への注目があらためて高まっていることに関心が持てた展覧会です。。

【高松市美術館】 起点としての80年代
【静岡市美術館】 起点としての80年代

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



戦後の日本の現代アートをスッキリ理解

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国立国際美術館
ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:国立国際美術館
会期:2018年11月3日(土)~2019年1月20日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。



◆おすすめ交通機関◆

京阪中之島線「渡辺橋駅」下車徒歩5分、大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車徒歩10分、
JR環状線・阪神本線「福島駅」・JR東西線「新福島駅」下車徒歩10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR大阪駅→大阪メトロ四つ橋線→肥後橋駅

公式サイトのアクセス案内

※この施設に駐車場はありません。


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民芸の素朴な魅力に驚きの連続 ~駒場・日本民藝館

2018年11月07日 | 美術館・展覧会

ずっと訪問したかったのですが中々機会が作れなかった日本民藝館にようやく訪れることができました。東京・駒場の閑静な住宅街にある館は期待を裏切らず、素朴な民芸品の魅力を見事に展示していました。

民芸品とは、名もない職人たちが庶民の生活のために造ってきた様々な道具のことです。その道具に芸術的文化的価値を見出すために、館の創設者である宗教哲学家の柳宗悦(やなぎむねよし)が、大正から昭和初期にかけて率先して世に広めた用語です。

いにしえの人々の生活や文化への関心が温かく伝わってくることが魅力です。芸術品ではなく道具として造られたものなので、それを使っていた人々の息吹が聞こえてくるようでもあります。素晴らしい美術館であることが明言できます。


本館は古い蔵を思わせるデザイン

柳宗悦は1889(明治22)年、東京で海軍少将を父に生を受けました。1961(昭和36)年にこの世を去るまで、あまり見向きをされていなかった民芸に光をあてるために情熱を注ぎ続けました。日本民藝館はその情熱の大きな成果でもあります。大原美術館創設者の大原孫三郎らの支援を得て、1936(昭和11)年に現在地に開設されました。

柳は1910(明治43)年に創刊された文芸誌「白樺」の創刊に参加します。武者小路実篤ら当時の知識人階級との親交を深め、様々な芸術への関心を深めていきます。同じ頃、朝鮮陶磁器に詳しい浅川伯教(あさかわのりたか)から李氏朝鮮時代の白磁を紹介され、たちまち魅了されます。この朝鮮白磁との出会いが、柳を民芸への道に大きく進ませることになります。

私が訪れた際は、ちょうど朝鮮白磁の特別展が行われており、青磁と並ぶ朝鮮陶磁器の魅力を充分に堪能することができました。生涯21度も朝鮮半島を訪れて柳が蒐集した白磁は、日本最大のコレクションになっています。朝鮮陶磁器のコレクションでは世界的に有名な大阪の東洋陶磁美術館の所蔵品にも引けを取らないような魅力的な作品に、たくさん触れ合うことができました。



【公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

朝鮮(李朝)白磁は、李氏朝鮮王朝時代の15c後半、日本では応仁の乱の頃に、首都漢陽(現:ソウル)近郊の窯で制作が始まりました。秀吉による文禄慶長の役で一旦疲弊しますが、18cになって再び息を吹き返します。

高麗王朝時代に造られた青磁は主に貴族階級向けであり、高い芸術性が造形に見られます。中国の陶磁器のように歪みもなく幾何学的な美しさがあります。

一方李朝白磁は庶民が使っていたものが多く、まさに民芸品としての素朴な魅力を感じることができます。白地に無地、もしくは単色のシンプルな文様が描かれているだけで、日本の有田焼のような鮮やかな彩色は見られません。また庶民向けだったこともあるかもしれませんが、日本の茶碗のようにゆがみが見られる作品もあり、温かみがあります。

日本民藝館はテーマに応じた年4回の特別展と並行して、コレクション展も行っています。1~2週間程度の展示替え時期は休館となりますが、常に館の持つ幅広い民芸品を鑑賞することができます。

【公式サイト】 白磁展の併設コレクション展

江戸時代に全国を行脚して庶民向けの簡易な仏像を多数制作した円空(えんくう)や木喰(もくじき)の木彫りの仏像にも、柳の深い愛着が見て取れます。柳は庶民が愛したものを何より愛したのです。

他にも李氏朝鮮時代の工芸品、日本の陶磁器、日本の絞り染めの着物など、とても感慨深い展示を楽しむことができました。素朴さがこんなに美しく見えるのは本当に驚きでした。

【公式サイト】 ミュージアムショップ

最後にミュージアムショップもぜひのぞいてください。食器を中心に、実際に使うにも、インテリアとして楽しむにも、いずれも魅力的な品がたくさんそろっています。柳の著作や過去の展覧会の図録も素晴らしいものが揃っています。民芸の魅力をさらに高めてくれるショップです。


東大の駒場キャンパス

渋谷から井の頭線でわずか二駅ですが、駒場は実に静かで落ち着いた町並でした。旧前田侯爵邸も近くにあり、機会を作ってリピートしてみたいと思う美術館でした。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



朝鮮半島の陶磁器は日本の陶磁器の原点

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日本民藝館
特別展 白磁
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2018年9月11日(火)~11月23日(金)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金曜~18:30)

※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、常時公開している常設展示はありません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、西口から徒歩7分
小田急線「東北沢」駅下車、東口から徒歩15分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:00~00分
東京駅→東京メトロ丸の内線→赤坂見附駅→東京メトロ銀座線→渋谷駅→京王井の頭線→駒場東大前駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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見ればスッキリするボナールの魅力 ~六本木・国立新美術館 12/17まで

2018年11月06日 | 美術館・展覧会

鮮やかな色使いながらもおぼろげな表現が魅力的な、世紀末のパリで活躍したナビ派のピエール・ボナール。オルセー美術館が誇るボナール作品100点以上から彼の生涯をたどる大規模回顧展が六本木の国立新美術館で行われています。

当時のパリで流行していた浮世絵に傾倒し「日本かぶれのナビ」と呼ばれた初期の作品は、縦長構図や平面的な表現で描いており、エキゾチックな印象を与えます。数多い裸婦の絵は、モデルの大胆なポーズに最初目が驚きますが、何気ない瞬間の女性の美しさをおぼろげなタッチで絶妙に表現しています。

彼は、絵では否定した写実性を、当時の最先端技術・写真で楽しんだようです。実に構図が面白い作品が多数あります。ポスト印象派からさらに写実表現が少なくなっていくモダンアートへの過渡期を代表するボナールの作品は、世紀末の時代に新しい芸術表現を求めたパリやフランスの空気を象徴するものと言えます。

わかりにくそうなイメージを持たれますが、鑑賞後にはそんなイメージがとてもスッキリします。ブラウザーで見られる展覧会紹介の動画もUpされています。予習・復習ともにおすすめです。

【展覧会のみどころ 公式動画】


乃木坂駅から新美へ向かう廻廊はいつも清々しい

ピエール・ボナール(Pierre Bonnard)は1867年にフランスの役人の家に生まれました。現在上野・東京都美術館で開催中の「ムンク」とほぼ同世代の、世紀末を代表する画家の一人です。パリで絵を学んでいた際にポール・セリュジエやモーリス・ドニと知り合い、ナビ派を結成します。ナビとはヘブライ語で預言者を意味します。自分たちの新しい画風が将来きっと世で評価されるとの思いを込めたのでしょうか。

ナビ派の結成は、セリュジエがゴーギャンから大胆な色使いを教えられたことがきっかけになったと言われています。ボナールの作品も色使いが大きな魅力となっており、モチーフの描写よりも画面全体の色彩の構成を重視ています。結果、おぼろげな表現が目立ち、写実性で勝負しない作品を生み出していきます。写実性は写真には勝てないと、早い段階から気付いていたような気がしてなりません。



展覧会は、浮世絵など日本美術の影響を受けた作品から始まります。彼の画家人生の初期の頃です。西洋絵画にはない、奥行きを持たず影を描かない平面的な描写が目を引きます。ボナール作品は後世でも平面的な表現が目立ちますが、若いころに自分の個性として身に着けたことがわかります。

【オルセー美術館公式サイトの画像】 庭の女性たち 格子柄の服を着た女性
【オルセー美術館公式サイトの画像】 黄昏(クロッケーの試合)

「庭の女性たち」は、西洋絵画には少ない縦長の画面に菱川師宣の見返り美人のように斜め後ろから女性を描いています。服の格子柄にボディラインに合わせた凹凸が見られないことが、西洋絵画としてはエキゾチックに見えます。「黄昏(クロッケーの試合)」は、全体的に写実性が残る表現ですが、こちらも服に凹凸はありません。モチーフ自体は西洋的ですが画面の印象は斬新です。

彼は初期にはロートレックのようなポスターも多く制作していました。人物に躍動感のあるロートレック作品に比べ、人物をデフォルメした平面的で洒脱な表現が魅力です。

【オルセー美術館公式サイトの画像】 ル・グラン=ランスの庭で煙草を吸うピエール・ボナール

ボナールは写真がとても気に入っていたようです。恋人マルトの姿や子供たちが戯れる様子の作品が多数展示されています。煙草を吸ってくつろぐ一瞬をとらえたボナール自身のスナップ・ショットも印象的です。

【オルセー美術館公式サイトの画像】 化粧台


ボナールは裸婦をとてもたくさん描いています。恋人のマルトを描いたものもありますが、複数のモデルがいたことが知られています。顔を描いていない作品がほとんどで、感情は伝わってきません。無防備で大胆な一瞬を写真のようにとらえた構図が魅力的です。

不思議なことに裸婦が目立っていません。周囲の光景に裸婦を溶け込ませるかのように、鮮やかな色彩を巧みにまとめています。その構成にボナールの腕のすごさを感じます。大胆なポーズをエロチックに見せず、女性の生命力を美しく表現しています。「絵の方を生きているようにすることだ」とボナールは語っています。裸婦作品はまさに絵の方が生きています。

【オルセー美術館公式サイトの画像】 猫と女性 あるいは餌をねだる猫

何気ない一瞬をキャンバスに表現することを、ボナールは「時間の静止」ととらえていました。室内や静物画の作品の展示会場のサブタイトルにもなっていますが、絶妙のネーミングです。「猫と女性 あるいは餌をねだる猫」は恋人マルトとお気に入りの飼い猫を描いています。ボナール特有のおぼろげな表現ながらも、本当に「時間の静止」を表現したように見えるとことがすごい作品です。

後半生の作品は風景画が多くなっています。おぼろげな表現とバランスの取れた色彩で見事にまとめるボナールの腕がさらに進化していることが分かります。


絵画体験「AIT」※この空間のみ写真撮影可

展示の最後には、ボナール作品から6点の風景画や室内画を選び、彼がキャンバスに向かっていた360度の視界をプロジェクションマッピングで表現した「AIT」を体験できます。キャンバスに描かれなかった視界を確かめることによって、ボナールがなぜその角度を採用したか、それぞれ思いを巡らせることができます。画家の感性に触れることができる新しい試みです。

【展覧会公式サイト】 Art Impression Technology



印象派でもモダンアートでもなく特徴を捉えにくいと思われがちなボナールですが、展覧会を鑑賞するとそんなイメージは見事に払しょくされます。期待を裏切ることはない画家です。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



不思議なボナールを紐解くにはこの一冊

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国立新美術館
オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:国立新美術館、オルセー美術館、日本経済新聞社
会場:企画展示室1E
会期:2018年9月26日(水)~12月17日(月)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、常時公開している常設展示はありません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ・千代田線「乃木坂」駅下車、6番出口から徒歩2分(美術館直結)
都営・大江戸線「六本木」駅下車、7番出口から徒歩5分
東京メトロ・日比谷線「六本木」駅下車、4a番出口から徒歩8分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→国会議事堂前駅→東京メトロ千代田線→乃木坂駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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